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ダジャレと魔導具で、世界を救え!〜「魔法式地球冷却作戦」は成功するのか?〜

作者: ナナミ
掲載日:2025/10/27

 ある日、一人の女性が東京都の巨大なドームに来ていた。しおりと言う名前の女性は案内された場所に立つと、腕を組んだ。政府からの重大な発表がある、って言われて来たけど、どう言うことなのかしら?召集された人は全員参加だって言うし……。彼女は眉間に皺を寄せながら、四方八方に鋭い視線を走らせた。


 ドームの広さにしては、集められた人数は少ない。五十人程である。こんな巨大なドームに、これだけ?彼等はしおりと同じように、周囲を窺っていた。身体を強張らせ、不安そうな目付きで周りを見回す者。どうも、と周囲の人間に頭を下げる者。眉間に皺を寄せながら、トントン、足を鳴らす者。三者三様である。


 しおりは中央に置かれた台を見つめた。何だか分からないけれど、早く始まらないかしら……。


 ある時、眠そうに目をしばたたかせる大学生らしき男性がパジャマで連れられて来た。ドーム中の視線が彼に集中する。何でパジャマ!?聞こえて来た声によると、大学が休みだからと寝ていたら、無理やり連れて来られて来たらしい。もう昼になろうとしてるのに……!?しおりは肩を窄める。おかしくもないのに笑ってしまった。周囲の視線を意に介さず、男性は大きなあくびをしていた。


 暫くして。墨のようなスーツを来た男性達が入り口から入って来た。彼等は集まっているしおり達に視線を巡らせると、声をかける。


「皆様、お待たせしました。」


 男性達は政府の人間だと名乗った。そこで語られた内容に、しおりは身体を強張らせ、大声で思わず叫んでしまった。


「え!?」


 しかししおりの声は、地を揺るがすような周囲の叫びで掻き消された。


「はあ!?」


「何ですって!?」


 ゲホ、ゲホ!


 しおりの隣の立っていた男性は、大声を出したせいか、苦しそうに咽せている。しかし、彼女はそんなことは気にならず、目を逸らさずに政府の人間を見ていた。


 政府の人間が語った内容は、耳を疑うものだった。


 実は今もなおこの世界には魔法が存在している、とのことである。長らく世界的に研究されていたらしい。そして何と今回、温暖化を解決する魔導具が発明された、と言うことである。


「作戦名は、魔法式地球冷却作戦です!」


 政府の者達は、胸を張り、自信満々、と言った様子で大声で言った。


 しおり達は、全国から無作為で選ばれたらしい。首相等は別室におり、リモートで各国の首脳が見ている、と言うことである。しおりはとても信じられかったが、日本の総理大臣や各国の首脳が通訳越しに笑顔で挨拶をしているのを見て、信じざるを得なかった。……まだ若干怪しいけどね。合成じゃないの?


 政府の人間が話し終えた後、しおりは目を瞬いた。魔法?魔導具?何のこと?ずっと魔法があった?嘘でしょ?現代に?何の冗談かしら、としおりは顔を歪ませた。偉い人達、頭を使い過ぎて、大事なネジまで飛んだんじゃないの?


「皆さん、一緒に世界を救いましょう!」


「うおー!魔法!?マジか!じゃあ、俺も、使えるのか!?」

 

 政府の人間が鼓舞した後。え!?隣から聞こえた声とその内容に、しおりは、トンボのように大きく目を見開き、そちらに視線を向けた。身長の高い男性は、片手でガッツポーズを作りながら、よっしゃあ!と歓喜の声を上げた。え、信じるの!?


「じゃあ、あの人の心も……?私のものに?」


 少し離れたところから聞こえて来た声。しおりがそちらを見ると、とある女性が顔に影を作りながら、何やらぶつぶつと呟いている。


「そうよ、あの女が悪いよ。あの人が私から離れるはずがないわ……。魔法で呪ってやらないと。」


 目を光らせながら怪しい笑みを浮かべている女性。それを見ていたしおりは身体が知らず識らずのうちに震えていた。彼女は腕で自分を抱きしめた。怖いわ……!


 ドームにいる人間は皆歓声を上げている。うおー!やったー!温暖化がどうにかなるの!?


 周りのまるで憧れのスターを前にしたかのような熱気に、しおりは目眩がし、軽く頭を押さえた。皆、騙されてない?あの人達、本当に政府の人間?詐欺師の間違いなんじゃないの?しおりは政府の人間を鋭い眼差しで睨み付けた。


 冷静なの、私だけ?確かに魔法に憧れたことはあるけれど……。あくまで子供の頃の話でしょ?しおりはまるで自分が宇宙にでも来てしまったような疎外感を感じた。誰か味方はいないの……!?


 人々の雄叫びがドームに響く中、政府の人間は片手をあげ、宥めるように落ち着いた声をかけた。


「みなさん、落ち着いてください。……それでは、魔導具を発明した魔導学者の先生に来てもらいましょう。」


 政府の人間が話し出すと、途端に辺りは静まり返った。皆が彼等の一挙一動を見逃さんとばかりに見ている。男性達は満足そうに一つ頷くと、後ろに呼びかけた。


 すると、いかにも科学者……、いや魔導学者、と言った風の髭を生やした男性が歩いて来た。あの人も、政府の人間()の仲間?白衣を着ており、白髪に大きな瓶底メガネをかけている。漫画のようにぐるぐるとしたメガネで、目が見えない。


 男性の後ろからは、別の男性達が大きなカートに乗せられた広い黒い布で覆われた何かを引いて来た。しおりは、怪訝な顔をした。あれが、魔導具とやら?洗脳する機械がある、と言われた方がまだ納得出来るかも。


 発明家は、うぉっほん、とわざとらしく咳払いをすると、懐から紙を出し、これから魔導具の説明をする、と言った。へー、意外と真面目なのね。


 そして、男性は説明をし出したのだが……。


 そこからはしおりにとってひたすら苦痛だった。魔導学者だと言う男性は何ちゃら変数だの何ちゃらの定理だの、興奮しながら熱弁したが、全く理解が出来ない。更に魔力がどうのこうの、と言う言葉が混じっており、全くもってお手上げである。最初は少しは聞いていたが、日本語なのだが、しおりには理解出来ない外国語をひたすら聞かされているように感じた。熱湯のように頭から湯気が出そうになる。誰か分かりやすく説明して!頭が爆発しそうよ!


 しおりは早々に目を閉じ、思考を放棄した。しおりは途中から耳を塞ぎたくなったが、気が引け、やめた。彼女はスマートフォンを見たくなり、周りの様子を窺った。しかし誰も見ていなかったので、ぐっと堪えたのである。仕方ないわね。


 これなら、まだ丸一日ナマケモノを観察していた方がマシだわ。しおりはテレビで見た何とも言えない表情を頭に浮かべた。まだ愛嬌があるし。彼女にとっては、あくびが出そうな程退屈な時間であった。


「……と、言うことです。理解していただけましたか?」


 しおりは顔を上げた。ようやく説明が終わったらしい。周りは皆、さっきまでの熱気が嘘のように、一部を除いて、限りなく冷めた目を魔導学者に向けていた。沈黙が続き、脳内で目の前をひよこが歩いて行った。


 ……で?どう言うこと?


「分かるか!」


「そうだそうだ!」


 一人の声を皮切りに、人々は不満の声を上げる。そんなしおり達を見回すと、魔導学者は手を打った。パン!と言う大きな音が響き渡る。人々は口を噤む。



 そして、魔導学者は、黒い布を勢い良く捲った。そこには巨大な四角い機械のようなものがあった。突然現れた魔導具だと言う機械に、しおりは目を瞬せた。彼女を含めた人々の視線が集中する。あれが、温暖化を解消する、魔導具?


「要するに、皆さん、冷たいことを言って下さい。すると、声と皆さん一人一人が持つ魔力に魔導具が反応し、メーターが上がります。このメーターがいっぱいになった時に、魔導具が起動し、地球温暖化が収まる、と言うわけです。」


 何だ、そんなこと?


 しおりはガクッと肩が下がった。人を集めて、あんなに長々と説明してて、やることが冷たいことを言うだけ?彼女は半笑いを浮かべた。何だか、拍子抜けだわ。魔法やら難しい説明されたから。もっと大規模なことをやらされるのかと身構えていたと言うのに。


「これが魔法の杖です。冷たいものを挙げるのと同時に、振って下さい。」


 それからしおり達は一人一人茶色い木製の杖を持たされた。これが、魔法の杖ね。いかにもそれっぽいわね。彼女は顔を歪めながら左手で軽く振る。ヒュンヒュン、と言う音が鳴る。何も、光の粒子でさえも杖先から出ることはなかった。やっぱり。胡散臭いわね。しおりは政府の人間たちに鋭い視線を送った。


 全員に配り終わった後、魔導学者は、魔導具のあるボタンを押すと、しおり達の方を向き、口を開いた。


「では、皆さん、この魔導具、アース・ヒエールに、杖を向けて下さい。更にヒート・ダウン、と唱え、次に冷たいものを言いながら杖を振って下さい。」


 しおりは目を剥いた。魔導具の名前、アース・ヒエール!?呪文はともかく、何でヒエールなの!?これはないわ!


 そんなしおりとは裏腹に、周りはうおおお!わあああ!と興奮したように叫び声をあげている。


「アース・ヒエールって言うのか!」


「ヒート・ダウン!」


「これで魔法が!」


「名前はダサいけど、良いわね!ダサいけど!」


 最後の声に、しおりは後方に視線に向けた。やっぱりそうよね、ダサいわよね!?なのに何でこんなに盛り上がってるの!?


 周囲の人間達は、杖を振り回し、目を爛々と輝かせている。自分に魔法を使えることを切望しているようである。


 政府の者は、マイクを片手に声をかけた。


「皆さん、一人ずつ前に出て来て下さい!そして、ヒート・ダウン、と唱えた後、冷たい物を言いながら杖を振って下さい!皆さんの力が必要です!」


 言い終わるや否や、人々が台に殺到した。まるでアリか蜂の巣のようである。


「おい、早く退けよ!」


「私が先よ!」


「いた!押さないでよ!潰れちゃうわ!」


 しおりは少し引いたところから、顔を引き攣らせ、引き気味にその光景を眺める。まるで雪崩みたいね……。


 そして、一番乗りを勝ち取った女性は、こちらを向きながら、壇上のスタンドマイクを左手で掴む。アース・ヒエールに向けて、ビュンビュン、とまるで指揮をするかのように大袈裟な動きをしながら、杖を振った。


「ヒート・ダウン!雪!」


 杖が振り下ろされると、杖先に蛍のような淡く白い光が灯る。おお!と人々は前のめりになった。あ、光った。さっきまで何も出なかったのに。しおりは目を瞬せながら、台上を見つめる。


 皆の視線が集まる中、きゃあ!と女性は高い声をあげた。目線は空を頭上を見ている。


「雪よ!雪が見えるわ……!久しぶりに見たわ……!」


 釣られてしおりが見ると、杖を振った女性の上からハラハラ……、と白い粒子が降って来ていた。しおりは自身の眉間に皺が寄ったのが分かった。あれ、雪なの?台上の女性は、片手を出すと、冷たい!とコロコロと笑った。


「綺麗……!私、本当に魔法が使えるのね……!」


 女性の杖先に灯っていた光は、自分の行く先を心得ているかのように、アース・ヒエールの元へ吸い込まれて行った。


 人々はおおー!と歓声を上げる。しおりは少し心が動いた。へー、どうなってるのかしら。


 魔導学者は、アース・ヒエールを覗き込むと、振り返り、破顔する。女性の名前を呼び、賞賛した。


「ありがとうございます!メーターが上がりました、成功です!……次の方、どうぞ!」


 満面の笑みを浮かべた一人目の女性が下がってすぐ。白い雪は女性が降りると、煙のように霧散した。人々は次を勝ち取るために、素早く足を動かした。私は後で良いわ……。しおりは足を動かさず、静観した。


──ヒート・ダウン!氷!


 氷の塊がドスン!と壇上に着地する。


 ワアアア!と言う歓声。


──ヒート・ダウン!かき氷!


 キャアアア、と言う高い声。


 冷蔵庫!氷河!南極!北極!水風呂!怪談!


 次々と冷たいものが言われた。その度に、魔法で該当する物が出現する。この頃には、しおりは若干信じるようになった。流石にマジックじゃあり得ないわ……!次は何が起こるのかしら?好奇心に僅かに胸が躍った。


 とある男性が怪談、と言った時は、余程イメージが良かったのか、聞いたことのない男性のおどろおどろしい声で怪談が語られた。内容の貞子の姿のおまけ付きである。男性はカラカラと笑っていたが、しおりは男性に貞子がズリ、ズリ……、とにじり寄っているのを見て冷や汗が流れた。……本当に消えるのよね?


 今まさに男性の首に手がかけられる!と言うところで、貞子がふっと消えた。


 しおりは貞子がいなくなったのを見て、胸を撫で下ろす。ほう、と安堵のため息を吐いた。知らず識らずのうちに肩に力が入っていたことに気付き、彼女は苦笑した。良かったわ……。シャレにならないわ。 


 やがて、しおりの出番になった。彼女は台上に上がる。まるで動物園で見られる動物のような心地になった。しおりは顔を引き攣らせ、身じろぎをした。長くはいられないわ……。早く済ませましょう。彼女は杖を振ると、目を瞑り、詠唱した。


「ヒート・ダウン!アイスクリーム!」


 甘酸っぱい、いちご味のアイスクリーム。


 しおりの持った杖が熱を持つ。彼女は刮目し、僅かに息を呑んだ。温かい……!そして、白い光の粒子が出る。本当に、出たわ……!彼女は、目を逸らさずに白を見つめた。周囲が涼しく感じ、しおりは夢と現実とも付かない、不思議な心地になった。これが、魔法……!?


 更に、空中が光る。そして、ピンクの大きなアイスクリームが出現した。ご丁寧にいちご味の見た目まで再現されているようである。しおりが手を伸ばすと、硬いコーンの触感がした。ついつい顔を寄せたくなるが、我慢した。


 他の人が食べ物を出しても、食べることが出来なかったのを見ていたからである。男性がかき氷を食べようとしても掬えず、食べれないな!と笑っていたのを彼女は思い出した。更に、どうせならでかいやつを想像すれば良かった!と言っていたのを思い出し、しおりは何とも言えない顔になった。


 脳内で巨大なかき氷にグエ、と潰される男性が思い浮かぶ。どうやって食べるつもりだったのかしら……。


 杖先の光がアース・ヒエールに、吸い込まれる。空いた手にしおりはじっと見つめる。どうせなら食べれれば良いのに……。と、同時に、そんな自分に内心苦笑した。


 政府の人間は、しおりの名前を呼び、称賛した。


「ありがとうございます!メーターが上がりました、成功です!」


 次の方どうぞ、と言う声に、しおりは、段差を降り、下へ移動する。心に太陽が差し、思わず頰が緩んだ。私にも魔法が使えるのね……!何だかんだ、嬉しいものね。彼女は、足取り軽く歩みを進めた。


 暫くして、魔導学者はアース・ヒエールのメーターを見て、目を輝かせた。彼はしおり達の方を向く。


「皆さん、後少しです!もっと冷える物を言って下さい!」


 もっと、と言われても。しおりは顔を歪めた。心の中が曇る。大分ネタが尽きて来たわ。それに。しおりは顔を俯かせ、考え込む。これって、一人一回なのかしら?また台上に上がらなきゃ行けない、とかないわよね?しおりは口元を引き締めた。


 その時、ある一人の男性が台上に躍り出た。何?視線が集まる。彼は辺りに視線を巡らすと、芝居がかった仰々しい動きで動きで礼をした、そして白い歯を見せて笑う。そして、彼は杖を構える。


「皆、大丈夫だ!俺に良い考えがある!」


 おお!と、人々の視線が注目した。何かしら?しおりは、男性をじっと見つめた。


「要は、寒い物を思い浮かべれば良いんだろ?なら、これでも良いだろ!」


──ヒート・ダウン!


 男性は杖を振ると、同時にこう言った。


「俺の友達が最近お金を取られたんだ。おっかねーよな!」


 その瞬間、しおりは凍ったように寒く感じた。数拍置いてから、しおりは我に返る。そして、口をパクパクと開閉させる。彼女は戦慄した。


 まさか……親父ギャグ?ダジャレ!?


 男性が魔法を使うと、黒い姿をした人影が、鞄を持ちながら、ケケケ、と歯を見せて笑っている映像が現れた。どうやら泥棒のようである。


 男性が下りる前に、別の男性が壇上に上がった。彼は、ヒート・ダウン、と唱えてから、こう言って杖を振った。


「おお、金がない、とな!君の友人はさぞ苦労したことだろう。」


 しおりは鳥肌が立った。続けないでよ、寒いわ!


 更に、茶色い財布が出現し、ひっくり返される映像が出た。しかし、中からは埃しか出ない。


「いえ、あくまでフィクション、作り話です。」


「それは良かった!」


 おどけたように笑いながら言う男性に、もう一人は、軽く笑って返した。それから男性達は意気投合したように肩を組みながら足取り軽く台上から下りて行った。ええ……?何でダジャレでそんな仲良くなるの?あり得ないわ!


 そこからは怒涛の勢いであった。男性達は次々に前に出て、杖を振って行く。しおりは周りの女性達と一緒に、冷めた目を向けていた。


──ヒート・ダウン!


「アルミ缶の上にある蜜柑!」


 くだらないわ。


 何故か巨大なアルミ缶が、蜜柑とのセットで現れた。アルミ缶が大き過ぎるため、蜜柑は妙に小さく見える。何でこんなにアルミ缶が大きいの!?


 ある時、男性が二人出て来た。彼らはそれぞれヒート・ダウン!と唱えた。そして杖が順番に振られた。


「バナナを食べ、虫歯七本!」


「そんなバナナ!」


 しおりは開いた口が塞がらない。打ち合わせでもして来たの!?こんなことに!?


 白い歯の上にツノの生え、鋭い槍を持った虫歯菌がシシシ、と笑っている映像が現れた。


 太陽が出てるのに、寒い、寒過ぎるわ!ここは、日本よね……?しおりは、腕を摩りながら、遠い目になった。今すぐにやめて……。


 魔導学者は、アース・ヒエールを覗き込み、おお!と歓声を上げる。そして、笑顔で男性達を煽った。


「皆さん、良いですよ。もう少しです。もっと言って下さい!」


 ふざけないで!もう沢山よ!


──ヒート・ダウン!白いカマクラの中、まっくら!


──ヒート・ダウン!学生時代、俺、バッターを頑張ったー!



 しおりは他の女性達と身を寄せ合った。そして、歯を鳴らしながら声をかける。


「寒いですね。」


「ええ……。早く終わらないかしら……。」


 まるで冷凍庫の中みたいだわ……。しおりが声をかけると、隣の女性は頷き、眉を顰めながら男性達に冴え冴えとした眼光を向けた。



 やがて、ある程度ダジャレが出尽くした頃、パジャマ姿の大学生の男性が台上に上がって来た。彼はぼんやりとした目付きで、アース・ヒエールを見つめた。片手には杖。


「君も何か言いなさい。」


「どんなダジャレでも良いぞ!」


「ダジャレ……?」


 大学生は、鈍い動作で首を傾げると、自身の服装をじっと見つめた。そして、ああ、と呟く。


 しおりは、何故か、足元から悪寒が駆け上って来た。彼女は瞬きもせず、大学生を見つめる。


 大学生は、ヒート・ダウン、と唱える。そして、あるダジャレを言いながら杖を振った。


「布団が、吹っ飛んだ。」


 言うや否や。布団が出現し、宙を舞う。アース・ヒエールからピー!と高い不吉な音が鳴る。白い煙と冷気が吹き出す。辺りを覆い尽くす。


 次の瞬間。


 ピシ、と言う音が鳴り。


 氷河期のように、しおりも周りも、全て──世界中が凍り付いた。



◇◇◇



 パタン、と軽い音を立てて、本が閉じられる。高校生のしおりと言う名前の少女は、読み終わった本の表紙を両手で持ち上げる。ほう、とため息を吐く。そして苦笑した。


「こんなこと、あるわけないわよね。やっぱりフィクションね……。」


 しおりは軽く首を横に振ると、本を机の上に置いた。そこで、ドタドタ、と言う急ぎ足で走って来る音が聞こえた。そして、バタン!と壊れんばかりの勢いで扉が開けられた。


「お姉ちゃん、テレビ見に来て!温暖化が解決するかもしれないんだって!」


 え!?しおりは、その言葉に目を見張った。パッと妹に目を向ける。


「本当に!?」


「そうよ!発明されたんだって!早く早く!」


 何か、似てる気がするわ……。しおりは、読んでいた本を一瞥する。しかし、早く!と催促する妹に手を引かれ、リビングへと足を向けた。


 ……まさかね。



◇◇◇



 しおり達が去った後。暫くして。しおりが読んでいた本から、蛍のような光が生じる。光は、本全体を覆う。


 やがて光の集団は、吸い込まれるように窓の外へ消えて行った。


 机の上からは、最初からなかったかのように、本のみが消えていた。

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― 新着の感想 ―
発想が楽しいと思います! 地球の温暖化を魔法で冷やす。寒いダジャレで冷やしてしまう。 最近気候変動が激しいですから、こんな形で解決できたら楽しいのに。 どこかクスリと笑えて、ラストはファンタジックで素…
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