ep.16 [結衣]了承
「ってなことがあったんだけど、どうさ?」
穏やかな昼下がり、窓の隙間から流れる暖かい風を感じながら、私は昨日の出来事を聞いていた。
会話の相手、真尋はと言えばソファで横になり行儀悪くナッツを咀嚼している。そんなことにも関わらず、私は事の顛末の“末”の部分を知って軽く感心する。
もう少し後になるのだと思っていたのにたった一日でそこに行き着く彼の成長に、歩みを止めようとしない彼の気概に、私は尊重される欠片の強さを感じた。
「ん〜! おっけー! 私が行けない分はお店を閉めてもらえば良いし、それでいけるよ!」
「店閉めるって、それマジか!? ぜってぇダメだろ!」
「い〜いの。別に? 定休日が増えたって、お客さんが絞られるだけだしね〜」
本当に必要な人は、向こうから曜日を合わせるだろうし、そもそも学生バイトみたいな私が抜けても店長がなんとかするだろう。理由を話せば尚更。
「まぁそっちがいいならいいや。あとさ、聞きたいんだけど」
体勢は変わらず、真尋の瞳が絞られる。
「洵まで怪我、しねぇよな?」
陽翔のことを思い返してか、発された真面目な声に私も同じく答える。
「——それは無いよ。私たちはもう、それほど弱くない。でしょ?」
「だな」
安心したのか、サイドテーブルの上に用意されていたナッツを一掴み。再び口まで運ばれた。
今回は、陽翔の時とは訳が違う。台本に誰かの負傷は無い。だから、私は私の配役を全うすればいい。
とりあえずは、舞台が整うまでだろうか。どこであちらが動くか、なんにせよ——
「しばらくは、洵と一緒かな」
「そんなにか? 結衣って案外、面倒見がいいんだな」
向けられた優しい視線が、私には痛かった。私は真尋が思うような善人ではないのだから。
「そんなんじゃないよ。ただ、頑張るって言うなら応援したいなって思うでしょ?」
真尋の眉が疑うように上がる。流石に今の嘘は分かっちゃうか。
「ま、なんでもいいけどよ。そんじゃ、後で快諾って伝えとくわ」
「詳しい予定は夕食後に決めよっか」
「そうだな」
相談が終わって会話が切れる。しかし、その場には温かい空気が続いていた。
結衣は心地良い静けさに身を委ね、時間に追われない瞬間を二人で静かに過ごすことにした。




