表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鬼  作者: ノア
第二章 春来たりし異邦の来訪者
14/55

奇襲

「遅いっ!」


てっきり大部屋かと思えば、普通の足利家の居間程の広さの部屋だった。

すでに三人程居て、青い衣を着て、同じように青い髪の男性は畳に突っ伏しながら寝ており、陰陽師と思われる二人の青少年が隅で座っていた。

そのうちの若い陰陽師の少年が叫んだのである。


「すまない。こいつが中々言うことを聞かなくてな…」

椿が、申し訳なさそうに桃太郎を指さし、

「私のせいですか、私の」

不満そうに桃太郎が抗議する。

「お前以外に誰がいる?」

ふふんっと鼻を鳴らして勝ち誇る師に対し、

「お前が、菓子食ってたから遅れたんだろ」

と桃太郎は小さく呟いていた。即座に、叩かれたが。


「ちょっと、無理して要に酒進めないでと言ったのに。ちょっ、あんた。起きなさい」

「うーん…、朱菊さん?あぁ、二人とも来たんですね…」

顔を真っ赤にしながら要がしゃくりあげながら言った。


「順に説明しますが、四鬼神・赤鬼…もうお分かりと思いますが、朱菊さんです。

あそこで酔い潰れた優男(やさおとこ)が四鬼神・青鬼である要さん。

残りは、若いが力はある陰陽師の方々」

「桃、お前何か恨みでもあるのか?」

「いいえ、ストレス発散です」

にこやかに桃太郎が笑う。

「何だか、ただの集まりみたいな感じですね」

「まぁ、緊張しなくていいでしょう?」

苦笑しながら、桃太郎は『鴉』を抜く。

「ちょっと、見回りに行ってきてくれ」

『へいへい…』

気だるそうに鴉は鳥に姿を変え、飛びだって行った。


「そんなに心配しなくても、(あやかし)なんてすぐには死なないさ」

「しかし、姿が見えないといいうのもおかしな話でしょう?」

「はいはい、その話は置いといて…四鬼神が揃ったんだ。始めようじゃないかい」

「桃、私も入ってます?」

「残念ながら。ばっちり入ってます」


「とりあえず、もう一度自己紹介といこうじゃないか。私は、四鬼神の一人、赤鬼。朱菊。

此処、『朱雀亭』の太夫さ。…ほら、要。あんたの番だよ」

朱菊が、バシッと強く要の背中を叩く。

小さく呻きながらも、愛想の良い笑みを浮かべて要が言った。

「四鬼神の一人、青鬼。要です。医学を学んでおります。では、椿っげほ!」

椿に鳩尾を殴られ、畳に突っ伏する。

イライラしながらも、椿は言った。どうやら、名前を呼ばれるのは嫌らしい。

「四鬼神の一人・黒鬼。椿。名字は別にいいだろ?」

「ということで、次の方どうぞ…痛っ!」

椿に頭を容赦なく殴られ、しぶしぶ桃太郎は言う。

「四鬼神、黒鬼の後継(でし)。桃太郎…はぁ」

溜息をつきながら、頭をさする。

満と目が合うと、小さく微笑んだ。かぁっと、顔が赤くなるのを感じながら、満は自己紹介を始めた。

「あの…、足利満です。一応…白鬼です」

「兄の足利泰光です」

白鬼という言葉に、畳に突っ伏していた要が起き上がり、目を丸くする。

隅の方に座っていた陰陽師の二人は、少し腰を浮かせた。

「陰陽師見習い、藤野靖正(やすまさ)

むくれたように少年が言い、それを隣に居た細目の青年がなだめた。

「陰陽師、賀茂秀忠と申します。四鬼神様方の監視が主な役割です。…そういえば、皆様方。白鬼と黒鬼を除く後継の方は今、何処に?」


「こ、後継が居るんですか?」

ひそひそと満が桃太郎に聞くと、同じように桃太郎もひそひそと小声で話す。

「えぇ、先ほど言ったように、四鬼神は『二代目』。後継となる(おに)をそれぞれ必要としています。万が一、まとめる鬼が居なくては困りますから。私や、満さんの様に稀な鬼の場合、『紛い鬼』でも現れた瞬間に即決定。後継となります。…困るんですよね。私、継ぐ気無いんですけど」


「あー…。私の後継は、若様を目の敵にするんでねぇ。今日はお使いに出させてるよ」

「私の後継は、患者の世話で忙しく…西洋の医学の方が来ているので、そちらの対応を…」


「仲、悪いんですか?赤鬼の後継と」

「いくらいないと言っても、『紛い鬼』が後継なんて、恥ですからね。

自分の血族に誇りを持っているんですよ。当たり前でしょうが。だから、後継には為りたくなかったのに、師匠が勝手に選ぶんですもの…」

はぁ…っと、重い溜息をつく桃太郎。これで、何回目だろうか。

そんな桃太郎の頭を、椿はわしゃわしゃと撫でる。

「何だかんだ言っても、お前だってそれを認めたし、朱菊の後継と一戦やったじゃねーか。よしよし」

「痛いですって!髪ぐしゃぐしゃになるし…。だって、あいつ、師匠の悪口言うんですよ?

いくら後継とはいえ、恩師の悪口を見過ごせる程、私は気が長くないんです」

むくれた様に、桃太郎は言った。椿は嬉しそうに頭を撫でている。

「何だかんだ言っても、師匠っ子なんですね。桃は」

しみじみと満が言うと、桃太郎は慌てたように首を振る。

「ち、違いますってっ!あの時はたまたま…気分ですよ、気分っ!」

いつもは冷静なのに、こんなに取り乱した桃は初めてだと思う。

元々、それが本来の姿なのかもしれない。それだけ他人に対して警戒しているのだ。


「で、今日は何を話し合うんですか?」

秀忠が言うと、朱菊は妖艶な笑みを浮かべてこう言った。

「もちろん、白鬼を殺した西洋の鬼についてに決まってるじゃないか」

一瞬にして、空気が張り詰める。

満は困惑しながら桃太郎を見ると、桃太郎も困惑したような表情を浮かべていた。


「弔い合戦と言うことか?」

靖正が聞くと、要は暗い表情で言う。

「戦…はあまり感心しませんね。止む追えない手段かもしれませんが」

「俺もだな。第一敵の顔、どれ程の力があるのか…全く分からないんだ。こっちより強い可能性もある。無理に仕掛ければ、返り打ちにされるだけだ。情報が少なすぎる…って、そう言えば、満ちゃんは顔を見たんだよな?…」

椿が聞くと、満は小さくこくりと頷いた。

「紛い鬼…元い、姿は同じ…でした。多分、人の姿にもなれると思います。私、あまり、覚えてなくて…すみません…。鬼の顔、はっきりしてなくて…。力になれなくてすみませんっ」

「いや、思い出したくないことを、無理して思い出す必要はない。ありがとう。

…あぁ、桃。お前、何か知ってるんじゃないか?結構、詳しかったなぁ?鬼ヶ島の話とか…?」

桃太郎の顔が、みるみるうちに顔が青ざめていく。

「顔までは知りませんよ…はは、ははは」

今回は鴉を偵察に出している為、かばう人が誰も居ない。

桃太郎は、かなり分かりやすい性格だと思う。嘘をつく時などは必ず斜め下を見るのだ。

「ほぉ…?『顔』、までは?」

「あー…それ以外も、ですかね?」

「というか、お前は何処でそれを知ったんだ」

師の問いに、桃太郎は困ったように満を見る。

「椿さん、先代の方から何か聞いていないんですか」

少し可哀想に思って助け船をだすと、桃太郎は、ほっと肩を撫でおろした。


「俺の場合、先代の顔、性格すべてにおいて、何も知らん。別に繋がりがあった訳じゃなかったしな」

「「えっ…。そうなんですか?」」

二人の声が重なる。桃太郎も意外だったらしい。

「それはお前がよく分かってんだろ、桃。『紛い鬼』だろうが何だろうが、いるなら即後継。

初代はどんな人か、会ったこともないし、想像つかん」

出来れば、人目会いたかったがなと呟く。

「…鬼の寿命って長いんでしょう?師匠は、その…何故二代目になったんですか?

いや、初代が死んだって報告でもない限りならないんじゃないかなーって思ったんですけど…」

「こうした集いには、必ず出なくてはならない。数年前の集いに、初代は来なかったし、『鬼ヶ島』沈没以来、初代の姿を見たものはいないという。だからなったんだ、二代目に」

やや不機嫌そうに言う師に対して、桃太郎は少し考え込むように腕を組んでいる。


「桃太郎は会ったことあるんですか?黒鬼の初代に」

「えっ…」

驚いたように桃太郎が声を上げた。しかし、直ぐに何かを言おうとした時…。


「敵襲だ!桃ッ」

勢いよく襖が開き、短い黒髪の見慣れない服を着た青年が叫んだ。

「鴉、敵は?」

桃太郎が冷静に聞き返すと、鴉は窓を指さす。

「チッ…!結界が仇となったな。『吉原』が燃えてるぞ!

敵はおそらく、西洋の鬼。こっちへ向かってる」


「何だって!?」

靖正が窓を勢いよく開けた。


赤い炎が天を焦がす勢いで燃えている。

殆どの建物が燃え、どうやら『朱雀亭』だけが無事の様だ。

「要!あんたの力で燃え広がるのを食い止めるんだよっ?私は、他の子の様子見てくるから!」

血相を変えて朱菊が階段を駆け下りていく。

要は屋根の上へ上がると、雨雲を呼び寄せる。


「満さんは、此処に居てください。師匠は、朱菊さんの後を追って!

陰陽師のお二人は、要さんの援護を頼みます」

椿はすぐさま朱菊の後を追い、陰陽師の二人は小さく頷くと屋根の上へと向かった。

「桃太郎は?」

「私は……っ!?どうやら、来た様です。下がってっ!」

素早く桃太郎が、鴉を抜く。

金属のぶつかり合う音がしたと思えば、桃太郎の前には白髪の男が立っていた。

「鴉の言う通り、西洋の鬼に間違いありませんね」

力の差で、押されながらも桃太郎は言う。


男はにたりと歪んだ笑みを見せた。

「…やっと見つけた。お前がそうか」

書いていくごとに、文字数が増えてますね…。申し訳ございません。

何だか、男ばっかりでムサいですが、次回からは出来るだけ女の子増やしていきたいなぁーと考えています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ