村
雨が降らず、年貢の取り立てが厳しい。
餓えたこの村には、葉っぱさえ落ちていない。
痩せた土を手に取る。収穫は期待できそうにない。冬を越せるかさえ微妙なところだ。
「何とかなるさ…。僕、がんばるから」
灰色の空を仰ぐ。
それに応えるかのように、雨が降り出した。
「朝ですよーって、もう起きてましたか」
「おはようございます。よい朝ですね。早々申し訳ありませんんが、お兄様はまだいらっしゃいますか?」
「えっ…、あの…、はい」
しどろもどろに満が答え、ぱたぱたと兄の部屋へ駆けて行く。
『お前は本当に疎いな』
眠そうに鴉が言う。
「何のことです?」
恋慕に鈍い彼はただ困惑するばかりであった。
「うちの妹はそう簡単に嫁がせんぞ」
泰光の第一声はそれだった。
「だから、何の事ですかっ!」
「なんだ…、そういう話ではないのか。で、何用だ?」
平然と泰光が言う。
「泰光様は役人を務める武士。なれば、あの村の者が最近死んでいるか否かを確かめることが出来るはず…。その者の名が知りたいのです」
「相手は農民。名が記されていなかったらどうする?」
「関所の関係でそれは御座いませぬ。いかなる者も通行手形を持っているはず。たまにいるのですが、あまりの厳しい年貢の取り立てに懲りて、それを納めず、蓄えとして持ち、上方へ逃げ出す者も稀ですがいるのですから」
「その為の五人組だろう」
「もちろんです。近頃、その制度も一揆により弱まりましたが、そのような考えを誰しも思うと思いますよ。上方は広いですから。仕事も見つけることは出来るでしょう」
「餓え死ぬよりはマシと?」
「例えですが…」
ふむ…と泰光が腕を組む。しばらく考えた後、決心したように立ち上がった。
「まぁ、いいだろう。調べはする。だが、お前はどうする?」
「私は、あの村をもう一度訪れてみようかと…」
そうか…とだけ答えると、泰光はそそくさと出かけて行った。
「わ、私もお手伝いします」
「危険ですよ。貴女は白鬼です。紛い鬼といえども、貴女の存在の真なる効果…というのも変ですが、
あなたがもたらす幸を知れば狙って来るやもしれません」
真剣に桃太郎が言うと、満はふわりと微笑んだ。
「その災厄から守るためにあなたは来てくれたのでしょう?」
しばらくの間、桃太郎は茫然としていたがやれやれという風に首を振る。
「あなたの方が一枚上手のようだ。では、共に参りましょうか」
「桃太郎の鬼退治ですね」
嬉しそうに言う満とは裏腹に、桃太郎は言う。
「…そうとも限りませんよ」
この言葉が意味する訳を満はまだ知らない。
彼女は紛い鬼の実態を真に理解したわけではないからだ。