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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.7 [真尋]運命共同体

 人の心は脆く、一度崩れてしまえば元に戻るのは容易ではない。学校内は、自分が傷つく大きな恐怖と、あれだけの傷を癒せる小さな希望が入り混じって、重たい雰囲気に包まれていた。


 私は彼女の居場所に当たりをつけて、ルームの奥まったドアを開く。この先は、限られた者しか入れない部屋。

 澄んだ空気が耳鳴りのように静まり返り、息を吸うたび胸の奥が少し痛む。それは彼女が《浄火》を使っていた証拠だった。


 結衣は両腕を軽く組んで、初めて会った時と同じ虚な目を、どこか寒々しい笑みと共に浮かべる。

 それに私はため息をついて彼女の隣に座った。


「まったく結衣ったらさ〜、こんな場所にいるなんて驚いたよ」


「…………」


 返事はなく、私に目もくれない。仕方ないから私も彼女と同じように、ぼうっとテーブルを見つめた。


「タイミング、悪かったな」


「……‘ほんとにね’」


 滲むように聞こえる嘘。でも、この答えで本心までは分からない。私は探りを入れるように、いつもの調子でおちゃらけて言う。


「ホントビックリだよな。いきなりボロになって帰ってくるんだから。洵は大丈夫かな〜?」


 あのレベルの怪我は何度見ても慣れない。自分たちが連れ出したせいであれを見てしまった少年が、少し気がかりだった。


「心配するのそっち? ……あのさ、怪我。どう思う?」


 まず心配するのは怪我人(陽翔たち)の方か。そりゃそうだ。


「動かせるように治してもらったんだから、無傷みたいなもんだろ」


 私は冷たく言い放つ。

 自分から戦いに行ったのだから、怪我の一つや二つは覚悟の上だろう。それに彼らは、治癒魔法にありつける時点でこれ以上なく恵まれているのだから。……それでも、結衣のことだからまた自分を責めてるのだろう。


「それはそうだけどさ……」


 供給は圧倒的に足らず、需要は高止まり。最近は回復持ちの数が増えたとはいえ、その恩恵に預かれる人は多くない。それを必要以上に施してもらえるとしても、スクールメイトが傷つく姿は見たくない。その気持ちは私も分かる。

 だけど、そういう話ではないらしい。

 

「結衣は知ってたんだ」


「……少しね」


 結衣は弱ったように俯いた。

 まったくこの子は、全部背負おうとしちゃって。


「私は賛成。甘い考えはしばらく無くなるだろうし、残骸種ホンモノについての話も信憑性が増す。

 生きて帰って来れて、全体の危機感を上げれるんなら結構美味しいと思うぜ?」


 結衣が信奉する、謎に権力を持つ占い師を頭に思い浮かべながら、そう言った。


「……そうなのかな」


 彼女の小さな声には、自責が詰まっている。本当にどうしようもない子だ。


「それと、あんまり自罰的になっちゃダメだよ。私たちにできることはそんなに多くないんだから、自分に優しくしてあげな」


 澄んだ空気は、罰の残り香。自分の罪を清算していた証拠だった。


「私の考えは変わってないから」


 他人を罰するなら、まず自分が綺麗な状態でなければならない。私もそんな彼女の信念を理解できなくはない。


「それでも程度って言うもんがあるだろって話。そんなのばっかりしてたらいざという時に動けないって」


「ほどほどにはしてるから」


 だーめだこりゃ。


「なら、私にもしろよ。私たちは運命共同体なんだから、な?」


 事の片翼を担う者として、そう口にした。

 結衣が私を見上げる。その真剣な瞳は私の言葉の重さを測っているようで


「私は罰を決める人。結衣が痛みを被るなら、私も知るのが当然だよな」


 私はそれに真正面から向き合った。


「手を出して」


 いつも着けている、真っ白な手袋に包まれた手が私に差し出される。それに私は手を重ねた。

 手袋越しに伝わる熱が痛みに変わり、腕から全身に広がる息が詰まるほどの痛みを、食いしばって耐え続ける。


『私は罪を痛みで呼び覚まし、それを清算させる。それで刻まれた罪が消えることも薄れることも無いけど、生きることはできるから』


 私たちは過ぎた正義に否を突きつける。笑い合っていた人が、瞬きの後に肉塊となって地面に転がる。そんなのは、どんな理念があるとしても正義とは認められない。

 必要悪と言うならば、私たちが必要性を無くす、その時まで。



 しばらくの沈黙。身体中を食い荒らした、呼吸できないほどの焼かれるような痛みは次第に薄れていき、痛みが消えれば体は羽のように軽く感じられた。

 まさに、罪を許すための痛み。抑止力にすらなり得る苦痛だった。


「ね、あんまり痛くないでしょ?」


「叫ぶほどじゃないってだけだよ」


 執行には私も立ち会うけど、罪人かれらはいつも四肢をばたつかせてのたうちまわり、絶叫を周囲に響かせる。酷い時は、体力を使い切るほどに暴れても終わることがない。忘れられないぐらいには酷い光景。

 それを執行する彼女の心を私が推し量るなんて、できるはずがない。


「そろそろ行かなきゃ。今日はまだ終わってないから」


 結衣は両手で頬を軽く叩き、赤くなった顔を朗らかなものに変えて立ち上がる。

 私よりもずっと小さいのに、沢山のことを知って、守ろうとして、傷ついて。


「私もついてく?」


 彼女は以前、陽翔を羨ましいくらいに真っ直ぐで、眩しいと言っていた。


「どっちでもー! 自由だよ!」


 でも私からしたら結衣の方がずっと眩しく見える。


 孤独に涙を流し、それでも歩みを止めない。そんな彼女を私は、側で支えたいと思った。


 ドアを開け放ち、孤高の少女が部屋を飛び出す。別人のように切り替えた彼女を倣って、私も後を追った。

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