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黒鬼  作者: ノア
第二章 春来たりし異邦の来訪者
19/55

人でなく、鬼でなく

「秀忠、桃は此処に居るんだな?」

鳥の形の式神から降り、秀忠に問う。

「うーん、居る筈なんだけどね…。なんせ、妖の支配領域に入ったから、分かりずらいんだよ」

困った様に笑う秀忠を見て、椿は小さく舌打ちする。

満がよろよろと式神から降り、泰光も後に倣う。

辺りには血の臭いが充満しており、今にも吐きそうだ。

「皆さん、よく平気ですね…」

「鬼が血の臭いに気を悪くするなんて、アタイ達にとっては滑稽な事。

アタイら鬼の『食事』に血は付き物さ」

朱菊がけらけらと笑った。要がそれを制す。

「今、その話は良いでしょう?彼女の気を余計に悪くさせるだけですよ」

「…にしても、誰が封印を解いたんだ?王族で無い限り不可…」


近くの家の屋根が弾け飛び、二人の人影が夜空へ跳ね上がる。

空中で、黒い影が同じように跳ね上がってきた影の首を掴み、地へぶん投げた。

そのまま黒い影は地へと着地した。


「お前…」


背中まである長い黒髪に、今にもほどけそうな包帯。鋭く伸びた獣の様な爪。頭から生えた二本の角。

赤い瞳。見慣れた黒衣。


「桃か?」


師の問いにその鬼は何も答えない。興味が無いと言っているかのように見向きもしなかった。

「本当に、アレは『紛い鬼』なのか…」

要が唖然として呟く。

紛い鬼の特徴は、大きな身体にとてつもない怪力。大きな角。理性を失い、暴れるのが常だ。

人に戻るという例も稀ながら起こる。


「この姿は…『鬼』じゃないか」


初級が『紛い鬼』とされ、中級が私達の手下達『鬼』。人の姿にも、鬼の姿にもなる。

『紛い鬼』との違いは、その優れた能力は『紛い鬼』の比ではない。その姿も人と同じで、ただ角が生え、金色の瞳に変わる。人の姿になっても能力は使えるし、日が出ていても行動できる。


「本当に、彼はただの鬼なのか?椿…」

「桃は『紛い鬼』だと言ってたし、その力さえも失いかけてたんだぞ?」


そう言っている間にも黒鬼は、容赦なく獲物に蹴りを食らわす。

相手はそれを避け、黒鬼の髪を掴んだ。

お返しと言わんばかりの勢いで、地に叩きつけた。


ドチャッ…


黒鬼が地にめり込み、地面が凹んだ。

土煙があがり、よく見えない。


「あは」


笑い声が聞こえた。


「あはははははっ!」

無邪気な子供の声。土煙が落ち着き、視界がはっきりしてゆく。

自分の倍の背丈もある桃の首根っこを掴み、その子は笑っていた。

桃太郎は黒鬼の姿から、唯の人の姿へと戻っており、いつの間にか髪が結われていた。

しかし、その疑問はすぐ消えた。子供の足元をよく見ると、黒い一振りの刀が踏まれていた。

その主は完全に気絶しており、今にも消えそうなかすれた息づかいが辛うじて聞こえる。


「こいつ、不味そうだな…。けど、新しい餌が来てくれたから、いらないや」

ぽいっと桃太郎が投げられ、近くの木にぶつかる。


「お兄さん達は、赤と青、どっちがいい?」


にやりと、その(こども)は笑った。




「黒」


そう答えると、不思議そうにその子供は桃太郎を見つめた。

「黒…かぁ。うん、分かった。『赤』だねっ!?」

その妖の目が変わる。獲物を見つけた時の、獣の目だ。

「黒は『赤』…。血が少し経つと変わる色」

うんうんと子供は一人頷く。

「妖にしては、完全な人型だな。鬼というわけでもない…」

桃太郎が呟くと、子供は小さく笑った。


「僕、妖じゃないよ?人であり、妖怪であり、鬼でもあるって言ってたっ」

「…は?誰が?」


「『お母様』だよ。僕は選ばれた存在なんだって。人と、妖怪と、鬼の血が混ざった『神の子』だって」


ーなんだそれ。

…『神の子』?


「くくく…」

静かな笑い声が夜空に反響する。

子供は不思議そうな顔で桃太郎を見た。

「神の子?何処にそんな大層な奴がいる?人や妖を喰う生き物が『神』?あぁ、確かに『神』だな。

そんな真似、お前しかできんよ。ちなみに、私が知る限りでは、お前を神とは呼ばない」

一呼吸置いて、桃太郎は歪んだ笑みを浮かべた。


「『化物』。

人はお前をそう呼ぶだろう。にしても、上には上がいるもんだな。

私もさんざんそう言われてきたが、妖まで喰ったことはなかった。いや、参ったよ」


面白そうに桃太郎は言った。

王族はこれが手にあまり封じた訳ではない。

自ら創った『人間兵器』を隠しただけだ。

あの人もそこまで気付けなかっただろう。


無言でその子供は戦闘の態勢に入り、桃太郎も無言で髪紐を解いた。


意識が遠退く。


だが、今はやけに気分が高揚し、なんでも出来そうな気がした。


この餓鬼を潰すのも悪くない。


全て、壊し…


我の存在を知らしめる。


否、知らしめてやるのだ。


それこそが、我が指名…。我が、存在意義。


「遊んでやる、来い」


彼の意識は既に無い。





「何…?馬鹿か、お前は。そんなの自分で決めろ」

椿が刀を引きぬく。月の光を浴びて、白銀に輝いた。

「お前らは、誰が一番美味いかな?あの真っ黒鬼には名乗り忘れたけど、僕、妖陽(ようひ)

「弟子の不始末は、師が片付けるってもんだ。我が名は椿。四鬼神、黒鬼」

にやりと意地の悪い微笑みを浮かべ、地を蹴った。

「真っ向から、やり合おうって言うの?さっきの鬼の方がまだ頭良いよ」

平然と妖陽が言い、ひらりと避ける。

しかし、相手(つばき)は刀を投げたのだ。

「なっ!?」

「これだから、餓鬼は。舐めてると、ひどい目に遭うぞ?」

鬼の姿になり、頭から角が生える。

手からは、鋭い爪。瞳は金色に輝く。

歪んだ笑みで妖陽を見据えると、そのまま一気に引き裂いた。

次で一応、第二章が終わりの予定です。

ニ十一話からは第三章が始まる予定です。

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