からまわり忠誠心
つらい起床!
「んっ.....頭が……もう夜か」
物陰で一眠りして目を覚ますと、頭痛と同時に月光が眼に入り込む
「なんだっけ……そうだ、マイナスを引きずり出しに...くそ、頭がボヤける...寝る前の記憶があやふやだ」
頭を抱えながらも監獄の方を見渡す
中は光はなく真っ暗だが、外には看守がランタンを持って巡回しているのが見える
「もうちょっと計画練るべきだったな、なんでこんな無計画に行動したんだ」
過去の自分の行動を悔いながら入れそうな所を探る
夜目は魔法を使えばある程度利くので問題ない
問題はマイナスの居場所だ
何処に収監されているのか全く分からない
「俺が呼べば来るだろうが、そうしたら看守に見つかって帰れる保証は無くなる、今でさえ帰る手段無いってのに...だがあいつならもしかしたら……」
彼女の力について思い返す、可能性は否定できない
だがリスキーだ、だがそれが一番かもしれない
「だがどうやって呼ぶべきか...大声で叫ぶか?」
そんなことしたら看守に見つかるし、そもそも距離の問題で届くか分からない
「ダメか、暴れてもな...他の囚人の仕業と思われるか?いやあいつなら分かるはずだ、俺の事が」
おそらく、やるしかないのだろう
中に入って勘のみで探す方が圧倒的に面倒だ、見つかる可能性も高い
戦闘ならこの開けた地形の方がいい
「あいつは本当に俺を困らせるな、やってやるか、どうせ大事になるんだ、でっかくしてやるか」
物陰から出て砂浜を歩く、足跡にも気を使って靴も新しいのを用意した
そして彼がランタンの照らす範囲に近づいた時、看守が彼の存在に気づく
「誰だ貴様!そこを動くな!」
剣を抜いて構える看守
「………」
喋る訳にもいかないので無言
動くなとは言われたが、目的のためには...
スッ…
魔法で爆発を起こそうとした時、気づく
「(待てよ、魔法使ったら勇者が犯人ってバレかねないな、まだ頭が回りきってないか?)」
「動くなと言った!それ以上動いたら斬る!」
「(騒がしくするためには...こうだな)」
──────!
彼のいた地面から砂が飛び散る、彼がダッシュで逃げて行ったのだ
「何っ!?くっ、侵入者だー!!侵入者発生!!」
大声を上げ、笛を鳴らす看守
それを聞いた近場にいた看守がぞろぞろと集まっていく
「(脱出のために何人かは倒さないとか...)」
踵を返して看守たちと向き合う
十くらいだ、バリウスからしたら神器を持っていない奴はノーカウントなので実質的な数はもっと少ない
「やるか...」
ズサァァァ...─────
砂をまき散らしながら看守の群れに接近する
どいつから倒そうかと考えていると群れの中から高速で攻撃が飛んでくる
斬撃だ
「うぉっ...と」
後ろの方にあった木が真っ二つになった、恐ろしい飛距離だ
しかしそれよりも威力が明らかに殺しに来ている、侵入だけの相手にしては随分な対応だ
この監獄、結構殺伐としているのだろう
囚人への暴行なんかもありそうだ、だとしても彼はマイナスへの心配などしないが
「(ダアアァッ!!)」
声は出せないので心の中で叫びながら攻撃する
初撃のパンチが看守に当たり、ノックアウトした所を掴んで他の看守に投げ飛ばす
「うおぉおおお!」
横から殴りかかってくる看守
しかしこの程度読めていた
グボッ!─────バッゴッ!
顎を蹴り上げ、繋げて頭を蹴り下ろす
喰らった看守は地面にうつ伏せに倒れる
バゴォッ!!
そして背後からの不意落ちへは振り向きざまに腹パンを入れる
「ぐおっ...」
ドサッ………
「どうなっても知らんぞぉぉ!!」
さっきの神器の剣を持った奴だ
バリウスに向かってその剣を振り下ろす、その驚異的な切れ味に向かって彼は
バゴォォォォッンン!
「ぐ...おぉ...っ」
看守の剣よりも速く拳を頬に叩き込んだ
そして片足立ちで足を垂直に開いて蹴り上げて宙に浮かす
そして膝蹴り、アッパーと続き思いっきり殴り飛ばした
────────!!
砂の上を滑りながら吹っ飛び、砂が舞い上がる
残りの看守もテキトーにあしらい、彼女が来るのを待つ
「(気づいたか?というかそうでないと困る)」
「ブフォッ...」
また一人倒すと、近くから他と比べると異様な雰囲気を纏ったものを感じる
「人間か、でも加減する必要もないかな、なぁ狩苑」
「あぁ柳、存分に俺達の力を使わせてもらおう」
その二人は看守と比べるととても若い、バリウスと同年代くらいだろう
どう見ても違和感の塊だ
そして狩苑と呼ばれた男が手を構える
「(まさか!?)」
ボォォウァォォォ!!
その手から火炎弾が発射される、魔法だ
バリウスはそれを回避して冷静に考える
「(こいつら、勇者か!顔なんて覚えてないから分からなかった)」
「ちっ、避けやがって...さっさと燃えろ!」
次々と新たな火炎弾が発射され続ける
砂の上だからいいが場所によってはかなり不味いことになるだろう
「僕も、おぉらっ!」
柳と呼ばれた方はシンプルな魔法弾を飛ばして攻撃する
「一人でいいっての柳!」
「楽しいんだから仕方ないだろ!」
どうやら彼らにとってこれは楽しいもののようだ、かなり趣味が悪い
元の世界での道徳の成績が気になるところだ
「(これを魔法無しでは厳しいな...早く来てくれ!)」
心の中で悲鳴を上げる、その時だった
ドォォォオオオオンッンンン!!!
突如監獄内から爆発音が響いた、見れば煙がたっている
三人とも気を取られ攻撃の手を止める
「なんだあれ?」
「知るかよ、でもこれでもっと遊べるぜ?」
どこまでもゲスな事を考えている二人
そこへ光が舞い降りた
「いてっ!?」
正確には魔法の攻撃、ビーム状のものが飛んできた
それは狩苑の腕を掠め、出血させる
「なんだ!なんなんだ?!」
慌てふためく柳と痛がる狩苑
だがバリウスはこの攻撃知っている
「こいつはぁ……」
何かを察知するバリウス
そこへ監獄の何階かから一人の人物が飛び降りてきた
ズザッ………サク...ザク...
砂の音を立てながらこちらに近づく人影、そしてそれが一人の人物を認識した途端、物凄いスピードで飛びかかって来た
「王よ!!」
「いっ...!?」
ガバッとバリウスに抱きつく女、頭には獣のような耳を生やし、腰からも大きな尻尾を生やした茶髪、というか茶色い毛をした女
そう彼女こそバリウスの会いたくない存在にして最終手段
マイナス・フェイバーである
「あぁ我が王よご無事ですか?看守の邪魔や壁の破壊などで遅れてしまいました、どうお詫びすればいいか……ですがその前に今すぐあのクズ二匹晒し首に.....!!この匂いは!他の女の…無知な女に貴方様の何がわかりましょう?私の方がもっと!」
「うるせぇ喋るな...!」
彼女の耳元で、かつ小声で怒るバリウス
マイナスはそれを素直に受け入れ口を閉じ首を縦にブンブンと振った
リュディに会わなかったのは彼女の匂いがつくと鼻のきく獣人であるマイナスにはバレ、しつこく文句を言い始めるからである
「お前の魔法でこの島から脱出できるか?」
続けて小声で質問する、それに彼女は首を縦に振って肯定する
「よし、ならあいつら倒すぞ、殺しも無駄に傷つけもするな、五体満足だ、いいな?前みたいに暴れたら今度は首輪つけて犬小屋にぶち込むからな」
「...」
少し間を置いてから首を縦に振る、不安だ
「あぁ...喋ってもいい、ただし俺について情報を与えるな」
「承知しました我が王」
「……前にやめろって言ったんだけどなその呼び方」
「申し訳ありません!ですがどうかお許しを!貴方様は私の王であると!そういう運命なのです!!」
やたらと王という呼び方にこだわり、懇願する
「わかったわかった、前も聞いたな確か許可するから早くやれ」
置いてきぼりの二人を指さして指示する
マイナスは二人の方を睨むと臨戦態勢に入る
そのオーラは凍てつくものであり、かなりの恐怖と彼女の怒りを感じさせる
そしてそんな彼女の周りには奇妙なものが集まり始める
────パサっ──バサッ
鳥である、小さなカラスのような鳥の形をした黒いものが集まっているのだ、それも七羽
「王へ向けたその罪、薄汚いその体に刻み込みなさい……」