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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.8 [洵]踏み出す足は五周から

『結衣ちゃんマジやばくてさ。絶対強いわ、学校最強』


 僕は陽翔がドア越しに言ってた言葉だけを頼りに、その人を探す。ルームを、学校を、そしてグラウンドに出てようやくその人を見つけた。


 日差しに当てられて、ほんのりと茶味がかった黒髪。ステップに合わせて揺れる短めのポニーテール。手首まで覆う運動用の真っ黒な手袋の先に、ドアを切り開いたのとよく似た白く発光する小剣が握られる。


 軽やかな足取りと相反するような苛烈な攻撃。速攻によって空に刻まれた剣尖の軌跡は、尋常ではない瞬間的な高速斬撃を示す。

 冷たい殺意すら感じる動きは、まるで目の前に敵が居ると錯覚するほどに洗練されていて、彼女が強者であることに疑いを持たせない。

 いつものその人とかけ離れた彼女は、僕の覚悟を引き立てると同時に、僕を強く惹きつけた。


 僕もあんなふうに強くなりたい。知らない間に守られている僕じゃなくて、辛くても陽翔のそばにいられる僕になりたい。

 だから僕はためらいもなしに、話し始めた二人に駆け寄った。



 背が高い方、一号は僕の苦手。いつも僕を子供扱いしてくるお姉さん。焦げ茶色の短い髪と、茶色の目が太陽の下でキラキラして見える。

 初めて会った時はかっこいいと思ったのに、一緒に遊ぶうちにいつの間にか可愛がられるようになっていて、今では僕を捕まえては頭を撫でてこようとする危険人物の真尋ちゃん。


 二号も一号を見て、僕で遊ぶようになったちょこっと苦手。元気な時とたまにある元気がないときの差が大きい、僕より少し背の高いお姉さん。

 肩にかかるくらいの黒髪が今は高い位置で一つにまとめられて、さっきの怖さもなくなる温かい目をしている。

 真尋ちゃんに釣られて僕の髪の毛で遊ぶようになった危険人物二人目の結衣ちゃん。


 どっちにも苦手なところはあるけど、僕と遊んでくれるからとっても大事なスクールメイト。そんな二人は、さっきとは打って変わってキャイキャイと笑いながら話していた。

 手を振りながら近づくと、いつものウェルカムモードで歓迎してくれる二人に、僕は足を早める。笑顔で大きく手を振り返してくれる真尋ちゃんに、自然と僕まで笑顔になった。


「よっ! 陽翔はどんな感じ? 落ち着いてそ?」


 だけど、当たり前の質問のせいで僕の気分は急直下する。

 たしか魔法のおかげで怪我はほとんど残ってないって言ってたっけ。


「うん。三日は安静にって言ってたけど、血が出たりとかはもうないよ」


 それに二人はすっかり安心したように肩を下ろす。


「そっか! 安心だな」


「ね! 良かった〜」


 やっぱり二人とも心配だったんだ。

 そんな怪我を治せちゃう魔法の温かい光を思い出す。


「回復魔法ってすごいね! 初めて見たけど怪我がどんどん消えてくの。ぼくびっくりしたもん」


「あれな〜、魔法憧れるよな」


「もし使えるとしたらどんな魔法が欲しい?」


「回復!」


 僕がそう言うと、真尋ちゃんは顎に指をあてた。


「あれってなに魔法だっけ?」


「治癒魔法だよ!」


 僕は聞いたこともない音の響きに目を光らせる。


「なんかすごくいい! なおすよって感じ!」


「そりゃあそのままだからな」


 そのままってことはおんなじ意味なんだ。


「あっ! そんなことよりもお願いしたいことがあるの。……お願いできますか?」


 僕も危ないけど結衣ちゃんも危険に遭うことだから、僕は敬語を使って話し出す。


「ん〜? 言ってみな?」


「真尋ちゃんじゃなくて、結衣ちゃんにお願いなんだけど」


 すかさず『ガーン!』というような大げさなリアクションが返される。

 だって真尋ちゃんは戦えるか知らないし、運動できるのは知ってるけどあんまり強そうに見えないし……。


「私!? 全然いいけど何かな?」


 『珍しい』と言いたげな顔で僕を見る結衣ちゃんに、僕は続ける。


「陽翔から結衣ちゃんが強いって聞いたから、それで……ぼくをダンジョンに連れていってくれませんか?」


 僕がそう言うと、結衣ちゃんは一度視線を外してから確かめるような真面目な目で見つめ返した。そして、聞いたことのないような真剣な声で、僕に問いかける。


「まず、なんで私なの?」


 その質問は僕の本当の心を聞いてるふうに思ったから、正直に答える。


「陽翔が結衣ちゃんは学校最強って言ってたから……そこまで迷惑じゃないかなっていうのと、安全かなって思いました」


 結衣ちゃんがチラリと真尋ちゃんに視線を向けて首を軽く横に振る。それを見て真尋ちゃんが後ろを向くと、結衣ちゃんの口が開いた。


「それはダンジョンとかモンスターをなんとなく知りたいの? それとも、冒険者になりたいってこと?」


 陽翔と一緒にいるためには。

 僕は唾を飲み込んでからはっきりと言う。


「冒険者になりたいです」


「その結果、悪いことが起こる可能性は分かってる?」


 何もしなければ、今日みたいな怪我を陽翔がまたしちゃうかもしれない。それを思うと、待っているだけより百倍いいと思う。


「分かって」


 でも結衣ちゃんの真っ黒な目が、僕を吸い込むみたいに深くって、簡単な言葉はダメだって感じた。


「——いるつもりです」


 僕の言葉に、結衣ちゃんの表情が少し優しくなる。


「なんで冒険者になりたいと思ったの?」


「陽翔が怪我して帰ってきて、ピンチな時に陽翔を……少しでも守ってあげたいって思ったから」


 僕にそんな強さはない。逆に守られてばっかりになる未来が見えちゃって、語尾がだんだんと小さくなった。

 そんな僕に、結衣ちゃんから追い討ちをかけるような言葉が降りかかる。


「洵はちっちゃいし弱いよ。レベルが上がればどうにかなるって思ってるかもしれないけど、体のスペックは変わらない。それを分かっても?」


 僕はそこでようやく、少しだけゲームの延長線上の感覚を持っていたことに気がついた。

 そっか。ゲームみたいに攻撃とか防御がアップってならないんだ。じゃあさっきの攻撃は? あのスピードは? あの白い光の剣は?

 沢山あふれ出す聞きたいことを我慢して、僕は必要な言葉を返す。


「——でも強くなれるんだよね」


 レベルが高い人が強いのルールはあるはず。じゃないと陽翔がレベルアップであんなに喜ばないもん。


「それはその人次第。強くなれる人はなれるけどずっと命懸け。才能がない人は一部を除いてこの道から離れるか、早くに死んじゃうよ?

 けど、ここに居れば安全。ダンジョンは危ないんだよ?」


「知ってる」


「なら」


 結衣ちゃんみたいに、僕もとっても頑張ればできるかもしれない。試しもせずに諦めるのは違うって思うんだ。


「でもぼくはダンジョンに行って、モンスターを知って、倒して、レベルアップして、ピンチを一個でも減らせるような人になりたい。

 だから——お願いします!」


 目をぎゅっとつむって、頭をいっぱいに下げてお願いする。心も体も、弱いままの自分じゃなくなるために。大事な人を守れる場所に行くために。いつか誰かに頼むことしかできない自分じゃなくなるために。


 長すぎる沈黙。遠くで鳴くセミの声が変に大きく聞こえてきた頃、結衣ちゃんから大きなため息が溢れた。


「そっか。洵も大概……だね」


 諦めるような、それでいて嬉しいような。そんな複雑な表情を浮かべて結衣ちゃんは呟いた。


「どうゆういみ?」


「なんでもない。連れて行くのは良いよ。けど死んじゃうのはやだから、走ったりして体力つけたりできたらね」


「ほんと!? ありがと!!」


 今なら髪の毛の女の子アレンジを逃げずに受け入れるぐらいに嬉しい。そんな浮ついた気分は一瞬で潰されることとなった。


「それじゃあどんぐらい動けるか知らないし、とりあえず敷地内を大回りで五周してみて?」


 結衣ちゃんのいつも通りの陽気な声に僕の動きがピタッと止まる。


「……えっ?」

 ごしゅう?


「だから、学校のグラウンドと校舎裏を合わせた敷地内をおっきくグルッと五周走るだけ。あ、歩きと休憩はダメね」


 指差しでぐるっとコースを指示される。


「え?」

 走り切るまで?


「あっ、ズルできるようになったらしても良いからね」


 ニッコリ手を合わせる結衣ちゃんが今は鬼に見えてくる。


「……」

 休みなし??


「どうしたの?」


「……ちょっと多すぎない?」

 ちょこっと優しくしてほしかったり。


「これは初日メニューだよ! これから毎日だし、武装して荷物持って走れとも全力疾走とも言ってないよ?」


 そんな甘い考えは一瞬で打ち砕かれて、僕は考えることもできずに骨髄反射で口に出す。


「ちょっとむずかしいと思う」


「なら無しね」


 あったかいはずの笑顔から繰り出された終了宣言は、酷く冷たく聞こえた。


「えぇ……」

 頑張るしかないのかぁ。


「可愛いなぁ、まったく。そんなにホワホワしてたら初日で死ぬよ?」


 ゾクリと背筋が凍る。嫌に冷たい表情が、それが現実であると僕に言った。


「——やります」


 気がつけば背筋は伸びて、僕はそう言っていた。

 お願いする人がやる気を見せないと。僕の気持ちを嘘とか思いつきなんて思ってほしくない。


「言われた分走るから、僕をダンジョンまで連れていってください」


 いっぱいに腰を曲げて頭を下げる。バネのような勢いで体を起こすと、結衣ちゃんの目に温かさが戻っていた。


「じゃあそのまま端っこまで移動したら六周ね」


 よかった、ギリギリ間に合った。そう思ったのも束の間、言葉を理解して息が止まる。

 ろく、しゅう? なんか増えてない?


「ワカリマシタ」

 違う! 結衣ちゃんはやっぱり鬼だ!


「行ってらっしゃ〜い」


「頑張れよ〜」


 こっちに向き直ってニコニコで手を振る真尋ちゃんと同じくニコニコ笑顔の結衣ちゃんに、僕は未練がましく口撃する。


「ふ、二人はできるの?」


「まぁ」


「な?」


 当然だよね、といったふうに顔を見合わせた二人が続ける。


「生身全力疾走程度の速度であれば完全武装、と言っても軽装だけどさ。できるよな」


「十週を休憩一分スパンで五回はできると思うよ?」


「うっそぉ……」

 てことはもしかしなくて真尋ちゃんも戦える人ってこと!?


「じゃああたしが一緒に走ってあげよう。追いつかれたら今日一日膝の上、な」


 真尋ちゃんを見上げる。

 これヤバイ、危険な目だ!


「ひどい! 行ってきます!」


「へっへっへ、待て待てぇ〜」


「なにやってんのさ……」


 僕の後ろからは大股の足音と、呆れるような結衣ちゃんのつぶやき声が聞こえてきた。



 結局、僕は捕まった。

 最初にスピードを出しすぎてヘトヘトになった六周目のゴール手前で捕獲されて、僕は見せ物兼抱き枕の半日を過ごすのだった。

 なんであんなに離れてたのにあの距離で捕まるのさ。ひどいよ……。

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― 新着の感想 ―
六周目ちゃんと走れたのですねぇ途中で倒れるかと思ったw
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