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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.9 [洵]戦闘準備

 今の僕に、一週間の逃避行は長すぎた。廊下の空気も、教室のざわめきも、見慣れた景色のはずなのに少し遠い。

 少しだけ息が上がるのが早くなって、みんなの視線が変わって、けっこう授業が変わってて。覚えないといけないことは相変わらず多いけど、基礎の基礎が抜けちゃってるから、追いつくためには僕がプラスアルファを頑張るしかなかった。

 そうして頑張った結果、みんなよりも少しだけ遅れたけどついに僕もダンジョンに行ける日がやって来た。


 最初はお試しで、滞在時間最長たったの15分。一体のモンスターにトドメを刺して地上に戻って終わり。それだけなのに、ルールだからって日時や同行者を書いた紙を先生に出して、追加の授業を受けなきゃいけない。

 安全のためだって言われて、実際に陽翔みたいな怪我人が出なくなった。だから僕は大事なことだと思えてちゃんとした。

 厳しくなった先生も、僕たちの無事を一番に考えてくれてるって言われると、心があったかくなる。


 先生は僕たちに怪我してほしくないけど、ダンジョンに行くのを止めちゃいけない。そして僕たちは今日も地上のどこかでモンスターに襲われる人がいることを知って、いつでも起こる可能性があるダンジョンからモンスターが溢れる“スタンピード”が起きた時、自分と友達を守る力を身につけたい。

 いくらここが学校で、いくら大人が守ると言ってくれても絶対じゃない。すぐそこに強くなれるきっかけがあるのなら、やっぱり僕は戦う力を身につけたい。だから僕たちは、子どもと言われる歳であってもダンジョンに行く。

 考えることは人それぞれ。だけど僕らはその選択をした。



 どんよりした曇り空の下で、僕は眠たい目を擦って校舎を歩く。昨日は楽しみと怖さが混ざってよく寝られなかった。眠れなくはなかったけど何度も目が覚めちゃって、やっぱり眠い。

 今日は休日で行動は自由。(ルーム)にいても、校舎にいても、街に繰り出すのも、ダンジョンに行くのも全部自由。ダンジョンだけは前日までに予定を決めてなきゃダメだけど……。


 欠伸をグッと噛み殺してロッカーに。心臓の場所にだけ金属板が張られた皮のチェストプレートと同じく、皮のアームプロテクターを装着。頑張って練習した分だけ、上手に早く装備できる。

 背負いかばんに入った水筒の重みを感じながらグラウンドに出ると、二人が約束通りに待っていた。

 もう少し早く用意すればよかったかも。


「おはよー! さっそくだけど体調はどう?」


 今日も元気な結衣ちゃんは前髪がヘアピンで留められて、後ろは運動するとき用のいつものポニーテール。髪の毛が戦いの邪魔にならないような小さな工夫が見える。

 服は僕が見たことのない白地に濃紺のアクセントが入った旧世界のジャージ風なもので、防具と言える防具は肘と膝しか着けていない。


「いい感じ! ちょっとだけ眠いけど全然おっけー!」


 僕は自分の着ている防具に目を落としながら正直に答える。

 体調が悪い日は悪いって自己申告して、その日はお休みするのが学校のルール。小さなことでもとりあえず伝えておくことが大事みたい。


「もう昼前だぞ〜? ま、いいや。荷物はあたしが持つよ」


 結衣ちゃんとおんなじデザインの服を着た真尋ちゃんは、同じ配色の籠手や胸当ても着けていて準備万端な格好。

 僕が結衣ちゃんにお願いした後、一緒に行くって言ってくれて本当に来てくれていた。そんな真尋ちゃんが、僕の背中に回り込んでリュックを回収しようとする。


「えっ! いいよ、せっかく来てくれたのに……」


 だから僕はかばんを取られないように回ってガードした。

 荷物を沢山持たせちゃうのは流石に悪い。


「いいからいいから、真尋に渡しちゃって! 身軽なのは大事なんだよ?」


 そう思ってたのに結衣ちゃんから出るゴーサイン。

 結衣ちゃんが言うならそうした方がいいのかな。


「うん……おねがい」


 僕は言葉に従って、かばんを真尋ちゃんに預けることにした。

 真尋ちゃんはゴキゲン。やっぱりこれで良かったのかな?


「結衣、先にアレしよ」


 そう思っていた矢先、真尋ちゃんの言葉で危険センサーが鳴り始める。


「そうだね」


 結衣ちゃんが一瞬でオッケーを出したから、あんまり酷いことじゃないっていうのは分かるけど、僕は身構えておそるおそる聞いてみる。


「あ、あれって?」


 返事はなくて、言葉の代わりに真尋ちゃんの口がニンマリと弧を描く。


「ただのパッチン留めだから逃げないでねー!」


 まるで捕食者のような結衣ちゃんの指が脇腹に当てられて、僕はその場で動けなくなった。

 その間にも悪魔のような顔をした真尋ちゃんが前から近づいてきて、顔に近づいてくる手に思わず目をつむる。

 前と横の髪が何度か触られ、ついに前頭部に小さな衝撃と『ぱちっ』という軽い音が鳴った。


「やっぱいいね〜」


 目を開くといつもよりも世界が大きく広がって、不思議と心が軽くなる。

 

「視界不良は死に直結だからね! パッチンも今じゃそれなりに高級品なんだから、真尋に感謝しなよ〜?」


 惚けたように空を見上げてた僕はハッとして真尋ちゃんに向き直る。


「あ、ありがと!」


 真尋ちゃんはニヤリと笑って親指を突き立てた。


「いいって! それより、終わるまで髪はいじっちゃダメだからな〜」


 変な時も多いけど、やっぱり真尋ちゃんはかっこいい!


「分かった!」


 そう思って僕は首を大きく縦に振った。

 ふざけあいの空気は一段落して、結衣ちゃんが真剣な声を出す。


「今日は昨日決めた予定通り、一体倒せばすぐに撤退開始。戦術手コマンダーは真尋だから経路は真尋の指示に従うこと! ここまでいい?」


 普通の初日コースとコマンダーは真尋ちゃん。


「おっけー!」


「地図と一応ランタンと人数二食分の保存食は持った。これで何かあっても安心ってな」


 浮ついた心が地面に引き戻され、真尋ちゃんの顔を見つめる。

 何かってあるの? あるか、陽翔もそれだし。でも……けど準備するのはいいことか。


「その何かはないから落ち着いて進もうね!」


 強い人が二人もいるし大丈夫だよね。

 僕は昨日から言われた言葉を思い出す。


「ヘイジョウシンだね」


「そうそう!」


「装備もちゃんとしてるし……良さそうだな。行くか!」


「二人はその服でいいの?」


 特に色々足りない結衣ちゃんを見つめる。

 せめて胸当てぐらいあっても……。


「どこを見てるのかな?」


 サッと両腕で胸元が隠されて、僕はミスに気がついた。


「えっ、あっ、いや。心配だなって」


 冷たい目じゃないけどなんか視線が痛い。なんでだろう。


「あたしたちは良いんだよ。これが戦闘服だから」


 真尋ちゃんありがと!でも


「なんか防具が守ってくれなさそうな感じするんだけど……」


 真尋ちゃんがしっかりと防具をつけているから、余計に結衣ちゃんが心配だった。

 すると僕の気持ちが伝わってか、結衣ちゃんが僕の防具と自分の服を交互に指差す。


「むしろそれより頑丈さもあるし、これだけでもそっちより役に立つんだよ?」


「そもそも結衣には一太刀だって届かないしな。あとは形だけと実践用の差ってやつだから気にすんな。時間が経てばもうちょいマシなのが来るだろ。

 そんじゃしゅっぱーつ!」


 僕たちは防具で身を固めて、これから何往復もすることになる道を歩き出す。

 その最初の一歩を踏みしめながら、期待と興奮で胸の奥が熱くなった。

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