灰を被った悪魔
会話拒否!
トンネルを抜けた先、空は変わらず小さな雪を降り注ぐ
「おーい」
「.....」
ピタッと歩みを止める人物、フードの下は怒りを描いている
「(女性か...)少し、話をさせてくれないかい?」
上辺を綺麗な状態にして微笑みながら話しかけるバリウス
それに対する返答は
ドン!!───
「!?」
不意打ちの発砲、しかし当てる気は無かった様でトンネルの中へと入って壁に衝突した
「(今の、やっぱり実弾じゃなくエネルギー弾、弾丸要らずか...)」
「時間が勿体ないので消えてくれませんか」
そう言って銃口を、今度はしっかりと、バリウスに向ける
バリウスは目つきを鋭くし、本性をそのままに返答する
「じゃあ、そうさせてもらうよ...」
トンネルの方へと向きを変えて伊野の元へ戻る
しかし最後にこれだけは聞いておきたかったので足を止めて質問する
「やっぱり名前だけでも教えてくいっ…?!」
何かが頬を掠める、さっき見たばかりだから当然分かるが弾丸だ
分かりきってはいたがどうやら余計な一言だったらしい
これ以上印象を悪くしない為にも今度こそ戻ろうと、頬の血を拭い去った
「バリウス君…!どうだった…って怪我してるけどもしかして喧嘩とか」
少し驚いた顔をして目を見開く伊野
「まぁちょっとな…また会うとしても打ち解けるには時間が掛かりそうだ」
魔法で軽く水を出して傷口を洗いながら答え、ズボンのポケットからリュディに貰ったハンカチを取り出して水を拭いて顔をあげる
「俺はもう帰る、お前もそんな姿だと通報されるかも知れないから着替えとけ」
さっきの少女に殺された魔族の血がついた服を指差す
「…あぁ、うん、そうだね、落ちるといいんだけど、ハハ」
「…少し心に来たんなら休んだ方がいい、考える時間もいるってんなら」
なんだかぼーっとしている伊野、血に慣れていない彼には人に見えていたものが突然血と光を流して死んだことがショックだったのだろう
理想と精神はついてこないものだ
「そうするよ、元から今日は休日だったんだから…でも大丈夫だよ、僕だって強くならなきゃ」
そう言い残してトボトボと足を進めて帰路に着く伊野
俯いて歩く後ろ姿は弱々しく見える
その時あることを思い出して伊野に伝える
「あっ、ジャガイモ後で家に届けとくよ」
「そうだったね、中から何個か取ってもいいからね」
無理のある笑顔で答える
そしてそれ以上会話がある訳でもなく結局そのまま別れることになった
とある一室、日中であるため火のない蝋燭と一緒に壁に何枚もの紙が貼り付けられている
しかしそれはよく見ると貼り付けられているのではない、画鋲で刺されている訳でもない
端的に言ってしまえば壁と紙が一体化しているのだ
なんとも不気味な装飾をしている部屋、魔法でなければこんな事は出来ないだろう
そんなこの部屋の主は椅子に座って本を読み漁っていた
「神と、その子ら…異端の発生と時の流れ…やはり彼女に聞くのが最も良いのだろうね…」
白い眼を持つ男、ユニ
人間の教会の聖書を手に持ち、ページをめくる
「だが恐らくはもう…全く、面倒な事をしてくれた、これでは未来など誰にも分かりはしない、だがおかげで手間が省けたのも事実だ」
本開いたまま裏返しで机に置くと、腰を上げ、壁と一体化した紙に近づく
その紙にはバリウスの似顔絵が描かれ、その周囲に彼の情報が記載されている
「彼は今、その身に原初と宇宙的存在の二つを宿している、だがまだ適合出来ていない、むしろ体を蝕んでいる事だろう…」
紙に手を添え意味不明なことを口走る
「まさに鍵の所有者に相応しい、あわよくば君を...あぁ、やっと、やっとだ、これでやっと会えるんだね、私の妹よ…」
妹、その単語が口から飛び出す、ユニは妹に行動原理があるらしい
「君は一体どんな姿をしているんだい?どんな声を聞かせてくれる?どんな匂いで、どんな涙の色をしている?」
笑顔を吐き出しながら部屋の中で舞う様にくるくると回るユニ
随分と愉快で嬉しいようだ
「やっと見つけた宇宙への扉だ、蝶も花も目ではない位、丁重に扱わないとだね、その為には...」
壁紙へと視線を戻す
「まずは鍵の行方、彼が所持しているのか、また別の場所か、そして今も原初へと戻り近づいているその力を頂こう...」
バリウスの紙の周りに文字を書き加える
他の文字と比べやや崩れたような字はユニの興奮を表している
「だがそれだけでは足らない、もう片割れが必要だ、魔王に問い詰めはしたが無駄だった、殺すことも出来ないから素直に待つしかないだろう、だがもし...既にどこかに渡ったのだとしたら...」
少し離れたところにある魔王の似顔絵を見る
バリウスと比べると書かれていることは少ない
「考えても仕方ないか...今は調査とちょっとしたちょっかいを掛けておくことにしよう」
椅子に座ると置いていた本を手に取り続きを読み始めるのだった
「...........」
薄暗い雰囲気が漂う鬱屈とした空間
最奥にある牢の中では歳を重ねた風貌の魔族がいた
身体中傷だらけであり死んだフリでもしようものなら皆騙されることだろう
「よかったな、まだ生きていて、生きてれば何でもいいからなぁ」
牢のそばにいる見張り役の魔族が声をかける
それに対し牢の中にいる魔族は言葉を返す
「そうか...君は生きたいという感情が強いのか、そうやって一生を何も無いまま過ごすといいさ...この私には分かる」
「魔王様からの有難いお言葉、受け取っておくよ、上から目線で鼻につくけどなぁ」
魔王と呼ばれた魔族は不敵な笑みを浮かべた
「(愛しきお前に全てを託した、力も、未来もだ、お前が…….)」
そして魔王は、目を閉じ眠りについた
「無関係……か」
帰宅後コートを椅子にかけて座って休憩するバリウス
やっとの動きかと思ったら全くの無関係、がっかりせざるをえなかった
だが興味深い存在とも出逢えた
「(あの少女、何者かは知らないが悪い奴では…ないのかもな)」
そんな事を考えていると不意に扉が開く音がする
玄関の方だ
「リュディ、もう帰ってきたのか」
「ただいま、バリウスさん、魔族が出たという話が入ってそれで急遽」
「あぁなるほど、とりあえずおかえり、知り合いからじゃがいも貰ったけど何か軽く作ろうか?」
「はい、バリウスさんの料理ならありがたくいただきます♪」
それを聞いてじゃがいもが入った籠を漁っていると、彼女からある物を渡される
「そういえば、学校の先生から渡されたんです、これをバリウスさんに渡してって」
「え?先生……?」
全く自分とは無関係の人間が出てきて困惑するバリウス
店長、ハヴィ、伊野、面識のある人物をあるだけ頭の中で出していくがやはり皆目見当もつかない
「(俺は学校なんて通ったこと……いや一度だけ、だがそれでも…)」
兎にも角にもまずはリュディから物を受け取る
それは白い洋封筒、開ければ中には一枚の紙がある
「手紙?」
そこには
"拝啓 突然の連絡で失礼ですが私から頼みがあります、明日ラバー平野の滝に来てい欲しいのです、これは、貴方の運命の大きな分かれ道となります、どうかよろしくお願いします 敬具 エンプトレ学校教諭アンファング・ローエイ"
「アンファング……誰だ?」
「ローエイ先生は考古学の研究者だそうです、いい先生ですよ」
「……(運命の分かれ道だと?まさかコイツ、俺の事を知っているのか?)行くか……行かないと」
手紙を置いて一旦落ち着く
「どこか行かれるんですか?」
「明日、ちょっと出かけてくる(ラバー平野、城壁の外か、なんでわざわざ……)」
何度も文字と情報を反芻し、繋ぎ目を探すも何も分からない
険しい顔をしながらも、今は言った通りにじゃがいもを手に取るのだった
とある河川敷、橋の下で一人の少女が休息を取っていた
「今日も一匹殺せた……あと何匹だ」
膝に腕を置いて座りながらボヤく、目つきは相変わらず鋭い少女
バリウスがさっき会った少女だ
身につけたベルトには両脇腹と腰に一丁ずつ銃がセットされている
が、不思議なことにグリップと引き金部分がない、さっきはあったはずだが
「……!!誰だ!」
突如立ち上がり上着のポケットから何かを取り出す
それは正に銃のトリガーだった
そして横を見れば少女の方へ歩みを進める謎の男
「俺の名前はローエイ、お前に用があって来たんだ」
ねっとりとした喋りをし、高圧的に接する男
先の手紙の主、アンファング・ローエイ
「誰でもいいから消えてください、邪魔が一番嫌いなので」
「そう棘ばかり生やすなよ、ガキでも話くらいマトモにできるだろ?」
「それ以上近づいたら攻撃しますよ」
「そうか、なら遠慮なく!」
警告を無視して素早く歩を進めるローエイ
それを見た少女は、手に持ったトリガーを上からスライドさせて短銃へと装着した
「消えろッ!」
ドンッ!
「フッ……」
ニヤリと笑みを浮かべると、飛んできた弾丸をローエイは
「エェイッ!」
「!?」
腕で受け止めるのだった
「なるほど、こいつは良い火力だ……だがこの程度じゃない筈だ」
人体に風穴を開けられる威力を真正面から受け止めた
その事実より恐ろしいことが、眼前にあった
それに気づいた少女は、顔つきが憎しみへと変貌する
「貴様…貴様ぁ!」
「ハハッ!血の気の多いガキだ!悪魔と噂されるだけはある!」
そして周囲には、しばらく騒音が鳴り響いたという




