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異世界のハマルティア  作者: そそい
根源蝕む悪夢編
35/37

夢現抱擁

ワンモアチャンス!

「…………」


「…………」


「…………」


睨み合うウォンバットと柳と狩苑

セファはただ俯きながら目線をウォンバットの方にやっていた、顔色はあまり良くなさそうだ


かつての教え子が無差別破壊を繰り返す災害となってしまった、過去の失敗はどうにも出来ないが今の彼らを止めるくらい出来るはずだ

ウォンバットはそう、思うのだった


セファはこの光景に自分の過去を思い出し、自分が見た魔族の行い、魔族の象徴たる姿を人間二人が、勇者がやっているのを見て酷く動揺していた


「止める気は、ねぇのか?」


その問いに対して狩苑は獣の咆哮の様な声で答える


「なんか分かんねぇけどよォ、スゴくぶっ壊したい気分なんだ、今は特にィ…お前をよォ!ずっと腹立たしかったからなァ!」


続けて柳も言う


「今はこうしてるのがすっごく楽しいんだ、落ち着くんだ!」


やはり、ダメだ

彼らはとうに正常な物の見方を失っている、ただ破壊衝動だけが身体を動かしている

何故こんな事になってしまったのか、元からこんな感じではあったが、それでも無差別ではなく監獄を選ぶ程度の判断力はあった


「あのジジイならキレてんだろうな、多分よ……俺は殴ることしか知らねぇから、どんな感情でいればいいのか分かんねぇ……でも止めることだけしなきゃならん」


そう言って二人の方へ足を進める

煤を踏みしめながら、コツ、コツとブーツの音を鳴らしながら


そして三メートルまで近づいた


「……」


チョイチョイと指で来いと指図するウォンバット

二人はそれに乗り、同時に攻撃を開始した


「燃え尽きろ!」


「消し飛べ!」


二人からの攻撃をウォンバットは両方とも殴り、炎はかき消され魔法弾は跳ね返って行った


跳ね返され魔法弾を二人は左右に跳ねて避ける

別れたところを狙い一気に距離を詰めるウォンバット、狙いは柳だ


「テメェらを檻の中で反省させる、それが俺の今やれることだ」


柳の顔を殴る

しかし、やられてばっかりでは無い、カウンターに魔法弾を手に作りそれを近づける


ウォンバットは後ろに体を反らして回避し、そのままチラリと狩苑の方をも見る

こちらにダッシュで近づいて来ている


「ふん…ぬぅぅああぁっ!」


避けた腕を掴んでそのまま後ろへと背負い投げで倒す

そして流れるように、飛びかかってきた狩苑を脚を横にはらって蹴り飛ばす


「でやァァァァ!」


両手を合わせて魔法弾を連射する柳、一発頬を掠めた


拳を柳に振り下ろすも地面を転がって鉄拳を避ける

ガントレットの衝撃により地面がヒビ割れていく


そして体勢を直した二人からの挟み撃ちが繰り出される


「「喰らえェェ!!」」


ウォンバットに命中し爆発が起きる、しかしすぐに煙をぬけて襲い来る


「狩苑絋威ぃぃ!!」


パンチを足で捌き追撃を回りながら回避する

そのまま拳の応酬へともつれ込んでいき、お得意の戦場であるウォンバットが押していく


ドギッ


ガードを叩き崩した


「このぉっ!」


ドゴォオッ!


腹に肘を入れるウォンバット、狩苑も嗚咽を漏らしておりかなり効いている


「馬鹿野郎がぁぁっ!」


最後に思いっきり狩苑を殴り飛ばした

地面に横たわり、体をガクガクと震わせながら、満身創痍ながら動かす

ただくだらない恨みを晴らすために


その時、ウォンバットの背後から一発の魔法弾が来た


「フンっ!」


さっきと同じように弾いて防ぐも次々と追加で飛んでくる

それらも全て弾くかガントレットで受けてダメージを軽減していると狩苑からの炎が背から襲う


「(こいつは喰らう覚悟した方がいいな)」


内心で避けられないことを悟り大人しく喰らおうとした時


ドンッ


「がァァァァッ!?」


突如、狩苑の腕から血が吹き出した


直前に鳴った音は、そう、セファの発砲音であった

しかし当の本人は未だいい顔をしていない


「あぁ頭が痛い……父さん、母さん…サラにセニア……こんなもの思い出させやがって……もう何だっていいからお前らクソ野郎を殺してやる……」


地面を這い蹲るような姿勢で頭を抱える、その思考の中では思い出やトラウマ、ウォンバットの言葉など様々なモノが交差していた


もはや自分のアイデンティティである何を恨んでいるのかすら考えると辛くなってくる


「うぁぁぁぁあぁぁ!」


ドゴッ……ギッ…………


地面に頭を打ち付けゆっくりと立ち上がる、額からは今ので血が流れているが彼女はむしろ落ち着いたといった感じだ


「ふぅあぁ……」


「……嬢ちゃん、じっとしてな、ゆっくりお茶でもしながらまた話そうぜ」


哀れみの混じった眼でセファと話す

柳の方は狩苑の様子を見てフリーズしていた


ひとまず静かになりはした、正確には膠着状態だが


「柳亥八…何故こんなことをした……答えろ!」


威圧感のある低い声で怒鳴るウォンバット

柳は息を荒らげながらも、少し語った


「忘れましたか?楽しいからですよ……この力が、今まで退屈してたんですよ、つまらない日常に…そんな時ここに呼び出された、こんなのも貰ってね……」


手の上に炎を軽く起こしてみせる

ウォンバットは静かに聴く


「つまらない、クソみたいな日々から抜け出せた、口うるさい教師も家族もいない!最高だと思ったよ……でもあんたは僕の好きにはさせてくれなかった!」


「こんな事になるなら誰だって止めるに決まってるだろうが!そうでなくとも、そう易々とただの子供の命を脅かさせる訳にもいかねぇ」


「くっ…あの親みたいなこと言いやがって、僕らは勇者なんだろ!だってのに何で普通の人間のお前らの方が強いんだよ!」


「年季の差ってやつだ、お前は子供なんだ」


「くそ……あの魔族ども…あいつらのせいだ、あいつらに会ってからずっと腸が煮えくり返ってるんだ……白い眼のやつ…うるさいやつ……馬鹿みたいな赤い髪のやつ……」


「!!」


何気ない、小さく呟かれた最後の一言に彼女は反応した


「……おい今なんて言った……!」


猛スピードで接近して柳を捉えるセファ

首に手を添え銃を構えて有無を言わさず答えるよう促す


「赤い髪の魔族だと……!?」


「そんなのが居た……気がする、いだぅうっ……!グェッ!」


「嬢ちゃん手を弛めてやれ」


つい手に力が入って柳の首を絞めてしまう

すぐに放すもそれと同時に地面に叩きのめして尋問する


「そいつは今どこにいる!言え!!分からないなら殺す!」


一旦頬を殴ってからその低い声を大きくして問い詰める


「なんだったかな……森とか……バリウスとか……話してたのが聞こえたよ……」


「バリウス!?……(なんであいつの名前がここで!そうだ……確か前旅に出るとか魔族に言われた、森に旅に?分からない……)」


一人考え事をするセファ

ピクリとも動かずただ目を見開いた状態でいる


異様に静かな光景だった

炎も静まり、瓦礫は一通り崩れ落ちていた


風邪は吹かず、砂や灰は地面に落ちた


そこへ多くの足音が近づいて来た

それはこの国の軍隊だった、駆けつけるのが襲いようだが


ウォンバットが兵に目をやる


「なんだ?あぁ兵隊共か……俺だ、ウォンバットだ、名前くらいは知ってるだろガキ共、もう鎮圧したからとっとと」


「ウォンバット様…!?あのっ大変なんです!未知の巨大生物があちこちに」


ドガォオオオオゴオオゴゴゴオオオオオ!!!


突如、隣の家が丸ごと吹っ飛んで空を舞った

大きな煙を上げ、その中から飛び出して来たのは


「んだこいつぁ…デケぇトカゲ?」


トカゲが巨大かつ禍々しくなったかのような生物

バリウス達が闘ったものと同類であろうそれは、尻尾で瓦礫を撒き散らしながら舌を出し、狙いを定めていく


「おい嬢ちゃん!こいつは未知である以上警戒せにゃならん、やれるか!」


「……邪魔、するなぁぁぁああ!!」


セファは聞く耳を持つこと無く、単独でトカゲへと立ち向かうのだった

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