表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒鬼  作者: ノア
第二章 春来たりし異邦の来訪者
11/55

つかの間の平和


「すっかり、春ですね」

「すっかり、春だな」

江戸の一角にある足利道場に生えている花々も誇らしく咲き始めた。

日差しは暖かく、鬼が起こす被害もぴたりと止んでいた。

足利家は、すっかり平和ボケしている最中である。


「只今、戻りましたよ」

整った顔立ちで、漆黒の長く艶のいい髪をいつものように後ろで束ね、同じく黒い衣を着こなしている。

最近、結構な天然ボケであることや、意外に涙もろい部分があることを発見した。

「おかえりなさい、桃太郎。それ、なんですか?」

満が訊ねると、桃太郎は嬉しそうにはにかんだ。

「大福です。お茶入れますから、皆さんで食べましょう」

そしてこの『紛い鬼』の居候も、平和ボケの最中だった。


紛い鬼の兄弟が起こした被害とその後始末は、兄と桃太郎が何とか誤魔化した。

あの村人達は鬼による被害で亡くなったと泰光は幕府に報告し、桃太郎は幕府の役人があの村に踏み入れないよう結界を張った。


ーあの村に誰も踏み込まないようにしてほしい。本当に、すまなかった。ありがとう。

 もし、もう一つ叶えて貰えるのなら、村人達を弔ってほしい。


心優しき青鬼が最後に言った言葉。

彼等兄弟の復讐は遂げられ、村には人一人いない。兄は一部の村人と信教者に復讐し、弟は復讐の為、『紛い鬼』となり死んでいった兄と、狂ってしまった村人全てを悲しんだ。

その悲しみは、けして癒える事のない『病』に変わり、そこに住む全ての村人を死に至らしめた。


その病は人だけがかかる『病』であり、『紛い鬼』などの鬼はけしてかかることはない故、役人などがこの村を調べに来て発病するのを避けるため結界を張りに、朝早く出かけたのである。

あの『病』にかかれば死んだ後、跡形もなく消える。


そんな病があると知れ渡れば、悪戯に混乱を招きかねない。


「それにしても、遅かったですね」

「…お墓をつくってたのです。形が無いとはいえ、墓が無いのも寂しいでしょう?

墓が無ければちゃんとした『弔い』もできませんし。知り合いの和尚にも話を聞いてもらって、何とか

『弔い』が出来たのです。…あの三兄弟の眠る御神木、すっかり桜が咲き始めましたよ」

「そうですか…。また、皆でお墓参りに行きましょうね」

「俺は…?」

普通の人間である泰光だけは、村に入れない。

一人呟くと、桃太郎が慌てたように話題を変える。


「えっ、えっと…。そ、そうだ。泰光さん、今日、空いているのいるのでしたら、一回手合わせしてもらえませんか?せっかくの道場ですし…」

「あぁ…構わないが」

「良いですね。あっ、桃太郎。私とも手合わせお願いします」

三人そろって、お茶を一口啜る。

すると、桃太郎が思い出したように

「あっ…。師匠…」

しみじみと言った。そして、目を潤ませる。

「会いたいですねぇ…」

青空を見上げ、本当にしみじみと言った。


「桃太郎、お師匠さんがいるんですね」

「えぇ、いますとも。僕の恩師です。この名前も師匠がつけてくれてくれたんですよ」

本当に嬉しそうに言う。

「師匠も鬼なのか?」

泰光が尋ねると、桃太郎はこくりと頷く。

「えぇ。紛いではなく、正真正銘、本物の鬼です。…ちょっと、師匠に会いに言っても良いですかね?」

「私も」

「俺も」

「「ついて行っても」」「良いですか?」「良いか?」

二人の声が重なる。

桃太郎は満足そうに頷いて

「では、皆さんで行きましょう」


足利家とその居候の平和な昼下がりだった。

何の変哲もない話ですね。次回は桃の師匠が出てきます。…多分。

次話の更新は木曜の17時予定です。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ