ep.14 [陽翔]解消
榊原隊に戻って一週間。俺はかなりの速度でレベルを上げていた。
身体強化でモンスターを効率よく倒す。モンスターを倒せばレベルが上がる。レベルが上がれば魔力が増える。マナが増えれば身体強化の強度が上がる。
最高の環境が最高の循環を作って、最高速でレベルが上がる。——そんな渦に俺はいた。
身体強化を習得する者は数を増やすが、依然として少ない。さらに言えば例外の二人を除いて、誰もが俺の練度に及ばなかった。
安定したパーティーと強くなった己の力。戦う日々に特別不満があるわけじゃない。それなのに胸のどこかがざらついて、どうにも拭えない。
原因は分かっている。パーティーのいろはで教わったこと、パーティー内の実力差の隔たりだ。
身体強化が使えないのはしょうがない。できない人はとことん出来ないと聞いているし、何より全員が努力をしている。だが、それを抜きにしても身体能力の大きすぎる隔たりは、どうしようもないロスだと感じていた。
歩行速度と個人の安定感は言わずもがな、手洗いの頻度まで洵に合わせなくてはならない。その度に地上へと戻って、また潜る。スタミナも少ないから、俺たちからすればまだ戦えるのにその日の戦闘が切り上げられる。
強くならないといけないのにままならない。そんな俺たちのフラストレーションは高まり、ついに俺は言い出すことを決めた。
一日の終わり。次の日に響かない程度に体力を使い込み、風呂に入ったあと。満足感は積み上げられた苛立ちによって帳消しにされたまま。俺は洵の部屋に向かい、促されるままに部屋に入る。
洵は満面の笑顔で俺を迎えた。
俺の気持ちなんて知らない、何も考えてないような無邪気な顔で、ベッドの上にちょこんと座って、手を振っている。その姿が、どうしようもなく幼く見えた。
「今日もいい感じだったね! 僕もそろそろレベル5かなって思うんだ! 交換のスキル早く使ってみたいなぁ〜」
悪意の欠片もない、純粋な表情が言葉を飲み込ませようとさせてくる。
優しく伝えるべきだろうか、少し厳しく伝えるべきだろうか。少しでも傷付けずに伝えるには……いや、優しく言っても伝わらない。結局は厳しく言わないといけなくなる。それなら初めから厳しめで言ったほうがいい。
ここで止まってしまえばまた失ってしまう気がして、俺は語調を強めることにした。
「ちょっとさ、真剣な話があるんだ」
カンの悪い洵でも何かを感じたらしく、ベッドの上で姿勢が正された。
「話って……なに?」
「洵さ、パーティーから抜けてもらえないかな」
疑問系ではなく、俺は言い切る。
短く、それでいて鋭く息が吸われた。
「パテメンとも話はしてたんだけどさ、洵だけ俺たちについて来れてないんだよ。特別なにかがダメってわけじゃ無いんだけどさ、全体的にスペックが低いっていうか、パーティーの歩調が乱れるんだよね」
もう失う訳にはいかないから。まだ、洵は守られる側でいるべきだと思ったから。だから俺は、真っ向から自分の要求を告げた。
「……うん、わかった」
力の抜けた声が洵から零れる。何を言われたのか、まだ理解できていなさそうなぼんやりとした目を見て、突き放すようになってしまった言葉を後悔した。
「まぁ……また明日な!」
「うん、また明日ね」
その声は、笑顔を真似た音だった。
俺から切りに行ったから、これ以上にかける言葉が見つからない。
あくまでも関係の終了ではないことを告げるも、抑揚のない洵の返事を聞いて、俺は静かに部屋を出た。




