ep.20 [陽翔]気付き
朝練が始まってからいつもは最低限でも連絡する結衣ちゃんが、今日は何も言わずに来なかった。そして、学校内のナンバーワンとツーが居なければ、次に視線が集まるのは俺だった。
「とりあえず、ダンジョン方面へのいつもの往復から! 行くぞー!」
しっかりと準備運動をしてから、俺たちは朝練と称した体力錬成に向かう。朝夕のランニングはダンジョン探索も相待って、かなりの強度になる。
折り返し地点はそれぞれが自分で決めて、自分のペースで伸ばせるのが訓練のいいところだ。
俺たちはある程度の群れになって、夏祭りの準備が進み屋台が立ち並ぶ街道を駆け抜ける。
毎日同じことの繰り返しに飽きてやめる人もいた。それを考えると、二週間以上続けている人は努力家と言ってもいいのかもしれない。
折り返して息を整えるために少し歩いたあと、また復路を走り出す。そうすると日に日に追い越し地点が、折り返しから近くなる少年が今日も一人で走っていた。
毎日少しずつ走る距離を伸ばして俺たちについてこようとする。そんな洵に横並びのタイミングで声をかけるのが俺の日課でもあった。
「頑張れよ!」
ただそれだけ。背中を優しく叩くわけでも、並走するわけでもない。ただの一言をかけるだけ。
「うん!」
それなのに、洵はいつも嬉しそうに返事を返す。
横並びは一瞬で、だんだんと距離が開いてどこかで足音は意識から消える。それでも、俺が拒絶した日に見せた洵の顔は、今日まで俺の頭から消えることはなかった。
信じていた人に裏切られたような。それよりもっと純真で、まるで捨てられた子犬のような顔をした洵は、俺の予想に反して戦うことをやめなかった。
それどころか、自分の人脈に頼って何度も誘いを断られながら、最終的に生徒内最強の女子生徒と一緒にダンジョンに潜る場所まで漕ぎ着けた。
これまで、その橘隊とダンジョン内で二度だけ出会った。その両方とも、洵の動きは雑で成長の欠片もなかった。
どうして結衣ちゃんは洵の誘いに乗ったのか。どうして洵に動きの形を教えないのか。悶々としている時にふと気がついた。それはまるで榊原隊《俺たち》を見ているようだった。
願われたから乗ってあげて、とりあえず一緒に動くだけ。自分のことに精一杯で、パーティーメンバーの戦力増加なんて《身体強化》を覚えさせることしか頭にない。
ちょうど昨日、たまたま校長先生と話す機会があって相談をさせてもらった。そこで最初に出た言葉は『洵を戦わなくさせるには、どうしたらいいと思いますか?』だった。
俺は、無意識に庇護下にいると思っていた少年が奪われたような、そんな自分の思い通りにならない憤りを感じていたことに、木内校長と話していて気付かされた。
『あなたはどうして戦おうと思ったのですか?』
校長先生の質問の答えを、俺は洵に言わなければいけない。そして俺も、ひとりよがりから抜け出して、この疑問を洵に投げかけなければいけない。




