ep.5 [陽翔]決着
まるでベッドの上であるかのように、とても静かだった。ただ、全身を押さえつけられるような感覚と、背中に当たる地面の硬さを認識すると、胴体全体にじわじわと広がる鈍痛を感じながら目を開ける。
「飲め」
問答無用とばかりに口に突っ込まれるのは、見覚えのあるポーション。
「ちょ、やめっ!」
「冗談冗談」
もう入ってんだよ!
痛みで息が詰まりそうになりながら、壁に手をついてようやく上体を起こすと、口に入れられた未開封のポーションの栓を口で器用に外し、ゴクリと一息に飲み干した。
右手には、こちらにゆっくりと近づくただのコボルトが六体。左手には、硬直状態の三人と一体の残骸種。
「ゆっくりはしてられないってか。くっそ、いてぇなぁ」
呻きながら立ちあがろうとするや否や、六体のコボルトが走り出す。
「ダメだ!」
振り返ると、絶叫に似た悲鳴と共に直弥がこちらに走り寄ろうとしていた。
それは戦線が崩壊する最悪手。確かに今の俺たちに六体はキツいけどそれが一番
「——ヤバイって」
無防備な背中。フォローできない距離感。当然、それを残骸種が見逃すはずもなかった。
「後ろ!!」
俺が意識を失う直前に見た、《《変速》》と言うしかない速さで直弥に迫り、頭部に凶刃が——
「大当たりィ!」
沈まなかった。
ほんのわずかでも遅れたら頭部が破裂しそうな一撃をなんとか剣で受け止めて、そのまま左手が振られる。そこから砂のような粉末が残骸種の顔面に飛散した。
「囲め!!」
遅れて動き出した二人がソイツを挟み、一体の敵に三人が交代で絶え間なく斬りつけ始める。焦ることなく順番に、授業で叩き込まれた“草攻剣”の通りに。
あんなに苦戦させられたはずのソイツは防ぎきれずに膝を折り、そのまま地面へ沈み込む。それでも止むことのない斬撃はついソイツの動きを失わせる。
まるで手本のように美しく連携した剣撃は、わずか十秒と経たず決着をつけた。
「うっそだろおい……」
その結末を見届け、目前に迫るコボルトの攻撃を受け止める。十分に余裕のある防御ができたはずなのに異常なほどに傷が痛んだ。
「急げ、陽翔たちに戦わせるな!」
息も絶え絶えに、俺は精一杯攻撃を受け止める。そうしているだけでモンスターは仲間たちに倒されていく。
そしてようやく、一番の難題を解決した俺たちは重たすぎる疲労を抱えながら、ヤツの《《死体》》をその場に放って撤退を再開した。
出血は止まらず、足元はふらつき、視界は滲んで目の焦点さえ定まらない。それでも仲間の肩を借りながら、俺は歩みを止めなかった。
絶妙に下手な包帯が巻かれた俺たちは一階層に上がって、そこで会った協会職員に保護される。
——生き延びた。
呼吸が、やっと自分のものに戻った気がした。
これまで感じたことのない安心感と留めきれない感情のせいで、全身から力が抜けていく。
一言でも声を出せば、胸の奥に押し込めた弱さが零れてしまいそうで。ただ、生き延びたという実感だけが身体の中を巡って、誰も言葉を発せない。
俺たちは終始静かに、協会職員に支えられながら無事にダンジョンを脱出した。




