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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.13 [洵]榊原隊

 僕には魔力マナが分からない。それでも陽翔と一緒に居たい。だから僕はダンジョンに行って、少しでもレベルを上げないといけない。そう、思っていた。


 空が白けはじめた時間に体を起こして、たっぷりと柔軟をしてから街を走る。帰ってきたら少し冷たいシャワーを浴びて、ご飯を食べる。みんなと一緒に授業を受けて、みんなと一緒にダンジョンに行く。暗くなる前にみんなと走って、お風呂に入って一日を終える。——そんな毎日を繰り返していた。


 最初はバラバラだった訓練も夏休みに入った今、一緒にする人がどんどん増えて、結衣ちゃんの朝練メニューに参加する人は40人を超えていた。

 僕たちは言われたことをこなすだけ。それが僕たちを目標に近づけるものだと信じて、まっすぐに背中を追いかけた。



 今日は陽翔が帰ってくる。これまでも学校ではずっと一緒だった。でもそういうことじゃない。リハビリが終わって、陽翔が望んでいたように冒険者として戻ってくる。

 待ちに待った今日この日。陽翔たちは乗り気じゃなかったけど一緒に行くのも許可されて、やっと僕は陽翔の後ろについてける。


 僕も陽翔もレベルは3。想像以上にレベルが上がらない僕も、数字だけは陽翔といっしょ。

 結衣ちゃんに言われた通り、レベルが上がっても力が強くなったりはしない。まだ身体強化も使えない。すばしっこいと言われても、走るスピードも速くない。

 だけど、これまでの人生で一番濃密な時間を過ごした僕は、二週間前に初めてダンジョンに来た僕とは違う。


 身長に合った自分の剣を渡されて、僕の体にぴたりと合う防具もある。地図の見方も、敵の足音の聞き分けも、距離を詰めるタイミングも、全部前よりちゃんとできる。

 ここまで準備できているから大丈夫だと信じて、玄関から飛び出した。


 榊原さかきばら隊。それが陽翔が参加しているパーティーの名前。

 名前の元はパーティー最年長の志道くんの苗字で、僕ら学校組は統率手リーダーの苗字をパーティーの名前にするらしい。


 パーティーの統率手リーダーは、高校三年生の志道しどうくん。攻撃手アタッカーの中でも突出している撃破手エースで、パーティーの軸を担っている。

 戦術手コマンダーは、同じく高校三年生の直弥なおやくん。指示が上手くて、前までは陽翔が務めていた役割を受け継いでいた。

 偵察手スカウトは、高校一年生の悠人ゆうとくん。堅実さに定評があって、パーティーを先行して安全を確かめてくれる。


 あとのメンバーは、僕を除いてパーティーで一番背が低い、中学三年生のとおるくん。復帰した陽翔は、確か高校二年生。そして僕。

 中学二年生の中でも背が低くて腕力も頼りない。スタミナは少し増えてきたけど『陽翔について行きたい』というだけの理由で、僕はここに入れさせてもらった。

 元々このパーティーにいた一真かずまくんは、大怪我のせいでダンジョンを嫌ってしまってここには居ない。だからパーティーとしての人数は最初のままの六人パーティーで、いつか最奥に到達することを夢見てダンジョンに向かった。



 小さく持ち運びに適したリュック型のカバンは戦闘中でもピッタリと背中にくっついて、水の重さに振り回されない。その代わり汗はたまるけど、ダンジョン内が涼しいおかげでそもそもあんまり汗をかかない。

 無手のコボルトに向かって、手や胴体を目掛けて剣を振るのにももう慣れた。拳は怖いし痛いけれど、結衣ちゃんと真尋ちゃんコンビを除外するなら、榊原隊ここが今学校で一番強いパーティーだから、安心感も強かった。


 それでも僕はモンスターではないことで、気がかりだった。

 驚くほどに強くなった陽翔の姿をみると、僕もメンバーも陽翔と同じぐらい強くならないと一緒にいられない気がしてしまう。

 今は身体強化をこなせる人は全然いない。けど、一週間後は? 二週間後は? できる人が増えてきたら、僕は置いていかれるかもしれない。——だから頑張らないと。


 一抹の不安に駆られながら一階層をグングン進んで、僕らはあっという間に二階層への下り階段を目にしていた。

 志道くんも直弥くんも、チームの核である二人が驚くほどに、身体強化を扱えるようになった陽翔との冒険は調子が良い。だから僕らは予定通りに、その階段を心置き無く下った。


 元々、陽翔たちが出会ったコボルトの残骸種はイレギュラー。普段は起こらない例外的なことだった。

 あのあとに協会が調査をしてくれたみたいだけど、他に残骸種は見つからなかったし、迷宮内の通路変動も確認されなかった。

 あの時はたまたま二階層に残骸種が現れるというイレギュラーが起きて、たまたま陽翔たちと出会った。そんな運が悪いだけのことだったそうだ。

 志道くんたちは、回復したあとに四人で二階層に再挑戦した時も、コボルトの数は多くて三体だったし、そんなに苦労なく戦えたと言っていた。


 『運が悪かった』。たったそれだけで冒険者は命を散らすことになる。でも僕はそれは冒険者じゃなくてもそうだと信じていた。

 スタンピードで地上に溢れてきたモンスターが街までやってきたら? 戦う術がない僕が運悪く狙われてしまったら命はない。

 たとえそんな『もしかすると』がないとしても、ダンジョンに潜る方が早く死んでしまうとしても、僕は戦って得られるえも言えない安心感にずっと浸かっていたかった。

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