マ・シェリは流星に乗って
簒奪道中膝栗毛!
幻樹森
様々な種類の木が生えている大森林、未だにその大きさや果ては明確には分かっておらず地図などは無い
そして入ったまま帰らぬ者もいる
そんな森の中を四人はバリウスの案内の元彷徨っていた
動向がバレて先回りされる訳にはいかないので若干無意味な道を通って行きながら
「(あの指輪…今ならわかる、あれは何かある…僅かに覚えている感触がそう言っている……!)」
落ち葉と土とを踏みしめる
「(にしても、あの場所での日々の記憶は曖昧な割には道は何故か覚えている、というよりかは分かる…これだけは忘れられないってことか……?)」
一人考え事をしながら先頭を歩くバリウス
しかし過去の記憶を探りながら歩いていたせいか、らしくなく足を上げたところで木の根にぶつけ転倒する
だが
「おっと……大丈夫かな?」
いつの間にか前に出ていたフィリアによって受け止められ事なきを得た
体勢を直して自身を支える腕から離れるバリウス
彼女の方を見るとにこやかに笑っていた、当たり前だが悪意の類は感じない、だがどこか得体がしれない
そう彼は感じた
「あぁ…ありがとう」
「ふふ……」
笑うだけで何も言う事はなかった、そのまま再び歩いて行く、やはりマイナスは睨んでいた
すると、ずっと会話が何も無く居心地の悪さを感じた伊野が言う
「目的地までどの程度の距離なの?」
「そうだな…このペースなら二、三日程度だ、戦闘を考慮したら」
「食べ物とかは?」
「兎でも捕まえるしかない、この旅結構大変だと思うけどいけるか?」
「今更引き下がるわけにもいかないよ、勇者として戦ってるみんなの為にもね」
自分の意思を見せる伊野の言葉を背を向けたまま聞いたバリウスは少し声を出して反応を示す、あまり興味は無いのだろうか
しかしその時、いい事思いついたと言わんばかりに声を上げる
「そうだ、今はお前の体力の事も考えて歩いているが、担いでいけば多少早くなるかもな」
「え?それって」
「よいしょっと……」
おもむろに伊野をお姫様抱っこする
そして足に力を込め、地面を踏み締め、落ちた枝を折る
「ねぇ前もこんな事無かった?また崖から飛び降りたりしないよね?」
「ここは森だ、崖は無い……ただちょっと、スリリングかもな?」
バキィッッ!
瞬間、地面の土が後方に飛び散り二人の姿が消える
彼らは既に十メートル程先を進んでおり猛スピードで進んでいた、生い茂る大量の木の隙間を縫って
「おっとあぶね」
「今ちょっと枝当たったんだけど!」
「今度はこういうのはどうだ」
伊野の文句を無視してジャンプすると体を横に傾け木の側面に立つような状態になる、そして更にジャンプして木から木へと空中を渡って進む
「うわぁぁぁぁああぁぁぁん!!」
距離を離されたマイナスとフィリアは伊野の叫び声を聞くと追うために両者走っていく
残された足跡に自分の足を重ねながら木をの間を通る
そしてフィリアがボソッと呟く
「なるほど、確かに強いな…王にするのも分かるよ、ぃ……私の父に似ている……」
「言っておきますが、王に余計な口と手を出さないことです、さっきのように!」
そう怒りを出すと、どさくさに小石をフィリアの方に蹴り飛ばす
しかしそれを彼女は知っていたかのようにデコピンで弾き返してマイナスの額に命中させた
「くっ…よくもこんな事を……」
「すまないね、あまりにも分かりやすいモノだから」
マイナスの姿を笑うと、嘲笑されたと感じた彼女は悔しそうな表情を浮かべるのだった
ユニの自室にて
彼は顎に手を当てて思索していた
「ふむ……動いたか、幻樹森…おそらく鍵を…」
壁と融合して紙を眺めながら部屋の中を歩く
白い衣服がゆらゆらと揺れ、部屋の景観とは真逆の落ち着いた雰囲気を出している
「追って、探さねばなるまい……足止めとして数を用意しなくては、それまでは私の実験の名残が運良く邪魔してくれることを期待しよう……これで動く…願いが、私の願いが……!」
激しい動きの揺れにより机からペンが落ちる
「愛しい私の妹よ、腹の中で死んでしまった君の姿をやっと見ることができる!神の力を手に入れさえすれば可能な筈だ!フハッ、楽しみだ…親から妹の話を聞いて以来ずっと気になったんだ君の存在が、私は何でも知らなくては気が済まないタチだからね……ンンンンンンッンンンゥゥ!!」
身体を震わせながら荒れ狂うように喜びを体で表現する、机の本達が倒れることも意に介さず
「フハハハハァー!!」
「よっと……」
「酔ったかも……頭がぐわんぐわんする……っぷ」
大きな湖が広がる地形にて、抱えていた伊野を降ろして休憩する、バリウスの方はこの程度では息切れ一つしていない
マイナスとフィリアはまだ後ろから追ってきているところだ
ふと湖を見渡す伊野
「綺麗な場所だね、さっきまでは全然そんな感じのとこじゃ無かったのに」
「人の手が入ってないからな、自然豊かではある」
湖の周りにはただ草が生えるだけでなく、美しい花々も咲いている
場所が場所なため未確認の植物も混じっているかもしれない、エンプトレの教授あたりに贈るのも一興といったところか
「静かなのもいいね、でも鳥の鳴き声とかもあった方がいいと思わない?」
「んーまぁそうかも、その方がなんだろうな…生き生きとしているというか、単純に綺麗というか」
軽い会話を交わしながら景色を楽しむ
伊野がしゃがんで湖の水に少しだけ、表面だけ触れた
水面に輪が広がって揺らしていく
「飲むなよ?」
「流石に飲まないよ、体に悪影響かもしれないし」
後ろからバリウスに声をかけられて振り向きながら答える、その際に指が水中へと第二関節辺りまで入っていった
「飲み水は魔法で出すから……ん?」
伊野が何か違和感を覚えた
喋ると同時に水中から出した指、それを見ると
「血……?なんで……」
何故か僅かに出血していた、他の事に気を取られて気づかない程度に浅いものだった
「どうした?」
「…………」
好奇心の釣られた猫のように再び水面に指を近づける
何も無い
いや、来ている
影が、こちらに
ドザアアアアアアアァァァァァァァァァンンンンンッ!!!
「なあぁぁぁぁぁっ!?魚だ、だがなんだこの大きさは!」
突如水中から巨大な魚が高速で、発射されたように飛び出す
大きさは漁船を丸呑みしてしまいそう程に大きく、体は鋭い鱗に覆われている赤い魚
どうやら湖はこんなのを隠せるくらい大きく、深くてまさにこいつの住処にうってつけという訳だった
「藪海!」
魚が出てきた際に体で弾かれ宙へ飛ばされた伊野をジャンプしてキャッチし着地する
「大丈夫か!」
「なんとか、体が痛い程度で済んだよ…ごめん、僕やっぱり足でまといだよね…」
「……お前なら仲間は補い合う存在とか言いそうだと思ったが、とにかく今はじっとしてろ、足でまといかどうかは最後に分かる事だ」
そう言って伊野を森の中へ避難させる
魚はいない、さっきまでと同じで湖の中に隠れているのだ
「分かんなくてもどうせこの中から出てくるんだ、迎撃は簡単だ……」
臨戦態勢を取る
手に魔力を込めてすぐさま攻撃できるよう備える
「…………」
!!──────────!──────────
来た、音がする
「来い……」
だがこれは水の中を進む音じゃない
むしろ土を砕くような鈍い音だ
そう、真下だ
バガアアアアアォォォォァァァァァァァ!!!
「こいつッ!地面を掘り進んで来やがった!」
上へ上へと飛び上がる魚の口の中に瞬く間に入ってしまうバリウス、このままでは食われてしまう
「うぉぉぉぉぉおおおおおオオオ!!」
先に口が閉じてしまう、間に合わない
ならばと
「えらの穴増やしてやるよォ!」
腕を真横に突き刺して予め込めていた魔力を使って爆発する
ドォォオオオン!!
「キイイイッエエアアアアッ!!」
魚が叫びながら悶絶して体をくねらせる
その間にバリウスは爆破して開けた穴から外へと脱出した
「うおおおっ!」
ザパァ……ン……
出た先は水中、そう、奴の住処
もっと分が悪くなったかもしれない
しかも、水中には奴に似た小魚が何十匹とおりバリウスに向かって猛進していく
「(ガキか!あのクソデカ魚の!早く出ないと不味い……!)」
電気を魔法で出して水中へと広げる、小魚は感電して結構な数気絶した、そこまで強くは無いらしい
バリウスの方も少し感電したが大したことは無い
「ぷはっ……はぁ……泳げないから本当に駄目だコイツは……」
びしょ濡れになった体をぶるぶるとして水をある程度落とす
「どうしたもんか……」




