旅路への夜明け
一方的対抗心!
合体したフルールズで本土に戻った二人
暗い空の下を歩いき、寄り道で伊野の家のポストに手紙を入れたり、魔法でマイナスの体の汚れを取り除いたりしてからリュディの家へと辿り着いた
ガチャ……
「鍵が開いてる……」
いつもなら閉めている家の鍵、しかし今回に限ってはそれが為されていない、防犯面が心配だ
理由なんて分かりきっている、当の本人も
マイナスの方は中々扉を開かない彼を不思議そうに見つめながら尻尾を揺らして待っている
キィ…ィィ……
意を決して扉を開く、少しずつ、恐る恐る
「ただいまぁ……ぁ……」
絶対に寝室まで聞こえないであろう声量で帰りを告げる
しかし、彼女はそれを察知してドタドタと足音を立てながら玄関に接近していた
「バリウスさん……!…バリウスさん!」
夜中だというのに大声を震わせながら涙目で歩み寄るリュディ
ずっと、この二週間、ずっと帰りを待っていたのだ
最後に見た、血塗れの彼を抱えながら
「リュディ…」
靴を急いで脱いで彼もリュディに歩み寄る
その手を取り合い、互いに目を合わせる
「俺は死んじゃいない…俺は生きて帰ってきた……」
「おかえりなさい…!……生きててよかったです…!」
ハグをする、互いの不安を埋めるような抱擁を
リュディはバリウスが痛いと思うくらいに強く
バリウスは宥めるように優しく頭に手を回して
「…………」
「…………」
「…………」
数秒経っても二人はハグを続けていた
正確にはリュディの方が離さなかった、未だ力強く抱きしめている
しかし静寂が訪れていた空間に突如、何か物音がした
ベシッ……ベシッ……!
それはマイナスが尻尾を振って壁に叩きつけている音だった
表情こそ穏やかなままだが内心はそうでは無いだろう、雰囲気など表情以外の全てがそう語っている
慌てて抱擁をとく二人
「えぇっと……落ち着いた……?」
「はい…ところでそちらの女性は…?」
体を横に反らしてバリウスの後方にいるマイナスを見つめるリュディ
バリウスの方は少し不安そう、もとい頭抱えていそうな表情をする
そこへマイナスが口を開いた
「私はマイナス・フェイバー、崇高なる王の忠実な道具です」
誇らしげな顔で自己紹介をする
リュディの方は一旦バリウスの顔を見て疑いの目を向ける
「俺じゃない、あいつが変なんだ」
真顔でマイナスを指さして罪を擦り付けるような事を言う
リュディは二人を交互に見てとりあえず納得したようだった
「そうなんですね」
肯定の言葉を形だけ出した、実際は何も理解していない
逆にこれで理解しろと言うほうが無茶であるが
「どうぞ、上がってください」
「失礼致します」
なんだかリュディに対してだけ妙に嫌味ったらしい声で話す
彼女も靴を脱いで上がると三人でそのままリビングへと入っていった
そしてリュディは椅子に座り、マイナスはその辺に立って眺め、バリウスは
正座させられていた
「いや、あの……許してください、てかさっき許してくれたじゃん……」
あれこれ言うバリウスを足を組んで見下ろすリュディ
明らかに怒っている、当然だ
急に家を出ていくとか言われた挙句大事な話してる時に魔族に襲われたと思ったらバリウスが致命傷を負い助け出したのにまた闘いに行って行方不明になりこうして夜中に叩き起されたのだから、知らない女引っさげて
「別に怒ってなんて無いですよ、ただちょっとひっぱたきたいだけで」
「怒ってる……」
「まぁこの際いいんです本当に、無事でよかった、本当に……それだけしか言えません……」
しんみりとした声で呟く
彼も何も言うことは無かった
ただマイナスの方は物凄く目で威嚇している、彼の"待て"の命令が無かったらリュディに襲いかかっていたかもしれない
「なぁ、もう一度ワガママを言っていいか……俺はしばらく帰れなくなる、でも絶対帰ってくるから…」
「……分かってます、多分まだ何かするつもりだろうなって、思ってましたから……それが貴方という人ですから……だから絶対に帰ってきてください、貴方のままで、貴方という人間を私は待っています……」
「あぁ……今日はもう寝よう、疲れて……」
戦闘の疲労で眠気が襲う
あくびをしながら彼は寝室のドアを開け、クローゼットの中をゴソゴソと何かを探す
「あった、埃は無いな、マイナス!これ」
リビングに戻るとそう言って服を投げ渡す
それは赤と黒が基調となった服、そう、クロリスの服屋で試着したものだ
「これは……」
「お前をぶち込んだあの後くれたんだ、動きやすいよう改良も加えてな、感謝して受け取れ」
確かに以前は無かったら鳥の羽の装飾だったり、そもそも形が変わっていたりする
自分を殺そうとした相手だが、本気で考えられて作られている
「確かに、感謝しなくてはなりませんね」
「服があの時のボロボロのヤツのままだったからな、寝巻きの方はリュディのを貸していいか?」
「はい、サイズが合えばいいのですが……」
チラリとマイナスを見るリュディ
この二人、ハッキリと言ってしまえば胸の大きさがまぁまぁ違う、種族差故かマイナスの方はかなり大きいのだ
それに気づいたマイナスは勝ち誇った顔をする
リュディに分かるように、見せつけるように
バリウスはそれに気づくことなくクローゼットの中を再び漁っている
その隙にマイナスがリュディに話しかける
「言っておきますが、王に貴方は相応しくありません、何も知らないのに王を得ようなどと思わないことです」
「……私は彼の弱いところを知っていますよ」
その言葉に少しムッとした様子のマイナス、彼女を睨みつけ不快感を露わにする
マイナスは知っている、彼の魅力を、王たる所以を
しかし彼女は彼の本意を知ることは無かったたのである
その後三人は眠りについた
マイナスは二人が共に寝ることに不服そうだったが大人しく一人でソファで寝た
その間ずっと考え事をしていた
翌朝、三人は玄関で旅路にでる用意をしていた
マイナスは貰った衣服に身を包み、バリウスはリュディと旅に出る前最後の会話をする
「生きて帰るよ、絶対……記念日までには」
「!!覚えてくれてたんですか…!出会った日を……」
「当たり前だろ、毎日出会ってからの日数を数えてる、土産のひとつくらい用意できたらするよ」
そして一通り話し終えたあと、二人は扉を開け
旅へと出ていくのだった
「行ってきます」
「行ってらっしゃい……待ってますね……」
バタン……




