まだ悪魔じゃなかった頃の話
だって家族だから
昔々、とある辺境で五人家族が暮らしていました
父と、母、そして娘三人の
その家族は仲睦まじく、不満と喧嘩のない、理想の家族でした
「お父さんこの人参食べていい!」
「駄目だよサラ、これは売りに出すものだ、後で別のを持ってきてあげるから、あっこらセニアしれっと取ろうとしない」
「やめなよセニア、父さんが言ってる」
「ありがとうなセファ、セファはしっかりしてるなぁ、母さんも言ってたよ」
「……ふへへ…」
しかし、それを理解することの無いものが現れました、二つ
「けほっ……けほっ……とぅさ……ひっ…いぃ……」
ある日突然、噴火が発生し家族はそれに巻き込まれてしまいました
辺りは灰にまみれ、地獄の名を得んと全てを焼くように包みました
そして父は死にました
みんな倒れ、作物は枯れ果てました
少女の髪からは、灰が抜けることはありませんでした
「かぁざ……ふぇ"っ……いだいよ……いたっ…いぃ……」
「セファ…!……サラ…!セニア……っ、ごめんね…ごめんね……」
「ママ…目が痒いよ……」
そしてある日、一人の男がこの地を訪れました
赤い髪が特徴的な、楽しい人でした
その人は、笑いながら町を焼いていきました
母と、娘二人は消えてしまいました
懐かしい煙の立ち上がる姿を見ながら、少女は焦げた喉で叫びました
そして、父を探して積もった灰の中から特別な力を手にしました
噴火で一緒に飛んできた物でした
少女は夢を持ちました
「こんなものですよ、大体……」
暖炉の火だけが輝く部屋で、向かい合って座る二人
まだ少し、肌寒い
セファの表情は、わからない
ただ、怒っているような感じはしない、そっと、目を閉じている
ウォンバットの方は、口をつぐんで、憐れむ目をする
「嬢ちゃんはぁ…強い子、なんだな……」
彼女の方を見て、老人らしい、掠れた声で言う
ゆっくりと、間を置き話し続ける
「でも…弱い子だ、人を頼るという事を知れなかったんだ……」
「それは……親がいなくなったから、ですか」
目を閉じたまま、少女らしい声を出して問う
「そうだな、穏やかでさえあれば、嬢ちゃんがこんな事をするこたぁ無かった……でもよ嬢ちゃん、遅いなんて事は無いんだ、あぁ無いとも……今からでも、ゆっくりでも、人を見てご覧な」
セファの体がピクリと動く、心做しか震えているような
彼女の瞳は今、どうなっているのだろう
今も炎は燃えているか、あの日の桜花を懐かしんでいるか
「これは私の復讐です…家族を、他人は引き裂けません、だから私だけで……」
「こうやって、メシ食うことも、ダメなのかい?」
髭を掻きながらシワをよせて言う
僅かに目を開け、空の食器を見るセファ
「嬢ちゃんの家族が良い人なら、心配してると思うんだが、どうかね」
「……そろそろしつこいですよ、私はもう十八なんです、子供扱いされる年じゃありません……私はセファです、一人の人間として…行動しているんです」
ただ守られて、付きまとわれる子供ではなく
自立して、人間としての明確な意思があると言い張る
彼女は今も一人だ、暖炉の火も彼女には余計なのかもしれない
「儂も、昔話をしていいか?」
「なんですか、別にいいですけど」
ウォンバットは少し笑うと席から立ち上がり、さっきセファが目にした勲章を手に持った
それを見る目はどこか物悲しく、誉の形に対するソレではない
むしろ後悔の形を見るようだ
「儂の若い頃のだ、あぁ……馬鹿なやつだったさ……今も……」




