新興宗教と政治の闇
新興宗教「堂林平和学会」の宗教詐欺、さらに堂林平和学会宗主、堂林 清浄と野党第3党の「変革党」党首、大阪府知事との癒着を知った涼子は父親である天知組組長、天知 虎吉にこの件を話し、3人共今の地位から叩き落とし、しのぎを行う計画を練り、実行に移そうとした。その時に、宗主、堂林 清浄殺害という事件が起こり混沌とする。涼子たちはこの悪事を世間に知らしめることができるのか?、天知のしのぎは成功するのか?
3月のとある日曜の13:00少し前、涼子は本町にある貸し会議室の、長机が30程並んだ前から5番目の壁際に座っていた。
他には老若男女、約30人程がまばらに座っていた。
知り合い同士や一人で来ている者、裕福そうな人、ニートっぽい若者等様々な人種が静かに座っている。
ほの暗い部屋の前方は、数十センチ高い舞台のような状態にあり、壁際の真ん中には、1mぐらいの高さの飾り彫りがなされた木製の台の上に、手や蛇の頭、狐の顔などが飛び出た花崗岩っぽい仏像と言えるのか、気持ちの悪い置き物が、みみずが這ったような文字が書かれた、周りに金糸で飾り刺繍が施された掛け軸のような物が掛けられた前に金色の座布団の上に鎮座していた。
その前には1対の真っ赤な蝋燭に炎がゆらめいている。ほのかな甘い香りが漂っている。
その左右には、長机の上に教典のような本、壺や花瓶、木の箱に入った印鑑、見たこともない透明のペットボトルの水、壁に掛かっている掛け軸・仏像のような物のミニチュア版、真っ赤な蝋燭が10個程入った木箱などが並んでいる。
黒いスーツを着こなした30〜40代であろう凛々しい感じの男女各一人づつが左右の端のパイプ椅子に腰掛けている。
壁の上部には100インチはあるであろうモニターが掛かっていた。
涼子は以前産廃処理の問題の時、ドローンで動画を撮ってもらった知り合いに『1時間ほど座っているだけ、形だけどうしても出席してもらえないか』と頼まれ仕方なしにここに居ている。
なにか『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』という名目の会らしい。
13:00になり、左端に座っていた男性が立ち上がり、「本日は平和学会の研修に参加して頂きありがとうございます。今から堂林 清浄代表のお言葉をいただきます。起立お願いいたします。」
全員がサッと起立した。涼子は慌てて皆に合わせ起立した。
『堂林 清浄て偽名丸出しやん。なんか胡散臭いな。皆んななんでサッと起立すんねん。もう何回か参加しとるんやろか?』と思った。
会議室のドアを右端の女がガチャと開けると、真っ白なスーツに白のエナメル靴、白シャツに白いネクタイ姿で入ってきた。銀髪を後ろに綺麗に撫で付け、口髭も真っ白だ。
『ノンスタの石田か!』と突っ込みたくなる。
センターまで恭しく進みこちら側に向き直り、一礼した。皆も一礼を返す。涼子も慌てて一礼する。
堂林「お座りください。」低音の響の良い心地良い声だ。
皆が座るのを待ち、
堂林「本日は『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』にご参加頂きありがとう。
この研修会は、研修会という名目ですが、本来の目的は世界平和の為に同志を集めるという大きな目的を持っています。
もう何回か参加いただいている方もいらっしゃると思いますが、初めての方もいらっしゃるので、改めて私の考えを述べさせて頂き、ご賛同いただければ幸いです。
皆様もニュース等でご存知だとは思いますが、この世界は悪魔に乗っ取られようとしています。
世界中のリーダーと言われている者たちは魂を悪魔に売ったのです。
人を殺し、民より金銭を奪い、人類を混乱の渦に巻き込もうとしています。
地球という星は世界中の悪魔に魂を売ったリーダー達の策略で死の星へ一歩づつ近づけているのです。
異常気象、大地震もそうです。これらも魂を売った世界中のリーダーの策略によって起こっています。」
涼子『大きく出よったなぁ』
「身近なことで言うと、日本では無差別殺人、子供への虐待・死に至らしめる、いじめ、格差社会・貧困の増加等々。
これらは日本のリーダーの政策により急速に増加しております。
そこで、私、堂林 清浄は命をかけ、まず日本という国からこの悪魔たちに立ち向かう決意を致しておるのです。
なぜ、私がこのような戦いに命を賭けようと思ったのかをお話いたします。
私は二十歳の頃より世界中を旅してきました。ある日、モンゴルの草原を放浪していた時、草原に聳える一本の大木の根元から声が聞こえてきました。『清浄』と私の名前を呼ぶ声が聞こえたのです。私はその大木に近寄りました。大木の根元にキラッと光る石のような物が見えたのです。さらに近づき、その光る石のような物を触れてみました。『私を出せ』と聞こえたのです。私はその光の周りを掘りだしました。爪が割れるのも厭わず必死で掘りました。そこに埋まっておられたのが、この千手蛇コン様です。」
後ろに置かれてる仏像のような物を指し示した。
涼子『千手蛇コンて、笑わしよんな』
「私は近くにあった井戸で綺麗に土を洗い流し清めました。
その時、私の心がまるで虹が出たように清々しくなり、着ていたダウンジャケットにくるみ、日本に持ち帰りました。持ち帰り、部屋の南側にあるチェストに置き、私は尋ねました。『私に何かおっしゃりたい事があるので、私を呼び寄せたのですか?』と。
10数年何もおっしゃられませんでしたが、毎日かかさず綺麗に清めお祈りしてきました。
40歳になった時、突然千手蛇コン様から声が聞こえてきたのです。『わしの力の助けにより、お前も実力をつけてきた。今がその時だ。日本を救う為に力をかせ』と。『日本のリーダーは悪魔に魂を売っておる。同志を集め今のリーダーを政界から抹殺しなければ日本は終わる。お前は私の声が聞こえる唯一の日本人だ。私の力を利用して日本という国を救わなければいけない運命の唯一の日本人だ。』と。
私は日本という国を命を掛けてでも救おうと決心いたしました。」
涼子『そな分あるか!』
「千手蛇コン様のお助けにより、政界にも私の同志が増えてきました。モニターをご覧ください。」
モニターにはTVでもよく見る大阪基盤に強い野党『革命党』代表の吉田 修孝がアップで映し出された。
吉田「私、革命党の代表、吉田でございます。堂林 清浄さんとは約1年前、私の政治研究会『浄日会』のパーティーでご挨拶させて頂きました。堂林様のお話しを伺っているうちに、堂林様の考え方に感銘を受け、是非同じ目標に向かう決心をし、同志として堂林様の活動をご支援する決意をいたしました。
現在、政権を握っている民主発展党の党首『田所 甚兵衛』は堂林様がおっしゃている通り悪魔に魂を売ったとしか思えない政治をしております。日本国民は疲弊し、困窮し、精神も壊れかかっております。民主発展党の党員も全員田所の信者となっております。さらに、民主発展党を裏で操っている官僚達も魂を悪魔に売り払っているとしか思えません。私、吉田 修孝は堂林様と共にこの悪魔と化した日本の政治を根本より変革する為、満身創痍の覚悟を持って努力して行く所存です。
ただ、その変革をしようにも革命党は党員もまだ少なく、政治資金もあまり無く、まだまだ力不足な状態であります。堂林様より同志として様々な援助をしていただいておりますが、今一層の同志を集め、政権をひっくり返すだけのお力を私、吉田及び革命党の党員にもお授け頂けるようお願いいたします。
私は、必ずや日本国を豊かにし、日本国民を幸せにする政治を行います。皆々様のお力をお貸し頂き、この悪魔に乗っ取られた日本国を救おうではありませんか。
『堂林平和学会』は我が党の大阪府知事よりお墨付きをもらい、立派な宗教法人と認められております。
皆様も堂林 清浄様の教えをよく聞いて頂き、同志として立ち上がろうではありませんか。皆様のお力を是非お授け頂けるよう、何卒、よろしくお願い申し上げます。」
会場に拍手が沸き起こった。涙を流している者もいる。
涼子『こいつ、堂林からかなりの献金もうとんな。』
堂林「日本国は民主主義の国家です。国を動かすには、同じ考えを持つ同志の人数か必要です。いくら千手蛇コン様の力をお借りしても、何百万、何千万の同志を集めるのはなかなか難しい。
そこで、私、堂林に千手蛇コン様はきっかけのお力を授けられ、そのお力により、革命党代表の吉田様に引き合わせていただいたのです。
ここにおられる同志の皆様とこうやってお目にかかれているのも千手蛇コン様が私にきっかけをお与えくださいましたおかげであります。皆様は千手蛇コン様に導かれて私、堂林とこの場、同じ空間にいるのです。
現在全国約300万人の同志をも千手蛇コン様のお力でお引き合わせて頂き、私の同志として精力的にに活動していただいております。
皆様、私、堂林の同志となり、この悪魔に乗っ取られた日本国を浄化しようではありませんか。」
またまた会場に拍手が沸き起こった。涙を流している者が増えた。
堂林「そこで、皆々様の同志としてのお力をお貸し頂きたいのです。先程もお伝えいたしましたが、日本国は民主主義の国家です。国を動かすには、同じ考えを持つ同志の人数か必要です。来月4月の第一日曜日13時、本町にある【堂林平和学会】ビルの大講堂で再度『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』を開きます。同志の皆様、各人10名以上の親族・友人・知人を参加者としてお連れください。日本国、ひいては皆々様個人の幸せな未来の為でもあるのです。この国を浄化する為なのです。
もう一度申します。来月4月の第一日曜日13時、本町にある【堂林平和学会】ビルの大講堂で再度『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』を開きます。同志の皆様、各人10名以上の親族・友人・知人を参加者として必ずお連れください。
あと、千手蛇コン様のお力を維持する為、ご寄付をお願いいたします。
お手元にあるご寄付一覧にお名前・ご住所・電話番号・ご寄付の数量をお書き、合計金額の現金と共にご寄付袋に入れ、千手蛇コン様の前に置いておりますご寄付箱にお入れくださったら退出していただいて良いです。ご寄付商品は後日ご自宅に送らせて頂きます。皆様全員が退出されるまで私は皆様同志のご多幸を千手蛇コン様にお祈りいたします。」
堂林は翡翠のような数珠をさげ、千手蛇コンという仏像のようなものに恭しくこうべを垂れ、『南無南無仏仏南無南無仏仏南無南無仏仏』と訳のわからん念仏を唱え出した。
ご寄付一覧には、経典[100,000円]、壺[500,000円]、花瓶[300,000円]、印鑑[300,000円]、モンゴルのお清め井戸水500ml[50,000円]、千手蛇コン様レプリカ[1,000,000円]、お香蝋燭が[100,000円]とある。
涼子は『ぼったくりやな』と思ったが、参加者はいそいそと用紙に書き始めている。何人かは唖然として周りをキョロキョロし、どうして良いものか悩んでいるようだ。
『こらあかん』と涼子は思い、そのまま後ろのドアから出て行った。安心したのか、キョロキョロ組は涼子の後につづいて出てきた。20人程は何らかの寄付をするのだろう。
涼子はビルの外へ出て、スマートフォンを取り出し、参加を頼んできた山村 庄司に電話をかけた。
すぐに出よった。
山村『はい』
涼子「しょうちゃん、頼むわ!何じゃあれ。宗教詐欺やんか!勘弁してや!」
山村『涼子さん、すんません。なんとなく宗教絡みやとは思とったんですが、先輩にお前行かれへんねんやったら別の人間代わりに行かさんと、お前に貸した100,000円お前の親に返してもらうようになるでと言われて、お願いすんの涼子さんしかおらへんかったんです。涼子さんやったら騙されることもないしと思て。ほんますんません。』
涼子「もうええわ。分かった。しょうちゃんも変なやつと付き合うたらあかんで。100,000てあの時、新しいドローン買った分か?」
山村『そうなんです。持ってたドローンがちょっと調子悪くて、しくじったらあかん思て新しいのん買ったんですけど、手持ちがちょっと足らんで先輩に借りたんです。』
涼子「しゃーけど、バイト代300,000払ったやん」
山村『すんません。倍にしたろ思て競馬でスってしもたんですわ。欲かくとダメですね。』
涼子「しゃーないなぁ。100,000私が建て替えたるわ。毎月10,000づつ10回でええから返しや。こんどは競馬なんかせんとすぐその先輩に返しや。分かったな。」
山村『ほんますんません。何から何まで。すぐ先輩に返します。ありがとうございます。』
涼子「すぐしょーちゃんの銀行口座に振り込んだるわ。ほなな。」
電話を切った。
涼子はたばこ吸いたくなったので、分煙している喫茶店のチェーン店ドントルに入り、ホットコーヒを頼んで喫煙ルームのカウンター席の端に腰掛け、アイコスを出し、とりあえず一服した。
コーヒーをブラックで一口すすり、スマホ操作し、山村に100,000振り込んだ。
『こらえぐい宗教詐欺やな。バックに『革命党』代表の吉田 修孝もつけとるし、宗教法人の登記も[革命党]の大阪府知事もなんか絡んどる感じやな。こいつらは組織票狙いでバックアップしとんのやろ。堂林に宗教団体設立に協力することで、献金もかなりもうとるな。
この件はおとんに一回相談して、ちょっと痛い目にあわさなあかんなぁ』と思い耽っていた。
その日の夜、涼子は天知組長と一条で、ミナミの水かけ不動さん近くの『常翔』でてっちりを食べながら、今日の経緯を説明していた。鰭酒がおいしい。
天知「ひどいなぁ。法外な値段で商品買わされる宗教詐欺の典型やな。宗教法人の登録もすんで、『革命党』代表の吉田 修孝や大阪府知事も絡んどるか。ちょっと痛い目にあわさなあかんけど宗教は難しい。
大阪府知事は萩原が再選しよったな。大阪府民は何考えて萩原に投票すんねんやろ。他にろくなやつがおらんからかなぁ。
ほんで涼子ちゃん、その寄付は信者が自ら書き込んでお金払ろとるんやろ?お賽銭の額が多いのと同じで犯罪にはならん。詐欺を立証するのは難しいで。」
涼子「おとん。何をまっとうな人間みたいなこと言ってんねん。別に法的に立証せんでも何か痛い目にあわす方法を考えたらええんちゃうん。」
一条「そうでんな。おやじさんから正論出るとは思いませんでしたわ。」
天知「こら!一条。わしかて一生懸命生きとんのや。正論の何が悪いねん!」
一条「えらいすんません。」
涼子「まあまあ。ほんでなんかええ考えないかなぁ。信者の家族も大変なことになってるんちゃうかなぁ。信じてる本人はしゃーないっちゃしゃーないけど。周りの人らは大迷惑やで。」
一条「そうでんな。その【堂林平和学会】の堂林いう宗主の本音が表沙汰になったら信者も目冷めるんちゃいますか。それに『革命党』代表の吉田 修孝や大阪府知事の萩原らとの本当の関係性も証拠掴めればまとめて叩けますんやけどなぁ。」
涼子「まずは堂林の日々の動向を調べるのが先やな。そっからなんかチャンスが出てくるかもしれん。」
天知「そやな。涼子ちゃんの言う通りや。堂林の動向を調べよ。『革命党』吉田や大阪府知事の萩原らと定期的に会ってれば、そこをおさえればなんか出てくるかもしれん。あと、【堂林平和学会】の登記も調べといた方がええな。フロント企業も持っとるやろ。その登記も調べやななぁ。役員がどんなやつか知っといた方が後々役に立つかもしれん。」
涼子「お金の流れも分かればトドメになるかもしれん。」
天知「よっしゃ。明日から忙しなるでぇ。一条、雑炊頼んでくれるか?」
涼子「おとん、【堂林平和学会】の登記とってきたで。」
天知「どれどれ」
履歴事項全部証明書
名称:堂林平和学会
主たる事務所:大阪市中央区本町○-△-○
法人成立の年月日:平成15年4月○日
目的等:この法人は、宗祖千手蛇コンを本尊とし、千手蛇コンの導きに従い広宣流布のため信者を強化育成し、世界の平和の為精進するための業務及び事業を行うことを目的とする。
役員に関する事項:大阪市阿倍野区帝塚山1丁目○番○○号
代表役員 山田 太平
涼子「山田太平て平凡な名前やなぁ。帝塚山に住んどるんか、生意気な!」
一条「これで本名と住所が分かりましたな。早速、やもりに自宅に盗聴器、本町の堂林平和学会の山田の部屋に隠しカメラ付けさしましょ。薮内にはフロント企業調べさしますわ。」
涼子「おとん、若いもん何人かで山田の動向調べてもらうことできるかな。」
天知「分かった、何人かつけさそ。元探偵の白木も加えよ。」
1週間が過ぎた。
白木からは特に怪しい動きは無いと聞いてる。ほとんど自宅から出てこない。盗聴器も普通の会話しか聞こえてこない。堂林平和学会の山田の部屋もずっと山田は居なかった。
薮内から一条に電話連絡入ったのはその日の夕方だった。
薮内「一条さん、山田のフロント企業3社ありますわ。1社は天満橋にある旅行代理店ですけど、電話掛けてもつながりません。おそらく閉鎖しかけた会社を買い取ったんちゃいますか。ペーパーカンパニーですわ。2社目は東大阪にある販促物の制作会社で『株式会社ピース製作所』言うとこです。会社は存在してます。おそらく信者に売る品々を外注制作して【堂林平和学会】に販売する中抜き会社ですわ。もう1社は本町にある『株式会社ピース』いう投資会社です。おそらく【堂林平和学会】の資金隠しの会社ちゃいますか。
いずれも代表は『山田 太平』になってます。
ただ、おもろいことに『株式会社ピース製作所』の役員の中に吉田 修孝の嫁『吉田 真里』の名前がはいっています。『株式会社ピース』の役員には、吉田 真里と萩原の弟、萩原 新次の名前があります。
おそらく名前のみで実際には会社に行ったことがなさそうです。電話出た人に聞いても『そんな名前の社員はいてません。』て言われました。
周り回って金が吉田 修孝や萩原知事に渡ってんのとちゃいますかなぁ。
一条「薮内、ようやった。なんか構図が見えてきたような気がする。おやじさんと涼子さんに報告しとく。引き続き頼むで。」
薮内「分かりました。ほな引き続き何か分かったら連絡入れさしてもらいます。」
その夜、天満にある『司寿司』の掘り炬燵の個室で、天知、涼子、一条は寿司をつまんでいた。
天知「と言うことはやな、おそらく『株式会社ピース製作所』から【堂林平和学会】に納入されたまがいもんが信者に売られ、その金の一部は『株式会社ピース』という投資会社に流れ、役員報酬の名目で吉田 真里や萩原 新次に渡ってる可能性が高いな。」
一条「おやじさん。わしもそんなとこやと思いますわ。」
涼子「役員報酬が振り込まれる口座は、吉田 真里や萩原 新次や無く、実質、吉田 修孝や萩原知事が持ってるんちゃうかなぁ」。
一条さん、『株式会社ピース製作所』と『株式会社ピース』がどの銀行、支店と取引あるのか調べてお金の流れ調べられるやろか?」
一条「涼子さん。薮内にいっぺん調べさしますわ。それぞれの経理担当のパソコン乗っとるんか、銀行のサーバーに入るんかどっちかやと思います。」
天知「銀行のサーバーは危険やぞ。セキュリティがしっかりしてるから、入れても足がつく恐れがある。こっちがヤバなる。それぞれの金の管理してるやつのパソコン乗っとる方が安全やと思うぞ。」
涼子「あと、もし吉田 真里や萩原 新次に役員報酬支払われてるとしたら、吉田 真里や萩原 新次の口座の金の動きも分かれば、吉田 修孝や萩原知事にも近づけるな。」
一条「2社の口座に入れれば、吉田 真里や萩原 新次の口座に金が振り込まれてるかどうかも分かりますし、吉田 真里や萩原 新次の口座も分かります。そしたら2人の口座の金の動きも調べられると思いまっせ。」
天知「よっしゃ。一条、薮内に調べさせ。あと玉赤頼んでくれるか。」
翌日また薮内から一条に電話がかかってきた。
一条「おはようさん。今お前に電話しょうと思ってたところや。どした?」
薮内「おはようございます。そうでっか。何か一条さんとは一身一体みたいで他人と思えませんわ。」
一条「気色悪いこと言うな。ほんでなんや?」
薮内「『株式会社ピース製作所』と『株式会社ピース』も社員ちゅうか電話番1人しかいませんわ。実質山田 太平1人の会社みたいなもんですわ。昨日暇やったから2社、新聞のセールス装って尋ねたんです。近所の人に聞いたら『株式会社ピース製作所』はたまにパートのおばさん達が発送準備とかしてるみたいです。
2社とも机2つの小さな事務所で、1つは社長の山田の机やと思うんですけど留守でしたわ。もう1つの机には2社ともケバい若い女が座ってましたわ。電話番してる感じで、1人はネイル塗ってましたし、もう1人はファッション雑誌見てました。暇そうでしたで。
2社ともついでにwi-fiルーター置いてあったんで、トイレ貸してくださいて頼んで、事務所の中に入らしてもろて、転けたふりしてルーターに貼ってあったパスワード写真撮ってきました。また後日2社の近所に行って、事務所で山田がパソコン開いてたら簡単にIPアドレス盗めますわ。あとは入り放題です。
信者に売る品々の発注もお金の管理も山田1人でやってるに違いありません。他人が信用でけへん人なんでっしゃろなぁ。」
一条「薮内。お前なかなかやるやん。山田のパソコン乗っ取ったら中身全部コピーして、2社ともコピーできたら事務所と涼子さんのパソコンに転送してくれ。頼むで。」
薮内「がってん承知の助です。この件うまく行ったらボーナス頼みます。」
一条「薮内!あんまり調子乗んなよ。」
薮内「すんません。」
一条「ボーナスはまかしとけ。」
薮内「ありがとうございます。さすが一条さん!」
一条「ほなな。」
3月20日、9:00過ぎに白木から一条に連絡が入った。
白木「一条さん、白木動きましたで。自宅からアウディRS3に乗って阿倍野筋北に向かってます。今阿部野橋の辺ですわ。このまま追っかけます。」
一条「よし、分かった。東大阪の『株式会社ピース製作所』か本町の『株式会社ピース』に行きよんのちゃうか。また連絡くれ。」
白木「分かりました。逐一連絡入れます。」
一条は薮内に連絡入れた。
一条「薮内。すぐ出れるか?山田が動き出した。東大阪の『株式会社ピース製作所』か本町の『株式会社ピース』に行きよると思う。おそらく金動かしに行きよるんちゃうか。IPアドレス盗むチャンスや。」
薮内「はい。すぐ出ます。とりあえず本町方面に向かいますわ。どっちの会社に向かってるか分かり次第教えてもらえますか。」
一条「よっしゃ。わかった。どっちに行きよるか分かり次第連絡入れる。」
薮内「よろしくお願いします。ほなすぐ出ます。」
白木「一条さん。山田、おそらく東大阪の『株式会社ピース製作所』に行くんちゃいますかな。今谷町筋、中央大通り右折しましたわ。」
一条「よっしゃ。分かった。薮内に向かうよう連絡入れる。合流してくれ。」
白木「了解です。」
一条「薮内。今どの辺や?山田、東大阪の『株式会社ピース製作所』に向かってるみたいや。すぐ向かってくれ。白木がつけとるから白木と連絡取り合って合流してくれ。」
薮内「分かりました。今、阿波座のへん走ってますんで10分遅れぐらいで合流できると思います。また連絡します。」
薮内「白木さん。今どのへんですか?」
白木「今深江橋のあたりや。お前は?」
薮内「今本町あたりです。東大阪の荒本に『株式会社ピース製作所』はあります。事務所の横に小さな倉庫がありますから、そのへんに車止めて待っといてもらえますか?」
白木「分かった。」
山田のアウディRS3は予想通り荒本の『株式会社ピース製作所』の倉庫前の駐車場に止め、事務所に入って行った。
10分程で薮内は白木と合流した。
白木「山田、事務所に入って行きよった。」
薮内「了解です。」
薮内は白木の車の後部座席でノートパソコンを開いた。『株式会社ピース製作所』のwi-fiに接続し、カチャカチャとキーボードを操作している。
薮内「山田のパソコンに入れましたで。今振り込み予約してますわ。銀行取引も乗っ取れましたで。これからはIPアドレスも分かりましたんでどっからでも山田のパソコンに入れます。」
白木「お前すごいな。やるやないか。」
薮内「データ、事務所と涼子さんのパソコンに送っときます。」
白木「よっしゃ。成功や。おそらく山田この後、本町の『株式会社ピース』にも行きよるやろ。薮内、頼むで。
薮内「了解です。あと、白木さん。倉庫の中ちょっと調べといた方がええんちゃいますか?」
白木「そやな、信者に売るまがいもんがあるやろから写真撮ってくるわ。」
白木はそう言うと車から出て倉庫に入って行った。10分ほどで車に戻ってきた。
白木「セキュリティってもん何もないな。入り放題や。防犯カメラも無いし、シャッターも開けっぱなしや。倉庫の中は、信者に売りつける商品でいっぱいやったわ。気持ち悪るい銅像みたいなやつとか壺・本・水や蝋燭があった。盗られてもええような安もんばっかりやろ。写真も押さえた。箱に送り状が貼ってあったからそれも写真押さえといた。納入業社がこれで分かるわ。」
1時間ほどで山田は事務所から出てきた。
予想通り山田は『株式会社ピース』の近くのコインパーキングに車を止め事務所に入って行った。薮内は同じようにwi-fiに接続し、山田のパソコンに入り込むことに成功し、データーを盗み事務所と涼子のパソコンに送った。IPアドレスもコピーしておいた。
涼子はこの日出勤日だ。午後7時半頃お店の更衣室に向かった。
涼子「邪魔するでー。」
とんちゃん「邪魔すんねんやったら帰ってー。」
涼子「何でやねん。今日はお仕事や。」
とんちゃん「愛ちゃん。おはよう。今日もがんばろー。」
涼子「はいはい。がんばろな。夜は長いでー。」
涼子はドレスに着替え、化粧直しをしてフロアに出ると、大ママが近づいてきた。
大ママ「愛ちゃん。今日8時半頃久しぶりに萩原知事と『革命党』代表の吉田 修孝さん、あと山田さんと言う方の3名様でVIPルーム予約入ってるから、愛ちゃんもついてくれるか。9時頃になると思う。」
涼子「大ママ。了解です。VIPルームチェックしときますわ。」
涼子は思った。『ラッキー。ねぎかもが集合や。』
早速VIPルームのチェックがてら盗聴器を仕掛けた。
涼子は店の外に出て天知に電話を入れた。
涼子「おとん。萩原知事と吉田 修孝、山田、店に集合や。VIPルームに盗聴器仕掛けたで。今日はええ日や。ついとるわ。」
天知「ほんまか。そいつらの悪事分かるかもやな。涼子、慎重にな。」
涼子「分かった。」
涼子はフロアに戻り、チーママの席にヘルプで入った。工務店の組合の社長連中の集まりの席だった。とんちゃんもヘルプで入っている。工務店の社長連中の割には上品に飲んどる。人手不足やら高齢化、材料高騰云々の愚痴が飛び交ってる。
涼子は相手していて思った。『やっぱり大阪は中小企業の町やなぁ。東京では10億以上の高層マンションがバンバン売れてる噂聞くけど、なんかこいつらしょぼくれて、下ネタ話してバカ笑いする元気もなさそうや。ボトルも一番安いやつやし、泡もんなんか入れる気配さえ無い。』
そうこうしてる内、大ママから声がかかった。「チーママ、愛ちゃんVIPにお願い。」
涼子「はい、すぐ入ります。すみません。ごゆっくり楽しんでいってください。」
挨拶すませ、涼子はチーママと一緒にVIPルームに入った。
山田「今日はええ話ができました。大ママピンドン抜こか?きみらの分もグラス持ってき。」
大ママ「ありがとうございます。愛ちゃん頼みます。」
涼子「はい。すぐご用意いたします。」
VIPルームから出てこのお店では一番頼りになる黒服の香山さんにその旨伝え、すぐにセッティングされた。山田は慣れた手つきでポンと言う音と共に栓を抜き、萩原知事から全員のグラスに透き通ったピンク色のシャンパンを注いだ。
『カンパーイ』と皆が山田の発声に唱和しシャンパングラスに口をつけた。
山田「知事、吉田さん選挙楽しみでんなぁ。」
参議院選挙が2ヶ月後、府議補欠選挙が再来週に控えている。
吉田「いくら与党の民主発展党が弱なってきている言っても油断は禁物です。さっきも言いましたけどこの参議院選挙では50議席は取りたいんですわ。山田さん。頼みますよ。」
萩原「府議補欠選挙も民主発展党・公民党公認の田内が立候補しとるさかい油断はできませんわ。」
山田「まあ任しといてください。バックアップしますから。難しい話はこれくらいにして楽しみましょ。」
あとは、何やかんやと楽しく話が進みお開きとなった。
涼子はVIPルームの片付けの合間に盗聴器を取り出し、壁紙を綺麗に戻した。
その後、3組ほどのヘルプを渡り店じまいとなった。
涼子はとんちゃんらの『たこ焼き食べに行こ』の誘いを『野暮用あんねん。ごめん。今日は帰るわ。』と断り、タクシーで急いで自宅マンションに帰った。
ドアを開けるとやっぱり真っ暗で昔のレゲェの王様と言われたなんとか言う題名の音楽が流れ、ココナッツの匂いのお香の香りが充満していた。やもりがまたベランダから勝手に部屋の中に入っているのだろう。やもりはどんな所にも侵入できる技の達人だ。このレゲエとココナッツの香りのお香はやもりの機嫌がよく、もうけ案件があると言うことだ。
「やもりー!」と呼びながらChristian Louboutinのハイヒールを脱ぎリビングに入ると真っ暗な中に二つのギョロッとした目玉だけローテーブルの近くで光っていた。「また真っ暗やん。もう」と文句を言いながらダウンライトのスイッチを点けた。ニヤッと笑ったやもりの顔がはっきり見えた。「ええ感じか?」と聞くとコクコクと頷いた。「はよ聞こ!」といってスピーカーモードで録音再生ボタンを押した。
初めの頃はご機嫌伺いや、身体の状態の心配仕合いとかどうでもよう話だったが、核心に迫った会話がやっと始まった。
吉田「今度の参議院選挙『革命党』としてどうしても50議席は取りたいんです。萩原知事も応援よろしくお願いします。」
萩原「もちろん。党として国政にももっと力入れていかなあきません。大阪は地盤が強いですけど、大阪以外はまだまだですから。特に東京都の議席を増やしたい。
あと、再来週の府議補欠選挙も絶対落とすことはできません。」
山田「知事、中央区の府議補欠選挙は信者5万人ほど住民票、今年頭に中央区に移さしています。移動先も信者の住所です。中央区の信者5千人に加え5万人の票が入ります。5万5千票追加であれば大丈夫でしょ。
参議院選挙も『革命党』さんとこが拮抗している選挙区に信者の住所移す用意してます。総勢70万人は大丈夫と思てます。吉田さん、リスト頂ければ早急に移転させますわ。
あと、実弾吉田さんに2億、萩原さんには5千、現金でご用意いたします。領収書は要りません。なんせうちは宗教法人ですから金の動きは表沙汰にはなりません。加えて、毎月2社の役員報酬合わせれば何とか選挙資金足りますやろ。信者以外の対応はお二人に頑張ってもらうしかありませんけど。
その代わり信者の家族や近親者のクレーム、なんとか抑えるようご協力お願いしますで。」
吉田「ありがたい話や。クレームがあっても警察は民事不介入やし、知事からの宗教法人お墨付きやから大丈夫でしょう。」
萩原「山田さんには感謝いたします。クレームは無視しとったらええんですけど、あんまり無茶な信者からの剥ぎ取りはあきませんで。あんまり無茶したらどっかの週刊誌やらから根も歯もない記事が出てやりにくなりますで。」
山田「その辺は弁えています。ご心配には及びません。」
萩原「それならよろしいんですけど。」
山田「実弾は政党本部と府庁に来週月曜日、昼一に側近の者に持っていかせます。秘書の方にはお伝えください。」
吉田「分かりました。秘書に伝え私の所に持って来ていただけるよう手配しときます。」
萩原「私のところも、知事室にすぐ持って来れるよう手配いたします。よろしくお願いします。」
吉田「選挙区のリストは来週中にでも山田さんにメールさせていただきます。本部の吉田さんのパソコンでよろしいか?」
山田「本部はなんかあったらまずいので、『株式会社ピース』の私のアドレスに送っていただけますか。これ『株式会社ピース』の私の名刺です。アドレスも書いてあります。こっちに頼みますわ。ここやったら私しか見ることありませんので。」
吉田「承知いたしました。何卒表沙汰にならんように慎重にお願いします。」
山田「あと、お願いがありますんやけど。4月の第1日曜13時から本町にある【堂林平和学会】ビルの大講堂で『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』を開くんですけど、ご両名様に講演お願いできませんでしょうか。今回は800人以上の参加者を見込んでいます。大儲けのチャンスです。お二人の講演があれば、信者に、まがいもんが飛ぶように売れる確率がグンとUPします。なんとかお時間頂けませんでしょうか。」
吉田「山田さんにお願いされたら断れませんがな。是非講演させていただきます。」
萩原「私も講演するのは吝かではありません。承知いたしました。」
山田「ありがとうございます。これでまたウハウハですわ。11時半頃打ち合わせかねて食事でもしましょ。」
吉田「承知いたしました。11時半ですな。行かせてもらいますわ。」
萩原「私も11時半に行かせてもらいます。」
山田「よろしくお願いします。ほな、綺麗どころ呼んで楽しみましょか。」
この後は涼子がVIPルームに入ってからの会話となった。
涼子「やったな、やもり。研修会前日の夜に大講堂と控室に使う部屋に隠しカメラ仕掛けてくれるか。
何ヶ所からか映るように、音声もな。準備してると思うから、控室も分かると思う。」
やもり「了解です、涼子さん。」
涼子「その前に、この日曜の夜に『革命党』本部の吉田の部屋と府庁の知事室にも隠しカメラ設置が先や。ゲンナマのやりとりの証拠押さえやなな。」
やもり「そうですね。そっちが先ですわ。まかしといてください。」
涼子「明日、朝一でおとんにこの音声と隠しカメラの件報告しとくわ。私もう風呂入って寝るからやもり帰ってくれる。」
やもり「はいはい。おやすみなさい」と言ってベランダから出て行きよった。
『どっから出んねん。玄関から帰ったらええのに。まともに出入りでけんようになっとんな。』
翌日の朝
涼子「おとん。やったで。事務所に音声データ送っといた。聞いといて。今からそっち向かうわ。」
天知「わかった。一条と聞いとくわ。待ってるで。」
涼子はマンション地下駐車場の真っ赤なポルシェ911カレラターボに乗り込むとゴワン!!というエンジン音を鳴らし天神橋の天知組事務所に向かった。
天知、涼子、一条は事務所の応接セットに座り今後の対策を練っていた。
天知「こいつら、選挙に勝つためやったら何でもありやな。」
涼子「結局被害者は信者やその家族や。まがいもん買わされて、そのお金が選挙の軍資金や、山田の私服を増長しとる。」
一条「おやっさん。こら、こいつら痛い目に遭わさなあきませんなぁ。」
天知「ほんまや。やもり次第で成否がかかっとる。まあ、やもりやったら上手くやりよるやろ。ほんでや、ゲンナマのやり取りの証拠おさえたら、その分そっくり頂こやないか。」
一条「吉田と萩原からどうやって出さしましょ?」
天知「吉田はわしらの顔知らんやろけど、萩原は1回会っとるからなぁ。逆ギレして恐喝罪で訴えられたら面倒やで。まあどっちにしても来月の第1日曜の【堂林平和学会】の研修会の盗撮が成功してから、その内容と合わせてからの追い込みになるやろ。まずはどんだけ証拠集めれるかにかかっとる。」
一条「そうですな。あと薮内に堂林平和学会・株式会社ピース製作所・株式会社ピースに合わせて吉田 真里や萩原 新次の口座の金の動きも洗わせています。白木には、まがいもんの納入業社にまがいもんの納入価格やどんな商品かも調べさせてます。この辺が揃えば萩原も逆ギレできませんやろ。弟まで迷惑かかるのは嫌でしょうからな。」
天知「そやな。そこまで証拠揃えれたら何にも言えんやろ。あと、涼子がとどめ刺したら、なんぼ何でも萩原の政治生命も終わるやろから力も無くなるしな。」
涼子「山田はどないする?」
天知「そやなぁ。金の動きと、信者の住所移転による選挙違反、まがいもんの真実の証拠が揃ったら出たとこ勝負で追い込みかけてみるか。上手いこといったらなんぼか出しよるやろ。こいつも涼子のとどめで【堂林平和学会】も存続できんようになるやろ。薮内と白木の報告待ちやな。」
翌週の月曜日13時過ぎ、『革命党』本部の吉田の部屋と府庁の知事室の盗撮カメラがゲンナマの引き渡しをしっかり撮影していた。吉田、萩原が直接受け取り、ゲンナマを確認しているところまでしっかり撮影されていた。やもりの仕事は完璧だ。引き渡しに来たのは涼子が行った【堂林平和学会】の研修会の時にいた、黒スーツの男女だった。吉田の方は男性、知事の方は女性の方が訪れていた。
その日の夕方、白木が天知組事務所にまがいもんの報告に来た。
白木「これらが、まがいもんのリストです。」
リストには2月納入分として
経典:セントー大阪印刷製本株式会社 納入数5,000冊 印刷製本代金¥1,500,000(単価¥300)
壺:深江陶磁器株式会社 納入数2,000個 商品代金1,000,000(単価¥500)
花瓶:深江陶磁器株式会社 納入数2,000個 商品代金1,000,000(単価¥500)
印鑑:印章堂 納入数3,000 商品代金 印章堀代含め¥500,000(単価1,000)
モンゴルのお清め井戸水500ml:株式会社生野商店 納入数5,000本 商品代金¥400,000(単価¥80)
お香蝋燭:株式会社純香道 納入数5,000個 商品代金¥250,000(単価¥50)
千手蛇コン様レプリカ:株式会社津守ホビー製作所 納入数1,000個 商品代金¥3,000,000(単価¥3,000)
とあった。
涼子「完璧まがいもんやな。なにがモンゴルのお清め井戸水や。ただの水やん。ほかもそやけど。ぼったくりもええもんや。」
白木「請求書の控えもコピーしてもらいましたんで、証拠になりますやろ。」
一条「白木、よう調べてくれた。ようやった。」
天知「白木、ご苦労さんやったなぁ。」
白木「ありがとうございます。」
天知「あとは薮内の報告待ちやな。」
一条「薮内に進捗聞いてみますわ。」
一条は翌日薮内のマンションを訪れた。薮内から『大体資料揃いました。』と昨日夜電話を受けていた。
一条「どや、薮内。裏取れたか?」
薮内「はい。『株式会社ピース製作所』からは吉田 真里に役員報酬で毎月800,000円振り込まれてます。『株式会社ピース』からは吉田 真里に役員報酬で毎月800,000円、萩原 新次に毎月800,000円振り込まれてますわ。吉田 真里と萩原 新次の口座は分かりましてんけどまだ金の動きは分かりません。誰がモバイルバンキング動かしてるか分かれば調べられると思うんですけど。
あと、昨年の年末から1月にかけて中央区の住所移動のデータハッキングして調べたんですけど、同じ住所に5人〜15人位移動してる人間が50,000人ほどいてます。
移動は色んな都道府県からで、移動先は5,000人ほどの中央区在住の家庭です。
これ移動者の住所・名前、移動先の住所・名前のリストです。これ証拠になりますやろか?」
一条「なるやろ。どう見ても不自然や。府議補欠選挙に関係してるとしか思われん。」
薮内「あと、山田のパソコンに吉田から選挙区のリストメール来てました。」
一条「参議院選挙の為、住民票移す先の選挙区やろ。今の分全部事務所のパソコンに送っといてくれるか。あと、薮内。おやじも言ってたように、銀行のハッキングはあとあと危険が伴うから、とりあえずこの分で行けるかどうかおやじとも相談してみるわ。吉田 真里と萩原 新次の口座の動き調べるんはちょっと待っといてくれ。」
薮内「そうですね。分かりました。『株式会社ピース製作所』と『株式会社ピース』の口座の動きは、山田のパソコンの画面をコピーしただけですんで、銀行には入っていませんので安心してください。」
一条「薮内、ご苦労さん。ほな事務所に戻るわ。」
薮内「分かりました。一条さん、例のボーナス頼みますよ。」
一条「分かった、分かった。」
一条は財布から10万抜き出し、薮内に渡した。
薮内「おおきに。一条さん。ちょっと遊んできますわ。ヒヒヒ。」
一条「勝手にせい!犯罪はあかんぞ。ほなな。」
薮内は少女趣味があるから危なっかしい。
天知、涼子、一条は道頓堀のはった重の個室ですき焼きを食べながら、今日までの裏どりについて話し合っていた。
天知「こんだけ証拠集まれば追い込みかけれるやろ。あとは【堂林平和学会】ビルの大講堂で『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』の時、山田、吉田と萩原の控室での会話と、吉田、萩原の講演を盗撮することで、堂林平和学会と革命党との親密さを証明できるやろ。」
涼子「そやな。あとまがいもんの証拠もあるし、両方懲らしめれるな。」
一条「そうですな。おやじさん。今回も全員集めてたたきますか?それとも個別に。」
天知「そやな。個別にたたこか。萩原とは2回目やし、山田はどう出てきよるか分からんから、個別の方がたたきやすいと思うで。」
一条「わしもそう思てました。まあ、研修会待ちましょか。」
天知「そや。焦りは禁物やで。一条、肉追加頼んでくれるか。」
ついに『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』の日が来た。
天知、涼子、一条は事務所でモニターを睨みつけていた。
控室では豪勢な幕内弁当を食べながら山田、吉田と萩原は談笑していた。
山田「今日は吉田さん、萩原さんよろしくお願いいたします。今日は山田や無く、堂林 清浄ですんで、そこんとこよろしくお願いします。カモが約1,000人集まる予定ですわ。人間ていうのは弱いもんです。何かに縋ってな生きていかれへん人間がぎょーさんいてます。その人たちを私、堂林 清浄がお救いしておるのです。その信心に付け込んで、私ら強い人間が潤うんですわ。もっともっと大きくして行きますんで、お二人のお力添えよろしくお願いいたします。その代わりといったら何ですけど、選挙の時は、革命党の組織票はお任せください。」
吉田「山田さん、いや堂林 清浄さん。こちらこそよろしくお願いいたします。選挙は数です。どんな手段を使っても、数さえ多ければ勝ちの世界です。政治とはそういうもんです。一度勝ってしまえば、公約はどうでもええんです。在って無いようなもんです。信者300万人の堂林平和学会さんの組織票は大変ありがたい。今後ともよろしくお願いいたします。」
(信者300万人というのは大嘘で、本当は30万人程。研修会に来た総人数が300万人程だ)
萩原「吉田さん。講演であんまり極端な事言ったらあきませんで。あくまで【堂林平和学会】さんの教えを尊重し、応援してる程度に抑えといてくださいね。」
吉田「分かってます、分かってます。知事は慎重やから。まあ、一回万博埋め立てで痛い目に遭われてますからなぁ。慎重になるのは分かりますけど。」
萩原「吉田さん。ちょっと言ってええことと悪い事おまっせ。あんたも叩けばホコリでまっしゃろ。」
山田「まあまあ。内輪揉めはやめときましょ。未来のため手握り合わな。」
コン、コン、コンとノックの後、控え室に黒スーツの男性が入ってきた。
「堂林 清浄様。そろそろお時間ですのでよろしくお願いいたします。」
山田「よっしゃ。分かった。吉田さんも萩原さんも講演1分前ぐらいにこの男がお呼びに来ますんでよろしくお願いいたします。萩原さんの講演からとなる予定です。」
萩原「分かりました。ここでお待ちしてたらよろしいんですな。」
山田「はい、あとモニターに研修会の様子見れるようになってますんで見といてください。では。」
吉田「堂林 清浄さん。頑張ってきてください。」
山田「ありがとうございます。頑張ってきますわ。」とニヤッと笑って控え室から出ていった。
天知「吉田と萩原、あんまり仲良さそうや無いな。結局主導権取ったもん勝ちやからお互い信用しとらんな。」
涼子「政治家ってそんなもんやろ。自分の為やったら平気で他人裏切りよる。嘘ついてでも他人蹴落として上りつめようとする人種やからなぁ。」
一条「あんな人生送って楽しいんでっしゃろか?」
天知「ああいう人種は支配欲の塊やから、地位が全てで、それが楽しいと思えんねんやろな。わしゃああーはなりた無いわ。」
涼子「親父からそんな言葉聞けると思わんかったわ。」
天知「涼子。わしも一生懸命生きてるっていつも言うてるやろ。真面目に正直に生きるのが人生を豊かにするっちゅうこっちゃ。」
涼子も一条も後に続く言葉が見つからんと、ポカンと口を開け天地を見ていた。
黒スーツの「堂林 清浄教祖の登壇です。皆様拍手でお迎えください。」
参加者の割れんばかりの拍手に迎えられ堂林 清浄は威風堂々と壇上に現れた。相変わらずノンスタの石田のような服装だ。
この前の研修会と同じように、真ん中には、1mぐらいの高さの飾り彫りがなされた木製の台の上に、手や蛇の頭、狐の顔などが飛び出た花崗岩っぽい仏像と言えるのか、気持ちの悪い置き物が、みみずが這ったような文字が書かれた、周りに金糸で飾り刺繍が施された掛け軸のような物が掛けられた前に金色の座布団の上に鎮座していた。
その前には10対の大きな真っ赤な蝋燭に炎がゆらめいている。ほのかな甘い香りが漂っている。
その左右には、長机の上に教典のような本、壺や花瓶、木の箱に入った印鑑、見たこともない透明のペットボトルの水、壁に掛かっている掛け軸・仏像のような物のミニチュア版、真っ赤な蝋燭が10個程入った木箱などが並んでいる。
壇上の左右にはこの前と同じ、黒いスーツを着こなした30〜40代であろう凛々しい感じの男女各一人づつがパイプ椅子に腰掛けている。
堂林は低音の響の良い心地良い声で
「信者の皆様。本日は『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』にご参加頂きありがとう。
皆様は、千手蛇コン様に選ばれ、導かれこの場所におられるのです。まずは、ここ何十年も歪んだ政治に国民の方々が振り回されてきたこの日本国の立て直しに皆様のお力を頂きたい。
現在政権を握っている民主発展党の党首『田所 甚兵衛』を先頭に、民主発展党党員は悪魔に魂を売ったとしか思えない政治をしております。この悪魔達を政治の世界から排除し、千手蛇コン様のお教え『国民の皆様全員が心穏やかに、家族・親族・友人、隣人達と心おだやかに、幸せに生活できる世の中』にしようではありませんか。皆様は、千手蛇コン様に選ばれ、導かれた人達です。千手蛇コン様のお教えを実行する為に、あなた方の行動が必然、必要なのです。選ばれしあなた方の行動こそが、この日本国の国民を幸せにするのです。」
再び割れんばかりの拍手が巻き起こった。
「堂林平和学会では、貧困家庭のお子様の為、子供レストラン、託児所、学習塾等を無償で設営致しております。まずは、小さな事から、困ってるご家庭の一部となりますが、今後この活動も全国的に広めて行きたいと考えております。まずはこの国の一番の問題、少子化です。少子化が今加速度的に進んでいますが、このままだと、日本国民が消滅し、日本国が成り立たなくなります。この問題を少しでも解決できるよう、貧困家庭でもお子様を育てやすい援助としてこの活動を続け、拡大して行きます。」
涼子「堂林平和学会は本当にこんな活動してんのかな?」
一条「白木からも薮内からもこんな話は聞いた事おまへんけどな。」
天知「こいつ、根っからのほら吹きちゃうか。」
まだ山田の演説が続いている。
「堂林平和学会は千手蛇コン様を本尊とした宗教団体でありますが、宗教団体の活動だけでは日本国を救うことができません。そこで、千手蛇コン様から『革命党の吉田と萩原を我に導いておる』とのお告げがありました。『政治を利用し、日本国を救うのだ』とも。そこで、私、堂林は革命党の吉田様と萩原様とお会いし、我が団体『堂林平和学会』の事をお話し、ご説明いたしました。吉田様、萩原様共に共感していただき、是非、共に日本国を心穏やかに、家族・親族・友人、隣人達と心おだやかに、幸せに生活できる国に変えましょう。とご賛同いただき、協力体制が確立いたしました。
この研修会に、革命党の党首、吉田様と大阪府知事の萩原様に講演していただくようお願いし、実現に至りました。まずは萩原大阪府知事に講演お願いいたします。萩原大阪府知事よろしくお願いいたします。」
萩原が登壇してきた。なんか神妙な顔つきだ。
萩原「皆様、大阪府知事、萩原でございます。今、堂林教祖様のお話しをお聞きしていましたが、本当に素晴らしいお考えだと思っております。是非、堂林様と協力体制を組み、私の立場からはまず大阪府民の皆様と言うことになりますが、少子化を食い止め、府民の皆様が心穏やかに、幸せに日々暮らしていけるよう、誠心誠意努力いたす所存です。是非とも信者の皆様のお力添えお願いいたします。」
あまり中身のない簡単な話で終わり、お辞儀をし、堂林と握手し、萩原は降壇していった。
天知「萩原は慎重やな。あんまりいらん事言いよらん。」
堂林「萩原知事。ありがとうございました。続きまして、革命党の党首、吉田様に講演いただきます。」
萩原と違って、吉田はニコニコしながら手を振り登壇し、まずは堂林と両手で握手をし、ハグし、参加者に向かってお辞儀をし、大きな声で話し出した。
「皆様、お幸せですか?堂林教祖様について行けば、益々お幸せになる事間違いございません。堂林教祖様とは、約3年ぐらいのお付き合いですが、誠に堂林教祖様に尊敬の念に堪えません。本当にお考えが素晴らしい。色々堂林教祖様から経緯等をお聞きしておりますが、千手蛇コン様のお導きからのご努力誠に素晴らしい。私も千手蛇コン様から導かれているとお聞きし、堂林教祖様とお近づきになれたのも必然なんだなぁと感謝致しております。堂林教祖様から先ほどお話しがありましたが、私も現在政権を握っている民主発展党の党首『田所 甚兵衛』を先頭に、民主発展党党員は悪魔に魂を売ったとしか思えない政治をしております。今日本国、国民の多くの皆様はこの悪魔に魂を売った政治家達に裏切られているのです。大企業、富裕層ばかりに目が行き、優遇し、その見返りに現在の地位を確固たるものにしようと躍起になっております。その他の多くの国民の皆様の事はこれっぽっちも考えた政治をしていません。選挙前になると、耳障りの良い政策を言っていますが、公約というものは言った者勝ちで、守る必要が無いのです。責任が無いのです。皆様、耳障りの良い政策の公約に騙されてはいけません、騙されてしまうので民主発展党が政権を握り続けているのです。悪魔は人を騙すのに長けているのです。ご出席の皆様は騙されないでください。このままでは貧富の差が益々開き、一部の富裕層のみが幸せな生活を送れ、その他の大多数の日本国民が貧困生活を強いられます。こんな政治で良いのでしょうか?皆様。私、革命党の党首、吉田は堂林教祖様の教えに従った政治を、命をかけてでも実行して行きます。何卒、『堂林平和学会』『革命党』にお力をお与えください。必ず皆様のみならず、日本国民の皆様に平等な幸せを感じられる政治を行います。何卒、何卒お力を!本日はこの機会をくださった堂林教祖様に感謝いたします。」
吉田は堂林の手を握り、上へ上げ大声を張り上げた。
「堂林教祖様、バンザーイ!」
出席者のほとんどから、万歳三唱が起こった。
「ありがとうございました!」と大声を張り上げながら吉田は降壇していった。
涼子「えげつないなぁ。どうやったらこんな言葉が出てくんねんやろ。その困ってる人々からこれでもかぐらいむしり取っとる奴らが。頭くる!」
天知「政治家ってすごいなぁ。わしもまあ世間から見たら良い人間ちゃうけど、ここまで悪なれるっておしっこちびりそうになったわ。」
堂林「革命党党首、吉田様。誠にありがとうございます。私も… 」と話しかけた時、さっと壇上に上がったフードを被り、右手に刃渡り約30cmぐらいのサバイバルナイフを持った若者がささっと堂林に近づき、堂林の胸ぐらを掴み、胸に2回、腹に1回サバイバルナイフを突き立てた。一瞬の出来事だった。堂林は『グェ』とカエルみたいな声を上げその場に崩れ落ちた。真っ白なスーツはみるみる吹き出る血で真っ赤に染まっていった。会場からは悲鳴が沸き起こった。
若者は堂林の死を確信したのか、サバイバルナイフをゴトッと落とし、呆然と立ちすくんでいた。黒スーツの男が若者を引き倒し、押さえ込み「救急車と警察。誰か呼んでください!」と叫んだ。参加者は出口に殺到し、逃げるのに必死だった。黒スーツの女性が震える手でスマホを操作し、警察と救急車を至急お願いします。と、震える声で訴えていた。
控え室で見ていた吉田と萩原はしばらく固まっていたが、萩原が「吉田さん。出ましょ。こらまずい。」
吉田もコクコクと頷き、控え室から逃げ出ていった。
一条「おやっさん、涼子さん。えらいことになりましたなぁ。」
涼子「なにが起こったんや。あいつ誰や?」
天知「おそらく堂林にそうとうな恨みがあったんやろ。身内に信者がおって、財産根こそぎやられたんちゃうか。」
その夜、ニュース番組はこの件ばかりだった。
内容によると、若者は28歳のニートで、西口 龍弥という名前。母親が堂林平和学会の信者としてずっぽりはまってしまい、全財産をお布施として収めてしまい、加えて、借りれる所から借りまくり、その分まで収めてしまった。家には千手蛇コンのレプリカや水、お香蝋燭、壺、花瓶等が山のように積み上げられていたそうだ。家にはローン会社からの取り立てや、お金を借りた親類、友人・知人からの催促の電話や家にまでも押しかけてくる者もいたらしい。それを苦に、『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』の前日、経営している工場の中で父親は首を吊った。それでも母親は翌日『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』に参加すると言って家を出ようとしたところを龍弥は母親を刺し殺し、その足で『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』会場に忍び込んでいた。機会を伺い、壇上に上がり、堂林を刺し殺したということだった。吉田と萩原が講演したことは何処の局も放送していなかった。
ニュース番組では、知的そうな女性タレントが「犯行は許されるべきものでは無いけれど、ある意味この若者も被害者ですよね。」と訳知り顔で語っていた。
天知「こらえらいことになったなぁ。堂林死んでもうたら叩かれへんやないか。何してくれてんねん。」
涼子は思った『出た。親父の本性。悪やなぁ』
一条「おやっさん。こら死人からは取れませんで。どうしようもおまへんな。」
涼子「死んでもうてんからしゃーない。堂林、いや山田は諦めやなしゃーないな。」
天知「そやな。あとは萩原と吉田からむしり取ったる。まずは吉田からいてもうたろ。一条、またピッツホテルの最上階のスイート予約入れてきれるか。早い方がええ。今週中に取れたら取ってくれ。あそこは前も使ったがワンフロアの部屋で、地下駐車場から直通エレベーターあるから誰にも会わず部屋まで来れるから便利や。」
一条「分かりました。交渉してみますわ。」
一条はその場でピッツホテルに電話を入れ、交渉している。
一条「分かりました。そしたら今週金曜日午前10時から8時間使えるようお願いいたします。」と言って電話を切った。
一条「おやっさん。ビッツ今週金曜日午前10時から8時間予約入れました。最短で8時間予約らしいですわ。」
天知「よっしゃ。ほたら薮内に萩原に成り済まして吉田に証拠の動画や画像の要所要所切り取った動画作らせて、『こんな動画が送られてきた。相談したいので、今週金曜日午前10時に相談がある。場所はビッツホテルの最上階のスイート。駐車場から直行のエレベータできてください。電話は盗聴されてるかもしれんのでしないでください。』と送らせてくれ。」
一条「分かりました。前回同様、吉田が萩原に返信しても内容だけコピーして瞬時に消すように言っときます。」
天知「よっしゃ。それで行こ!しかし、念には念をや。吉田と萩原の部屋の監視カメラの映像注意深く若い奴らに見さしとくんと、当日駐車場の見張りで3人ほど張らしとこ。警察にチンコロせんとも限らんしな。あと薮内にも警察の情報もハッキングさせといてくれるか。」
この慎重さが天知がここまで上り詰めた要因の一つだ。イケイケだけでは命落とすか、ムショ行きという顛末の奴らを何人も見てきたおかげだ。
薮内から一条に電話が入った。
薮内「一条さん。萩原に成り済ましたメールの返信が来ました。10時はちょっと無理やけど、11時なら行けるという返事です。11時でかまいませんのでお待ちしてます。と吉田に送ったら、分かりました。と返事きました。成り済ましたメールは全て消去してます。萩原は何にも知らんはずです。」
一条「よっしゃ。分かった。11時やな。知事室今日は萩原はいてへんかったから、メールは見てないはずや。ようやった。ご苦労。」
一条「おやっさん。吉田、金曜日11時にビッツに来ますわ。」
天知「よっしゃ。2億とったろ!」
金曜日11時すぎ、駐車場の見張りの一人から一条に連絡が入った。
「吉田来ました。今車から降りてエレベーターに向かってます。」
一条「了解。分かった。吉田一人やな。」
「はい。運転手は車で待機してます。吉田一人でエレベーターに向かってます。あ、今エレベーターに乗りました。」
一条「分かった。」
コンコンコンとノックの音。
一条がドアを開けに向かった。ドアを開けると硬い表情の吉田が立っていたが、一条の顔を見るなりエレベーターの方へ逃げようとした。
一条「逃げたらマスコミに堂林平和学会とおたくの関係の証拠流しますで。よろしいんか?」
吉田「そら困る。ただでさえ今堂林平和学会の悪事が表沙汰になろうとしている時に私との関係が世間にバレたらまずい。」
一条「そうでっしゃろ。まあ中へ入んなはれ。何もとって食おうと思てませんがな。」
吉田はうなだれ無言で部屋に入っていった。一条はソファーに座るよう吉田に促した。しぶしぶ吉田はソファーに身を委ねた。対面のソファーには、天知がドッカと座っている。ソファの後ろには一条とガタイの大きい頭髪も眉毛も無い一目でまともな人間では無いという印象の天知のボディガード役石田という男が立っていた。
吉田「おたくらどちらさんですのん?萩原さんは?」びくびく吉田は尋ねた。
天知「まあ、あせらんと。まあコーヒーでも飲んで落ち着いて。おい!」と石田に目配せすると「はい」と石田は返事をし、コーヒーを1つ淹れ吉田の前に置いた。
天知「それでは吉田さん。とりあえずこれ見てもらえましょか。一条。」
一条「はい。」
一条は部屋に備え付きの100インチのTVモニターを付け、デザリングしているパソコンの動画再生のキーを叩いた。モニターには黒スーツの男が『革命党』本部の吉田の部屋でゲンナマの引き渡しをしているところの動画が流れた。吉田が直接受け取り、ゲンナマを確認しているところまでしっかり流されていた。
天知「この黒スーツの男、堂林平和学会の堂林の側近ですわな。現金で2億。しっかり写ってますなぁ。」
吉田「んんんんん。これどうやって…。」
天知「それは関係おまへん。堂林の側近から吉田はんが2億受け取ってる事実。これが真実ですわ。」
その動画の後、『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』の控え室の動画、会場での吉田の講演の動画が流れた。
天知「あと、これ見ておくんなはれ。」
と、A4用紙10数枚ほどの紙を吉田に差し出した。
用紙には代表者が山田である「『株式会社ピース製作所』『株式会社ピース』の銀行口座から吉田の妻、吉田 真里に役員報酬名目で各毎月800,000円、合計1,600,000円が振り込まれてる口座明細。
別の用紙にはまがいもんのリスト、今年2月納入分として
経典:セントー大阪印刷製本株式会社 納入数5,000冊 印刷製本代金¥1,500,000(単価¥300)
壺:深江陶磁器株式会社 納入数2,000個 商品代金1,000,000(単価¥500)
花瓶:深江陶磁器株式会社 納入数2,000個 商品代金1,000,000(単価¥500)
印鑑:印章堂 納入数3,000 商品代金 印章堀代含め¥500,000(単価1,000)
モンゴルのお清め井戸水500ml:株式会社生野商店 納入数5,000本 商品代金¥400,000(単価¥80)
お香蝋燭:株式会社純香道 納入数5,000個 商品代金¥250,000(単価¥50)
千手蛇コン様レプリカ:株式会社津守ホビー製作所 納入数1,000個 商品代金¥3,000,000(単価¥3,000)
請求書のコピーも付いている。
天知「吉田はん。2億の裏金に加えて、毎月あんたの奥さんに顧問料として山田経営の会社、2社から毎月160万振り込まれてますなぁ。それに、控え室での会話からも、まがいもんを高額で信者の皆さんに堂林が売りつけてるのも吉田はんもご存知のようですなぁ。吉田はんと堂林平和学会、堂林、いや山田とのズブズブの関係の証拠が揃ってますんや。これマスコミに売ったらええ値で買ってくれると思いますねんけど、ねぇ。私にも仏心おましてな。吉田さんの誠意次第では証拠品全て吉田さんに渡してもええと思てますんや。どないでっしゃろ。」
吉田は真っ青な顔で喉から搾り出すような声で
「誠意って。どないしたらよろしいんでしょうか。」
天知「裏金の2億なぁ。吉田さんが貰ってないことにしましょか?私のところに山田の側近が持ってきたという事に。どないですか?」
吉田「2億渡せとおっしゃってるんですか?」
天知「あんたから渡せ言ってるんちゃいますがな。山田の側近が吉田さんじゃなく私に渡したという事にしましょという事ですがな。別によろしいんですけど。そのまま2億吉田さんが貰ったまんまやと、マスコミにあんたの悪事が公になるだけですけどな。」
吉田「そらあかん。わし終わってしまう。・・・・・・・・・・。分かりました。2億手放しますわ。」
天知「吉田さん。聞き分けよろしいな。ほなそういう事で。明日10時に私んとこの弁護士2人が『革命党』本部の吉田さん尋ねて行かせますよって、よろしくお願いしますわ。」
吉田「分かりました。用意しときます。その時データ全部貰えますんやろな。」
天知「私は嘘つきませんで。あんたみたいな悪ちゃいますねん。ほな、帰ってもろてもよろしいで。」
吉田はそそくさと出ていった。
一条「うまいこと行きましたな。おやっさん、さすがです。追い込み方がプロですな。」
天知「当たり前や。これで飯食うとるんやさかい。一条、吉田の動向とメールや本部の吉田の部屋見張っとけよ。明日2億頂くまで慎重にいかなな。」
一条「分かりました。薮内や白木、あと事務所の人間にも言っときます。」
翌日10時、前科の無い天知の舎弟1人と一条(二人ともカツラやつけ髭、薄い色の入った眼鏡などで変装をしている)『革命党』本部に着いた。8時頃から白木達が『革命党』本部の周りに変な動きがないか見張っていた。一条は白木に目配せし、何も問題はないと確信し、二人は『革命党』本部に入っていった。受付で吉田党首に10時に来るよう伺ってると伝えるとすんなり吉田の部屋まで案内してくれた。部屋に入ると、渋ヅラの吉田がジュラルミンケース2ケースデスクの上に置いて待っていた。
吉田「データお渡し願えますか。」
一条はデータをコピーしたSSDを吉田に渡した。
一条はジュラルミンケース2つとも開け、確認し、「ほな」とだけ言って、もう一人に1つ手渡し、1つは自ら持って部屋を出ていった。
隠しカメラを見ていた天知と涼子は安堵し
天知「涼子、うまいこといったな。次は萩原や。」
涼子「そやな。あいつ出しよるかなぁ。ちょっと嫌な予感する。」
天知「まあ慎重に進めるわ。まかしとき。」
吉田と同じように、萩原をこの日の15時に別のホテル、ロイヤルリンガルホテルの最上階の部屋に呼び出していた。
駐車場の見張りの一人から一条に連絡が入った。
「萩原来ました。今車から降りてエレベーターに向かってます。」
一条「了解。分かった。萩原一人やな。」
「はい。運転手は車で待機してます。萩原一人でエレベーターに向かってます。あ、今エレベーターに乗りました。」
一条「分かった。」
コンコンコンとノックの音。
一条がドアを開けに向かった。ドアを開けると口を真一文字に結んだの萩原が立っていたが、一条の顔を見ると「やっぱりな。あんた達か。」と独り言のように言いつかつかと部屋に入り、天知の向かいに座った。
萩原「お久しぶりですね。また嵌められたという事ですか。」と溜息をついた。
天知「話が早い。どうしまっか?」
萩原「今朝、吉田さんから電話があって、経緯を聞きました。あなた達やろうとピンときましたわ。今日の夜、知事辞任の記者会見を開きます。党も辞任届出してきました。どっちみち前回同様、お金渡してもマスコミにリークしますんやろ。」
天知「リーク?それは私は知りませんで。前回もデータ渡しましたやん。私の手元にはありませんで。誰かが私から分からんように盗んでリークしたんちゃいますかな。」
萩原「もうどうでもよろしいわ。私の政治生命はどっちみち終わります。マスコミにリークするなり何なりしてください。お金は渡すつもりはありません。というか渡す権限ももうありません。もう離党届も出してますんで、私にはもう何の力もありません。もう私に用はおませんやろ。帰らしてもらいます。」
萩原はスクッと立ち上がり、ドアを開け出ていった。
天知「やられたなぁ。あそこまで腹くくってるとは思わんかった。さすが大阪乗っ取った政治家や。」
一条「あそこまで開き直られたらしゃーおませんな。5千は諦めましょか?」
天知「そやな。あとは涼子が政界に二度と戻られへんようにするだけやな。2億取れただけでもよしとしよ。吉田先に叩いて正解やったな。」
一条「そうですな。萩原先やったら、吉田に入れ知恵してまっしゃろから。2億も危うかったかもしれませんなぁ。おやっさんの感はあたりますな。」
天知「わしゃ感だけは自信あるねん。今まで生き延びれたんもこの感のおかげやと思とる。とりあえず事務所戻ろか。」
涼子「やっぱりな。なんか嫌な予感しててん。」
一条「親子揃って感鋭いですな。」
萩原はこの夜、記者会見を開き、知事辞職と離党届を出した宗を公表した。理由は健康上ということにしよった。明日から入院生活に入るという。病状は言わなかった。
翌日の朝、涼子はSSDを持ち、マンションの地下駐車場に降り、真っ赤なポルシェに乗り込み一際大きく“ゴワン”とエンジン音を鳴らし、南の長堀に向かった。長堀駐車場に車を停め、地上に出ると周防町にある喫茶米国屋に急足で向かった。10時に末次と待ち合わせしている。米国屋に入ると螺旋階段を登り2階のフロアに行くと末次はもう奥の席に座り、タバコをふかしながらスポーツ新聞を読んでた。
涼子は末次の前に座った。
涼子「おはよう。末次さん。またよろしく。」
末次 匡は、大阪の媒体各社では名の通ったフリージャーナリストだ。
ウエイターが水とおしぼりを持ってきて注文を取りに来た。
涼子「ホットお願いします。」
ここのコーヒーは値段はさておき美味しい。たばこOKも魅力のうちだ。ソファもくつろげるしテーブルの間隔が広いので、会話を聞かれる心配が少ない。
末次「涼子さん、おひさですな。またええネタですか?」
涼子「ないしょ。末次さんあいかわらず活躍してはりますなぁ。あいかわらずTVのニュース番組にも出演しはって、賢そうな事ばっかりくっちゃべってますなぁ。」
末次「またまた、からかわんといてください。今だに政治がぼろぼろでっしゃろ。悪口言うてるだけで儲かりますねん。今はネタに全然困らんほど問題が多いですからなぁ。ほんで、涼子さん何のネタ持ってきてくれたんです?」
涼子がアイコスを一服してると、ウエイターがホットコーヒーを持ってきてくれた。涼子はブラックで一口含み、口の中で転がすように飲み込んだ。『美味しい』。
涼子「これ。」と言ってSSDを末次に渡した。
末次「この中にまたおもろいもんが入ってますんか?」
涼子「まあ見て。後は末次さんに託すわ。圧力に負けんよう世間にさらしてほしいねん。」
末次「まあ、涼子さんにいつも言ってますけど、私あんまり欲がおまへんから圧力があっても気にしませんねん。『干せるもんやったら干してみ。』と言う感じのスタンスでやってきてますよってその辺は大丈夫と思っといてください。」
涼子はこういうスタンスの末次だからこそ信頼し、情報を流している。しかし、いくら末次がツッパても公表せんかったり、かなり端折ったりするテレビ局や新聞社もある。
顔が広い末次にとってはそう言うところは少数派で圧力を物ともしない媒体、最近では特に、ユーチューバーとかネットTVとのパイプを多数持っている。
末次「報酬はいつものように私の取り分の30%でよろしいか?」
涼子「かまへんよ。ただいつものように現金で、領収書無しでたのんます。」
末次「了解です。これ見てまた報告しますわ。」末次はレシートを持って先に出て行った。早く見たいのだろう。涼子はアイコスをもう一服し、これからどうなるかウキウキした気分を抑えきれず、一人ニヤついてしまった。他の客に見られたら『変な女』と思われると思いすぐに真顔に戻し、もう一服し、コーヒーを飲み干し店を出た。
翌日にはもう全局でこのニュースが駆け回った。
『世界平和を実現する【堂林平和学会】の研修会』での西口 龍弥が堂林宗主殺害した事件も絡ませて、『新興宗教と政治の闇を暴く』とのタイトルで革命党と堂林平和学会の癒着を証拠映像とともに生々しく放映された。
全局圧力に屈しず放映を決断したのには、民主発展党の重鎮の後押しもあり、あまりにもリアルで生々しい証拠が揃っていたからだろう。アナウンサーや出演しているタレント・ジャーナリスト・元政治家・元官僚などが口飛沫を撒き散らしながら弾劾の言葉を怒鳴り散らしている。おそらく、ネットニュース、週刊誌、ネットTV等もこのニュースを掲載、特番として流しているだろう。
『革命党』党本部には報道陣が詰めかけている。出入りする党員は皆無で、本部には人っこ一人いないようだ。党首吉田は報道各社に明日午後から記者会見を開くと通達があった。
翌日の午後1時から吉田の記者会見が開かれた。質問は一切無し、吉田は事実を認め、辞任・離党を決断したことを述べ、『私一人の浅はかな行動で党にはご迷惑をかけました。この件は私個人の問題であり、党は何の関与も致しておりません。今後とも革命党のご支持よろしくお願いいたします。』と締めくくり、約5分程で退場した。出席していた記者たちの怒号は10分ほど続いたが、結局記者会見の映像は10分程で終わってしまった。
一週間後、革命党の党首には、吉田の側近であった山村 庄司が党首となり、吉田の影の影響は残っていると見られた。
その翌々週には早々に大阪府知事選も行われた。中央区の府議補欠選挙はさすがに事件直後ということもあり、民主発展党・公民党公認の田内 俊介が、革命党の設楽 邦正を僅差で破り当選したが、大阪府知事選では結局革命党の萩原の腰巾着であった山口 良弥が当選し、知事となった。
堂林平和学会は、その後黒スーツの男が『堂林 浄粋』と名乗り教祖として引き続き活動を続けている。規模はかなり小さくなったとはいえ、相変わらず信者から金銭をむしり取っている。
山田を刺し殺した西口 龍弥は、殺人罪で起訴され、情状酌量の余地も無く、おそらく20数年の実刑になるのではとニュースで流れていた。
革命党本部・堂林平和学会にはその後、検察も入る事なく、吉田、萩原が政界から消えただけの結果となった。
参議院選挙では革命党はそれでも、大阪中心に20議席を取り、野党第三番目の地位を勝ち取った。
その後、世界情勢でユダヤ系とイスラム系諸国の衝突が激化し、ニュースはその事ばかりになり、世間では堂林平和学会と革命党の問題はもう過去の物となり、話題に上がることはほぼ無くなった。
涼子は思う『私ら勝ったのか、結局負けたのか』と。
完