ep.4 [直弥]盤面硬直
限界なんてとっくに分かっていた。俺がモタモタしている間にどんどん疲弊して、とっくに限界はきていたはずなのに、二人はかわる代わる戦い続ける。それはパーティーリーダーやエースとしての責任感なのか、ただのアドレナリンなのか。そう呑気とも思える思考を片隅に、ついに陽翔が落とされた。
もっと早くに決断を下して、多少モンスターがいる通路に突っ込めばよかったのに。陽翔はもう動けない。志道は限界。一真の傷も深かった。
動けずにいる俺の視線の先で、志道が陽翔を庇ってもう一つ傷を増す。
もう無理だ。このまま進んだら置いていくことになる。そしたらあいつらはここで死ぬ。でも俺は生き残れ——なに考えてんだよ俺は! 任せてもらったんだ! ここで応えられずになにが仲間だ!
「透、戻って来い! ここでアイツを倒す!!」
俺たちの中で飛び抜けて戦える陽翔と志道先輩は、受けるだけでもやり合えた。なら初めっからみんなで叩けば、倒せるかもしれなかったじゃないか! 授業なんて知ったことか! どうせ一体だ、袋叩きにしてやる!
「志道と一真は陽翔を守りながら休んでろ! 別のモンスが来たら頼む!
他、あいつを囲む! 草攻剣用意、踏み込みすぎるなよ!」
指示に返事を返す仲間と残骸種を囲もうと動くが、こちらの意図を読んだように適度に距離が取られる。
「攻めるなよ! これならこれでいい。チャンスがあれば即行囲む。
一真! 現在地を教える! 状況を見計らってこっちに来い!」
「分かった!」
流石に露骨すぎたか? でもこれはこれで良い。いや、体力を回復してるのか? なら駄目じゃないか!
だとしても、攻めにかかれば俺たちじゃやられるだけ。ならば、今の最善手はいつでも動ける体勢のまま待つことだと俺は思った。
「来た!」
びっくりしたぁ! 敵が来たかと思ったじゃねぇか!
喉元まで上がった言葉をグッと飲み込んで、敵を観察しながら言葉を返す。
「地図は」
「これ」
一瞬地図に目をやって急ぎながらも冷静に指差す。
「ここ、戦術手を頼む」
「分かった!」
これで撤退を続ける場合の道を見てくれているはず。そう思って俺は全員で帰るために情報を集める。
「このまま睨み合う。陽翔の状態は?」
「良くない。一応傷口にポーションをかけたけど意識が無ぇ」
「分かった。志道は?」
「俺はそもそも深くねぇし飲みも掛けもした。血は出てるが体力が戻ったらまた戦える」
「分かった」
残骸種が一歩、俺の隣で構える透に近づけば『手を出した瞬間に斬りかかるぞ』と囲むように、位置を調節して圧をかける。それを見て、また一歩距離を開けられた。
そうした硬直状態は五分か十分か。実際はもっと短いのだろうが、心臓がうるさすぎてはっきりとは分からない。ただ一つ、陽翔が目を覚ました分、状況は好転。
その代わり、と言わんばかりに怪我人側へと敵の集団が近づいて来ていた。
ダンジョン内で時間をかけるということは、当然状況が悪くなる可能性がある。残骸種も足音を耳にしてか壁に近づくと武器を叩きつけ、耳障りの悪い音を響かせた。
ここまで知能があるのなら、誘うのが一番手っ取り早いかもしれない。
俺は表情を焦ったように歪めて一瞬後ろに視線を送る。ついでとばかりに、ズボンを軽く引き上げる素振りをしながら、ベルトポーチの中にある小さな球体を優しく指先に握り込んだ。




