見えてる見えざる者
その日、彼女は浮かれていた。
生まれて初めて、成長によって種族の特性が発動したのである。
つまり肉体的には大人となれた証拠。まだ年齢は十二歳としても。
嬉しさのあまり、集合住宅から中庭へ出て踊っていたのだが、
ふと一人の少年がこちらを驚きの表情で凝視している事に気づく。
えっ?
慌てて自分の身体を確認する。
いや大丈夫、他の人達には見えていないはず。今自分は透明なのだ。
こちらからは見えていても、一糸まとわぬあたしは影すら映らない。
だからあの男の子がこちらを見ているのは単なる偶然のはず。
…もしかして、あたしの後ろに誰かいて、そちらを見てる?
と思い振り返ってみるが誰もいない。雑草が生えてるだけだ。
少年の方を振り返る。
もしかして、あたし見えてる?とおそるおそる自分の顔を指さす。
黒髪黒目の彼がかなり困った表情をして頷くと同時に、
シェイドという少数種族のクォーツは羞恥心のあまり悲鳴を上げた。
◆
「ええと、なんかすみません。驚いて目が離せませんでした」
「ああいえ、あたしの方こそ変なところをお見せしちゃって…」
クォーツは慌てて家に飛び込み、透明化を解いて大急ぎで服を着た。
とにかく弁解しなければ、と凝視していた少年を家に招き入れる。
現在は居間で机をはさんで彼と話している最中である。
「取り敢えず自己紹介しますね。僕はロドと言います。
主に魔術師で活動している冒険者です」
「あ、はい。あたしも一応一つ星ですけど冒険者やってます。
クォーツです。普段は手槍を使ってます」
自己紹介が済んだところでロドが話を切り出す。
「実は僕、ちょっと特別な依頼を受けている最中でして。
王国にいる少数種族への聞き取り調査をしているんです。
最近王国の中には結構少数種族の方々が入っていまして、
そうした方々独自のしきたりがあれば教えていただきたいと。
で《探知》という魔術を使っていたら反応があったんです。
反応を追ってお相手にお話を伺おうと探していたら、
貴女が裸で踊られているのを見てしまいまして…
多分、特性からすると貴女はシェイドなんですよね?
本当に申し訳なかったです」
「あー…はい…」
さすがに裸踊りを直に指摘され、目を泳がせるクォーツ。
見えていたとなれば、彼女にも一般女性並みの恥ずかしさは感じる。
彼女達シェイドは、言わば任意で保護色を発動する少数種族である。
石壁に紛れる、土に紛れる、透明にもなれる、他人にも化けられる。
ある意味犯罪に向いた特性であり、シェイド達もよく理解している。
ただ、身に着けたものまでは保護色は働かない。ゆえに全裸だった。
種族の大半は良識があり、特性を悪事に活かせば迫害されかねない、
と理解しているので、活用もしないし正体も隠して生きている。
まあ《探知》されれば体温や魔素の動きが見える為、無意味だが。
しかも種族の正体までバレる。
「それで、最初の話に戻るんですが、個人情報は伏せますので、
シェイドの種族的なお話を教えてくださいませんか?」
◆
名前などはむやみに他人へ漏らさない、との契約書類を交わし、
シェイドについて知っている物事を一通り話した後、
ロドは礼金を置いてクォーツの家より去っていった。
金貨五枚。聞き取りだけにしてはとんでもない大金だ。
なんでも今回の依頼は国の上層部から直接依頼されたそうで、
似たような少数種族の人達へあちこち聞きまわっているらしい。
見せられた冒険者証は、なんと五つ星だったので事実だろう。
クォーツは単独活動で冒険者を行っていたが、
後日ロドより似たような境遇の冒険者達を紹介される。
組むことになった彼女達も少数種族なのだそうな。
お互い秘密を持ち合う身なので、上手くやっていけそうである。
初顔合わせの際は、ロドへの初対面時の話題で盛り上がった。
話のネタとなったロドは居心地が悪そうではあったが。
「少数派のわたし」「淫乱種族と人は呼ぶ」「無自覚な少数派」
で出してきましたが、あともう一人ぐらい変わった種族を出したい。
候補は複数いるんですがなかなか絞れず。




