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黒鬼  作者: ノア
第四章 鬼ヶ島に渦巻く陰謀~勇ましき鬼の一族~
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逃走と闘争


「あっ、どうやら話…終わったようですね。久しぶりに良く寝ました」

ふぁー…と欠伸をしながら寝ぼけたように言う。

しかし、周りの静まり返った空気にやや気まずそうに黙りこみ、頭を掻く。


「…あの人、何か変な事でも言ったんですか?何か、久しぶりに話してみたいと言うから変わったんですけど…。良い鬼ですよ?アレでも。そのですね…ちと、短気過ぎはしますが…」

「いや、別に何か問題を起こしたわけじゃない…だが…。」

「だが?」

「…あまりにも壮大過ぎて、飲み込めん」

戸惑いながら言う泰光の言葉…というよりも、様子に桃太郎はかなり戸惑っていた。


「…良く分かりませんが、そんなこと言ってる場合じゃありませんよ。

何を聞かされたのか知りませんけど、今は鬼菖丸…いえ、『王家』をどうにかすることでしょう?

ほら、師匠もそんなところに隠れてないで、回復したなら出てらっしゃい」

ちょいちょいっと、桃太郎は手招きする。


すると、椿と一緒に弟、燕も入って来た。

ぞわっと、何かが逆立つのを感じる。


『黒鬼』として、生まれて。

一つだけ、便利だと思うことがある。

負の感情に鋭い『黒鬼』だから分かること。


例えば、怨みとか。

例えば、悲しみとか。

例えば、怒りとか。


例えば、『悪意』とか。


知らず知らずのうちに叫んでいた。

「師匠、離れてっ!」

「ん?」

桃太郎の叫びに、椿が桃太郎の方を見た。


ブシュッ…と赤い血が、飛び散るのが見えて。

続けて、何かが鈍い音を立てて落ちる音がした。


一番近くに居た桃太郎と、椿の腕を斬り落とした燕だけが、その血で衣を染め上げる。

悲鳴のような、咆哮の様な叫びが聞こえた。

そして、畳に蹲る椿に白い腕が首に巻きつく。

まだ、血濡れたままの刀が静かに添えられた。


「流石、兄さん。片腕斬られただけじゃ死なないよね」

「づ、…ばめ?」

未だ状況を呑み込めてない様子の椿は、弟の顔をまじまじと見つめた。

それから、斬り落とされた右腕と茫然としている桃太郎を見る。

「あー、桃君。動かないでね。動いたら、コレ、斬るから。次は死ぬ」


よく発狂しないなと、半ば感心した。

自分自身にか、それとも弟子にか。

腕を斬り落とされたというのに、痛みがまるでない。怨みの感情さえ湧かない。


「…それじゃあ、こちらの要求に従ってもらうよ?姉さん、白鬼と鬼菖丸を」

そう言った途端、満の後ろに忍者が現れた。

僅かに覗くその顔は、椿の姉。あやめのものだ。

「あや、め…。お前もか…」

椿が何かに憑依されたように言う。

「…師匠、お気持ちお察ししますが、頼みますから鬼化だけは勘弁して下さいね。…碌な事にはならないんで」

冷静に言っているが、内心、かなり焦っているのだろうと、満は思う。

しかし、後ろに敵がいる以上、逃げることも出来ない。


…何か、何か相手の気を逸らせることは出来ないのだろうか?

未だ、震えたままの鬼菖丸の手を握る。


鬼菖丸…。術…。そうだっ!


相手にばれない様、手の平に指で文字を書く。

鬼菖丸は不思議がっていたが、自らの手の平に書かれた言葉の意味を理解すると、嬉しそうにこちらを見た。


「妖術!『神隠し』なのじゃっ!」

「声、大きいですって!」


たちまち、白い霧の様な煙が部屋を満たす。しかし、すぐに晴れてしまった。

だが、そこには誰も居ない。


「燕…どういうことだ、これは」

「うーん、困ったね…。簡単な目眩しだけど、逃げるのには十分だ」



「助かりましたよ、二人とも。凄いですね」

要が、感嘆の声を上げる。

現在、『島原』から少し離れた森の中。

四鬼神の鬼達が、満や靖正を担いで逃走中である。

朱菊が狐火で辺りを照らす。

桃太郎達は暗闇でも目が効く為、先へ行っている。

「此処ら辺で良いだろう。…傷の手当を」

雅が立ち止まり言う。

桃太郎は、椿をゆっくりと降ろした。

「椿…、しっかりしな!」

涙ぐみながら、朱菊が側へ寄る。

「出血が酷い…。とにかく、応急処置しか出来ませんが、やらないよりはマシでしょう」

要が、自分の刀を傷口へかざした。

すると、刀は青色を帯び始める。


「要さんの刀も…妖刀何ですか?」

「えぇ。しかし、治癒に特化した妖刀です。回復系の妖刀は珍しいんです。…父上」

「分かってる。白欄、お前も頼む」

桃太郎が言う前に、雅は妖刀『白欄』を鞘から引き抜く。

すると、白い光が刀を包み、真っ白な着物を着た白い髪の女が現れた。

「分かった」

それだけ言うと、白欄はカラコロと下駄を鳴らし、椿の元へと去る。

「さっきの…解毒していた女の人…。雅さんの妖刀でしたか…」

満が驚いた様に言う。

「妖刀『白欄』。風を操る妖刀です。しかし、治癒能力もある凄い刀です」

「桃の『鴉』は?」

「『鴉』は、影を操る妖刀ですよ。こういった暗闇の中では、ある意味便利なのですが、まだうまく扱えなくて…」

「それにしても、桃。…椿、どうするのじゃ?片腕じゃあ、満足に刀は振るえまい」

鬼菖丸の問いに、桃太郎は軽く頷いた。

「えぇ…。『刀』はね。大丈夫、ちゃんと考えてあります。しかし、今は師匠のは精神的ダメージが大きくて…。今は回復を待ちましょう。手立てはありますので、御心配なく。私は来客を招きに行ってきます」


「…大丈夫だ。あいつ等が居た方が、今後有利だしな。『目には目を。歯には歯を』だ」

そう言って雅は、何処かへ去っていく。

不安になって声を掛けたら、厠だと少しだけ怒られた。


そんなこと言ったって、暗いのは苦手ですし。

鬼菖丸は、雅さんに着いて行っちゃったし。

四鬼神の皆様と、兄さんは椿さんの手伝いだし。

「何を呟いている、馬鹿女」

少し久しい声。

しかし、どうしてもこいつだけは嫌いだ。

「姿が見えないので、とっくにくたばっていると思いましたよ。バカラス」

ふんっ…と、鴉は鼻を鳴らした。

どうやら、桃太郎に置いていかれたらしい。良い気味だ。

「あいにく、桃に頼まれた仕事をこなしていただけだ。お前と違ってな。

…どうせ、やることがなくて暇なのだろう?」

「彼方こそ、桃に置いていかれたんでしょう?やーい、のろま」

頭にきたので言いかえしてやると、鴉は小馬鹿にしたように見下す。

「…本当に、女とは思えない発言だな。猿と同じ脳味噌なのか。…それはすまない。さぞ、理解に苦しんだろう」

「私が猿の脳味噌だったら、彼方は猿以下の鳥の脳味噌ですね。あぁ、失敬。こんなこと言っても、彼方には難しい言語ですね」

お互い、同時に溜息を吐き、真似するなと同時に叫んだ。

「「どうして」」「お前が」「彼方が」「「桃に好かれるのか分からない」」

何だか、この馬鹿らしいやり取りにも嫌気がさしたので、もう一度溜息を吐いた。また重なった。


「大体、白鬼の存在でこうなったんだ。…迷惑な存在よ」

「そんなの、なりたくってなったんじゃありませんよ。…それに、桃だって自らの意思で守るって決めたんです。彼方に指図される言われは無いのでは?」


「お前は何も知らないからそう言えるんだ。」

はぁ…と深いため息を吐く鴉を軽く睨むと小馬鹿にしたように肩をすくめる。

「知らねば何とでも言える。我が主は根拠を重視する性格ゆえに、全てを知った。

…そして、全て諦めてしまったのだ」

遠い目で鴉は言った。見据えた先は、一体どこなのだろう?


暫くすると、桃太郎が二人の鬼を連れて帰ってきた。

その顔に、皆が戦闘態勢に入る。

「身構える気持ちは分かりますが、待って下さい。この二人は師匠のお友達ですよ。…本人は忘れていますがね」

苦笑しながら桃太郎が言う。

連れてきた鬼とは、紅鶯と竜泡。

二人とも、片腕を失くした椿の姿を見るなり青ざめた。


「しかし、桃。客を連れ込み過ぎてないか?」

(かわや)から戻った雅が淡々と言う。

桃太郎もつられた様に笑った。

「…忍者は、気配を感じ難いんですよ。まぁ、此処は任せて下さい。…責任、とります。

父上と、満さん達は朱菊さんのところへ行っててください。無理なら、光ある場所へ。急いで」


暗い森には、あからさまに何かの気配が漂う。

森の夜闇に紛れて何かが息を凝らしてこちらを見ている。


「それじゃあ、皆さんで『色鬼』でもやりましょうか。鬼は、もちろん私がやります」


一度だけ、振り返る。

そこに居たのは、漆黒と赤い綺麗な瞳の醜い真っ黒な鬼が悠然と立っていた。

そろそろまとめていかなければならないのに、未だにごちゃごちゃしている。

今回も、ざっくりとまとめてしまうかもしれまえんが、お付き合いいただけたら幸いです。

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