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黒鬼  作者: ノア
第二章 春来たりし異邦の来訪者
20/55

宴会

赤い鮮血が飛び散る。

「痛っ。あーあ…服が裂けたじゃんか!」

「何処までも餓鬼だな…」

一端、距離をとる。妖陽は傷口をマジマジと見つめた。


ぼこぼこっ…。


肉が盛り上がり、傷口が塞がる。

「なっ…。随分と、化物染みた治癒力だな?」

「旦那~。手伝おうかい?」

朱菊が声を張り上げる。

「いらん」

きっぱりと答えて、相手に向き直る。

妖陽は少し唸ってから、こう言った。

「困るんだよねー。言われなかったの?僕は『神の子』だってば。妖と人と鬼の全てをとりいれた選ばれし存在なんだって。君達の言う『化物』とは格が違うんだよ」

「神を名乗るとは、大層な餓鬼だ。親の顔が見てみたい」

嘲るように、椿が刀を構えなおす。

妖陽はにっこりとほほ笑んだ。

「何れ分かる時が来るよ。けど、そろそろ行かないと、そこに居る陰陽師さん達の準備が整ってしまうからね。僕はもういくよ」

土を掴み、椿に向かって勢いよく投げる。

子供じみた目眩ましだったが、逃げるには十分だった。


「行ってしまいましたねぇ…。これからの被害、どうしましょうか?」

「先輩、かなり危ないんじゃないですか?俺らの地位的に」

「報告はしなくていいでしょう。それが世の為、人の為、私達の為です」

相変わらずとんでもないことを言っていると、すこし感心ながら靖正は小さく頷く。

「…いいのか、それで?」

泰光が二人の会話を聞いて呟いたのだが、誰も聞いていなかった。



「おい、桃。生きてるか?」

『馬鹿、気絶しているに決まっているだろう。しばらくはこのままだ』

鴉が弱弱しく言うと、椿は鼻で笑った。鞘を軽く叩く。

「『自業自得』だと思うが?」

「…そもそも、お前が行かなかったのが悪い」

「それもそうか」

柏手を打ち、椿は言う。はぁ…と鴉は溜息を吐いた。



「にしても、被害が大きいねぇ…。どうしたもんか」

煙管(キセル)を取り出し、朱菊は呟く。結構気に入っていた場所だったからだ。

「朱菊様ぁ~!朱菊様~」

遠くから、色とりどりの着物を着た遊女(おんな)たちが駆けて来る。

「何だい、お前達。生きていたのかい」

驚いて目を見張ると、遊女たちは怒ったようにぽかぽかと叩いた。

「酷いですよ、朱菊様ぁ。遊郭(おみせ)は焼けてしまいましたが、皆、無事ですぅ~」

「あぁ、そうだね。アタイが手塩にかけて育ててきた子達だもんねぇ。そのくらいの根性なくちゃ」

ふふっと笑い、皆に聞こえる様に言う。


「あんた達、直ぐに宴の準備をしなっ!!」


「おい、朱菊!?」

椿が驚いていると、朱菊は嬉しそうに笑う。

「桃は要が世話するから大丈夫さっ。せっかく、こうして集まったんだ。ほら、見てみなさいな。

美しい景色だと思わないかい?」


残った妖怪達が、ぞろぞろと列をなしていた。

店自慢の大きな赤提灯が、妖怪達の行く道を照らす。

その道に沿う様にして生える桜並木は幻想的なまでに美しかった。


「朱菊様ぁー!何処で宴を?」

「一番大きな桜の木があっただろう?そこに運びなっ」

「…本当にやるのか?」

「こんな時だからやるんだよ。楽しい方がアタイは好きさ。本当なら、集いが終わった後、若様に歌や舞いでも踊って欲しかったんだけどねぇ…」

残念そうに朱菊が言う。それには、少し同感だ。

「椿っ…、ちょっと良いか?桃君のことでだが…」

要がぜぃぜぃ言いながらも走ってきた。

「ん?」

「目が覚めた…今、満ちゃんが、面倒見てる」



「桃、気分悪くないですか?」

「…えぇ。それより、あの自称神は?」

「逃げた」

椿がそう答えると、桃太郎は怪訝な顔をした。

「逃げた?…逃がしちゃったんですか。師匠」

「あぁ。逃げた」

淡々と答える師に対し、桃太郎はうーんと唸っていた。

満が、桃太郎の額に手を当てる。

「熱、下がりませんね…」

「熱と言えば、師匠、紙袋持って来てくれませんでした?」

「一応、持ってきたぞ。これか?」

紙袋を受け取ると、ガサゴソと探って、『薬』を取り出した。

そのまま口へ流し込む。椿は自分の竹筒を取ると、桃太郎に渡した。

「どうも」

そのまま蓋を開け、一気に飲み干す。礼を言ってから竹筒を返し、辺りを見回した。

「随分と賑やかですね…。何かやるんですか?」

「朱菊が宴を開くと言ってな?ほら、あそこの大きな桜の木の下で」

指さした先には、赤い鳥居の並ぶ道のその奥。

遠くからでも分かるほどの大きな桜の木が立っていた。

「うわぁ…。大きいですね」

満が嬉しそうに言う。

「私、あそこに行くのはちょっと…。遠慮します」

「何故?」

遠慮がちに言う桃太郎に椿が問うと、少し遠い目をして彼は言った。

「大きい木が苦手だからですよ。遠くから見る分には、構いませんが…」

「木から落ちたことでもあるんですか?」

「それより、もっと壮絶です…」

本当に嫌そうに桃太郎は言った。

「それじゃあ、私も此処に居ます。お酒、苦手ですから。皆さんで行ってください」

満がそう言うと、椿はにやっと意地の悪い笑みを浮かべた。

「な、なんですか…?」

「別に?桃、鴉借りるぞ。こいつなら、舞いくらい踊ってくれるだろ。歌は無理でもな」

含みのある言い方に桃太郎はむっとしながらも、鴉を渡す。

「好きでやった訳じゃありませんよ」

「なぁ、またやらないのか?そろそろ各地で一揆が起こるんじゃないのか」

冗談混じりの事を言って、椿は去っていく。

その後ろ姿を見ながら、桃太郎は溜息を吐いた。

「本当に、起こるかもしれませんねぇ。しかし、私の責任でなく、彼女の責任ですよ」

ぶつぶつと文句を言っている桃太郎に問うと、曖昧な笑みで誤魔化された。



「それより、良いんですか?行かなくて」

「はい。また、春になったら来たいですね。その頃には元通りになってますかね?」

「さぁ…おそらくは、大丈夫だと思いますよ?」

くすくすと満は笑った。

「夏は、祭がありますね。姫巫女様は歌われるのでしょうか?」

桃太郎は困った様に言う。

「多分、今回も歌われないかと…。」

「秋は、椿さんのお山に行って栗とか、きのこ狩りをしてみたいです」

「あのお山は、紅葉が美しいですよ。木の実とかもたくさんあって…。で、冬は?」

楽しそうに桃太郎が言った。満は微笑みながら言う。

「江戸は毎年ではありませんが、雪が積もるんです。そうしたら、皆で雪合戦とかして遊びたいですね」

「私は、寝てたいです。鬼は冬になると眠くなるんです」

うんうんと頷きながら桃太郎は言う。

「…村に居た時は、いつもそうやって遊ぶのが常でした。桃太郎はどうでした?」

桃太郎は何も答えなかった。



「あら、旦那~。こっち、こっち。若様と満ちゃんは?」

朱菊はすでに酔っていた。盃になみなみと注がれた酒を片手で飲む。

要は既に酔い潰れて、寝入っていた。

陰陽師の二人のうち、靖正という少年は完全に酔っている。顔が真っ赤だ。

「良い感じになりそうだったから、置いてきた」

「あら~。お年頃だねェ」

全く、今、奇襲が起きたなら全滅だな。

「旦那も、ほらほらぁ~」

「ったく…。少しで良いからな」




かくして、『島原』は壊滅状態。

今回は、西洋の鬼並びに、混血種の妖に遭遇。

どちらも、取り逃がすという失態を犯した。

しかし、紛い鬼の鬼化…また、白鬼の生存を確認。

以上をもって報告を終える。


「四鬼神といえど、まだまだのようだ」

「いかがいたしますか?」

和風の大きな屋敷。そのある部屋の前で、忍者(しのび)が問う。

年齢の分からない声が響く。それは笑い声だ。

「まだ、泳がせておけ。いずれ、時が来る」

「時が来たその時は?」

忍者(しのび)が問うと、せっかちな奴め…と聞こえてきた。


「時が来たその時…」


「誇り高き、鬼の『王』が頂点に君臨するんだよ」


後は、ずっと笑い声が響いているだけだった。

考えなしに書いた第二章。

とてつもなく、ぐだぐだでしたね。すみません。


第三章からはちゃんと考えてありますので、これからもお読みして下さるとありがたいです。

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