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黒鬼  作者: ノア
第四章 鬼ヶ島に渦巻く陰謀~勇ましき鬼の一族~
31/55

色鬼

季節は、蒸暑い夏から秋へ。

葉が紅葉し、山々が美しく飾られる。


所変わって、とある山奥の寂れた神社に四人の子供が居た。


いーち、にーい、さーん…。


その光景は、特に珍しいことではない。そう、この光景は。

異常なのは、その子供達。

皆、『鬼の面』を被っていた。


それも、色とりどりの仮面だ。

赤、青、白…。


祭で売っていそうな安物の仮面。

しかし、いくら此処最近祭があったからとはいえ、このような仮面は今は売っていない。

縁起が悪いと、売りだされなくなったのだ。


お面を被った子供たちは、笑いながら走って行く。

一体、何処へ隠れるのだろうか?


しーい、ごーお、ろーく…。


笑い声は、どんどん遠退いていく。

子供達は笑いながら、来た道を駆け下りる。

お面は、茂みや、神社の裏などに放り捨てた。

まるで、それが代わりだと言う様に。


夕日が、寂れた神社を照らす。

数える声だけが木霊する。


しーち、はーち、きゅーう…。


取り残された童は、まだ何も知らない。

自分だけが、取り残されたことに。


「十っ!もういーかーい…?」


返事はまだ、帰って来ない。

童は、それを合図だと勘違いした。


誰も居ない神社を一人、探す。

日が傾き、星が瞬くまでずっと。


疲れ切った童の手には、三人の被っていた色とりどりのお面。

どれも、節分で使われそうな面だ。


童は、ゆっくりと顔を上げた。

その面は、『般若の面』。

その面をそっと、退かす。


彼は、帰り道さえ覚えてはいなかった。

いや、実際は覚えているのだが、夜闇に紛れて山道が見えない。

灯りさえない。


「……」


艶やかな黒髪が夜風に踊る。

持っていた色とりどりのお面を投げ捨て、踏みつけ、叩き割る。

そして、暫く鳥居の前で休んでいると、小さな光が溢れてきた。


――童…。何だ、一人か。こんな晩まで何故、我を起こした?


「はぁっ!?起こしてねぇよ。アンタ、此処の主か?悪いけど、朝まで寝かせてもらうからな」

童は気を害したように言う。…正直、もう寝たいのだ。


――童よ、捨てられたか?何故、この様な不安定な場所に迷い込む?


『捨てられた』という言葉に過敏に反応する。

ぎゅっと、拳を握りながら叫んだ。


「煩いって言ってるだろっ!…ほっといてくれよ。どうせ、誰も…。

何で、俺だけ生き残ったんだろ?…こんなに苦しいのに、何で黒鬼になれないんだろ?」


――童よ。もし、帰る場所が無いのなら、此処に住まわぬか?

皆に忘れ去られ、捨てられた者同士、協力しようではないか。この空間は酷く不安定だ。

もし、お前が迷い込んでいなかったら、社としての役割を終え、消滅していただろう。

童、主の名は?


ぽんっと、頭に手が乗せられる。

よしよしと言う様に撫でられた。


「…童じゃねぇよ。つばき。椿っていうんだ。アンタは?」


――名は忘れた。私はこの山の、霊山の主。『山神』。…ひとつ、言っておこう。けして、黒鬼にはなるな。あの鬼は、けして報われぬのだから。


悲しそうな光を放ちながら、山神はそう言った。




その言葉は、『本物の黒鬼』と出会ってからと言うものの、片時も頭から離れることは無かった。


「師匠、どうしたんですか?ぼけーっとして」

「ん、いや…。子供が遊んでるな」

適当に紛らわすと、桃太郎はふぅんと呟きながら、視線の先を見る。


「青っ!」

「青なんて、ねぇよ!」

「よく探してみな!」


騒いだり、笑ったりしながら子供達が前を通り過ぎて行く。


「…『色鬼』ですか。遊んだことはありませんけど。どういう遊びなんです?」

「基本、鬼ごっこと同じだ。鬼を一人決める。鬼が何でもいいから色を言う。他は、その色に触れなければならないんだ。見事その色に振れたなら、鬼はそいつを触れない。鬼のままだ。

ちなみに、自分が着ている服の色とか、小物は無しだ。俺が餓鬼の頃は、『隠れ色鬼』が流行ったな」


「何だか、師匠。この遊びに良い思い出無いでしょう?」

意地の悪い笑みを浮かべて、桃太郎は椿を見た。

それを咳払いして、歩きを再開する。

「『色無(いろなし)』ですか…。私が言うのもおかしなことですが、本当にいたんですね」

「そりゃ、いるさ。そういう世の中だからな。どんな手を使ってでも生き残る。

例え、どれ程薄汚れた手段でも。…偽ったことを、怒っているか?」


うーんと、桃太郎は呑気に背伸びした。

おいおいと呆れつつも返答を待つ。

「そこら辺は、よく分かりませんし。…政治(まつりごと)には、疎いですから。

分かろうとも思いませんし、生きる為の手段でしょう?なら、後悔しないことですよ。…って、前も言いましたね」

はははっと乾いた笑みを浮かべて桃太郎は言う。

こいつが、この笑みを浮かべるときは、大して面白くない話だったり、聞かれたくないことだったりする。

「お前は、黒鬼で良かったと思うか?」

「そんなの、選べるわけないでしょう。…そして、その答えも『当たり前だ』と答えてみることにします。ほら、着きましたよ」


桃太郎が、表から戸を開けて入る。

すると、凄まじい衝撃が走った。


「いってぇ…」

ちなみに、桃太郎は無言で耐えている。

「何だ、この餓鬼は?」

奥から慌てて満が駆けてきた。

「おかえりなさい、二人とも。…えっと、大丈夫ですか、桃」

「何とか、…平気です」

よろよろと立ち上がり、まだ床に倒れている子供を見た。

桃太郎が、少し目を細める。

「…まさか、親戚の子を預かったなんて冗談は言わせませんよ?」

にこぉと桃太郎が、不敵に微笑む。

それは、有無を言わせない歪んだ笑みだった。


「あの…、その…、家の外で倒れてたから、まだ子供だし…。

その…、拾っちゃいました。」

えへっと、満は笑う。

桃太郎は、軽く溜息を吐いた。

「世間一般では、拉致ですよ。役所に届けろ…とは、今回は言いません。

よくやりました、満さん。偉いですよ」

「えっ!?本当ですか!」

「えぇ。この子」


一呼吸置いて、桃太郎が平然と言う。


「鬼ですから。」


驚く満を横目で見ながら、椿は鬼子に話しかける。

「…おい、お前。名前は?」


むくっと子供は起き上がり、鼻を押さえながら涙声で言う。

鬼菖丸(きしょうまる)…。」


…この鬼子との出会いが、さらなる波乱を呼んでいることに、たった一人を除き、誰も気付かなかった。

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