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ここはなにかが欠けている

見えてる見えざる者

作者: 浮月重月
掲載日:2026/09/24

その日、彼女は浮かれていた。

生まれて初めて、成長によって種族の特性が発動したのである。

つまり肉体的には大人となれた証拠。まだ年齢は十二歳としても。


嬉しさのあまり、集合住宅から中庭へ出て踊っていたのだが、

ふと一人の少年がこちらを驚きの表情で凝視している事に気づく。


えっ?


慌てて自分の身体を確認する。

いや大丈夫、他の人達には見えていないはず。今自分は透明なのだ。

こちらからは見えていても、一糸まとわぬあたしは影すら映らない。

だからあの男の子がこちらを見ているのは単なる偶然のはず。


…もしかして、あたしの後ろに誰かいて、そちらを見てる?

と思い振り返ってみるが誰もいない。雑草が生えてるだけだ。


少年の方を振り返る。

もしかして、あたし見えてる?とおそるおそる自分の顔を指さす。


黒髪黒目の彼がかなり困った表情をして頷くと同時に、

シェイドという少数種族のクォーツは羞恥心のあまり悲鳴を上げた。


◆


「ええと、なんかすみません。驚いて目が離せませんでした」


「ああいえ、あたしの方こそ変なところをお見せしちゃって…」


クォーツは慌てて家に飛び込み、透明化を解いて大急ぎで服を着た。

とにかく弁解しなければ、と凝視していた少年を家に招き入れる。

現在は居間で机をはさんで彼と話している最中である。


「取り敢えず自己紹介しますね。僕はロドと言います。

 主に魔術師で活動している冒険者です」


「あ、はい。あたしも一応一つ星ですけど冒険者やってます。

 クォーツです。普段は手槍を使ってます」


自己紹介が済んだところでロドが話を切り出す。


「実は僕、ちょっと特別な依頼を受けている最中でして。

 王国にいる少数種族への聞き取り調査をしているんです。

 最近王国の中には結構少数種族の方々が入っていまして、

 そうした方々独自のしきたりがあれば教えていただきたいと。


 で《探知》という魔術を使っていたら反応があったんです。

 反応を追ってお相手にお話を伺おうと探していたら、

 貴女が裸で踊られているのを見てしまいまして…


 多分、特性からすると貴女はシェイドなんですよね?

 本当に申し訳なかったです」


「あー…はい…」


さすがに裸踊りを直に指摘され、目を泳がせるクォーツ。

見えていたとなれば、彼女にも一般女性並みの恥ずかしさは感じる。


彼女達シェイドは、言わば任意で保護色を発動する少数種族である。

石壁に紛れる、土に紛れる、透明にもなれる、他人にも化けられる。

ある意味犯罪に向いた特性であり、シェイド達もよく理解している。

ただ、身に着けたものまでは保護色は働かない。ゆえに全裸だった。


種族の大半は良識があり、特性を悪事に活かせば迫害されかねない、

と理解しているので、活用もしないし正体も隠して生きている。

まあ《探知》されれば体温や魔素の動きが見える為、無意味だが。

しかも種族の正体までバレる。


「それで、最初の話に戻るんですが、個人情報は伏せますので、

 シェイドの種族的なお話を教えてくださいませんか?」


◆


名前などはむやみに他人へ漏らさない、との契約書類を交わし、

シェイドについて知っている物事を一通り話した後、

ロドは礼金を置いてクォーツの家より去っていった。

金貨五枚。聞き取りだけにしてはとんでもない大金だ。


なんでも今回の依頼は国の上層部から直接依頼されたそうで、

似たような少数種族の人達へあちこち聞きまわっているらしい。

見せられた冒険者証は、なんと五つ星だったので事実だろう。


クォーツは単独活動で冒険者を行っていたが、

後日ロドより似たような境遇の冒険者達を紹介される。

組むことになった彼女達も少数種族なのだそうな。


お互い秘密を持ち合う身なので、上手くやっていけそうである。

初顔合わせの際は、ロドへの初対面時の話題で盛り上がった。

話のネタとなったロドは居心地が悪そうではあったが。

「少数派のわたし」「淫乱種族と人は呼ぶ」「無自覚な少数派」

で出してきましたが、あともう一人ぐらい変わった種族を出したい。

候補は複数いるんですがなかなか絞れず。

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