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黒鬼  作者: ノア
第四章 鬼ヶ島に渦巻く陰謀~勇ましき鬼の一族~
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新たな刺客

「…鬼菖丸。」

まだ鼻を押さえながら、涙声で言った。


まだ幼いながらも、一目でわかる。

庶民ではないと。着ている服は目立たない色のものだが、それでさえ気品の様なものを隠し切れていない。


元からの性格が餓鬼くさいから、ちょうど良いのかもしれないが。

桃太郎は、静かに唸る。そして、溜息を吐いた。

「鬼菖丸…、君は何処から来た?何故、倒れていたの?」

鬼菖丸は、少し戸惑う様に言う。

「腹を空かせて迷っていたところ、…真っ白な刀を持った男が、此処まで連れてきてくれたんだぞ。

それで、此処で倒れていれば、心優しい鬼達が食い物や、寝床を与えてくれるだろうと言っていた」


目眩を感じ、少しよろける。

「ぐ…」

うめき声が漏れた。

『アレの差し金か。厄介だな。…大丈夫か、桃?』

鴉が心配そうに言う。

「おぉっ!刀が喋った!お前も妖刀か!」

『…餓鬼は嫌いだ』

しっしっと刀の姿のまま、鴉は言う。

「アレ…とは?」

椿が聞くと、桃太郎は錆びた笑みを浮かべる。

「カッコよく言うなら、『因果』。悪く言うなら『腐りきった縁』ですかね?

さぁ、何でしょう?…さて、少し出かけてきます。ほら、触ってみる?」

桃太郎は『鴉』を鞘ごと鬼菖丸に渡す。

鬼菖丸はお菓子をもらった子供のように、キラキラした瞳で受け取る。

「また、出かけるんですか?」

桃太郎はこくりと頷き、溜息を吐く。

「夕食は、皆さんの分しか買ってないので。もう一度、調達しに行ってきます」


夕食は、玄米と漬物、味噌汁に煮魚だ。

たった一人を除き。

「桃…、良いんですか?私のでよければ半分…」

「いえいえ…。気遣いは無用です。漬物で十分」

部屋中に、漬物を噛み砕く歯ごたえの良い音が響き渡る。

桃太郎は苦笑いしながら、漬物を箸で突く。そして、玄米を一口。

「なぁ、満。何故、玄米なのだ?」

訝しげに、しかし何の悪意も無い問いを鬼菖丸は言う。

泰光が渋々と答えた。

「足利家は下級武士。白米は年貢用。此処で暮らすなら…贅沢言うなよ?」

「そうかー。我の住んでいたところは、三食白米だったがなぁ…。だが、ここの飯の方がうまいぞ!

我は満足じゃ。桃、おかわりはあるか?」

嬉しそうに茶碗を差し出す鬼菖丸。

分かってない…と、泰光は溜息を吐いた。

それを桃太郎がやはり苦笑しながら受け取り、自分の茶碗から半分分ける。

そして、横から椿の茶碗を奪い取ると、素早く移した。

「あっ、おい…」

椿を無視し、どうぞ。と手渡す。

「師匠は大人でしょう?食べ盛りの子供に半分くらい分け与えても、文句なんて言いませんよね?」

にこやかに桃太郎が、有無を言わせない笑みを向ける。

椿は静かに食事を再開する。ずずっ…と味噌汁を啜る音が聞こえた。

「桃、いつも以上に恨みが籠ってましたね」

満が言うと、少しふてくされたように桃太郎は言う。

「私が食べ盛りの時は、師匠、毎日朱菊さんの所に行ってましたから。…仕方が無いので、(きのこ)とか、山菜とか、たまにお魚とか。そこら辺が食べれれば良いなと思いつつ、お茶を啜ってました」

盛大に椿が咽る。桃太郎は淡々と会話を続けた。

「…お茶、啜ってたんですか」

「えぇ。その通りです。やってみます?意外に大変なんですよ?茸だって、毒茸、ワライダケ…たくさん種類ありますから。ワライダケなんて、本当に息が出来なくて死ぬかと思いましたよ」

「鴉は何か食わんのか?」

頬に米粒をつけたまま、鬼菖丸が問う。

「うーん。いつもは食べるのですが…。もう、人の姿にも戻れるくらい回復しましたし…」

ちらりと桃太郎が『鴉』を見ると、鴉は小さく餓鬼は嫌いだと呟いた。

「…というか、本当なのか?さっきの話…」

泰光の問いに、椿はごほんっと咳払いした。そして、小さく頷く。

「けして、逢引じゃないからな。あの時は、臨時ということで、会議がいつもより多く開かれて…。

桃が居るから昼は行わず、夜にしてほいいと無理を言ってだな…」

ふぅ…ともう一度桃太郎が溜息を吐く。

そして、さりげなく一言。


「…最低ですね」


と呟くのだが、周りが静まり返っていた為、部屋中に響き渡った。

より一層空気が重苦しくなるのを、泰光は肌で感じ取った。


「まぁ、もう過ぎたことですが。」


きれいかどうかは知らないが、そんな感じにまとめた桃太郎の小言がもう一度響く。

なんだか、ずっと昔母と父が喧嘩した時より冷えたものを感じる。

あのときばかりは、本当に実家に帰ってしまうのではないかと、四六時中泣きわめいていただけだった。

桃太郎が食事を終え、自分の部屋に戻って行く。

それを椿は横目で気にしながらも、すっかり冷めた味噌汁と啜った。


「なぁ、鴉。桃に何話した?」

『何、俺はただ単に桃の命を受けてお前の後を着いて行っただけだ。別に、お前が妙に浮かれて口笛吹きながら行ったとか、途中、ちゃっかり貢物を買ったことなどは桃の幼き夢と、お前のちっぽけな誇りを尊重し、言ってはいない。大体、お前は浮かれすぎなんだ。普通に過ごしていれば、あの子も気付くことは無かったのになぁ』

残念そうに鴉は言う。椿が何か言おうとした時、鬼菖丸が訊ねた。

「のぉ、鴉。桃の父親は椿なのか?」

『いや、コレは師匠。剣を教える人だ。桃の父親は…いると言えばいるし、いないと言えばいない』

「そうかー。我と、桃は『どうるい』のような気がしてならん。身分などは違うのかもしれぬが、何だか、そう感じるのじゃ。きっと、同じような『きょうぐう』なんじゃろうなぁ」

けして、過去を悔いる様な喋り方ではなく、感心するような、そんな声色だった。

『そうか…。桃も、同じことを言っていた』

珍しく、優しい声色で鴉は言う。

「おぉっ!そうかっ!嬉しいの。我には頼れる身寄りはいない。皆、大切なのは身の上じゃからな。椿、あまり迷惑かけちゃいかんぞ?ああ見えても、淋しがり屋なのじゃからな…と、男が言うておった」

「にしても、さっきから出てくる『例の男』とは知り合いのようだが、どういう関係なんだ?」


親と言うのは容易い。

だが、それは間違いであり、確実な答えではないだろう。

初代黒鬼、そして異種の反逆者。

そっちの方が明確だ。

『そうだな…。同志というべきか…。いや、どちらかといえば、全ての元凶と言うべきだ』

それでも、桃の奴は気に入っているし、協力を惜しんでいない。

というか、今のところ桃の方が影で何やらやっているようだ。

まぁ、あいつなりの考えがあるんだろうが。


そう思っていると、激しい地響きが足利家を襲った。同時に轟音が耳を襲う。

「な、なんだ…!?」

泰光が外の様子を覗おうと障子に手を伸ばすが、椿がそれを制した。

「今のは、砲撃の様じゃの。その前の轟音は、おそらく結界が破れた証拠じゃ」

「…桃はっ?」

満の問いに答えられた者は一人としていなかった。

だが、桃太郎の部屋は隣。砲撃が当たったのならば、こっちにも影響があるだろう。

「…ついに、来た様じゃの」

鬼菖丸は、椿の制を止めて障子を開けた。

その表情は、ただの子供ではなく王座に君臨する王子の様などこか悠然とした振舞いと悲しげな表情。



眼下に広がるのは、いつもと何一つ変わらないはずの庭…ではなかった。

「おいおい…。随分、弱い結界じゃねぇか。あーあ、良い女はいねぇし、こんなつまらない仕事、さっさと終わらせてぇよ」

紅鶯(べにおう)、そんなことを言っている暇があるなら、さっさと探しなさい」

「へいへい…。おっ?噂をすれば、探し物…見つかったみたいだぜ?どうする、竜泡(りゅうほう)?」

紅鶯という男は紅蓮の髪に、赤褐色の瞳。おそらくは赤鬼であろう。

一方、その対の様な、竜泡という薄い蒼みがかった白髪の、綺麗な蒼い瞳の男は青鬼。

どちらも、この国にはない色の瞳を持っている。

おそらくは、どちらも西洋の鬼だろう。

「…若様。王家の血筋である貴方様は、その後を継ぐ立派な鬼。我々と共に来てもらえますね?

貴方がどれほど駄々を捏ねようと、もう無駄なのですよ?

…あぁ、言い忘れました。私たちは、今回彼方方に危害を加えるつもりはありません。今回はあくまで、若様の回収、彼方方『四鬼神』の強制交代の伝言。及び、白鬼の確認…そして」

「ちょっと、待て。強制交代とは?」

椿の問いに答えたのは、紅鶯だった。小馬鹿にするように、鼻で笑う。

「はっ…。お前ら『四鬼神』は失態を犯し過ぎた。王はお前らの体たらくに嘆き、我ら西洋の鬼を新たな『四鬼神』として出迎えてくれたのだ。これより、無力な此処(にほん)の鬼達は全て我々の支配下となり、その命令を命に代えても従うこと…それが、新しき秩序だ!」

「無駄話は此処までにしましょうか。若様の回収はいつでも出来ます。…その前に、一番の優先事項」


竜泡が刀を構えた。

そして、足利家の屋根の上を見る。


「黒鬼の排除を行いましょうか」


そこには、紅鶯と同じ…しかし、彼よりももっと綺麗な赤い色の瞳を持つ鬼が二人。

「多勢に無勢…とは、いささか卑怯じゃないか?桃」

「いいじゃありませんか。生きる為には、このような手段もたまには、良い。煮るなり焼くなり、呪いをかけるなり、好きにすれば良い」


「随分、余裕じゃねーの。上等っ!お前らの首…その恐怖に歪む顔を新しき王に拝ませてやるぜっ!」

「異端の鬼風情が…。王に反逆する行為は死に値する。さて、殺し合いを始めましょうか」


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