放埓旅幕開け
戦いだよ、全員集合!
バリウスとマイナス、二人はローエイの家を訪れていた
ドアの前に立ちコンッコンッコンッとノックする
反応はすぐに帰ってきた
扉が開いて中からローエイ、ではなく伊野が出てきた
「もう着いてたのか」
「手紙に時間指定されてなかったから……」
「あぁ忘れてた、ごめん」
軽く謝って家の中に入っていく二人
昨日リュディの家へと帰る前に送った手紙、そこには翌日ローエイの家を訪れるよう記載してあった
そして戦う覚悟をしろとも
「つか家の主のあいつが出てこいよ」
「今手が離せないみたいで」
「……変なことしてるだろ絶対……」
以前バリウスが目を覚ました部屋に案内される
変わりなく天井から神器が紐でぶら下げられている異様な雰囲気の空間
ローエイの姿はなかった
すると隣から扉が開く音がしたかと思うと今度こそ家の主であるローエイが出てきた
グローブをしっかりとはめ込みながら歩き、バリウスの存在に気づくとニヤリとした
「やっと揃ったか、フフフフ……安心だ、これで世界は救われる、ってな勇者様」
「世界の命運なんて知らん、とりあえずこれで戦力は集めた」
ローエイのおふざけに対して冷たくあしらう
マイナスの方は二人の様子を見てローエイがバリウスにとって良い存在では無いことを察して警戒態勢に入る
そんな彼女に対してローエイが歩み寄り、じっくりと観察する
マイナスは鋭い目つきで威嚇と嫌悪を顕にし拒絶の姿勢を見せる
「俺には分からないが、お前も特別な存在なんだろうな」
「……私はただの道具です」
それだけ言うと元の位置に戻るローエイと、ギロリと睨みつけるマイナス
うまくいかない事自体はバリウス自身予想していた、ただローエイが妙なことをしないかだけが気がかりだった
「伊野とか言ったか、お前も居ることだ、改めてこれからの旅の目的を説明する」
「え待って旅?今から?聞いてな」
「お前らには鍵を取ってきてもらう、確かお前が言うには指輪だったか」
焦り始めた伊野の言葉を遮って話し続ける
無駄だと分かったのか静かになる伊野
「あの女の家まで取りに行くわけだが、道はお前だけが知っている、お前が重要な存在だ」
バリウスを指さして言う
「たが必ず邪魔が入るはずだ、動きを察知した同じ鍵を狙っているユニ共エリスの連中と奴の部下のな」
「そいつらを全員殺せば平和になる訳か、人間と、魔族と…リュディの生活も……」
小さく呟く、それとは対照的に拳には強く力が入っている
そこへ伊野の質問が投げかけられる
「その鍵って何ですか?魔族が狙うものって一体……」
「……強いて言うなら…神の力の一端」
「神……?神って一体……」
「そんなことはいい、さっさと得なければ手遅れになる」
「本当に何を言ってるんだ……」
謎が深まる伊野と説明をほとんどしないローエイ
伊野の方は困惑がより強まったようだ
そんな中ローエイは心の中で考えていた
「(全てを言えば何があるか分からん、最低限にすべきか、それに早く取らなければこの星は終わりだ)……これで全部か、なら今から出発しろ、お前が寝てたせいで時間が無いんだ、一応言っておくが俺は同行しない」
バリウスを見ながら言う
伊野の方もバリウスを見て少し前のことを話す
「びっくりしたよ、二週間前にこの家に来たら君がボロボロの状態で寝てて」
伊野は以前リガァヌと女魔族と闘った際のローエイに明日この場所に来るように、と言われたことを言っている
本当ならそこで今回の説明がはなされるはずだった
「寝てて悪かったな、最近寝付けなくてよ、あの家なら幻樹森だ、行くぞ」
少し怒った感じの声で言うバリウス
そこへローエイが寄ってきてとある物を手渡す
「もしもの時だが、こいつを持っておけ」
「?……!これは……」
驚いたあとポケットへとそれをしまう
それを見たあとローエイが思い出したように言った
「前にも言った仲間だが幻樹森に向かわせておく、邪魔が入って参加出来そうに無かったが、何とかなった」
「言ってたなそんな事、前俺一人で戦うことになるって言ってたのはその邪魔が原因か……(邪魔されるような存在、一体何者なんだ?)」
色々と思いつつもバリウス、伊野藪海、マイナス・フェイバーの三人は幻樹森という名の森へと向かった
幻樹森にて、三人は集って仲間の存在を待っていた
「具体的な集合場所何も言ってなかったけど本当に合流できるのかな……」
不安をぼやく伊野
「実力者なら察知するなりなんなりするだろ」
相手任せのバリウス
「フルールズで探しますか?」
鳥を一羽出現させるマイナス
「……そうした方が……!誰か来る……!」
気配を察知して咄嗟に臨戦態勢に入るバリウスとそれにマイナスが続く
後方からの気配だった、しかしその姿はすぐに見えた
歩いてこちらに近づく一人の女性
腰には黒い拵えの太刀を下げており、その歩き姿やマントの付いた衣服はどこか貴族然とした上品さを感じさせる
口を開いた
「私の名前はフィリア、ローエイから話は聞いているだろう?」
「お前か……」
ひとまず警戒態勢をとくバリウス
マイナスの方はむしろ威圧感が増している気がする、バリウスの胸ポケットへと鳥が忍び込んだ
「よろしく、バリウス……で合っているのかな?」
少し伸ばされた銀髪を揺らしながら歩いて近寄り手を差し出す
それに応えてバリウスも手を伸ばして握手する
その時
「!!……(なんだ、今の感覚は…マイナスの時と似たような……)」
そっと手を離すと自分の手を見つめ直すバリウス
フィリアの方は全くもって平気そうだ
するとフィリアはおもむろにマイナスに近づきその瞳を覗き込む
「……似ている…?其方は……」
「近づかないで下さい、特に王には」
「王……王か……」
何やら一人で考え込むフィリア、しかしすぐに気を取り直してバリウス達に言う
「悪かったよ、では行こうか」
「(フィリア、こいつが、いやこいつとローエイがどんな目的を持っているのか、二人は仲間なのか、分からないことが多いが今は信じよう)……よし、急ではあるけど用意は良いな」
「王のご命令さえあればいつでも」
「まぁ、うん……(さっきから思ってたけど王ってバリウスくんのこと……?)」
四人揃って強い威圧感を放って森の方をむく
ここから先は完全なる死地、何があるか分からない
たがそれぞれの目的のため、何より未来のために行か
なくてはならないのだ
「旅へ、行くぞ……!」




