小さな小さな
臨戦態勢!
小規模ではあるものの破滅の様相を呈した街並み
住民は皆命片手に逃げ出してしまった
そうして空き家となった家の中を漁る魔族の男がいた
そして外にも男の魔族が一人
そいつが民家の中に空き巣している魔族に話しかける
「まだ終わんねーのかよ!見張りって退屈なんだぜ?」
「うっせぇ!お前が無駄に吹き飛ばすからだろ!」
急かす男に対して声を荒げて怒りを投げかける
その間にも袋の中へと金目の物を次々と放り込み、着実に空き巣を進行していく
外にいる魔族は不機嫌そうな顔をしながら腕を組んで、右足を小さく上下にゆすって地面を何回も叩く
「ったく…これで取りこぼしとかあったら許さねーからな、あいつ方はうまく…ん?」
ふと、横を見るとなにやら人影が近づいてくるのを発見する
数は二人、走って来ている、兵にしては少なすぎる
「チッ、誰で何のつもりだか知らねーが、邪魔するなら死んでもらうぜ」
そう言って魔力を身に纏い戦闘態勢を取る
そしてついでの感じで空き巣魔族にこれからの戦闘を伝える
「ニケイル!ちょっと騒がしくなるぜ!」
「わかったからこっちまで攻撃してくんじゃねーぞ!」
「うるせぇ奴だな…」
やれやれと言った感じで向き直り、その手に魔力を込める
両手には魔力の塊、最もシンプルで基礎的な魔法、魔法弾が形成される
「いくぜっ!」
二人の方へと走り、手始めに左手の魔法弾を投げつける
「死ねぇっ!!」
着弾した魔法弾は二人が居た所をその爆発により吹き飛ばし、煙と地面の破片ばかりが舞い上がる
これでも普通の人間なら十分死ぬのに容易い程度だが、右手には更に一発魔法弾がある
魔族はその強靭な肉体で空高く飛び上がると、残された魔法弾を上から撃ち込んだ
━━━━━━━!!!
「ヘヘヘヘッ、どうだ!完璧だっただろ!」
空き巣魔族ニケイルの方へと大声で話しかけるも返答はない、距離があって声が届いていない様子だ
「あの野郎、こういう時は見ずにいやがって、失敗ばかり見てるからあんなにキレるんだろーが!」
吹き飛んで足元まで来た小石を蹴り上げると、二人が居た煙の中へと入っていった
「あいつの耳元で全力で今の成功の結果を叫んでやる、覚悟してろよニケイル」
後の事に気を取られ、煙に対して背を向ける
その時
「いでぇっ!?なんだ!?…あ?石ころぉ?」
どうやらさっき蹴った石ころが後頭部に直撃したようだ
いくら魔族のパワーでも小石を蹴って地球一周なんて芸当はできない
そもそも一周したなら前方から飛んでくるはず
それ即ち、誰かが魔族に対してコレを投げつけたという事で
「出て来やがれぇ!!ぶっ殺してやるぜ!!」
煙の中から足音が近づく
警戒心を高めながら身構える魔族、固まったその姿勢には雪が積もっていく
「もう一回コイツを喰らわせてやる!」
痺れを切らしてその手に魔法弾を形成したのと同時に、声が
「さっきまで寒かったからな、おかげで随分とあったまってきたよ…なぁ!!」
「なにっ!?」
突如薄い煙の中から人が飛び出し襲い来る
右腕から繰り出されたパンチを咄嗟に魔法弾をキャンセルして手の平で防ぐ魔族
飛びかかって来た人間のその勢いによりジリジリと少し後ろへと足が擦れ行く
「デェヤッ!!」
そして人間は地に足つけた瞬間一回転しての左脚での蹴りを防御の上から叩き込む
「ぐぁっぅ!!」
モロにそれを喰らった魔族は地面をでんぐり返しでもする様に回りながら吹っ飛んでいく
数メートルして止まったところで立ち上がり、鼻の下を手で拭うと人間の方を見据える
「この野郎…魔族相手に殴りかかるとか正気かよ」
戸惑いながらも再び両手に魔法弾を作り人間の方に投げつける
しかしその後もすぐさま魔法弾を作り投げつける
そうしてひたすらに大量の魔法弾で攻めていく、雑かつ効率的で彼好みのやり方だった
人間の方はと言うと、素早くその身を動かして回避しながら魔族に接近している
「マジかよ…神器とやらの効果か?くそったうぉっと!?」
人間が弾き返した魔法弾が頬を掠めて後ろの民家を爆破する
「あっぶねー…ん?そういやあの家って…」
血と一緒に汗が一滴魔族の頬を伝う
すると爆発した家の方から物凄く大きな声が響き渡る
「テメェぇええええぇぇぇ!!!!!やっぱりじゃねぇかぁぁぁぁあぁああああ!!!」
あまりの大きさに魔族と人間両方一瞬硬直する
「俺の声は届かなかったのにアイツの声はすげぇ届いてくるぜ…うるせぇ」
そんな事をぼやいていると人間は目前まで迫っていた
人間がさっきと同じ様に拳を振るうとそれを今度はしっかりと受け止める
すぐに左手も飛んでくるがそれも手に取り受け止め拘束する
「このままお前の両手を粉々にしてやるぜ、大人しくぅっ!?」
手に魔力を込めるのに気を取られ油断した魔族は足払いに引っかかり宙に軽く回転しながら浮く
その隙に再度蹴りが叩き込まれ、またもや吹っ飛ぶ魔族
「ゔおっ!!」
しかし今度は上方向へとふっと飛び、人間はそれを追跡する
そして空中で蹴り飛ばし地面へと高速で落下して行った
人間は地上に先回りして魔族を待ち構える
しかし、やられたままの魔族ではなく空中で捻りをきかせて地面に手をつけ右脚で蹴りを繰り出す
「フンッ」
「まだまだぁ!」
それを左腕で防ぐも左脚の蹴りも追加で入り、体を挟み込まれる
そして魔族はその脚に力を込め
「そぉらっ!!!」
手で地面を弾き宙に浮くと、バク宙でもするかの様に回転し人間を地面に叩きつける
「うあぁっ!!くっ!」
バシッ!と追撃のパンチを受け止めると魔族の首を掴み自身に近づけ頭突きを繰り出す
「いっでぇ…!」
「離せこら!エ"ェッ!」
右脚で雑に蹴り飛ばして距離を取る
「よーしこいつだぁ…」
近くに落ちていた兵が携帯する剣を手に持つと、魔族の方へと一閃を走らせる
「ハァ━━━━━━!!!」
「このぉぉおぉおおぉ!!!」
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「ふぅ…」
剣を持った腕を上げ勢いよく斜め下に振り払う
剣についた汚れが飛び散るのと同時に魔族は光の粒子と崩れていきその姿を消滅させる
「あっやべ、ユニとか色々聞くの忘れた…まぁもう一匹いるしいいか」
「バリウス君大丈夫ー?」
離れた所から待機していたもう一人の人間、伊野藪海が小走りで近づいて来る
「あぁ…言っとくけど、魔王に会うまではこうだからな」
コートを脱ぐと上下に動かして軽く汚れを払い落とし、その後手でぱっぱと払う
「分かってるさ、そこはもう、割り切るよ...」
魔族が居た方を見つめる伊野
「そうしておくといい...フッ!」
「ぐわぁぁあっ!!」
背後からの奇襲にカウンターキックを入れ込むバリウス
地面に鈍い音を立てて倒れ込む二ケイル
「奇襲にしてはちょっと音が大きすぎるんじゃないか、まぁ小賢しく生き残るにはそれで十分だろうな」
「野郎ォ〜...」
「だがそれなら逃げるのが正解だったよ馬鹿魔族」
「んだと!人間の癖に!俺が勝つに決まってる!」
そう豪語すると襲い来る二ケイル
しかし殴り合いに持ち込んだところで彼に食いつくことすら出来なかった
「ヴッ、がア!」
頬に交互にパンチを入れられ、そのままひたすら打撃を浴びせられる
左足の蹴りを喰らいよろめくと腹にまたパンチをいくつも受け、最後は飛び回し蹴りを喰らって吹っ飛ぶと顔面を手で捕まれ壁に押し付けられる
バッゴォンン
大きな音と同時に壁に亀裂が走る、既に魔族の攻撃で脆くなっており、隣の箇所に穴が空く
「ユニ、円卓のエリス、ヴァルバ、魔王、こいつらに関して知ってるか?」
「はぁ?知らねーよ!話やがヴェァっ?!」
腕に力を込め家の壁を突き破り床に押し倒す
剣を地面に突き刺し、魔族を踏みつけながら再度問う
「言ってくれればすごい助かるんだよ、知ってるか?」
「知らねーって!俺たちはただそこら辺物色してただけだ!」
バリウスの顔が若干落胆したかのようになる
「魔王については何か知ってるんじゃないか」
「何年か前にあの国出てったから今どうなってるかなんて知るわけないだろ!」
「そう...そう...そうかぁ...」
残念そう、或いは全ての興味を失い何の感情も持たなくなったかのような声を出す
魔族に背を向け、空いた穴から外へ出ようとする
しかし流石小心者の魔族といったところか、それを見て笑みが溢れ出す
手に魔力を込めバリウスの背へと飛びかかる
「テメェが馬鹿だぁ!」
「.....」
ッピ──────────
「あ...」
素早く剣を引き抜き振り向きざまに横に切り裂く
あっけなく、秒未満の間の出来事だった
「リタン...助けに...こい、よ」
そう言い残すと、倒れ、すぐに消えていった
一方バリウスの方は、最期の言葉を聞いて少し目を見開いていた
「まさか、もう一人...?」
その後伊野の元に戻りまだいる可能性を伝える
「なら探索しないと!どこかわかる?」
「全然、この破壊の跡を辿って行けば近づける...かもってぐらいだ」
暴走が始まった地点まで辿ればもしかしたら
そんな望みに賭けてみる
「急ごう」
「あぁ」
「はぁ...はぁ...なんだ、なんだあいつ...」
薄暗いトンネルの中をよろよろと1人の男が歩く
壁に手をつけ、魔族のその姿からは血を流している
「まさか...あいつが...噂のっ、悪、魔...」
カッ...コン.....ギャチャ...
「!?ヒイッ...あの音だ...近づいているんだ、俺を、ころ...しに...」
トンネル内に反響する複数の音
曲がりくねった先から響いてくるそれは、彼にとって真新しい恐怖の象徴だった
「はぁ...はぁ...逃げねぇと...殺される...!ぅ」
その時、魔族は前方から人間の気配を察知する
「気配、二人...死んでたまるか...やってやる...」
そして姿を魔族のものから人間態へと変えると視界に入った二人の人間に対して言い放つ
「助けてくれ!...魔族のやつに巻き込まれて....!」
それを見た向こう側の二人の内の一人、伊野が慌てて駆け寄ろうとする
「大丈夫ですか!?」
「もう歩けないんだ...だから背負」
!!───────────────
「あっああ...」
「えっ...」
突如、魔族の背から血が吹き出す
それと同時に伊野の足元に謎の小さなヒビが入る
「あっ...」
伊野が魔族を抱え込んだ瞬間、人の形をしたそれは跡形もなく消え去る
「え...なん...」
あまりの出来事に放心状態になる伊野
しかしバリウスはそんなことよりも
「初めまして...君はぁ、何者かな?」
バリウスが問う、その先には
「!あの子は...?」
離れたところに見える謎の人物
小柄だ、150センチないくらいだろう、黒いパーカー姿でフードを被っている
その短い髪の色は、灰
「気は戻ったか藪海」
「あぁ...うん、ねぇちょっといいか...な...」
謎の人物は聞く耳を持たず、トンネルの奥の方へ晦ませていった
「追いかけようよ..」
「足手まとい連れてか?魔族を倒すあたり戦い慣れてる、もしもの時、お前は無理だ」
「それもそう...だね、じゃあ君だけで行って、僕はここで待ってる」
「それがいい」
奴を追うことに決めた二人
別れる前に伊野はとある確認をする
「ねぇ、さっきあの子が持ってたのって...」
「あぁ、銃だ...神器の、短銃...」
補足、バリウスが上空にいる魔族を追撃したり急降下したりしていますが飛行している訳ではなく風魔法により加速しているだけです、基本この世界の魔法は飛べません