大怪魚三枚おろし
クッキング!
「血の濁りで位置が分かりやすくなった…ハッ!」
ドドドッ
黒く染っていく場所に魔法弾を数発撃ち込む
しかしこれといった反応はない、外れたか
「あの巨体だ、数打ちゃ当たるが一番有効なはず……」
そう言って手に魔力を込めて再度魔法を撃とうとした時だった
何も気配や音は感じなかったのだ
ドパッ
水の塊がバリウスへと射出され水中から飛び出してきたのだ
だが所詮は水、簡単に防げるうえに当たっても涼しいだけだ
そう思って手で弾いた
「ふんっ」
パシャッァ……
しかし
「キィアアアッ!」
「なっ!?こいつらはさっきの小魚!」
触れた水の塊の中には小魚が四匹潜んでいた、その中から飛び出してバリウス目掛けて襲いかかる
「くっ!」
二匹は叩き落とせたが残り二匹が彼へと噛み付いた
一匹は伸ばされた左腕に、もう一匹は勢いのまま首へと
噛まれた箇所から血が滴り、小魚はビチビチとその身を激しく動かして咬み切ろうとしていく
まずは首の奴をどうにかするべきだ
「くぁっ……!」
素手で上顎と下顎を掴みそのまま引きちぎる
血と臓物が飛び出し汚らしいが気にしていられない
腕の小魚は体を掴んでそのまま電気を流して気絶させる、奇声を上げながら硬直すると力なく倒れ込んだ
食い込んだ歯を抜いてそのまま地面に捨てる
「うおぉっ……」
噛まれた首を抑えて状態を確認する
湖を見ながらバリウスは考えを改めた
「魚に知性なんて無いと思ってたが…こいつには少なくとも狡猾さがある…!しかも、見えねぇ……」
そして気づいた、今の攻防の間にあの大魚は湖全体を泳いでいた、血の汚れを湖全体に広げていた
もうどこから血が出ているのか分からないのだ
「逃げるか…?魚なら湖からは出れない、わざわざ率先して倒す必要も無い……闘うにしてもマイナスとフィリアの助けを呼ぶ方がいい……だが助けを求めてさっきのように地面から食い破ってきたら、奴にとって一体どこまでが湖なんだ……」
そして決断する
「今は待つ…ただ何もしない……だが来たらその瞬間に消し飛ばす…その時まで二人を待つんだ……そもそもこんな化物を放っておくのもよくない話だ、ここで殺すべきだ…!」
ただ待つ、立った状態で集中を続けて攻撃に備え増援を待つ
そんなに離してはいない、此処に来るまで十分もかからないはずだ
「…………」
ドパッドパパバババッ!
またもや水の塊が飛んできた、それも複数、確実に十はある
中からは同じように小魚が数匹飛び出してバリウスへと迫る
「……ダァァァー!!」
小魚達を拳でひたすら弾き返す、ただひたすら必死こいてラッシュを繰り出して顔面を殴り飛ばしていく
来る度来る度殴って湖へと戻していく、何匹も何匹も
ドパッ
「!!」
そしてまた次の群れが来た、だがそれは
パシャッ……
「これは普通の水か!?」
今まで小魚が飛び出す勢いで水は四方に飛んでいたため気にする必要はなかった、その思い込みが仇となった
まさかそのまま来るとは思わず防げたものを、水による目潰しをマトモに喰らってしまった
「見えない、まずい……!血も目に入った…」
ガブッ!
「うおぉぉっ!!防げない!当然それも理解してここぞとばかりに!」
腕と足に数匹がかぶりついた
この魚達は歯が鋭く大きくなっており、小魚でも痛みはライオンに噛まれたかのようだ
「やるしかない…!うおおおぉっ!!」
手に電気を出すとそのままそれを自分の胸に当てて
「お前らが濡らしたお陰でよく通る、電気が!」
自身の体や衣服へと電流が流れ、触れている全ての生物が悶え苦しむ、当然バリウス自身も苦しみの声を上げている
「(痛てぇ!理科の教師が言ってた感電したら動けなくなるって話は本当だったか!)」
体から魚がボトボトと落ちていく、一緒にバリウスの血も流れていく
「やばいな…自殺に追い込まれるぞこれ……はぁ…はぁ……」
目を拭って僅かに視界を取り戻す
しかしタオルなどを使ってしっかり拭かないとそう長い時間開けていられない
「だがこれでいい……お前が馬鹿みたい魚を送ってくるもんだから、いい餌に見えた、絶好の、絶好のチャンスのな……」
彼の纏う雰囲気が変わった、伊野を抱っこした時にも見せた何か企んでいる顔
「前の魔族の時間差による爆破…あれを少し真似してみたんだ、お前の魚の中に……仕込んでやった」
ブオオオオォオォォォウウゥゥゥゥンンンン!!!
その瞬間、水中から低い轟音が鳴り響いた
そして湖がより一層血の色になっていく
彼はただ魚を凌いでいるだけでは無かった、殴っているように見えて実は、魔法弾を仕込んでいたのだ
そして湖の中の死体が今爆発した
「ハハハハ…文字通り、魚雷だ」
してやったりという顔で笑う、作戦が成功して満足気だ
そして小魚の襲来が止まった、水の塊が飛んでこない
しかしバリウスにはあれで死ぬとも思えなかった
まさかあの魚が見逃す甘さを持ち合わせるはずもない
何かある、必ず
「……!音だ、聞こえる……さっきと同じ、地中を掘り進める音だ!」
次の瞬間
ドゴアッゴオオオオオオォォォォォオオオオンンン!!!
魚が地中から地面を砕いて飛び出して来た、しかしそれはバリウスの真下からではなくズレた横から
そのまま落下して水しぶきを大きく上げながら消えた
そしてまた
バゴオオォオオオオォオォォォォォッッンンンンン!!!
飛び出してきた、しかし今度も当てることなく後ろから
その後も数回これを繰り返していった、その結果
彼は孤島に立たされた状態となった
「逃げ場無し……か」
大人しく残された僅かな地面の上で構える
いつ飲み込まれてもいいように
「(来いよ……お前の息の根を絶つ…!)」
「王よ!」
するとそこへ遅れていたマイナスとフィリアが合流した、彼の状態を見てかなり驚いている
「地面を警戒しろ!地中から飛び出してくる!」
「……はい!」
状況を飲み込んだマイナスは返事をして地面を見つめる
フィリアはバリウスをじっと観察するばかりだ
ドパパバババッ
そしてまた水弾が飛んできた、今回は二人の方へと
地面ばかりに気がいっていたマイナスだったが即座に反応して攻撃に入る
ルウゥ───────
フルールズを出現させて魔法弾による一斉射撃で撃ち落とす、しかしやはり本命である小魚が中から出て襲いかかる
「撃ち落とせ……」
それらも冷静に対処して迎撃していく
だがマイナスより少し後ろにいるフィリアの方に一匹行った
「……」
ドチャッ……
フィリアは腰の太刀を抜くことなく蹴りで木と挟み込んで圧殺した
意外にもワイルドな闘い方だ
「まさしく雑魚か……」
落ち着き払ったフィリアを他所にマイナスは彼へと叫びかける
「今フルールズを合体させて向かわせます!」
「要らん!食われるだけだ!俺がここで倒す!」
マイナスからの提案を拒否して構えるバリウス
必ず殺すという強い意志、必殺のオーラを纏っているかのようだ
「確実に近づいている………今だ!」
ドウウアアアアアアアァァァァァゴォォォォンンンン!!!
予想通り地面を突き破りながら大魚はバリウスの真下から出てきた、大きく口をあけて
最初のように丸呑みにするつもりだ
口の中に入ったバリウスはまた同じようにしてやろうと思ったが、そうはいかなかった
いるのだ、口の中の水中に小魚が
「まだやるかっ!」
しかし奴らは攻撃してこない、中心でグルグルと泳ぐだけだ
「なにを……!…動いている、引き寄せられている!あの渦の中に!これが狙いだったか、泳ぎで渦を作り出し中心に引きずり込んで脱出出来ないようにする!壁に腕が届かない!本当に飲み込まれる!」
外からその様子を見ていたマイナスは
「王が!撃って穴を開けろフルールズ!」
焦りと怒りを混じえながらフルールズに命令する
しかしあの巨体、どこに穴を開ければいいかなんて分からない
開けたとて、彼はそれどころでは無いのだが
「連れて行かれてしまう、王が!」
とうとう大魚が水中に沈もうとした時だった
ドッオオオオオオ……
響いたのは水の音ではなく、何か硬い物にぶつかるような音、何か割れるような音
それは
「氷か……」
フィリアが呟く
大魚の真下の湖は凍っていたのだ、さっきまで液体の状態だったというのに
魔法だ、そしてこれをやったのは
「僕も何かしなくっちゃあ……足手まといにはならないよ、何重にも氷を張った…あの巨体に耐えられるように…!」
伊野だった、早々にやられて避難していたが戻ってきていたのだ
陸に打ち上げられた魚状態になった大魚は暴れ回る、尾が周りの木々を薙ぎ払う
風圧もかなり勢いがある
「早く王を助け……」
ドォォオオオン!!
「!!」
マイナスが駆けつけようとした時だった、大魚の体が爆ぜて中からバリウスが這い出てきた
「氷…伊野か、やっぱやれば出来るやつだ……」
「王よ!ご無事でしたか!」
手と尻尾を振って歓喜するマイナス
彼はあの時咄嗟に服を脱いで凍らせた、壁に突き刺せるくらい頑丈に
それでギリギリ届いたのだ、そして飲み込まれずに済んだ
「さぁて……」
体を伸ばし、深く息をするバリウス
手の水を払ってニヤリと笑う
「魚と言ったら三枚おろしだよな…三枚おろしってまず最初に何をするか分かるか?」
大魚の体を強く踏みつける
そしてフィリアが何かを察して太刀を投げ渡す
「これが必要かな?」
パシッ
それを受け取る
「そう、頭を斬り落とすんだよ!!」
太刀を抜いて大魚へと振り翳す
「ルェェェェェェェアアアアァァァァァ!!!」
!!───!─!───!────
大魚を力の限り滅多切りにしていく
物凄いスピードで斬りかかり血が飛び出るより早く次の斬撃をする
血が大量に吹き出しどんどん首が斬り落とされていく
「ルアアァ!!」
ズピンッ──────!
大魚の頭は完全に切断され、絶命した
「……ふぅぅ……ワタ抜くのは、ちょっと面倒だな」




