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瞬き1枚

作者: ハル

 一際大きな歓声に、昇降口へと目をやる。

 先輩の姿を確認し、ぱちりと1枚。

 先輩が金色の長い髪をかきあげると、耳に並べられたピアスがきらりと光った。


 昇降口からは私達下級生がずらりと二列に並んでいる。

 その列は向かい合っていて、目の前の生徒と頭上で手をつなぐ。

 いわゆる花道というやつだ。

 私達の腕の下を、卒業生たちが照れくさそうにそそくさと小走りに通っていく。

 もういちど昇降口に目をやると、先輩はちょうど花道をくぐり始めるところだった。


 1人、2人と卒業生が通り過ぎていく。

 先輩まであといち、に、さん、し、5人。

 また1人過ぎていく。

 あと4人。

 左耳に小さな悲鳴が届いた。

 ああ、黄色い。

 のっしのっしと太った卒業生が通っていく。

 あと3人。

 目の前の生徒と目が合う。

 意味あり気にニヤリと笑われた。

 チッと心の中で舌打ちをする私の前を、小柄な男の人が通っていく。

 あと2人。


 先輩がおっ、と声をあげて立ち止まる。

 そして花道を作る腕にぶら下がった。

 よく見ると、その重さに呻いているのはバスケ部員だ。

 ふふ、子供みたい。

 ぱちり。


 シャッターを押した私の耳に、聞き覚えのある耳障りな声が突如響く。

「邪魔なんだけど?」

 どうやら私の身体は知らず知らずのうちに、前のめりになっていたらしい。

 さらっとした黒い髪を揺らし、彼女が詰め寄ってくる。

 彼女がいたことに気づかなかったなんて。

 間抜けな自分を笑うしかない。

 「なにが可笑しいのよ?」


 一瞬にして静まり返った空気を切り裂いたのは、低くて少しくぐもった声だった。

「まったく、卒業する日ぐらい大人しくしてろよ」

「だってこいつが」

 先輩が彼女の頭を抱きかかえるように、腕におさめる。

「いいから、いくぞ。ほら、花道つくってよ」

 促され慌てて手をあげた。

 先輩が、私の腕の下をくぐる。

 いち、に、さん、し、ご、ろく。

 右耳のピアスは6個、脳内メモにちゃちゃっと記録する。

 先輩越しに右へ左へと揺れる黒い髪を見えて、慌てて視線をそらすと、また目の前の生徒と目が合った。


 彼の口が開くと、顔に似合わず高い声が出てきた。

「最後に見たのが彼女とのツーショットってどんな気分?」

 にやけたその口を、今すぐグサグサと縫い付けてやりたい。

 繋いだ手の甲に爪をたて、精一杯の抗議をしたが、彼の太い眉は1ミリも動かなかった。


 別にいい。

 だって脳内カメラだもん。

 瞬きがシャッターのかわり。

 都合のいい写真だけ残してあとは消去するだけだ。

 いやでも、こんなに至近距離の先輩を消すのは勿体無い。

 そうだ、隣に私を合成しよう。

 ついでに花道に赤い絨毯を敷いちゃえ。


 よし、上書き完了。

1000文字小説です。

感想を頂けると嬉しいです。

ハルはる(http://ameblo.jp/hayamirai/)のお題を使用しました。

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