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黒鬼  作者: ノア
第四章 鬼ヶ島に渦巻く陰謀~勇ましき鬼の一族~
39/55

交渉


「で、どうする?桃?」

「決まってる。誰も味方がいないならやることは一つ」


淡々と抑揚のない声で桃太郎は言う。しかし、顔は笑っているのでなお不気味だ。

鴉は少し敵に同情する。


一斉にクナイが放たれる。

普通の鬼でも、針山となっていただろうが相手が悪かった。

「遊びとかならさ、こんな反則技、きっと駄目だろな」

えへへと笑って、刀を構える。どうやら動くつもりはないらしい。


黒い燐光が桃太郎の身体を包む。クナイがその光に触れた瞬間、黒い光となって消えた。

次々とクナイがその光に触れ、消えていく。

この異様な光景に、鉄の雨は止んだ。


「それじゃあ、次はこちらから。うーん、一人くらいは生き残って欲しいな」


笑みを崩さないまま、桃太郎は刀を地面へ深々と刺した。

正確に言えば、自分の影に刺した。


すると、ぎゃあとかぐぁとか色々な悲鳴が聞こえてくる。

赤い液体が空から降ってきて、まるで赤い雨のようだった。

木から降ってきた忍を冷やかに見下しながら桃太郎は言った。

「辺りが暗いことを恨んで下さい。光が無いから繋がってしまう。だから、私が影に刺せばその効果は彼方達の影へ届き、その肉体の主である彼方達へ行く。…急所は外しましたから、命は助かると思いますよ?…ねぇ、あやめさん」

拍手しながら、桃太郎はあやめの傍へしゃがみ、顔を覗き込む。


「いやー、あれが『影分身』ですか。初めて見たけど、凄いですね。…さて、私とのお話など退屈かもしれませんが、王家の事…お聞かせ願いましょうか」

「誰が、アンタ何かに…」

吐き捨てる様なその言葉に、桃太郎は浮かべた笑みをさらに増した。

うんうんと、一人で頷いている。

そして乱暴に髪を掴み、無理やり顔を見させる。

「あなたには、選ぶ権利ありませんよ。あなたはただ、喋ればいい」

赤い瞳がじっとあやめの黒い瞳を覗き込む。

一応、これも一種の催眠方法(あんじ)らしい。

あやめは、がくりとうなだれたかと思うと、ぽつりぽつりと話し始めた。

桃太郎は、聞きたいことだけを聞くと満足に頷いた。

狂気の宿るその瞳であやめを見下し、冷やかに笑うと小刀を握りしめた。

そして、その白い首筋へと添える。



一方、四鬼神の方では…

「…で、何故お前達が此処に居ると周りが気になって仕方が無いようなので、説明しよう」

「一人解釈してツッコミを入れることほど虚しいものはありませんよ、ミヤさん」

泰光がやや呆れたように言うと、雅は軽く咳払いして誤魔化した。


「この二人は、数少ないの分家の末裔。俺たちと同じように遠くから来て栄えた鬼の一族だ。

…で、もちろん王家からその一族は消されたのだが…」

「この二人はその生き残り?」

満が言うと雅は小さく頷いた。

「見つけた時は虫の息で、助かるかどうかも怪しかったんだが、何故か翌朝、ぴんぴんしてたな。

今となっては、桃太郎を監視させたり、たまに遊ばせたりしていたが…。俺の呪術を用いてもこんなに早くは治らん。…折角、西洋の顔立ちしてるんで、王家の密偵として送り込んだわけだ」


「じゃあ、最初の戦闘は?」

「いきなり会って、和解してどうする?王家の裏切り者が何処で聞いているかも分からんのに。

…情報は得た。後は潰すだけ」


その考えを、少し虚しいと感じてしまう。

もし、それをやり遂げたら後は何も残らないのに。


「おい、雅!助かるのかっ!?」

「静かにしろ…というか、黙れ。難しい状況だ。九死に一生を得られるかも危うい」

「そんなっ!何とかならないのかいっ!?要、アンタ医者だろうっ?」

朱菊が泣きながら要の肩を揺する。

苦しそうにうめくような声で要は言う。

「無茶言わないでくれ。私とて、神ではないのだから」



「…その様子じゃ、難しい様ですね」

惚けた様な、切羽詰まった様な、諦めたような声が私達の耳に届く。

「桃太郎っ…、その血…」

「返り血ですから、御心配なく」

満が桃太郎の元へ駆け寄ろうとすると、桃太郎はそれを制した。

「今の状態の師匠では、肉体的さらには精神的ダメージが大きい。助かる可能性も低いでしょう」

朱菊が桃太郎へ掴みかかろうとする前に、桃太郎は冷静に、何処か淡々と言う。

「これから私が施す術により、確実に助かるとは言い切れませんが確率は上がるでしょう。

その代わり、しばらく私は使い物にならないでしょうから、今後の大戦では不参加ということも止む追えません。そして、もし荷物になるようなら、その時は迷わず見捨てて下さい」


その言葉に、鴉と雅が掃除に何かを言おうとしたが、桃太郎はさっさと術を施し始めた。

白く丸い光が桃太郎の掌から溢れ、椿の傷口を塞いでゆく。

それは、見ている誰もが息をのむ光景だった。


『馬鹿が…』


鴉が小さく呟く。

彼が桃太郎をのししるような発言をしたことが無いので、今回のこの術は相当危険なものなんだろう。


「『生魂入泉(せいこんいすい)の術』…。あれは、修練を積んだ巫女やそれと極一部の陰陽師しか使えない術だぞ…」

靖正が圧倒された様な驚いた声色で喋る。

どちらかと言うと意図していなくて、うわ言の様に自然と零れる声。

「どういう術何だ?」

「その名の通り、あの白い光…、泉の様に湧き出ているだろう?あれは、術者が対価として支払ったその代償を得て出ているんだ。名の由来は当初術の開発者が自らの命を捧げたことに由来しているんだそうだ。…ちなみに、術者が何の対価を差し出すかによってその効力は変わる。

…自分が後に使い物にならなくて、しかもあれだけの効力を出しているのなら命に関わるようなものだぞ」


見る見るうちに椿の傷は塞がっていき、逆に桃太郎の額に玉の様な汗が噴き出す。

心なしか元々白い顔がさらに死人の様に青白くなり始める。

そして、後ろに倒れた。

「桃ッ!」

満が駆け寄り、自分の膝を枕代わりにして桃太郎を寝かせる。

桃太郎は、倒れたけれど目はしっかりと開いている。

しかし、その瞳は虚空を見つめ暗い光しか宿してはいない。今、彼の瞳には誰一人として映らない。

「…対価は『感情』か」

雅が渋面を浮かべながら言う。

鴉は小さく溜息を吐いた。

「今の桃は、腑抜け同然。本人の言う通り、使い物にはならねぇだろうよ。というか、はっきり言ってお荷物だ。…さて、此処からが本題なわけだが…。

桃は『王家』にまつわるというより、王家に関係あるの全ての事柄を知り尽くしたと言っても過言じゃない。俺達がこのまま何処へ逃げようが白鬼(みつる)と鬼菖丸がこちらへ居る限り王家は狙って来るだろう。そこでだ」

にやりと笑って鴉は言う。

その先に口にした言葉を私達は唖然としながら聞いていた。


「『王家』と交渉する。それが承諾されないなら、(いくさ)だ」


「なっ、桃が戦闘不能なのに…もし、王家が承諾しなかったら椿さんや、桃まで危険何ですよ!?」

「それは全員に言えることだ。…それに、王家は、まだ桃を殺さない。確実にだ」

その言葉に、雅は眉をはね上げる。しかし、何も言わず溜息だけが漏れた。

その反応に、鴉も意外そうな顔を露にする。ほうっ…と呟きが漏れる。

それが面白くなかったのか、明らかに気に障った様だ。腕を組み、指でコツコツと軽く叩く。

初めて見るが、雅が機嫌を損ねた時にやる癖だと桃太郎が言っていた。

「桃も案外頑固だが、お前はそれを上回る。…言ったところで無駄だろう」

そう言って、雅はもう一度盛大な溜息を吐いた。


特に大事なことではないが、桃太郎は回避方法として雅の『弱み』で逃げ切る。

…まったく、何処で知ったのか疑問だと愚痴っていた。

鴉の場合は絶対に口を割らず、尚且つ桃太郎に報告するので手が出せないらしい。

多分、雅さんは親馬鹿なんだろう。…と少し羨ましく感じる。

それを言ったら、桃太郎は苦笑しながら、何処の親も皆、そんなものですよ。と何処か寂しそうに言っていたのを思い出す。


「さて、賛成反対の有無は置いておき、意見のある奴は?」

「…もし、戦になったなら桃や椿はどうするんだい?」

朱菊が泣き晴らした目で言う。しかし、その声色は力強かった。

「もちろん休んでもらう。俺の結界内だからまず、簡単には入って来れまい。非戦闘員と要はそこで待機だな。で、戦闘員は、真っ向からではなく後に伝える作戦通り動いてもらう。…まぁ、まずあり得ん話だがな」


「…その交渉内容とは?」

要が問うと、鴉はにやりと笑った。


「そうだな…。それには、馬鹿…白鬼と鬼菖丸の手助けが必要不可欠だ」


かくして、王家との交渉談の手発が伝えられた。

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