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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.18 [真尋]尋問

 スクールメイト達が寝静まった頃、私は結衣の私室に足を向ける。その意図は単純で、ここ数日の活動に対して不満があった。それを抜きにしても、今日発した言葉の真意を知りたかった。



 キャンドルホルダーを片手に、ドアをノックするも返事は無く、レバーハンドルを下げると鍵が掛かっていないことに気がつく。静かにドアを開くと、私と同じように蝋燭に火を灯したまま、結衣はこちらを向いていた。


「不用心ってわけじゃ、無かったみたいだな」


「……待ってたよ?」


 私の皮肉をスルーして、彼女は静かにそう言う。なぜ予感されたのかは考えるまでもなく、一人の存在が思い浮かんだ。


「これも占い師さんの予言か?」


「違う。始めから来ると思ってた」


 教えられるまでもなくバレバレってことかよ。

 自分の行動が読まれていたと知って、思わず頭を力任せに掻きむしる。


「なら教えてくれよ。これまで話してくれなかった、結衣の始まりを。何に選ばれたのかを」


 ずっとこいつに何かがあることは分かってた。だけどその追求を結衣が避けようとしているのを感じて、私は問いを先延ばしにしていた。けど今日の出来事があって、聞かなければいけないと強く感じさせられた。


「とりあえずドアは閉めて、鍵も掛けちゃって。ロウソクは机の上に置いて、隣に来てほしい」


 無言で頷き、言われたことをおこなってからベッドに座る。

 最近やけに艶めいて見える結衣に調子を崩されないよう、ほんの少しだけ語気を強めることにした。


「で? やっと教えてくれんのか?」


「申し訳ないけど、それは無理」


 押し殺すように冷ややかに、それでいて確固たる意志が込められた拒否に、私は短く返す。


「なんで」


「——真尋と離れたくないから」


 幼稚なようで、万感の想いが詰められた声に一瞬怯む。

 いつの間にか結衣の頬には涙が、蝋燭に照らされて静かに伝っていた。


「涙で逃げようたって、そうはさせねぇぞ」


「違う!」


 逃がさないように退路を断とうとしたその時、結衣が初めて声を荒げた。その声にはさっきの言葉よりも、苦しさと怯えの色が濃くなっていた。


「——どうしようもなくて諦めかけた時に、真尋は私を見つけてくれた! もうどうしようもなくて、これ以上いい方法が見つからなくて、私がどうなっても何も変わらないって分かってたけど! 消えようと思った時に、真尋は私に話しかけてくれた!

 もう、失いたくないの。言ったら真尋は軽蔑する! もう、真尋に見捨てられたら私……どうしていいか分からないよ」


 『軽蔑ってなんだよ。見捨てるって、お前は何を背負ってんだよ』そう声を大にして聞きたかったのに、声が喉で止まって私はようやく気がついた。

 これまで聞こうとしなかったのが、結衣のためじゃないことに。私は知ってしまうことが、それで関係が変わってしまうことが、何よりも恐ろしかったんだ。


 ◆ ◆ ◆


 初めて会ったのは、雨の香りが強くなってきた初夏の頃、結衣は擦り切れた顔をしていた。そんな顔でダンジョンに一人で潜ろうとする彼女に、私は声を掛けた。

 死場所を求めている人の顔を私は知っていた。自分のミスで、パーティーが壊滅した人の重い自責を、罪に対する罰を欲した表情が彼女のそれと重なった。


「お茶でも、どう?」


 近づいてみると想像より小さい少女が一瞬ビクついて、声の主を睨みつける。それも私の顔を見るまでで、目を丸くしたと思えばすぐさま毒を吐く。


「胸なさすぎて、男かと思った」


「おま、それは」


 真剣に心配していた声がいつもより低かったことは否定しない。だとしても、それが初対面の相手に言うことかと、喉元まで上がった言葉をグッと飲み込む。


「——それでいいや、じゃあオレとお茶でもしない? お嬢さん」


「は? ぶちのめすよ?」


 なんだこのユーモアが全く効かないやつは。そうは思いながらも、ここで逃せば死んでしまう。そう思った私は下手に出る。


「ごめんって、同年代っぽかったからさ、珍しくて声かけちった」


「全然同年代じゃないし。女の冒険者もこれから珍しくなくなるよ」


「2,3歳差なんて冒険者じゃ無いようなもんだろ? あたしが出すからさ、近くに最近できたカフェ知ってんだ。初めてなんだけど一人じゃあれでさ、色々知りたいし一緒に行かね?」


 少女は一瞬思案を巡らせると、愛想悪く『チッ』と舌打ちをした。


「特別に入れてあげる」


「え、マジ? ありがと!」


 まるで自身が店主であるかのような発言に一瞬頭がバグりながら、お茶の誘いに成功できて安心する。


「実はちょっと遠いんだけどさ。まぁワープでちょちょいだから」


 ワープステーションには決まった時間に転移門のスキル持ちが向こう側と扉を開いてくれる。通る前に魔石か、《交換》の通貨であるペクニアを定額支払えば通行できる。

 そんな転移門を二人分の魔石を払って通過すると、現在最も栄えていると噂の街、名越に到着。そのまま街の人に話を聞きながら、目的地である喫茶店『いおり』に行き着いた。


「ここが復興第一号のカフェかぁ〜」


「喫茶店だけどね」


「そんなんどっちも一緒だろ〜? ま、いいや。入ろうぜー。失礼しま〜す」


 カラカランと心地よいベルの音が私たちを出迎える。ドアの中は客はいないもののカフェとバーが混ざったような、どこか懐かしい景色が広がっていた。


「いらっしゃいませ」


 コーヒーの香りと共にやってきた店員——訂正しよう。店長らしき中年男性の落ち着いた良い声が私に届く。引き締まった体をこの店の制服らしい服装に身を包んでいて、店のムードが一段と上がっていた。


「お好きな座席に——」


 意気揚々と進み出した私は、推定店主の声が不自然に途切れて動きを止める。カップを白い布巾で磨いていた店主の視線は私の後ろの人物に釘付けにされたと思えば、その表情を一層穏やかなものに変えた。


「お帰りなさい、橘さん。最近は連絡をくださらないので心配していましたよ」


「何かを知りたがっているお客さんがいたから連れてきた。お金巻き上げちゃって」


 私は道中の少女の発言に納得すると同時に。橘と呼ばれた少女の言葉に唖然とする。

 もしかしてここ、気楽に来ちゃいけない場所ってコト!?


「え、いや、ただ私は死にそうな顔してた女の子がいたからせめて話をって思っただけでそんな何かを知りたいとかは特になくて」


 私の必死の弁明に、推定店主は笑みを深める。


「——だ、そうですよ?」


「え?」


 ポカンとした顔の少女に私は畳み掛ける。


「私知りたいことナニも無いです。あなたとおしゃべりして元気にさせたかったダケです」


「え、ちょっと待って。だってあんた——色々知りたいってそういうッ! あー、なにそれ損したし」


 私たちのやり取りをニコニコと聞いていた推定店主が、手早くサンドイッチを用意して紅茶と一緒に机に置いた。


「うちの商品はどれも割高ですが、本日は特別にお食事をサービスさせていただきます。どうかこの子と仲良くしてあげてください」


「ちょっと店長マスター!? なに言ってんの!?」


 推定店長から確定店長に格上げされた人に向かって、私はサムズアップを返して席に着く。その頃には既に、少女の顔からは追い詰められた死の気が消えていた。


 ◇ ◇ ◇


 今の結衣はその時とは違っても、後が無く追い詰められた顔をしていた。


「今の私でも、力になれねぇか?」


 だから私は逃げた。今知る必要はない、今知るべきではないと自分を言い聞かせ、三角座りをしてすっかり小さく見える少女を、優しく抱きしめながら私は問いかける。


「無理だよ。もうどうしようもない! 真尋に言ったら飛び火する、一緒に捕まるだけだもん! 逃げるなんて許されないけど、せめて身軽で居たいから。もう死のうなんて思わないから、だから私に聞かないで——」


 どこまでも悲痛な声が部屋に反響する。

 あぁ、この子は私の身を案じて。私じゃ足を引っ張るしかないから言わないんだ。


「そっか……私じゃあ、無理か。ならさ、いつか教えてもいいと思った時に教えてくれよ。これならいいだろ?」


 きっと、どうしようもなく怖くて苦しいのだろう。ぐちゃぐちゃに泣きじゃくる少女の頭を胸に抱えて、落ち着くまで撫でてやることにした。

 落ち着けば次の話をするつもりだったのに、あっという間にスヤスヤと寝息を立てる結衣に思わず舌打ちが出る。けれどそこに、苛立ちはなかった。


「まったく、しゃーねーなぁ」


 私にできるのは、この子が心地よい場所を作ること。助けを求められた時に応えてあげるだけか。そのために——強くならねぇとな。

 体を横にしてやるために体勢を変えようとするも、結衣の指先が助けを求めるかのように私の手を握っていて、ほどく気になれなかった。


「……一緒に寝るか」


 隣で横になり、毛布をかける。短くなった蝋燭の火が、静かに消えた。

ちょっと時間がなかったので1話投稿です。遅い時間に、元々投稿予定だったepまで投稿するかもしれません。

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