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黒鬼  作者: ノア
第四章 鬼ヶ島に渦巻く陰謀~勇ましき鬼の一族~
40/55

彼等の結末

所変わって、王家のとある部屋。

夜闇に紛れて何者かが縺れる様に部屋へ倒れ込む。

荒い弾むような吐息と、今尚滴る血。苦痛に歪んだその顔は整っていて美しい。


「…つ、ばめ」

「姉さんっ!どうしたんだ、その傷…」

香り良い畳は赤く生臭い臭いを吸い取り、部屋を満たして行く。

背中の傷は何故か腐臭が酷い。

…切り離さねば、危ういだろうと燕は重苦しい表情で思う。


「黒鬼の仕業か…。あやつも、良く此処まで力を使いこなし、尚且つ此処まで高めることが出来ようとは…。こりゃ、『完成』が楽しみじゃの」

いつの間にか現れた(おきな)に、燕は目を見張る。

両側に少しだけ生える白髪(しらが)とは、対照的に長く生えた立派な髭。

顎を軽く擦りながら、翁はあやめを見下した。

「き、おう、いん様…。もうし、わけ、ござい、ません…」

燕は静かに二人の会話を見守る。

この鬼王院醍傲(きおういん だいごう)は本家直属の医師であり、薬剤・鬼の研究を担当している。

噂では、あのアヘンの密輸も取り行っており裏で捌いているらしい。


「のぉ…、燕。姉を何処も損害なく助けたいとは思わぬか?」

「勿論、私にとって唯一の肉親です。例え、修羅の道を選び歩んだ結果としてこの罰が当たったのやもしれません。しかし、いかなることがあろうと一人の女子(おなご)には違いありません。

…私の腕を斬り落としてでも、女として生きて欲しい…」

「カカカッ…肉親のぉ。椿とか言う、親殺しの兄はそうでないと?」

不気味な笑みを浮かべながら面白そうに鬼王院は訊ねる。

「アレは、自らの命惜しさに家族を捨て、ついには親さえも裏切った反逆者。私に兄など()りません」

その答えに満足したのか、鬼王院はすっ…とあやめに近付き、懐から色々な物をすり潰したのであろう鼻の曲がるような臭いのする塗り薬を取り出すと素早く傷口に塗った。


「うっ……」

「後はこの虫に頼るか」

呻くあやめを無視して、鬼王院は小さな四角い竹で出来た容器を取り出し蓋を開ける。

中には、蛆虫(うじむし)の様な白く糸の様に細い虫がにょきにょきと出て来て傷口の周りを這いずり周る。

「この虫は…?微かに妖気を感じます。ただの虫ではないのでしょう?」

「もちろん。この虫は『妖蚕虫(ようそうちゅう)』。わしが勝手に名付けた。

こいつらは面白いことに腐敗した物を喰い、代わりに唾液を染み込ませることによって新たな細胞を作る…。暫くすれば治るじゃろう。しかし、痛みは相当なものじゃがなぁ…。

さて、わしは王へ報告しに行って来る。お主らに幸有らんことを…。カーカカッ」


不気味な爺め…。

心の中でそうのししる。

幼き頃、助けてもらった恩はある。しかし、どうも好きになれないのだ。


「とりあえず、お水持ってくるね…」

姉にそう告げ、部屋を後にする。


昔から…。あの紛いは嫌いだった。

しかし、兄があの紛いを拾った時神が味方したと思った。幸い、あの紛いは正体に気付く素振りもなく、毒が混入した薬を不味いと言いながらも飲み続けた。

だが、時に品定めするような目で見てくることもしばしばあった。

最初は気のせいだと思ったが、今思えばその全ての動作が一つの真相への解決に結びつく。


あの紛いは最初から気付いていたのだ。


分かっていて態と毒を飲み、何も知らぬ子供で居続けた。

もしかしたら、アレに正体がバレることを恐れての事だったかもしれない。

しかし、紛いは確実に気付いた。

だからこそ、先の奇襲でも私の行動に目を光らせ、当初の狙いであった泰光を四鬼神と共に行動を取るよう仕向けた。


「中々やるじゃあないか。紛いの分際で…」

口から自然と漏れたその言葉を押さえるように、口元へ手を添える。

歪な笑みを隠す様に。


「姉さんに手を出したこと…、どう仕返ししようかな…?」

月の無い暗夜の中を、まるで獲物を狩りに行く狼の様に。

金色に光る目で、狩りの対象を思い浮かべながら進んでゆく。




「…それで、あやめの件はどう致します?カーカカカッ」

「御前の前で下品な笑いは止せ。鬼王院」

パチンッと扇子を閉じてはまた開く。その音が木霊していた。

鬼王院の知らせを受け、もう一鳴り。一際大きく響く。

しかし、それ以上音は聞こえなかった。

「生きているのか、女忍は?…ならば、まだ生かしておけ。利用価値はまだある」

にぃ…と簾の奥で、意地悪く微笑む気配がする。

そして、懐から紙を取り出し握る。

すると、掌から発生した炎によって塵一つ残さず燃えた。

「此処に呼べ。宴の支度をはじめよう」


「鴉、お前露ほどにもこの『交渉』が受け入れられると思っていないだろう」

雅がそう問うと、鴉は意地悪く微笑む。

夜闇に炎の爆ぜる音が響き、少し耳を澄ませば寝息も聞こえてくる。

現刻は丑三つ時。妖の住む森故、交代交代で見張りを立てている。

と言っても、要や朱菊は疲労で寝入っており雅と鴉が交代で見張っている。


「当たり前だ。こんな交渉で王が動くのであれば簡単に討ち取っているさ。

あれは戦を好む。今回の目的は王を引きずりだす事。それが出来れば、あとは討ち取るだけだ。

戦力なら四鬼神(あいつ)らの部下だって何千といるし、後継だって弱かねぇ。既に召集はしている。

恐らくは間に合うだろう。後は俺らの頑張り次第だな」


パキンッ…と枝が折れる音がした。

二人が一斉に振り向くと満が困った様に顔を出す。


「桃の様子はどうだ?」

雅の問いに満は首を力なく振る。僅かに疲労の色がうかがえた。

「…駄目です。せめてご飯だけでも食べさせようと思ったんですけど、口さえ開けてくれなくて…ごめんなさい」

鴉が舌打ちし、雅は咎める様に鴉を睨むと満に微笑んだ。


「そうか…。有り難う。引き続き、よろしく頼む。だが、少し休んだ方が良い」

「いえ、中々寝れなくて…。桃、ずっと何か言っているんです。けど、聞き取りにくくて…。

あんなに悲しそうなのに、何も出来ない…。こう、白鬼でも何か出来ること…無いですか?」

「白鬼は戦闘型の鬼じゃない。数少ない治癒に秀でた鬼だ。傍に居てやりなさい。時期回復するだろう。…くれぐれも、寝込みは襲わない様に」

そう冗談染みた口調で言うと、満の顔がみるみる内に赤くなり始めた。

「な、ななななっ…。何を言っているんですかっ!逆でしょう、普通!と、とにかくお、おおおおおやすみなさいっ!!」


「…中々面白いな。癖になりそうだ」

「変態発言として泰光に報告していいか?」

「止めてくれ。彼は中々手厳しい」

微笑を浮かべながらそう言うので、後で絶対報告しようと鴉は思うのであった。


「た、大変です!桃がっ!」


満が必死の形相で走ってきた。

「何だっ!?」

鴉がイラついた様に叫ぶ。

「桃がっ!桃が、居ないんです!探したんですけど、何処にもいなくってっ!どうしましょうっ!?」

ぼろぼろと大粒の涙を零しながら満は叫ぶ。

「とりあえず、落ち着きなさい。満ちゃんは引き続き、桃を探してくれ。鴉も頼む。

靖正と要は椿を島原で休ませてくれ。紅鶯と竜泡も護衛として出来れば傍に居てくほしい。随時、連絡はする。

朱菊と、俺、泰光君は一端江戸へ戻る。泰光君は町民の様子を見てほしい。私達は情報収集に行って来る。…靖正、護符を彼に。満ちゃんにも、連絡用のものを」

指示を出すと、各自それぞれの場所へ散っていった。


「おい、満!いいから、早く乗れっ!こっちの方が効率的だ!」

「あっ…はいっ!」

鳥の姿へ形を変えた鴉が、満を背中に乗るよう促して夜空へ飛び立つ。

漆黒の羽根が数枚散って、地へ降り立つ。

そのうちの一枚が、寂れた森の中に佇むある鳥居の前へ降り立ち、姿を消した。



のそりと何かが起き上がる。

それは神々しく、巨大な何かだ。

姿は見えないが確かな存在を感じさせる…そう、例えるなら神の様な。


その何かが遠吠えすると、突風が巻き起こる。

そして、何処かへ駆けた。


森の穢れを祓う為に。


「今…、声…」

椿が呻くように声を上げる。

目がうっすらと開いた。

「「「「椿っ!」」」」

四人一斉に名を呼ばれた為、少し面食らった顔を椿はするが、直ぐに怪訝そうな表情を浮かべる。

「その二人は…敵…?何故、此処に?」

痛みに呻きながらも言うと、二人は申し訳なさそうな顔をするものだから少し困った。

「…彼等は王家の密偵です。積もる話は後にしましょう」

要が簡単に説明して、立ち上がる。

紅鶯と竜泡は懐から『鬼の面』を取り出し差し出した。

安物で、しかも壊れた個所を直した後がある。


その面には見覚えがあった。

まだ童だった頃、誰かに遊びに誘われた時使った面だ。

あれはあの時踏み潰して壊した。

しかし、彼等はその面をわざわざ回収し、直して持っていたのだろうか。

「あの時の…童か?」

こくりと二人は頷く。

「あと、一人は?」

そう問うと、二人の表情が見る見るうちに曇りだす。

「死んだ。山の主の祟りによって」

紅鶯が淡々と言う。

「死、んだ…?山の主…。山神…?桃…。桃何処行ったっ?あいつが此処に居たら不味い!」

「あいつなら、何処か行っちまったらしいぜ。先程探しに女と妖刀が行ったが」


ちょうど、この森だった。

この森で山神と会った。

山神は山の主で、それを穢すものを赦さない。

そんな山神が忌み嫌う者。


『黒鬼』


「あの遠吠えは…、山神が起きた合図だ!」

よろよろと危なっかしい足取りで駆ける。

靖正は連絡用の式を飛ばすと、要を見た。

要も困った様な表情を浮かべ、そして溜息を吐く。

師弟共々、そう簡単に言うことを聞いてくれるほど良い子ではない。


ぽうっ…と、竜泡の刀が姿を変える。

(うなぎ)…?」

「幼竜だ」

靖正の問いに竜泡は不機嫌そうに答える。

巨大だが、幼い竜は空中をゆうゆうと浮いていた。

小さい羽根がぱたぱたと揺れる。

「乗りなさい。その怪我じゃろくに走れないだろう」

竜泡は溜息を吐きながら言う。

「ちなみに俺達は?」

紅鶯は何だ、そんな事かと不思議そうな顔をしてから平然と答えた。

「もちろん、走る」


その頃、例の問題児といえば、当てもなく彷徨っていた。

今の彼には意志が無い。

ふと、前に『悪意』を感じて立ち止まる。


「何だ、随分陰気な顔じゃないか」


猟犬の様な目をしていると、ただ思った。

月が照らす森の中、白銀の刃が鞘から放たれる。


「桃っ!」


誰かに名を呼ばれて天を仰ぐ。


少しだけ、その瞳に光がちらついた。


「あぁ、良かった。君にも同じ思いを味わってもらわなくちゃいけなかったんだ。だから、彼女の来訪は丁度良い」

突っ立ったままの桃太郎を簡単に足蹴りして退かすと、満へ刀を振りかざす。

立ち竦んだままの満は、何とか傍にあった木を持ち上げると投げた。


「…っ!!」


木を投げられるとは予想もしていなかった燕はちょうど葉の生い茂る部分に当たってそのまま吹っ飛ばされる。

『あと数秒間に合わなかったら斬られてたぞお前。

それにしても、お前女だろ。木は投げちゃいかんだろ。女として』

「しょ、しょうがないじゃないですかっ!手頃に投げられるものがコレしかなかったんですもんっ!

…というか、バカラス。何故、刀の姿に戻っているんです?」

『しょうがないだろ。力が出ないんだ。桃があの調子ならな』


すると、何かが、黒い影が月明かりを浴びながら満目掛けて猟犬の様に襲ってきた。

腕に鋭い痛みが走る。

それを確認する間もなく刀であろうものが無理やり引き抜かれた。

髪を引っ張られて、傍へ寄せられる。そして、小刀を首へ添えた。

「おい、紛い。コレ、一応お前が守ろうとしてた女」

にこっと燕は笑う。しかし、それとは裏腹に口調はやや興奮気味で、表情は醜く引き攣っている。

桃太郎は俯いている為、その表情は分からない。


ただ…。

燕は気付いていないようだけど。

とても、怒っている様な。


何故か満には桃太郎を取り巻く様に漂う黒い光が見えた。

案の定、桃太郎はふらふらと近づいて来て。


その目は今までにないくらい真っ赤だった。


そして、掌から黒い刀が飛び出たかと思うと燕を刺した。

それを待っていたかのように、燕は刀を振るい桃太郎の腕を狙う。

桃太郎も桃太郎で、避けようとか、そういう意志は無いみたいで。

刀は意図も容易く桃太郎の腕をその身体から引き離した。


「桃っ!」


泣き叫ぶ。しかし、その声は届いていない。

桃太郎は痛みを感じていない様だった。猟奇的な目で燕を見ると、刀無しで素早く駆けた。


ボコボコボコッ…!


泡の様な音が腕の付け根から聞こえて来て、肉が泡の様に盛り上がったかと思うと、『腕』が生えた。

それは人の腕ではない…紛れもなく『鬼の腕』だった。

燕も予期していなかった為、防御する余裕などなく、そのまま殴られる。

まるで重力を失くしたかのように吹っ飛び、数本の気を道連れにしながら何とか止まったのが辛うじて分かる。

止めを刺すと言わんばかりの桃太郎はすぐさまその後を追った。


どうやら燕はさっきの攻撃が余程効いたらしくぴくりともしない。


「「桃、止めなさいっ!」」


二つの声が同時に響く。

すぐ横に椿が何だかよく分からない生物に乗っていた。

その顔は青ざめていて、それが腕の怪我でのことなのか今の現状のことなのかは分からない。

二人とも此処で桃太郎を止めなければ、いけないという警鐘が鳴っていた。

しかし、血に飢えた獣の様に先程の燕の様な猟奇的な目をギラつかせながら桃太郎は『腕』を振るう。


満がもう一度何かを叫ぼうとした時、突如疾風が側を駆け抜ける。

それは物凄い勢いで桃太郎に衝突し、桃太郎は吹っ飛んだがすぐに体勢を立て直した。


その時の桃太郎の姿は、どの鬼よりも禍々しく、醜く残酷だった。

口は引き攣った様に裂け、そこから鋭い歯が覗く。

頭からは鋭い二本の角が生え、傷口からは黒い血が流れる。


「鬼の恥さらしめがっ!誰の許可あって、この森に入ったっ!?我はお前の侵入を許可した覚えなどないはっ!消え去れっ!」

しゃがれた声が、風に乗って耳に届く。

いつのまにか、私達を庇う様に大きな白銀の毛並みを持つ巨大な山犬が立っていた。


その言葉に、椿がはっとしたように顔を上げた。

「山神、待ってくれっ!殺さないでくれ、頼むっ!そいつは、今、正気を失っているだけなんだっ!」


「黙れっ!!お前の出る幕ではないっ!

お前の存在がこの森を穢し、腐らせ、その命さえも吸い尽す。

…椿、もうこ奴に構うな。終わらせたほうがこ奴の為。…何れ、放って置いても………だからな」

最後の言葉は、よく聞き取れなかった。

山神は桃太郎目掛けて駆けだす。まるで、猟犬が獲物の首を狩り取るかのように。


桃太郎は、真っ赤な目を光らせ威嚇する。

だが、それが精いっぱいなのだろう。…傍から見ても、彼の怪我の具合は動ける様な状態ではないと分かる。


「止めてぇぇぇっーーーーー!!」


満は声の限り叫んだ。

黒鬼だからとか、敵だからとかそういうの関係なく人が争うのは見たくなかった。

それ以上に、誰かが死ぬのを見たくなかった。何よりも、彼が死ぬ姿を見たくなかった。


グシュッと嫌な音が響く。

冷や汗が背中を伝い、意識が朦朧とする。目眩いを感じてその場に座り込む。


奇妙な静けさが森を覆う。

誰もが、その光景に息をのみ、絶望したことだろうと思う。


「ね、え…さん?」

「あやめ…?」


二人の唖然とするような、絶望に満ちた擦れ声が耳に入る。

そこには赤黒い血だまりと、桃太郎を庇う様に立っている女忍の姿があった。


そこに容赦なく山神の牙が肩に食い込んでいる。


あやめは、ちらりと桃太郎を見た。

そして、札の貼ってあるクナイを震える手で握り締めると深々と桃太郎の胸に突き刺す。

すると、札が光りはじめ、桃太郎の姿がみるみるうちに人の姿へと戻っていく。


それを確認する間もなく、あやめは声を張り上げる。


「良いかっ!よく聞け!これは我らが主のお言葉であられるっ!

『お前らの企み通り、争いを始めよう。しかし、こちらもそちらもお互い『戦力不足』ということで、決戦は大まかに冬としよう。準備が出来次第、こちらからお前達でも分かる『知らせ』を送ることにする』以上だ」


ごぼっと苦しそうに血を吐きだしてあやめは言ったその目は心無しか虚ろになってきている。

そして、その場に倒れた。


パチパチパチっ……


乾いた拍手が森に木霊する。

「おぉ、案外やるじゃあないか。捨て駒としては、上々な働きだな。

…そして、我らが失敗作は、我が思うほど失敗ではなかったようだ」


「王……」

紅鶯と竜泡が同時に呟く。

その姿は、驚くほど雅に似ていた。

腰には、雅と同じ白い刀を下げている。


「うおおおぉぉぉっ!!」

獣の様な、咆哮が轟く。

燕が憎しみに満ちた目で王に飛びかかった。


王は余裕の笑みを浮かべ手を前に差し出し、燕の刀に触れる。

すると、刀は砂塵に変わった。

それでもなお、立ち向かってくる燕にややげんなりした顔で王はその腕に触れる。

すると、ぶしゅっと嫌な音がして血が吹き出た。

そして、力なく地へ落ちる。

「親を肉親に殺められ、我々の企みに利用され、欺かれ、死んでいく様は愚かしく、美しいな。

流石は、色無。…この結末を迎える方が、お前達にとって幸せな事だろう。

弟を守る為女を捨てた姉は、敵を守って死に、弟はそんな姉が女として生きる為の希望を与えた者に歯向かい息絶える。お前達一族に、幸せな結末は似合わない」

一呼吸置いて、王は言う。

高みへ君臨する者の悠然とした笑みを浮かべて。


「…残念だったな、誇り高き一族。愚かしき、無様な鬼よ」


言いたいことだけい言うと、『王』が霧の様に姿を消した。

まるで、高みの見物にでも来ただけだというかのように。


残された私達は、ただ黙っていた。

そこには、得体のしれない喪失感と、果てしない絶望。

ただそれだけが残されていた。


…私たちは、都合の良い様に『王』の掌の上で踊らされていただけだということを痛感したのである。

誰かを巻き込み、失うその先に。

かの鬼達の望む結末は果たしてあるのだろうかと。

王家に踊らされ、欺かれ捨てられた二人の鬼は何を望んだのだろう。

きっと、多くが失われるであろう季節に…決戦の時に想いを馳せる。

その時こそ。今度こそ、彼等が報われるのであろうかと。



紅葉は、地へ降り、いつしか土へ還る。

ならば、いつしかこの感情も薄れ、記憶の海に淀む日が来るのだろうかと、満は思う。

少し肌寒くなりつつある秋の空の下。

二人を埋めた場所には、名も無き白い花が咲く。

暗く、寂しく、何も無い…誰も来ない森の中、その花は一際凛と咲いていた。

一応、次の章へ続く予定です。

長くなって誠に申し訳ございません。色々と、不審な点はありますが今後ともよろしくお願いします。

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