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魔力の広がる世界で僕らは剣をとる—序章〜一章編  作者: 443
一章 何が為に剣を取る
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ep.6 [洵]決意

 久しぶりの外。湿った空気が肌にまとわりついて、じわりと汗を滲ませる。魔法具の異空間(ホーム)にいる間に、地上は少しずつ夏の気配を帯びていた。


 立場的にも体格的にも筋力的にも、逆らえる要素のない僕は危険人物一号まひろちゃんに押されながら歩く。腕を無理やり上げられて左右に揺さぶられるせいで、(はた)から見れば変人だ。


 連行されるがままに女子校舎の廊下を進んで、日差しが照りつけるグラウンドへ出る。久しぶりに外の空気に触れた体は硬くこわばっていたけれど、それも緊張していた僕の心と一緒に、促されたストレッチによって少しずつほぐれていく。


 引きこもっていたのに変わらず話してくれる二人が嬉しい。そう思っていた時だった。校門の方から協会職員とスクールメイトがぞろぞろと現れ出す。その中央で担架に乗せられた二人の姿が見えた瞬間、僕の胸がぎゅっと締めつけられた。


 赤黒く染まった服が、届くはずのない血の匂いを周囲に立ちこめる。その血まみれの人は間違いなく陽翔だった。


「待って!」


 一号の静止を振り切り、下された担架の横に駆け寄って膝をつく。


「陽翔っ! どうしたの!?」


 ぐったりとした姿に、声が震える。

 見るからに危険な状態なのに、陽翔は僕を安心させようと、かすかに微笑んだ。


「ポーションは飲んだし……悠人と職員さんが回復持ちを呼んでくれてる」


 声はか細く、掠れている。握った手は冷たく、半乾きの血がこびりつく。

 陽翔が今にも消えてしまいそうで、それが怖くて仕方なかった。


「大丈夫だって。そんな簡単に……人は死ねないから」


 言葉とは裏腹に、指先から力が抜けていく。

 笑顔を作ろうとしているのがかえって苦しそうで、僕は息を呑んだ。


「今日は二階層まで行ったんだ。……最初はめっちゃ順調でさ……進んだんだよ。

 いやぁ……強かったわ。あんなの知ったら、モンスターに感情移入なんて出来ねぇわ」


 荒い呼吸が大きく響く。

 なにもできない僕は、ただ静かに言葉を聞くことしかできなかった。


「血は派手に見えてるだけで、たぶん致命傷じゃない。……まだ歩けたしな。

 あれだ、武士の誇りだわ。背中に傷はねぇから。……ハハッ」


 右腕で顔を覆う陽翔。

 笑っているのに、その隙間から一筋の雫が頬を伝って落ちた。


「洵」


「なっなに!?」


 反射的に応える。

 名前を呼ばれたことが、なぜか少しだけ嬉しかった。


「いやぁ……もしかしたら洵が正しかったのかもって……思ってさ」


「なにが?」


「閉じこもるのは、ただの逃避なんかじゃない。……きっと、生き延びるための正しい選択なんだよ」


 その声には、そう信じたい弱さがにじんでいた。


 やがて、悠人と緑の腕章をつけた協会職員が現れる。治療専門だという緑腕章の協会職員は、傷口の洗浄と消毒を手早く終わらせ、本格的に魔法を唱える。

 祈るような沈黙の中、傷口が淡い光に包まれていった。


 僕はその間、何もできなかった。ただ心配で近づいてはみたものの、陽翔の苦しそうな呼吸をただ見守るだけ。

 なにひとつ力になれない自分が、悔しかった。



 魔法で癒された陽翔たちはそのまま担架に乗せられて、学校の保健室に連れて行かれた。

 本当はずっと隣に居たかった。でも『休息のため』なんて言われたら僕も部屋から出るしかない。そうして追い出された僕の胸には自問が渦巻く。


 これでいいの?

 待ってる間に僕の知らない場所で死んじゃってるかもしれないのに。


 これでいいの?

 挑戦もせずに逃げ続けて。


 これでいいの?

 ずっと隣にいてくれた陽翔が傷ついて。



 いいはずがない。


 胸の奥に走るこの痛みが、僕に前へ進めと叫んでいる。今ならまだ間に合う。変わらなきゃ、もう隣にいられないかもしれない。


 僕は、陽翔の背中を守れる自分になりたい。


 ——だから


 僕は走り出す。

 弱いままの自分を終わらせるために。

 迷惑をかけるとしても、僕が知る一番強い人のもとへ。

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