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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
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俺には好きな人がいる

掲載日:2026/08/03

***BL***  親友や先輩の彼女を寝取る男と噂された。好きな子がいるのに、、、。

ハッピーエンド


 一番仲の良い友達の彼女から、告白された。

 

 意味が分からなかった。


「え?ごめん、ちょっと何言ってるか分からない、、、」

思わず聞き返した

「だから、、、武岡たけおか君の事が好きなの」

「でも、長谷川と付き合ってるんだろ?」

うつむいて

「喧嘩して、別れた、、、」

小さく言う。

「は?あんなに仲良かったのに?何で?」

「だって、武岡君の事、好きになっちゃったんだもん」

「長谷川の事、好きだったよな?」

「そうだけど、最近、武岡君の事ばっかり考えちゃうの。もう、こんな気持ちじゃ長谷川君とは付き合えないよ、、、」


そんな事言われても、、、


「無理だよ、、、俺、長谷川の事、裏切るみたいで嫌だよ」

彼女は涙を流しながら

「長谷川君より先に、武岡君と出会いたかったな、、、」

と呟いた。

 

 何で、、、何で俺に告白なんてするんだよ。


 俺は長谷川と仲が良かった。高校に入ってから出来た友達だ。彼とは一番気が合った。

 好きな子がいると打ち明けられ、俺も応援した。長谷川と二人で、どんな子か見に行った事もある。



 アイツが君に告白して、付き合ってくれると喜んだ時、俺も凄く嬉しかった。

 彼女として紹介してくれて、武岡が恥ずかしそうに照れていたのが新鮮だった。


 まだ、あれから二週間しか経って無い、、、。


「長谷川君に紹介された時から、ずっと気になっていたの、、、。付き合って欲しい、、、」


 無理だ。だって、俺には好きな子がいる。長谷川の事もある。


「、、、じゃあ、一度だけデートして、、、」


 それも嫌だ、、、。


「一度だけで良いの。長谷川君とは別れたし、武岡君にも彼女いないでしょ?」


 そりゃあ、いないけど、、、。


「最後の思い出に一度だけ、、、。そうしたら、武岡君の事は忘れるから、、、」


 デートって何したら良いんだろう、、、。



*****



 仕方無く、土曜日にデートをした。映画を見ただけで別れた。

 本当に、映画館の前で待ち合わせて、映画を見て別れただけだった。


 、、、それなのに、、。



*****



 月曜日、学校に行くと長谷川が「変」だった。

「お早よう、何かあった?」

「何かあったじゃねーよ、、、。お前、土曜日に映画に行ったんだって?」


 嫌な感じがする、、、。


「、、、」

「人の彼女とデートするって、どんな神経だよ」

「違っ

「違わねーよ!デートしたんだろ?!」

長谷川が大きな声を出すから、クラスの皆んながこっちを見る。

「別れたって言うから」

「別れてねーよっ!喧嘩してるだけだわっ!お前は別れたからって、直ぐ友達の彼女とデートすんのかっ?!サイテーだなっ!」

「、、、」

「付き合ってもいないのに、手ぇ繋いだり、キスしたりすんのかよっ!」

「してない」

「アイツがしたって言ってたっ!だから俺とはもう付き合えないって!」


 なん、、、で?

 何でそんな嘘、、、。


「あーあ、、、。友達だと思ってたのに、、、最悪だ」


 その一言が一番傷付いた、、、。


 チャイムが鳴り、席に着く。



*****



 俺の噂はあっと言う間に広まった。

 クラスでも浮く存在になり、俺は、親友の彼女を寝取る嫌なヤツ、と言われた。寝取ってねーし!童貞だしっ!


 昇降口にあの女がいる。


 恩を仇で返す女。

 俺は口も聞きたく無い。 


「御免なさいっ!」

今更謝られても困る。俺と長谷川の仲は元に戻らない。はらわたが沸え繰り返る。

 靴を履き替え、学校を出た。彼女は後ろを歩いて来る。


 

 駅まで歩き、改札を通り、ホームで電車を待つ。

 少し離れた場所で立つ女。

「あの、、、本当にごめんね、、、。武岡君の事、すごく好きなの、、、付き合いたい、、、」

どうでも良いと思った。

「勝手にすれば?」

俺はホームに入って来た電車のドア付近に近寄る。

「良いの?!」

「俺の何処どこが好きな訳?」

「だって、格好良いんだもん、、、」


 格好良い?外見か、、、。


 俺は開いたドアから電車に乗り、空いてる席に座る。彼女も横に座った。



 それ以来、コイツ、瑞妃みずきは俺の周りをチョロチョロする様になった。

 俺が教室で弁当が食べられなくて、理科実験室で食ってると、当然の様に一緒に食う。

 話しをするのはもっぱらアイツ。俺は返事もせず、飯を食い、スマートフォンを弄る。

「ねぇ、何処どこかデートしようよ」

「ヤダ、、、」

「何で?私達、学校以外で会った事無いよ?」

「休みの日は家で寝てたい」

「もぉ、、、」


 空き教室で昼休みを過ごす時、ドアを閉めてはいけない。それがルールだった。


「あ、武岡君!」


一個上の知らない女。


 誰?


 ツカツカと教室に入って来た。遠慮の無い感じ。これから俺の周りには、こんな女しか近寄って来ないのか、、、。

「ねぇ、彼女がいないなら、私達付き合わない?」

「良いよ」

スマートフォンを弄りながら返事をする。

「え、、、」

瑞妃が小さく言う。

 

 どうでも良い。


「やった!放課後一緒に帰ろう!」

「俺、待つのイヤだから、探して」

「了解!」

その女は、瑞妃を一瞥して教室を出た。

「、、、何で?」

俺は無視をする。

「、、、」

「私と付き合ってるよね?何であの女に連絡先教えちゃうの?!私には連絡先教えてくれないのに!」

「聞かれて無いし」

「武岡君から教えてよ!」

「何でわざわざ」

「でも、私達付き合ってるんだから、、、」

「嫌なら別れれば良いんじゃ無い?」


休憩時間がそろそろ終わる。俺は空の弁当箱を持って、教室に戻る。



*****



 放課後、瑞妃は俺からくっついて離れない。

「ねぇ、私にも連絡先教えて」

俺は昼と同じ様にQRコードを見せる。

 タイミング良く、あの一個上の女からメッセージが届いた。


「今、HR終わった。どこにいるの?」


瑞妃が固まる。

 俺はメッセージを無視した。瑞妃はホッとしたみたいだ。

 瑞妃からメッセージが届いた。それにも返事は書かない。


 いつものペースで下駄箱に行くと、あの女が俺の下駄箱をチェックしていた。そして、俺と瑞妃に気付くと

「良かった。教室まで行く所だった!」

「ふぅ〜ん、、、」

興味が無い。

 下駄箱を出ると、一人の生徒がいた。教室のでかいゴミ箱を持って、ゴミ捨て場から帰って来たんだ。


 俺の好きな人、、、。


 普通の、、、どちらかと言うと地味な子。

 でも、俺はあの子が好きだった。

 長谷川にも話していない。本当は、長谷川が瑞妃と付き合い、落ち着いたら俺も色々相談したかったのに、、、。


「真野くーん!」

「はーい!」

友達が、三階から叫ぶ。

「明日、図書委員ー?」

「そー!」

「本返しに行くねー!」

「分かったー!」

三階から叫んでいた女子が、先生に叱られていた。多分窓から叫ぶなとか、そんな感じ。


「はーい!だって、可愛い〜」

少し意地悪な言い方をする女。俺には真野より、この女や瑞妃みたいなのが似合うんだろう。



*****



 翌日昼休み、瑞妃は前の授業が体育だから、まだ来ていない。もう一人の女、華からメッセージが来ていたけど、無視をする。

 一人で図書室に行くと、カウンターの中で真野がお弁当を食べている。


「あ、、、」


とおかずを口に入れようとした瞬間、俺に気付いた。そのままパクッと口に入れ、恥ずかしそうに口元を隠して、慌てて咀嚼する。


「此処で弁当食っても良いの?」

「カウンターの中なら、、、」

と、もごもごしながら言う。

「俺も食べて良い?」

「あー、、、カウンター内は委員の人しか入れなくて、、、」

「どーせ、一人でしょ?良いじゃん」

俺は遠慮無く入って行く。


「え〜、、、」 


嫌そうな顔をして、小さく言う。


「ねぇ、一年の武岡ってお前?」

入り口に二年男子が三人立っていた。俺は溜息が出た。


 嫌な予感しかしない、、、。


「郷村華、知ってるよな?」


 人気のない場所で、三人の内、一人にボコられた。



*****



 唇の端が切れている。チャイムが鳴り、教室に戻ると少し周りが騒付いた。


「アイツ、またやったんじゃない?」

「最近、二年の女子といたから」

勝手な想像で話しが進んで行く。俺はどうでも良かった。



*****


 瑞妃がしくしくと泣く。

「ねぇ、、、郷村華とエッチしたの?」


 メンド臭い。


「私の事、嫌い?別れた方が良いの?」

「好きにすれば?」


 パンッ!


 っ!てぇ〜、、、


 頬を叩かれた。


「もう別れる!武岡君は私を好きじゃ無いもん!」


 何を今更。俺は一度も好きなんて言っていない。瑞妃が勝手に側に来て、勝手に誤解してヤキモチ妬いてるだけなのに、、、。


 殴られた場所を上書きする様に叩かれた。

 めちゃくちゃ痛い、、、。



 放課後、郷村華が下駄箱近くにいた。

「うわ、、、。アイツにやられたの?痛そう、、、」

触ろうと指を伸ばす。俺は思わず避けた。

「ごめん、私の所為だね、、、」

「、、、」

「ちゃんと別れたんだけどな」 



*****



「真野くーん!」

「はーい!」

また呼ばれてる、、、。

 

 この遣り取りを聞くと、少しホッとする。


 真野は返却用のノートを1クラス分抱えていた。あれじゃあ、扉を開けられない。思わず、扉をスライドさせた。

「あ、ありがとう!ひっ!」


 ひっ!って本当に言う人いるんだ、、、。ま、気持ちは分かるよ。酷い顔してるんだろうな。



 真野は俺にペコペコしながら教室に入った。



**********



 びっっっくりしたぁ、、、。昼は何とも無かった武岡君の顔が、酷い事になっていた。

 思わず、息を飲んでしまったけど、大丈夫かな、、、。

 あの怪我、二年生に呼び出された時のかも、、、。痛そうだった。それなのに、僕、「ひっ!」なんて変な声出ちゃって、、、。



*****



 僕は入学式の時から武岡君が好きだった。

 彼が友達と仲良くはしゃいでいるのを見て、うちのゴールデンレトリバーを思い出していた。身体が大きいのに、人懐っこくて、いつもニコニコしていた彼。


「親友の彼女を寝取ったらしいよ」

と噂があったのは、夏前。

 武岡君がそんな事するなんて意外だな。でも、寝取ったなんて、どうして分かったんだろう、、、。

 

 武岡君には入学式頃の人懐っこさが無くなってしまった。いつも数人の男子と一緒に笑っていたのに、最近では笑った所を見た事が無い。

 しかも、彼女が出来たのかいつも女の子と一緒にいる。


 ん〜、、、。一緒にいるから彼女だと思うんだけど、本当にそうかな?武岡君はいつもスマートフォンを見てばかりで、彼女が話し掛けても顔を上げない、、、。ちょっと、仲が良いとは思えないんだよね、、、。



*****



 僕は彼の事を、遠くから見ていれば良いと思っていた。それなのに、図書室で突然話し掛けられて、びっくりしたんだ。



 それから彼は逃げる様に図書室に来る様になった。一番端の棚の陰に隠れて過ごす。

 お弁当は持って来てるけど、食べてるのかな?

 図書室の本さえ汚さなければ良いけど、本当は規則で禁止されている。


 あんまり覗きに行きたく無いけど、僕はこっそり彼を見に行った。

 彼は一番奥の、一番端で、膝を抱えて寝ていた。お弁当箱は開けた様子が無い。


「あの、、、お弁当食べないんですか?」


 図書室に人が来るのは、昼食を食べ終わってから。だから、開室15分位は滅多に人は来ない。


 彼はゆっくり顔を上げた。

「此処で食べたら不味いよね?」

「そうですね、、、カウンターの中、入ります?」

「、、、良いの?」

「バレなければ、、、」

「、、、悪い」

僕がカウンターに戻ろうと向きを変えると、彼は大人しく着いて来た。犬みたい。


 カウンターの中の死角を探し、彼は隠れながらゆっくりお弁当を食べた。その後はまた、膝を抱えて眠る。


 予鈴が鳴ると、彼はゆっくり立ち上がる。

「、、、ごめん、ありがと」

と小さく言って、図書室を出て行った。


 僕も図書室に鍵を掛けて教室に戻る。


 

*****



 ガラス張りの図書室は、明るくて良い。そして、遠くから武岡君が歩いて来るのが見える。

 少し俯きながら、静かに真っ直ぐ来る。

 

「誰でも遠慮無く入れる様に、昼休みは扉を全開にしておいてね」

顧問の先生に言われて、エアコンを使っていない日は、扉を全開にしている。


 武岡君は

「ん」

と言って、ジュースを一本くれた。

「え?良いの?」

「中に入れて貰うから、、、」

そう言って、昨日の場所に座る。

「僕が担当の日だけだよ?」

「月、水、木の昼休みでしょ?」

僕が何で知ってるんだろうと、思っていると

「そこの表に書いてある」

お弁当箱を広げながら言う。


 成程、、、。


 そして僕達は、同じ空間にいるのに、別々にお弁当を食べた。


 

「あれ?」

二年生の女子だった。

入り口で、図書室の中を見回している。そのまま中に入り、棚の間を歩き回る。

 誰かを探しているみたいだった。そっと武岡君を見ると、黙々とお弁当を食べている。

 もしかして、武岡君を探している?僕は彼が見えなくなる様に少し身体をずらして、彼を隠した。



**********



 華からメッセージが届く、俺はもうずっと読んでいない。

「武岡、二年が来てる」

放課後帰ろうとしたら、華が教室に来た。

「ありがと」

と言って、華の所に行く。

「何?」

「何でメッセージ読まないの?」

怒っている。

「いつもの事じゃん」

「邪魔」

長谷川がそう言いながら、鞄を俺にぶつけながら教室を出て行く。

「っんだよ」

つい、長谷川を睨む。睨んだ所でアイツの背中しか見えない。アイツには痛くも痒くも無い行為だ。

「で?」

華に向き合う。

「「で?」じゃ無いわよ。何でメッセージ読んでくれないの?相談に乗って欲しい事とかあるのに」

「何で俺がそんな事」

「だって、元彼がしつこいから、武岡君に

「俺、関係ないよね?」

華は俺を睨んだ。別に怖くない。

「ちゃんと別れたんでしょ?違うの?」

周りの生徒が聞き耳を立てている。その中に瑞妃もいた。

 華は俺の腕を取り、人気の無い場所を探す。

 俺の腕を思いっきり離しながら

「ねぇ!」

と言う。

「私達付き合ってるよね?彼女を助けたいとか思わないの?」

「で、また俺がアイツに殴られれば気が済むの?」

「そ、そんな事言って無い!」

「、、、」

「私の話しを聞いて欲しいの!メッセージもちゃんと読んで、返事も頂戴!」

「それなら、そうしてくれる彼氏を探すと良いよ。俺は無理」

「何で?何でよ!」

「俺はサイテーだから」


 俺なんて、みんなに嫌われれば良いんだ。いつもそう思いながら過ごしている。

 長谷川にサイテーと言われた時、本当にサイテーな人間になろうと思った。


本当ほんっとっサイテー!」


 その通り。



*****



 華とも別れた。別に好きとかじゃ無かったから、何とも思わない。ただ、華からのメッセージが来なくなると、俺のスマートフォンの未読数が一気に減った。

 校内を歩いていると、たまに名前を呼んで手を振って来る女子がいるけど、俺は気付かないフリをする。人付き合いが面倒で、俺ってこんなヤツだったかな?と思う。



*****



 図書室に行くのが習慣になり、真野の横で弁当を食べる終わると、カウンターから出て本を選びに行く。教室に戻る気も無く、室内の椅子に座って本を読む。

 昼休みの後半15分位が一番貸し出しや返却の生徒が多く来るらしく、カウンターから小さな声で返却日を告げる真野の声が聞こえる。


 可愛い声だな、、、


 と、思いながら視線は文字を追う。



「あの、、、」

と声を掛けられた。足元が見え、視線を上げる。


 同じ学年だけど、知らない女。


「これ、後で呼んで下さい」

俺は、薄いピンクの封筒を受け取った。


 彼女はペコリとお辞儀をして、図書室を出て行く。



**********



 武岡君が座る椅子の方に、女の子が一人近付いて行った。何と無く目が離せない僕。可愛い子だな。

 彼の前に立つ後ろ姿。短いスカートから細い脚がスラリと伸びる。真っ直ぐで綺麗な脚。色も白い。髪は黒。


 親友や先輩の彼女を寝取った男。噂は酷いけど、やっぱり彼はモテる。

 彼女はペコリとお辞儀をして、こちらに向かって来た。彼の手には手紙。

 今度の女の子は、今までの人とは違う気がする。



**********



 俺は手紙を受け取らなければ良かったと、後悔している。わざわざ返事をしに行かないといけないんだ。ま、行かなくても良いか、、、。


 知らない女に告白されても、断る意外考えられなかった。



 金曜日の放課後、下駄箱で靴を履き替えていたら、手紙の彼女がいた。友達も一緒だった。

 友達のいる前で話し掛けるのは控えよう。そう思いながら、彼女に声を掛けないで済むと、ホッとした。



**********



 放課後の下駄箱。

 武岡君が手紙の彼女を見つめていた。二人は付き合う事になるのかな?

 少し胸が痛む。

 でも、僕と彼ではバランスが悪い。

 格好良い彼と、平凡な僕。どちらかと言えば、地味に矢印が向いている、、、。

 僕なんて、図書室のカウンターの中で、同じ空気を吸えるだけで充分だ。


 でも、待って、、、武岡君と彼女が付き合ったら、彼はもう図書室には来ないかも、、、。



*****



 月曜日の昼、彼は図書室に来なかった、、、。



**********



 英語の小テストで0点だった、、、名前の書き忘れ。お陰で、月曜日の昼休みは再テストだった。図書室に行く時間が無くなり、再テストをやった視聴覚室で弁当を食べた。

 他にも再テストの後、その場で昼飯を食うヤツがいたから、先生はドアを開けて教室を出た。


 まさか、名前を書き忘れるとは、、、。英語は自信があったから悔しかった。



*****



 水曜日、いつも通り弁当を持って行くと、カウンターに座っているのが別の人だった。


 真野は休んでるのかな?俺は弁当箱を持ちながらフラフラする。どこで食べようか、、、。そう思いながら、本棚の間を歩いた。


「武岡君」

控え目な声で呼ばれた。

「返事聞きたくて、此処ここじゃ話し辛いから」

と言われて、図書室を出る。


 余り人が来ない階段の踊り場で、彼女は

「えっ、、、と、それで返事なんだけど、、、」

「ごめん、好きな人がいるんだ」

「あ、、、え、そうなんだ、、、」

「だから付き合えない。それに君の事も知らないから、、、どちらにしても、ごめんなさい」

「ううん、良いの。ちょっと残念だけど、はっきり断ってくれてありがとう。ごめんね」


 彼女は階段を降りて行った。


 瑞妃の時も好きな人がいると断れば良かったんだ、、、。



*****



 木曜日、やっぱり今日も彼はいない。

 風邪、引いたのかな、、、。

 仕方が無い、他の場所で弁当を食おう。

 

 何処どこか良い場所が無いかと歩き回る。


「武岡くーん!」

上から声がして見上げると

「バイバーイ!」

と上級生が手を振っている。俺がペコリと小さく頭を下げると、きゃぁ〜!と歓声が上がる。


 四階の連絡通路のベンチが空いていた。屋根が無いから雨の日は使えないけど、意外と穴場。俺は弁当を広げた。


 そこから中庭が見える。長谷川達がバレーボールをしていた。ま、どうでも良いけど、、、。



**********



 ああ、二日も休んでしまった。免疫力が落ちてるのかな?

 僕は教室のゴミ箱を運んでいた。ゴミ捨て場まで行くのに、一度外に出ないといけない、、、。

 靴を履き替えてゴミ捨て場に行くと、武岡君に手紙を渡していた子が戻って来る。

 やっぱり可愛いな、、、。彼女が渡したのはラブレターだと思う。

 ラブレターより恋文って言葉が好きだな、、、なんて変な事を考えた。

 武岡君は、もう返事をしたのかな?。一週間経つから、流石にしただろうな、、、。



 二人は付き合ってる気がする。だって、美男美女だもの。


 

**********



 駅のホームに真野がいた。


 あ、元気そうだ、、、良かった、、、。



*****



 11月、マラソン大会の練習が始まる。

 本番は全学年同日で男子は10キロ、女子は5キロ走る。校内では出来ない。

 俺達の高校は湖の周りを走る。現地集合現地解散。


 体育の授業はマラソン大会の練習になり、みんなイヤイヤ走る。

 真野は走るのが苦手みたいだった。



 マラソン大会当日。俺は最寄り駅まで電車で行き、そこから歩いて行く。学校指定のトレーニングウェアを着た人並みに紛れ、目的地まで連れて行って貰う。


 三年男子から始まり、最後は一年生。

 9時半に男子が走り始め、15分後にに女子が走り始める。

 走り終わった生徒から、申請して帰って良い。

 

 俺はまぁまぁ、平均タイム。真野は見当たらなかった。後半スピードを少し落とす。マラソン大会だからと言って、タイムが成績に関係するわけじゃ無い。時間内に完走すれば良いんだ。

 俺は、先生にチェックして貰い、荷物を取りに行く。真野はまだ走っていた。目が離せない、、、。

 走るのが苦手そうで、女子にさえ抜かされていた。

 走り疲れた生徒達は、荷物を持ってサッサと帰る。途中のファミリーレストランや、ファストフード店に寄る生徒も多い。


 漸くゴールした真野は、時間ギリギリで完走した。

 彼は先生にチェックして貰い、自分の荷物の所まで戻る。すぐに芝生に倒れ込み動かない。

 俺は、少し離れた自動販売機でコーラを買って、真野の側に行く。


「お疲れ」

大分呼吸が落ち着いた彼は、俺の声に気が付き視線を向ける。差し出したコーラに手を伸ばし

「ありがとう」

と笑った。

 俺は隣に座り、片付けをしている先生や、手伝いに来ていたPTAの役員の人達を眺める。

「マラソン大会の無い学校に行けば良かった、、、」

「俺は、遠泳のない所にしたらマラソン大会だったよ。10キロ泳ぐより、まだマシかな、、、」

「そうだね、、、泳ぐのは、もっと辛いよ」


 先生達もPTAの役員も荷物を片付け移動を始めた。

「俺達も帰ろう」

「お腹空いた、、、」


 俺の口元が自然に緩む。


「何か食べる?」

「ゆっくり座りたい」

俺は地図アプリで飲食店を探す。この辺りの店は誰かしらいる様な気がする。、、、まぁ、良いか。

「一番近いファストフード店で良い?」

「うん」

と言いながら立ち上がる。


 俺達以外に残ってる人達はいなかった。みんな帰ったんだ。年配の男の人がマラソンコースを走ってる。コース横の広場に、近くの保育園の子供達が遊びに来てる、犬を散歩してる人もいる。

 でも、同じ学校の人はいなかった。


「真野は、好きな人、いる?」

「え、あ、、、」

 

 いるんだ、、、。顔を真っ赤にして、口をパクパクさせている。

「ごめん、ごめん、、、誰かなんて聞かないから安心して、ただいるのかな?って思っただけだから」

「そっか、、、」

追求されないと分かったら、安心したのか小さく息を吐いていた。

「武岡くんは、好きな人いるの?」

「、、、いるよ」

「、、、どんな人?」

「この学校の人だよ、入学してすぐ、良いなって思ったんだ」

「告白しないの?」

「、、、しない。きっと叶わない、、、」

「そうかな?武岡くん、モテるから武岡くんから告白したら成功するんじゃない?」

「しないよ、、、俺と付き合いたい人なんていない。友達や先輩の彼女を寝取る男だよ?」


 ふ、、、と笑った。そんな事、一度もした事無いのになぁ、、、。


「噂でしょ?」

「うん、、、」

「武岡くんはそんな事しないよ」

俺は瞬きをした。涙が滲みそうになった。


「うん、しない、、、。親友だったんだ。凄く気の合うヤツ。ソイツの好きな子を一緒に見に行ったりしてた。応援したし、アイツが告白して付き合う事になった時は本当に嬉しかったんだ、、、。それなのに、アイツの彼女から告白されて、、、」


 訥々(とつとつ)と話した。真野は、口を挟む事無く最後まで聞いてくれた。


「そうだったんだ、、、辛かったね」

「俺、サイテーって言われた時、それなら本当にサイテーなヤツになれば良いって思った。嫌なヤツに成れば、告白して来る女もいなくなるかと思って、、、。でも今は、自分に嘘吐くのに疲れちゃったんだ。俺は元々お喋りだし、友達と遊ぶのも好きなのに、クラスに友達もいないしね」

「、、、」


「あ、見えた。あの店で良い?」

「うん、座れればどこでも良いよ」


 俺達はカウンターで注文をして、二階席に上がる。

 窓際の道路が見える席。バスが走ってるのが見える。あれに乗ったら駅に着くかな、、、。


 俺達がハンバーガーを食べていたら、女の子達が後ろを通りながら

「武岡くん、お疲れ様」

と肩を叩いて行った。キャアキャア言いながら、トレーを片付け階段を降りて行く。


 、、、もし、あの中に真野の好きな人がいたら、、、俺は一瞬、手が止まった。

「武岡君はやっぱりモテるね、、、」

そう言った真野の声が何だか淋しそうで、悲しかった、、、。



*****



 それから俺は真野の好きな人が気になり出し、長谷川の時の事を思い出す。

 もう、二度と同じ過ちを犯したく無い。

 真野を傷つけたく無い。

 そう思いながら、少しずつ真野から離れて行った。

 図書室に三日間行っていたのを控え、最終的に二月には図書室に行くのを止めた。

 廊下で見掛ける度に、真野の事を見てばかりだけど、それで良いんだと思う。真野には好きな人がいるし、それは俺では無い。少しずつ、真野を諦めよう、、、。



**********



 武岡君が図書室に来なくなった。冬の寒い日。バレンタインデーに武岡君が貰った義理チョコを二人で食べて、それが最後だった。

 三月には全く来なくなり、武岡君に彼女が出来たのかな?って考えてた。

 廊下で見掛ける時はいつも一人だから、本当の所は分からない。でも、彼は上級生からも声を掛けられていたから、いないとは言い切れない。



 四月にクラス替えが有った。武岡君と同じクラスだった。武岡君の事、諦めようと思ったけど、神様が諦めるなって、言ってるみたい。

 話し掛けたいけど、彼の周りには女の子がいっぱいいた。新しいクラスになって、武岡君の噂も遠い過去になって、身長の伸びた彼はやっぱり女の子にモテた。

 僕は近寄りたいのに、近寄れ無かった。



 委員会を決める時、僕はいつも通り図書委員に立候補した。他に誰も手を上げない。

 先生が

「一緒にやりたい人がいたら、推薦でも良いぞ」

と言うので

「それなら武岡君とやりたいです」

と名前を挙げた。先生は、彼に

「武岡はどうだ?」

と聞いてくれて

「やります」

と答えてくれた。

 


 良かった。これで一年間は彼の側にいられる。



**********



 真野が俺を指名してくれて、嬉しかった。

「友達として、側にいても良い」と言われたみたいだった。

「え、武岡君がやるなら、私もやりたい」

と小さく聞こえた時、先生が

「じゃ、図書委員は真野と武岡で」

とタイミング良く言って、俺は内心ホッとした。


 図書委員の二年生は本の管理が仕事で、受付の仕事は無いらしい。ちなみに、三年生は企画運営、ポップ作りがメイン。


「ごめんね。無理矢理だったよね」

委員会を決めた後、直ぐに一回目の委員会があった。俺達は図書室に向かいながら、久しぶりに話しをした。

 真野は普通に接してくれた。

 図書室に行かなくなった理由を聞かれたら、どう答えたら良いか分からなかった俺は、少しホッとした。


「武岡君、、、こんなに背が高かったっけ?」

「真野、、、身長縮んだ?」

俺がふざけると、プクッと頬を膨らませた。



 やっぱり真野が好きだ、、、。



*****


 

 図書委員二年の仕事は金曜日だけだった。

 持ち回りで、棚の整理。後、月一回在庫の管理、新刊の準備をする。その時、返却されていない本が有れば、本人に確認するんだ。


 四月は仕事が無い。五月から始まり、八月を飛ばし、各クラス二か月仕事をする。俺達は一組だから、五月と十一月が担当月になった。


 真野は三年生の先輩とも仲が良く、委員会が終わると話し掛けに行く。それに着いて行くと

「わぁ!今年はイケメンと一緒なんだね!」

と笑っている。

「去年の相棒は、結局一度も来なかったから、真野君も大変だったよね」


 そうか、だからいつも一人で座っていたんだ、、、。お陰で、こっそり弁当を食べたり出来たけど、、、。

 俺は静かに二人のやり取りを聞いていた。


 一つ上の先輩は、ショートカットの似合う、小さな女の子だった。本が大好きらしく

「ねぇ、あの新刊さ、図書委員で買って貰えないか交渉しようと思って、、、」

なんて話して盛り上がっている。



 真野の好きな人って、この人かも知れない、、、。



*****



 一緒のクラスになって、自然に真野と話す様になった。何か有れば真野は俺の側に来るし、班を決める時は必ず一緒だった。

 俺は嬉しかったし、楽しかった。


 それでも、ふとした瞬間、長谷川との事を思い出す、、、。



**********



 武岡君と同じクラスになり、何とか彼の横に立てる様に頑張った。

 出来るだけ彼の側に行き、移動教室は一緒に行ける様に声を掛けた。

 でも、武岡君に彼女がいるのか聞きたかったけど、聞けないままだった。

 彼に彼女がいるのなら、僕はこの気持ちを諦めないといけないのに、どうやって諦めたら良いか分からなかった。



**********



 五月最後の金曜日、俺と真野は棚卸しをしていた。図書室の在庫は確認した。それが終わると新刊にラベルを貼って、新刊コーナーに並べる。

 最後は倉庫にしまってある本。たいして動きは無いけど、たまに先生が借りたりするらしい。


 倉庫の棚卸しは簡単だ。人もいないから集中出来る。


「前に、真野、好きな人がいるって言ってたでしょ?」

「う、うん、、、」

「それって、鈴木先輩?」

「は?え?何で?」

「仲良さそうだったから」

「趣味が同じだからね」

と笑う。

「違うの?」

「違うよ、、、」


 じゃあ、、、誰なんだろう、、、?


「ぼ、、、僕の好きな人は、、、」


 あ、教えてくれるんだ、、、。


 俺は仕事をしているフリをして、全神経を真野に向けた。


「絶対誰にも言わないで欲しいんだけど、、、。バカにしたり、笑ったりしない?」


「そんな事しないよ」


 聞きたいし、聞きたく無い、変な気持ち。


「、、、軽蔑しないで、聞いて欲しいんだけど、、、」


 本棚に向かいながら、彼は俯いて言った。


「た、武岡君が好きなんだよね、、、」


 俺の方を向いて、エヘッと笑った。


「別に!付き合いたいとかじゃ無いよ?武岡君はモテるし、僕なんてただの友達だって分かってるんだ。、、、でも、、、でも、、、ずっと言いたかったんだ、、、」


 笑っていた顔がクシャッと崩れて泣き顔になった。


「ごめんなさい、、、彼女、いるんでしょ?」



 二人の間に沈黙が流れた。



「俺、、、」


 何て言ったら良いかな、、、。まず、彼女はいないと伝えないと、、、。それから


「えっと、、、」


 見ると、真野の指先が震えてる、、、。


「俺も、、、真野の事好きだから、、、泣かないで」


「うー、、、」


 と、制服の袖口で涙を拭いた。


「ごめん、、、」

謝ると、真野は首を横に振る。

「彼女が出来たから、図書室に来なくなったんでしょ、、、?」


「あー、、、」


俺の所為だ、、、。


「真野の好きな人が、もし、、、俺に告白して来たら、、、って考えたら、、、図書室に行かない方が良いと思って、、、ごめん」



、、、真野の涙は止まらなかった、、、



 カチャリとドアが開いて。一年生が声を掛ける。

「あの、、、もう、図書室閉めますけど、、、」

真野は泣いてる所を見られたくないらしく、背中を向けた。

「ごめん、鍵預かるよ。閉めておくから」

そう言って、一年生から鍵を貰う。

「お願いします」

彼女達は頭を下げて部屋を出た。



*****



 戸締りをして、鍵を返しに行く。


 真野も落ち着いたみたいだった。

「真野?」

「ん?」

 駅までの道を、一緒に歩く。

「さっき、付き合いたいとかじゃ無いって言ってたけど、、、本当に?」

チラリと顔を見ると、唇が尖っている。


 え?何で?怒ってる?


「、、、付き合いたい、、、よ」

「何で怒ってるの?」

「怒って無い!は、恥ずかしいだけだよ!」

「じゃあ、俺達、付き合う?」

横を歩いている真野が少し遅れた。

「真野?」

「、、、良いの?僕、男だよ?」


はは、、、。


「良いよ。好きだって言ったよね?」

「うん、、、」


 真野と肩を組む。頬を寄せると、サラサラの髪に触れた。


 真野は指先で、目尻に溢れた涙を拭いた。


「打ち明けて良かった、、、」


そう言いながら、俺の顔を見るから、つい、キスをした。


 

 真野って、泣き虫なんだな、、、。


 これからの涙が嬉し涙ばかりだと良いね、、、。





嬉し涙ばかりにして上げて、、、。

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