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黒鬼  作者: ノア
第三章 神に愛されし尊き少女の祈り
24/55

想人


暗い、暗い…。


光さえ届かない所に自分は居た。

元い、自分の記憶はそこから始まった。


寝ているのか、起きているのか…はたまた、夢の中なのか。

そんな感覚さえ分からなかった。


唯、一つ。自分に理解できたことは。


望まれなかった。


それだけだった。

それが『黒鬼』だから理解しているのか、この環境が異常だと感じ取ったからなのか…。


そして、いつ『感情』というものを置いて来てしまったのか。

…今でも、その答えは見つからない。



『外』の世界を知って、唯一つ分かったことがある。


…自分は、自分が嫌いだ。


だから、自分を否定しない人を好むんだ。


「だから、私は…彼女が好きだったんですね…」

今尚、目を閉じれば、お転婆で我が儘で、誰よりも無邪気なあの少女が現れる。


ーねぇ、桃。


祭の場所から少し離れた人気のない小川。涼しくて、提灯の明かりが少しだけ川に映る程度の丁度良い距離だ。休憩するには、もってこいの場所であり、姫巫女が気に入っていた場所だった。


ー舞台が終わったら、来てほしいの。


珍しく、おとなしく振舞う彼女。恥ずかしげにずっと小川を見たままだ。


「夜は、出歩くことを禁じられていますので…」


ーそう…。どうしても無理?


「考えておきます」


我が儘で、お転婆で、人一倍勝気な彼女が珍しく弱気だ。

少しだけ、嫌な予感がした。


ーねぇ、桃。私ね…。


聞いてはいけない。虫の知らせの様に、そう直感した。


「何、弱気になってるんですか?姫巫女様。ほら、いつもみたいに笑って下さいよ!」

冗談交じりに、背中を押して…。

そのまま彼女は小川に落ちた。


それが、原因なのか依然と言うべきなのか…。彼女は満足に歌えなかった。

けど、いつもみたいに、笑ってて。…ほんの少し、反省した。


だから、あの夜は。その詫びも兼ねて、会いに行ったのだ。

気配も消したし、完全にばれないだろうと思ったけど、後に誰かが見ていたということもまだ知らずに。


…その時は、まだ彼女は生きていた。


ー桃、来てくれたんだっ!


嬉しそうに彼女が笑う。

夜、女性に会うということは、逢瀬という誤解を生む。

主の妻である姫巫女自らが、少年と言えど、男を呼ぶことなどあってはならないはずだ。


ーあのね、桃。私…


月の綺麗な夜だった。彼女の言葉より、そっちの方が印象深い。

本当に大きなまんまるの月で。


ー桃の事が好き。


「姫巫女様、な、何を…ご冗談が上手ですね…。しかし、ほら、もっとうまい嘘じゃないと…。

今のは、些か縁起が悪い…」


誰かに好かれるのは、嬉しい。

しかし、相手が悪すぎた。


ー私と一緒に逃げて。お願い。


本当に真剣なまなざしだった。


…こんなにも、思ってくれているのに。


…こんなにも、彼女が好きなのに。


皆に望まれる姫巫女と、望まれず産まれた化物とじゃ、釣り合わなくて。

だから、あの時。


「残念ながら、私は…星巫女様を想っております。…それに、貴女様は主の妻。

そんな無礼な発言はお控えください。それに私は、次から『姫巫女代理』ではなく、星巫女様の書記官見習いとして、狭霧殿でお勤めをすることになりました。…貴女と会うのは、これで最後です」


ー本当に?最後なの?


縋るように、切羽詰まったような声で彼女は言う。

今にも泣きそうだった。


「良いじゃないですか。貴女はこれから自分の使命を全うすることができ、私は、想い人の傍で励むことができる。…もう、十分でしょう?」


星巫女様の傍で勤めることになったのは本当だ。


…けれど、私の想い人は他ならぬ貴女だけだ。と、言えるのなら直ぐにでも言ってしまいたい。


「さよなら、『姫巫女様』。」


さよなら、僕の愛しい人。


その日は、本当に月が綺麗で。

本当に大きなまんまるの月で。

…彼女を攫ってしまいそうなくらい、美しい月で。


…彼女を本当に、連れ去ってしまったのだ。


翌朝、自らの胸…正確には心臓を刺して死んだ姫巫女の話を聞いた。

その時は、もう何もかも自分への裁きが決まった後で。


当然の報いと、嘲笑った。


人に恋した化物(ぼく)と。化物に恋した神の妻に向けて。


…姫巫女様。やはり、凄い人ですね、貴女は。

この罪が、貴女の憧れた永遠に途切れることのない運命の『赤い糸』になりましたよ。


歪な糸ですが、私は少し嬉しく思うのです。

こうして、貴女と繋がれることが。


だからもしまた会えるのならば、次は貴女に嘘を吐いたその償いとして、恋人になってはくれませんか?

昔の桃太郎の視点でお送りしました。

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