第一話:きっとこれらは何かの前触れ
初投稿です。チキンハートです初めまして。
ずっとROM専で楽しませていただいていたのですが、うっかり自分も書いてしまいました。初めてがこんなんでええのんか。
暇で暇で仕方がない、という時にでも流し読みしちゃってください^^
少しでも楽しんでいただけたら幸いです!
※この作品はフィクションです。作中の世界は作者の完全オリジナルワールドになっております。
私が目覚めた時、貴方は「初めまして」とは言わなかった。
不思議だった。だって私と貴方は、初対面のはずでしょう?
それでも嬉しかったの。
屈託のない笑顔を浮かべて、貴方は囁いてくれた。
「おはよう」と―――
◇◇◇
四月。
万人がおそらく例外なく眠たくなる、この季節。
新しい年、何かが始まる予感、桃色に染まる町並み、別れの後の出会い、始まりの季節―――
毎年のこととは言え、人間は何故こうも同じ事の繰り返しに飽きないのか。
甚だ疑問であるが、考えても詮無いことだった。
とにかく、そんなことは置いといて。
「おい。なんで朝飯が“一昨日の”晩飯の生き写しなんだろうな。俺の目がおかしいのかしら」
「否」
「…まぁ、しゃあねぇか…お、虎三郎どーした。姉ちゃんに散歩連れてってもらったか」
「今日はあんたの番だろう」
「え、マジで」
「私の脳内予定ではそうなっている」
「ただの押しつけ」
ここ、堂本家の朝の一幕であるが、少し前まではこの家にいなかった人間がいた。
現在、この台所にいるのは2名。加え犬1匹。名前は「虎三郎」。よく“コサブロウ”や“トラサブロウ”と間違われるが、読みは“コゾウロウ”である。
そして彼女はメスである。
話が少しズレたが、先程説明した“いないはずの人間”というのは、主人公の少年の飼い犬に対する質問に答えた人物である。
“彼女”は平たく言えばこの家族の血縁者ではない。主人公達の通う中等部を卒業してから主人公の両親が預かっている娘である。
もとより、家は隣接していたが。
名は高円寺焔。長く艶やかなストレートの黒髪を、頭の高い位置でポニーテールに結わえた少女で、熱い名前を持っているが本人は至って冷静且つ沈着な個性の持ち主であった。
チャームポイントは、能面も裸足で逃げ出しそうな鉄仮面と麻呂眉である。
主人公の彼は「あれは単なるマイペースの極致」と評しているが、果たしてその実態は。
「何故主人公の俺より先に紹介されるんだ」
「私の人徳以外のなにものでもないだろう」
「開始数行でこの仕打ち」
「焔ちゃんの言う人徳はもはやゲシュタルト崩壊よね」
「おはよう、刃。今朝も女神スマイルが目に突き刺さるぜ」
「朝陽を背負っているから輪をかけて神々しい」
因に主人公は堂本家の長男、雪桜である。
焔と雪桜の会話に後光を背負いながら介入してきたのは、雪桜の妹の刃である。腰まである淡い栗色の髪を緩やかなタテロールにした稀有な美少女である。
焔と兄の仲睦まじい様を微笑ましく見守りながら、刃は朝食にとりかかった。
「なんだか今しがた刃が俺にとって実に不名誉なことを考えた気がする」
「なんだと貴様、表出ろ」
「あらもう登校時間よ、兄さん」
言わずもがな、この3名は幼馴染みであった。
◆
「うっかりしていたが、今日って入学式兼始業式だったな…」
「うっかりしてようがどっかりしてようが俺達は不動の2年生だ」
「単なる留年乙」
現時刻7時43分。式自体は9時からなので、今の時間帯に学生がこの通学路に屯しているのは端から見ればおかしいのだが。
しかし、もちろん彼らは一般生徒とは違った意味合いでここにいるわけである。
「おい、俺と王芽をおまえのサボりと一緒くたにされちゃ困る。一生の恥だ。死んでくれ」
「そこまで言うか」
「まぁまぁ、影長に威緒…今はそんな低能で下衆な口喧嘩しとる場合やないやろ」
「たったあれだけの会話を笑顔で辛辣に片付けるおまえが好ましいぜ、俺は」
「俺はおまえ嫌いやけど」
「…!」
「やーいやーい」
「ところでなんで威緒はここにおるん?」
「………」
「………」
「え、てか自分らどちらさん?」
「…………!?」
「…………!?」
「冗談はこの辺にしといて、さっさと行こか」
「「どこからが冗談か気になるごっさ気になる」」
一生の恥と切って捨てたのは、女郎花影長。
サボリで一年を棒に振ったのは、九十九ヶ丘威緒。
関西弁毒舌お洒落眼鏡は、神宮寺王芽。
以上3名、今年雪桜と焔が入学する保津坂学園高等部の先輩であり、
これから“彼女”と出逢うことになる主人公と、浅はかならぬ関係になる予定の者達である。
「あ、てゆうか俺ら2年っつーことは自ずと不知火とタメか」
「え…あ、そういや…げぇ、あれとタメとかそんな…!」
「お前は自業自得。イヤなんはわかってるから早よ行くで」
「ゼッテェ威緒は遊ばれるよな。奇跡的に俺の仏心が働いたら骨は拾ってやるドンマイ」
「他人事だと思って〜」
「「俺らにとっては他人事」」
◆
岡沢柚哉は非常に穏やかな人間である。
どのくらい穏やかかというと、授業中に開け放っていた窓から気紛れに迷い込んできた蝶々が、彼の頭部を憩いの場に選んだとしても気づかない程度の穏やかさである。
「寝ていたんだな」
更には友人に「おまえには才能がある」と無気力に告げられ、あれよあれよという間に生徒会役員に任ぜられたにも関わらず、彼は怒り動じることは愚か、狼狽えることすらなく与えられた任務を全うしてみせている。
「押し付けられたんだねぇ」
「あの人は基本長いものには巻かれろ、ですもんね」
「岡沢の才能とは不屈の精神」
「柔軟すぎるんですよね」
要は岡沢という男は、根がどうにでもなれ主義なのであった。
思考を放棄したともいう。
「まぁでも…一応仕事はきちんとこなしてくれますから、文句はありませんが」
小さく溜息を吐きつつそう零したのは、生徒会役員の1人である副会長の大嶋歩である。彼女は保津坂学園高等部生徒会唯一の常識人として有名であった。不本意ながら。
そんな彼女は今、件の岡沢という男を捜しに行く準備にとりかかっていた。
どうやら岡沢は、今日の式で使用するために用意した挨拶用の文章が書かれたカンペを、教室に忘れて来たと言って出て行ったきりまだ戻っておらず、歩が生徒会室に来てだいぶ経つのに未だその姿はなかった。
ぶっちゃけ逃げただけなのだろうが。
「阿呆ですか、あの人は」
やる気がある時とそうでない時の落差が激しい。
そのようなこと、許される訳がないのである。
歩がもう一度溜息を吐き出しながら身支度を整えていると、右斜め前の席に大人しく座っていた少年が不意に「おい」と声をかけてきた。
何故か彼は、パイプ椅子に小さなサイズの緑色のバランスボールを乗せた更にその上に胡座をかいて座していた。驚異的なバランス感覚である。
「なにそれコワイ」
「仙人ポーズ」
「意味がわかりません」
歩が薄手のパーカーを羽織って彼に向き合った時には、バランスボールは消え失せていた。
……というのは錯覚で、彼の背後の窓から綺麗な青空を背景に、美しい放物線を描いて緩やかに落下してゆく緑色の球体が見えた。
直後、「もったいなぁい」というのんびりとしたアニメ声が聞こえた。
「岡沢の居場所、見当はついているのか」
「…ええ、だいたいは」
遠くからバサバサバサ…と聞こえるボールの着地音をBGMに、仙人に扮していた彼――会計の沖田橘は歩に問うた。
どうも、岡沢の行動は役員達にある程度筒抜けのようであった。残念な奴である。
「これを持って行くといい」
「…? はぁ…」
何やら沖田には妙策があるらしく、片方の口端を僅かに吊り上げて歩にA4サイズの包みを手渡してきた。
ニヒルな笑みを浮かべたかったのだろうが、はっきり言って不気味さに磨きがかかっただけであった。とは本人には言わない。
こう見えて沖田はガラスハートなのである。バレていないと思っているのは本人だけであった。
こんなところで沖田の心を抉っているよりも優先すべきはあの阿呆である。
歩は直ぐさま生徒会室を後にした。
「…というか、なんなのでしょう。これ」
先程、沖田に手渡された包み。
彼は特に開封厳禁とは言っていなかった気がする。
もちろん歩は躊躇することなく開封した。
ガサ。
中には上級生にのみ出題される、本日提出の課題プリントが入っていた。
「パシリですか」
歩はこの時、用が済んだら沖田を軽く半殺しにすることを誓ったとか誓わなかったとか。
◆
「あれ。俺これ以上進みたくないんだけど」
「案ずるな、私もだ」
学園の校門に近づくにつれ、生徒達が増えていた。
間もなく校門を潜ろうかという時に、奇遇にも雪桜と焔の意見が一致した。
その原因である2人の視線のその先にいたのは、自分達と同じ制服を身に纏った2人の少女である。
ツインテールの双子の美少女であった。
雪桜は自分の妹が桁外れな美少女なのであるが、なんというか、視線の先にいるあの2人にはどうゆうわけかお近づきになりたくなかった。
だが、どうしても彼女らを避けて通れない理由があった。
「ものごっつ見てる」
「こっち見んな」
先程から彼の少女達が、じっ…とこちらを見つめているせいで身動きがとれないでいるのだ。
しかも2人のシルエットは、間違い探しが無用の長物であるかのように、寸分の狂いもないのにも関わらず、それを態と打ち崩そうとするかのように決定的な違いがあった。
前髪である。
雪桜達から向かって右側の少女は、それ見えてんの? と訊きたくなるような長さ。
反対に左隣にいる少女は、これでもか! という程に短いパッツンの前髪であった。
そして、これでもか! というくらいに見つめてきていた…というか睨んでいるようにも見える。
なんてったって、ものすごい眼力なのである。
「美人なんだがな」
「……」
何故か、隣の焔の機嫌が少し悪くなった。
しかし如何せん、もとより鉄仮面なため違いは微々たるものである。
訳がわからなかったが、雪桜は構うことなくこの状況の打開策を練っていた。
と―――、
「キミが、堂本雪桜か」
「あ、はい」
焔を気にしつつも頭を捻っていたら、いつの間にやら眼前に麗しい顰め面が。
パッツンの方である。
「露ちゃん、あまり近づきすぎたら失礼よ」
「あ? …ああ、そうか…悪ぃな」
「いえいえ」
どうやらパッツンの方は“露”というらしかった。
なんとも男勝りな口調の少女である。
それよりも。
「なんで俺の名前知ってんの」
もしかしたら雪桜が単に忘れているだけかとも思ったが、こんな美少女なら忘れる方が寧ろ困難である。
だとしたら、どこで知ったのか。
しばし露は黙考していたのだが、不意に顔を上げたかと思ったら探るような視線を差し向けてきた。吸い込まれそうな空色が雪桜を貫いた。
ああ、キレイだな。
そう感じた。
俺は、この色とよく似た色を、知っている―――……
「まだ詳しくは教えられねぇ」
「――ん?」
……何がだろう。というか、話が見えない。
急に、わからなくなった。
「まぁ、これから3年間同じ学園に通うんだ。いくらでも知ってけるよ」
「はぁ」
相変わらず理解不能ではあったが、雪桜はあまり細かいことは気にしないタイプである。
それに、そうだ。自分達にはまだまだ時間があるのだ。
「三姉妹ともども、これから3年間よろしくー雪桜」
「ああ…て、もしかして三つ子なのか?」
うえぇぇ…こんなのが3人もかよ…と脳内で呻いていたら、ずっと黙っていたもう1人の方が「いえ」と歯切れよく答えた。
妙に耳に心地いい声である。
「姉が、今年2年生なんです」
「…ああ、そうゆうこと」
こんな美少女の姉貴って…想像できねぇ…
などと暢気に考えていた雪桜は気づいていなかった。
「おい、ところでいいのか雪桜」
「なに?」
「や、あれ」
露がその小さな右手で自分の背後を指差している。謎な仕草であった。
雪桜はボーッと彼女が指し示す先を目で追った。ら…
「ま…待って待って焔」
ドスドスという吹き出しが見えそうな足取りで校門を潜る、幼馴染みの小さな背中が見えた。
「悪い、俺もう行くわ」
「何言ってんだよ、俺達も行き先は同じだ」
「ご一緒させていただきますね」
結局、3人で焔を追いかけ駆け足で校門を潜ることとなった。
この日、雪桜の運命の歯車が密かに動き出したことには、まだ誰も気づいてはいない。
“彼ら”以外には、誰も。
いいんか、俺こんなんでいいのんか。
精進いたします…!
でも書くのはやっぱり楽しいですね。難しいですが…
そして作者は既に高校生活を忘れかけている。
※2013/2/5各話のタイトル変更しました。