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異世界のハマルティア  作者: そそい
魘りからの目覚め編
3/37

彼方のエスタミネ

朝か


カーテンは朝日によって明るく色を放ち、目覚めの時間を伝える


抱きついている腕をほどき起き上がる

リュディは穏やかで可愛らしい寝顔をしており、つい撫でようとしたが先にリュディが目覚めた


「ん…ふぉあようございます、フフ…」


眠気混じりの挨拶をすると、止めていたバリウスの手を取りそれを自身の頬に置く


「魔族が出て今日は休校です、バリウスさんは?」


「俺もだよ、今日は久しぶりに一緒にいられる」


心底嬉しそうな表情を浮かべるバリウスに対してリュディは

こちらも喜びの表情でこう言う


「久しぶり、と言っても一週間も経ってませんけどね」


「こう言っちゃあれだけどさ…不安なんだよ、常に一緒にいないと…」


少し寝ぼけているのかもしれない

あまりに身勝手なことを言うバリウスに対してリュディは、変わらず女神の様な優しさで返す


「私はどこにも行きませんよ、ずっと一緒です」


「ごめん…」


リュディは知らない、俺の過去や魔族と戦っていること全て

彼女からしたら俺はただのホームレスのヒモ男


なのに


「なんで俺にそこまでするんだよ…頼むから文句の一つでも言ってくれよ…」


一体どんな気持ちから出てきた言葉なのかは俺にも分からない

でもこうでもしないと不安で仕方がない、俺は一体何がしたいんだろうか


得体の知れないモノに纏わりつかれるこの感情、リュディはどう返すのだろうか


「バリウスさんは自分の事、特に過去をあまり言いたがらないですよね…でもバリウスさん、つらそうじゃないですか…ずっと」


つらい


確かにそうだろう、でもそれじゃ言い表せれないくらい、俺は…


「出会った時」


あの時は公園で演奏の練習をしていた


「一緒に料理した時も」


アイツのことを思い出すから


「今だって……多分、バリウスさんは優しくされるのに慣れてないんじゃないですか…?」


「……」


自然と目を逸らす

脳裏に焼きついて離れない、アイツの最期の言葉


「それか、優しくされるのが苦しいんですか?」


「……だって、そうしたら…消えそうで…」


「もう一度言います、私はバリウスさんから離れたりしません、何もそんなに不安がる必要なんて無いですよ」


「そう…やっぱりさ、全部忘れてくれ…ちょっと疲れてるんだと思う…」


「無理です」


予想外の返答が返ってくる

普通そこは受け入れるもんだと思うが、彼女の意思は固い


両手で俺の顔をしっかりと取り、かなり近い距離で、嫌でも聞こえる様に言う


「私は、あなたが苦しさに塗れた人なら必ずそれを溶かします、長い年月を掛けてでも、じっくりと、少しづつ、あなたが笑顔で過ごせる様に」


笑顔か、最後に心から笑ったのはいつだったか

少なくともこの世界ではないだろう


「あなたはきっと明るい人間です、でも今は心が暗く、壊れかけている…少しくらい甘やかされてもいいと思いますよ」


「…うん…ありがとう、ちょっとは気分良くなった」


そうだ、俺がいまやるべき事は決まってる

ずっとそれだけを思ってきたじゃないか


精一杯務めを果たそう……この命がある限り


気分を切り替え、ベットから降りて着替えを取り出し

白のセーターと黒いズボンを着用して両耳に種類の異なるイヤリングをつける


左耳にはストレリチアの花、右耳にはカモミールの花を模したものを

あまり似合っているとは感じないが、大切な贈り物だ


「今日は何をして過ごそうか」


「ハゥルス市に新しくカフェが出来たそうなので、そこに行きませんか?」


「うん、そうしよう、じゃあ俺は軽く朝ごはん作っとくよ」


「それと…いつかは教えてくださいね、あなたのこと」


「うん…時間が経ったら」





部屋を出てキッチンの方へと赴く

主食はパンにするとして今ある食材って何だったろうかと確認すると昨日の料理にも使われたトマトやらキャベツやらがあった

他にも卵があるし、適当に目玉焼きでも作ろう

そう思って始める


「火打ち石…」


引き出しを開けて暖炉に火を起こすための火打ち石を探す

堂々と魔法を使えればいいのだが、彼女の前で使えるわけがない、あんなもの


「…」


リュディはどこまで自分を受け入れてくれるんだろうか、ふとそんな事を考える


俺はキミと人生を共にするには秘密が多すぎる

時間もない、いつまでこうしていられるのか、と


「よっと…」


腕を振り翳して火打ち石と打ち金を擦り火花を起こす


一瞬だけ生じるオレンジ色、最初はこれをやるのに結構苦労した

全然燃えないわちょっと火傷するわズレて手を引き裂くわで、今はもう慣れたものだが


ぼーっとしながら何回か繰り返していると火口が小さく煙をあげ始める


「おっと…ふー…ふー…」


息をちょっと吹きかけてやればたちまち炎が出て準備万端

火傷はこれ以上したく無いのでさっさと暖炉に火を移す


「よし…っと」


消えてしまっていた暖炉に再び明かり灯り何とも優雅な雰囲気に部屋が包まれる

この街年中寒いか普通かのどっちかなんだ、だからこそコレが有難い


まぁ地球温暖化より数百倍マシだろうと気を逸らして寒さを紛らわせる


とにかく、火も起こせたことだ、これを使って料理をしよう

料理って程でも無いかもしれないが


「フライパン…よっこいせ」


フライパンに卵を2個ぶちまけて暖炉の上に置いとく

そしてこの間に素早くトマトとキャベツを切っておく


トマトは半月に、キャベツは千切りに


トンッ、トンッ、と良い音をたてながらトマトを真っ二つにしていく


「ついでにウサギ型にしとこ…」


無駄な一手間を加えつつ切り終え、キャベツに移る


葉をうまいこと丸めて素早く包丁を振り下ろしていく

かなりヒヤヒヤする作業だが、どうせ当たっても大した傷にはならない


「ふぅ…」


包丁を置いてフライパンの方へと戻り、十分そうだと判断したら持って行き皿に乗せる

周りに野菜をぺぺっと置いてはい完成


パンとフォークと一緒に皿をテーブルに置いて


「後で食いに行くからこんなもんか、できたぞー」


寝室に向かって呼びかけ、リュディに朝食が出来たことを伝える

すると、私服に着替えた状態の彼女がドアを開けて出てきた


「ありがとう…じゃあ早速いただきます…バリウスさんも」


眠そうなまま椅子に座ると、彼も席につくよう催促する

一緒に食べようと言ってるらしい、昨日は一緒に食べられなかったこともあるのだろう


促されるまま円テーブルの向かいに座り共に食べ始める


「うん…美味しい、バリウスさんが居るから一層…♪」


「それは良かった…あと、出かけた後帰りに食材を買っとかないと」


「そういえばそろそろ無くなる頃合いだったね、覚えとかないと」


会話を弾ませながら食事をしていく

この後のお出かけが楽しみだと心を弾ませる

何も無ければいいが


まぁ降り注ぐ火の粉も暴雨も全て振り払ってみせる

護るさ、キミ一人くらい


そう心に思うのだった












とあるレストラン

ここは魔族の住処ではなくただの、普通の人間の世界のレストラン


だがここに居る三人の客はそうではない

見た目こそ人間ではあるが、中身はそれとは少し違う


「君達にはこの辺りで破壊活動をしてもらう、そうすれば彼は必ず現れるだろうからね」


三人のうちの一人、ユニは他二人の女性に対してそう告げる


「そんな雑な方法でいいんですか?ユニ様ならもっと聡明なやり方を好むものだと…」


女性二人の中でも姉の方は少し戸惑いを見せながら質問をする


「そうだね、だが私は今非常に昂っている、だからこそ手っ取り早い方法を今は取るよ、それに…他にいい方法がある訳でもないからね…」


ユニが紅茶を飲み、カップを置く

それを確認するともう一人の女性、妹の方がユニに尋ねる


「その男って一体どんな見た目をしてるんですか?」


「服装は変えているかもしれないが…そうだね、黒と白の髪に種類の異なる花の耳飾り、だね」


「分かりました、ユニ様の為に早速…」


「もう少し食事を楽しんだらどうだい、私が奢るから遠慮せずに食べるといい…ここのクネルは中々の絶品だよ」


ユニは目を閉じ心の中でつぶやく

コレが最後の食事になるのかもしれないのだから、と














お昼時、バリウスとリュディの二人は予定通りにカフェへと出かけていた


バリウスは朝の格好に上からレディースのトレンチコートを羽織った状態で

コートは引き裂かれた後があったりと、かなりボロボロで前を閉じることもできないが、綺麗に手入れされており遠目から見れば新品と変わらない


そしてカフェがある結構標高高めの土地で二人は争っていた


「バリウスさん、はい、あ〜ん♪」


「まだ寝ぼけてるんじゃないか?本当に今日休校で合ってる?」


ソルベを笑顔で差し出してくるリュディに対して存外冷たくあしらうバリウス


「ちゃんと起きてますよ、別にこれが初めてじゃないんですし良いじゃないですか」


「家でやってくんない?それなら喜んでやるから」


ココアを飲みながら別に嫌じゃないことは伝える


しかし、それに対して不満を隠せない様子のリュディ

そしてバリウスはどうにもこういうのに弱かった


「んっ…」


「うぇ?」


リュディが油断し始めた所で彼女のスプーンを口に加える

ソルベは味がなめらかで美味しかった


ただリュディの方は未だ呆然としている様だ

さっき自分で初めてじゃないと言っていたのに、まるで面食らったような顔をしている


「フフ、やっぱり食べてくれるんですね…そういう優しいとこ大好きですよ」


「一回だけだ、だからどさくさに次用意すんな優しさにつけ込むな」


「でも私嬉しいですよ、バリウスさんが楽しそうで、喋り方も出会った頃と比べるとかなり砕けてきましたし、もっと素のあなたが見てみたいですね」


「素か…どんなだったかな昔の俺って」


差し出されたソルベを再度口に入れて考える


普通の中学生活送ってた頃の自分、この世界に来た頃の自分

あんなことしなければ、もっとバカやって楽しめてたのかもしれない、色々考えていく


なんにせよ


「まぁ、俺は今一番幸せだよ…他のどんな幸福よりも、過去にあった苦痛よりも」


「…!そこまで言ってくれるなんて…嬉しい…」


感極まった様子のリュディ、見間違えで無ければちょっと涙ぐんでる

こういった事を言うのもあまり無いし、よっぽど嬉しかったんだろう


「フフ…私の名字もいつまで保つんでしょうかね♪」


「俺名字無いからどっちかというと俺に影響あると思うんだけど」


自分の名前である、"バリウス" それ以上でもそれ以下でもないそれだけの名前

別に深い意味をもって付けた訳でも無い、この世界に合わせてとっつけただけの名前


「バリウス・ラプルス…良い名前ですね♪」


「大分語感悪いと思うけどな、まぁ…良いとは思うけど…」


かなり将来の話をしてるが別に結婚してる訳じゃなければ付き合ってすらいない

お互い好いているのは理解しているが、直接ハッキリとは言わない、体を重ねたこともない


いつになったら進展するのやら、まぁこれはこれで結構楽しいしお互い十分満足している


「♪〜バリウスさんも私にあ〜んしてくださいよ♪」


「…わかったよ…」


そう言ってスプーンでソルベをすくった矢先


━━━━━━━━━━━!!!


「!!」


微かにではあるが爆発音、そして一緒に感じたこの感覚


魔族だ、連日発生とはついてない

そして何より許せない、この至福のひとときを邪魔した不届者が


「ちょっと窓から倒れたお婆ちゃん見えたから助けてくる、すぐ戻るから」


「なら仕方ないですね、なるべく早く帰ってきてくださいね?」


「もちろん」


グッとサムズアップして店から飛び出る


「さっさと片付けるか、5分…いや4分だ!」


怒りに満ちた男が今、走り出した

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