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異世界のハマルティア  作者: そそい
魘りからの目覚め編
4/37

正しき考えと憎しみについて

人間の悲鳴と僅かな炎が燻る街の一角


人とは形容できない姿をした二人の者が破壊を振り撒いていた

家々は倒壊し、ガラスは吹き飛び、倒れ泣きじゃくる子供


その様子を見て笑うでも、心痛める訳でもなく、ただ真顔のまま魔族の姉は言う


「この辺りでいいでしょう、あまり破壊し過ぎても都合が悪いと仰っていましたし」


「都合が悪い…?一体何がでしょうか…」


ユニの思考など知らぬ妹は姉に対して問う

だがそれは姉も同じであった、彼女はユニのその雰囲気に惚れさえすれど、その考えを見た事はない


「私にも分からない、ユニ様が言ったならやる、それだけ」


「…そうですね…」


毅然と振る舞う姉に対して弱々しく答える妹、もとより妹の方はユニに対してあまり好意的ではない

慕っている姉がやっていることを手伝う、それが彼女の行動原理だ

だからこそ部外者が姉を支配している様な現状に少しの不満を感じている


そして妹は気掛かりかつ不安だった、最近とある噂を聞く

魔族を見つけ次第殺していく魔族狩りの殺人鬼、ひいては悪魔がいると


「兵が来たわ、闘う用意をして、くれぐれも被害は最小限に、よ」


「はい…一緒に闘いましょう姉様」


魔族特有の紫色の魔力を身に纏い、掌へと集束させていく

それは球体の形を取り、秘めた魔力の光を放っている


「喰らえっ…!」


魔法弾は兵士の方へと飛んで行き数名を見事吹っ飛びす

破壊を抑えようと威力を控えめにしたため、被害が少ないが抑えた分連発できる為続々と放っていく


「じゃあ私は前線で闘うわ、そのまま援護をお願い」


そう言って兵の方へと突撃していく姿を見送り、再び兵の方へと向き直る

数は大して多くない、隊が送られて来たと言うよりは付近に常駐していた兵が騒ぎを聞きつけてやって来たのだろう

神器持ちもおらず、ハッキリ言って楽勝だ


姉も次々と兵をその手で貫き絶命させていく


「なんでその程度の力で魔族に立ち向かっちゃうのかしらねぇ!!」


兵士の喉に肘を入れ込み、すぐさま腹部を横に抉り取る

苦痛の音を鳴らす兵士をそのまま蹴り飛ばして、瓦礫の一部としていく


「これなら私の魔法を使うまでもないですね」


背後から襲う兵士に背を向けたままアッパーを決め、手に付いた血を振り払う

襲来した兵は全て片付き、一件落着…となったが肝心の男らしき者が来ていない


兵の中に白髪の人間も耳飾りをした人間も居なかったはずだ

まさかタイミング悪くイメチェンでもしたのかと思い少し焦り始める

一応殺すなと言われているため、もし死んでいたら大失態だ


「魔法を使った男も居なかったし、まだ来ていない筈よね」


そんな事を考えていると、ふと空から一つの紙飛行機がこちらに飛んでくる

それは手元に乗っかると勝手に開いた状態となり、メッセージを伝える


「安心していい、彼はまだ来ていない…よかった、ありがとうございますユニ様」


わざわざ伝えてくれた事に感謝し、紙を折りたたみポケットにしまおうとした瞬間


━━━━━━!!!


「なに!?」


突然大きな崩落音が後ろから響き渡る、位置的には妹が居た場所

瞬時に振り返り確認する


「!!……いない!?いや、あれは!!」


妹がいない、代わりに居た場所の横に大きな穴が出来ている


「まさか…壁を突き破って攫って行ったの…?くっ…出てこい!!妹を返せぇ!!」


大切な妹が連れて行かれた事に対し怒りに満ちた声をあげる

だが何の返答もなく、不気味なほど静かだった


「落ち着いて、魔力の反応を探るのよ……!!居…」


妹と思わしき魔族の魔力を感知してその方向を見ようとした、その時だった


━━!!


再び爆発音がしたかと思うと自身に対して何かが飛来してくる

吹っ飛んで来たそれとモロにぶつかり倒れるも、それを抱え上げ確認する


自身に対してぶつかって来たもの、それは大切な妹


「よかっ…た…!!」


ただし、下半身が無くなった姿をした物であるが


「あっ…そんな…」


「姉様…あれは、人間じゃない…噂は本当だった…悪魔が…いた」


光の粒子となって消え崩れていく妹を食い止めようと魔法で応急処置を行うも効果なんて無かった

ただそれは死んでいくばかりだ


「姉様…逃げて…」


そう言い遺し、妹は完全に跡形も無く消え去ってしまった


「殺す…殺してやる…出て来なさいよ、そこに居るんでしょう…!」


涙ながらに妹が飛んで来た方向を睨みつけると、煙の中から微かに足音が聞こえてくる


「…黒と白の髪に耳飾りの男…お前か、お前かぁ!!」


「あぁ、そうだ」


「貴ッ…様ァァァ!!」


憎しみを込めて勢いよくバリウスに飛び掛かり、その手を伸ばすもその前に強い衝撃が腹部を襲った


「グアァッッ…!!?」


バリウスの膝蹴りを喰らい、倒れ込みそうになる魔族対して彼は淡々と言う


「触れることで効果を発揮する魔法か、接近の仕方がお粗末過ぎるんじゃないかぁ!!」


「ぐあっ!?」


今度はその足で蹴り飛ばされ自らが作り上げた死体の山へと吹っ飛び突っ込んで行く

死体が辺りに散らばりより悲惨な光景となった


魔族へと歩み寄って行きながらバリウスは喋り続ける


「酷いもんだな、でも全部お前らが殺したんだろ?」


「一人殺されたくらいで騒ぐなって言いたいの!!私のたった一人の妹が死んで!!?」


「それはお前らが殺し奴も同じだろうが!!」


再び魔族を蹴り飛ばし壁に衝突させる、彼女は既に瀕死だった

それを見てトドメを刺そうと、魔法を撃つ為右手を構えるバリウス


「……?!!」


しかし突如横から魔法による攻撃が強襲する


「チッ!!」


魔法弾を咄嗟に右腕で弾き飛ばして軌道を横にそらす

民家は爆発しこちらまで残骸が飛んでくる


「ユニ様…」


居たのは人の姿をした人物、まぁ十中八九魔族だろうと考えるバリウス


「逃げるといい、今回はもう十分だろう、それとも死を選ぶかい?」


「はい…」


しかしみすみすと逃すほど甘くはない


「逃がすかぁ!」


今度こそ魔法を放とうとするも再びユニの魔法により妨害される

地面に触れたかと思うと、突然足元から針が突き出るように地面が変形し、それを跳んで避けると今度は高威力の魔法弾が追撃してくる


━━━━━━━━━!!!!


大爆発が起き、パラパラと煤が舞い散る

視界が開いた時には彼らは既に去っていた


「クソ……」


目を睨む形にして感情をあらわにする、その眼はまだ怒りを諦めていなかった













離れた路地裏まで逃げ切り呼吸を整える姉の魔族とそれを見守るユニ

その姿は人間に戻っており、ひとまず休憩といったところだ


「大丈夫かい?君には申し訳ない事をしたが、それに見合う対価は得られた、君にはとても感謝しているよ」


「…ありがとう、ございます…」


彼女は考える

自分が今どんな立場で、何をすべきかを


妹は無惨に殺された、殺されたんだ、あの男に

赦さない、絶対に殺してみせる…手足を切り落とし、内臓を見せつけて最後は同じ様に両断してやる


「くっ…うああああぁ!!」


いきなり頭を強く壁に打ち付ける、傷口が開き血が流れ、壁にヒビが入る


「なんで…こんなことにぃっ!」


今度は壁を殴りつける、壁は崩落し建物の中が露出する


「はぁ…はぁ…」


ユニの方に向き直ると険しさを保ったまま、とある願いを言う


「ユニ様、非常に勝手な事を言い申し訳ないのですが、私はもう…ユニ様とは離れます」


部下を辞める、それが彼女がとった行動だった

憎きあの人間を殺したい、だがユニ様は奴を殺そうとはしない、その為の判断だった、そして

元はといえば、自分がユニに心酔したのが妹を殺す事になったんだ、謂わば決別


最初から最後まで自分だけを思い続けてくれた妹への手向け、感謝の念


「ふむ…そうか、好きにするといい、ただ…今日と明日…もっと言うなら4日は休んだ方がいい、体を休めるのと、頭を冷やすのにね」


「助言、感謝します…では」


ユニに背を向けて歩き去る、ユニもまた別方向へと去って行った


「彼は…もしかしたら、あるかもしれない…鍵と、その器と…ハハハハハ、追い求めてきたものが全てッ、ここにある…!ハハハハハッ」
















「あーやばい完全に嘘ついた!5分とか絶対過ぎてる!なんでこんな高いとこにあんだよこのカフェ!!神社が転向してできたのかよ!?」


階段を全力で登りながらカフェに戻っていくバリウス

レディを待たせるなとはよく言うがそれ以上に彼女に嫌われたくない彼はかなり焦っていた


「あぁついた…」


息を切らしながらドアを開けて店内に入る

リュディの居る席へと戻ると彼女の表情は少しばかり怒っているという感じだった


「遅いですよ…」


「いやほんとごめん…お婆ちゃん骨折してて…」


なんとか言いくるめようとする、しかし前にも同じことを言っている

多分これまでで40回はお婆ちゃん骨折してる


仕方ないだろう、魔族に限らずチンピラや放火魔通り魔エトセトラ居るのだから


「またですか……もしかしてコッソリ女と会ってるとかじゃ…」


部分的にあっている、何してるか聞かれるとアレだが


「そんなわけ…俺は純粋にお前を思ってるよ」


この言葉に対して若干の反応を示す


「私"だけ"を?」


「リュディだけを」


「一生?」


「多分一生」


「そこは断言してくれないんですね…」


「まぁ…愛は不変のものでは無いだろ…?相手の変化に伴っていくらでも失望も、感動もできる」


「そうです…かね…なら、悲しいですね…でもきっと、一度愛したら、それは残り続けると思いますよ」


「そうだな、それはきっと、本当なんだろうな」


ココアを飲み干して一旦落ち着く

今日のこれからの事を考える

食材買う必要があった、それと……


「もう支払えばいいかな?もちろん全部出すからさ」


「そうですね、もう十分食べましたし帰りましょうか」


「その前に食材」


「あっ、そうでしたね、うっかり忘れてました」


「じゃあ行くか」


そうしてカフェを後にし、それからは商店街なんかで色々買ったりした


「なぁリュディ…俺、護るよ、君のこと…」


そう

いつか話そう、明日でもいい、自分のこと全部話して、受け入れてもらいたい

自分がどんな人間性をしていようとも


「はい、お願いします」























とある森の中、手負いの状態の彼女は大人しく身を潜めていた

今は切り倒した木を椅子にし、そこら辺で捕まえた兎を丸焼きにして調理をしている


兎を燃やす火は暗い夜の周囲を照らす


「すまない、すまない……ごめん……」


俯き、亡き妹への謝罪の言葉を口走る


「私が馬鹿だった……もっとお前を見ていれば、考えていれば……」


兎を焼き終えると、それを手掴みで口に運び大きく頬張る

血腥い香りと味がする、骨ごと噛み砕き食すその姿は気品と豪華さに重きを置くこの国の食事にはあまりに似つかわしくなく、どちらの血かなど分かったものでは無い


「はぁぁあ……」


傷は多少は癒えてきた、今すぐにでも殺しに行きたい気分だが、焦っては駄目だ

ここで無様な事をしては何にもならずに野垂れ死ぬだけだ


「火は絶やさぬようにして、このまま木の椅子の上で寝ることにしましょう」


そう言って眠りにつこうとした瞬間

ザクッ、ザクっと土と砂を踏みしめる音がする


「最期の晩餐は終わったか?」


「!!まさかつけて来るなんてね……しつこいのよ」


「必死で探し回った甲斐があった、火なんて目立つものは使うべきじゃ無かったな、早く魔族の姿になれ、その方が似合ってるから」


「口説き文句かしら?」


「殺しやすいんだよ」


笑顔で答えるバリウスに苛立ちを覚えながらも、魔族の姿になり臨戦態勢を取る


「来なさいよ……」


手で煽りを入れ誘い込む、だがバリウスは彼女の魔法が接触により発動すると先の闘いで勘づいていた

ならばこそ


「遠慮なく」


走って一気に距離を詰めて行った

わざわざ自殺行為の様な真似をしたが、そこに深い意味は無い、強いて言うなら、慈悲としてせめて正々堂々と闘ってやろうという意味不明な考えだった


「はあぁっ!」


迫り来る拳を左腕で防ぐ

そして有無を言わせず腹部にストレートを叩き込む


「ダァリャァ!」


「ぐっ……」


腕が離れ好機と見たバリウスは攻めに掛かる


「ダァ──!」


腹に怒涛のラッシュを叩き込みシメに左脚で蹴り飛ばす


「ハァッ!」


「ぐぁぁっ……がっ!」


木に衝突して血に伏せる魔族

とうとう命の終わりが来たことを伝えるためにバリウスは手に魔力を溜めて歩いて行く


「……あの世では仲良くしてやれよ」


そうしてトドメを刺す

その前に


「……部外者が私達姉妹に口出ししないことね」


力を振り絞って不意をつき左手を握る魔族


「勝ちね、あなたはもう動けない、私の魔法は触れた相手の意欲を著しく下げる魔法!食欲、物欲、あれがしたい、こうありたい、触れている間は一切の気が起きなくなる、殺意さえも!!」


勝ち誇った表情をする


「フフフ…………!!?」


異変に気づく

彼の手から出ている魔力


「残念、防御済みだ」


「その魔!」


────────!!


言い終わる前に消し飛ばす

魔族は一切の痕跡を遺さずチリとなった


「護るためなら、俺は……」


振り向いて立ち去るバリウス

揺れる耳飾りは、誰かの揺籃を伝えていた



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