微睡む眠り悪夢は未だ覚めぬ
嫌なやつ!
「……なんでお前が起きて一番なんだ」
「ククク、あの世でおねんねしてるのがお望みだったか?」
目覚めたそこはベッドの上、知らない部屋
そしてローエイ
体には包帯が巻き付けられており、ローエイが治療をしたのが窺える
痛みはさほどのモノではない、十分行動はできるだろう
「俺が倒れてからどうなった」
上半身を起こして毛布を退かすと、不請顔で尋ねる
「そう嫌そうな顔するなよぉ…協力関係だろ?」
「それ以上では無いだろ、それ以下ではあっても」
冷たい態度を一貫し早く答えるよう促す
その間にも手足を動かして動作確認をしている
「確認できる範囲では兵士が二十七人死亡、負傷者は数え切れない位にはいるらしいぜ」
やはり被害はかなり大きいようだ、確認されていない犠牲者も沢山いるに違いない
「リュディは…無事なのか?」
「お前を回収する前に確認したが多分大丈夫だ、帰り道は知らんがな」
「そうか……」
どこか暗い表情をしているバリウス、あまり晴れ晴れとした決断ではなかったようだ
ベッドから降りて部屋を歩くと、ある物が目に入る
「神器か、これ……」
「そうだ、研究対象の一つだ」
「……ろくでもない事だろ」
「役に立つ物だ」
薄ら笑いを浮かべて言い返すローエイ、研究とは随分と楽しいものらしい
「どのくらい寝てた」
「あと数時間寝てたらまる二日だ」
丸一日以上寝ていた、無理がかなり体に響いたらしい
だがその分休息はとれた、これ以上休んでいる暇は無い
「なぁ、俺はこれからどうすればいい、何をすれば奴らに辿り着いて殺せるんだ」
「!…フフ、そうこなくっちゃあ面白くない…!」
一瞬目を見開いて驚いたよう表情をした後、いつもの憎たらしい笑顔に戻って囁く
「お前が得るべきは鍵だ、ユニの奴もそれを狙っている…鍵は宇宙の力への足がかり、奴に渡したらそれこそろくな事にならない」
少し、気持ち程度、気の所為かもしれないが、若干真面目な顔つきになって話し始める
「鍵…どこにあるんだそれは」
硬い表情で話を聞き、ローエイと目線を合わせるバリウス
「お前も薄々気づいている筈だ、あの女の家だ、恐らくはな、それにお前なら見た事あるんじゃないか…?」
「あそこでの記憶自体なんか曖昧だが………今ならわかる、あの感触…あれはただの指輪じゃあ無かった、まさかあれが」
困惑が混じったかのような声で呟く
自身の手を見つめており、その過去を思い出そうとしているのか
「指輪…それが正体か、なるほど……いいぜぇ、そいつを手に入れろ!奴等もお前を追跡して奪おうとしてくる筈だ」
「……奴らを呼び出す方法は整った、だが今の俺には無理だ、俺一人じゃ勝てない」
突然諦めの言葉を口にするバリウス
ローエイの方は特に驚く様子も見せない
「お前も所詮人間、魔族に勝とうとすること自体馬鹿なんだ、だが喜べ、お前は特別だ…いやという程実感しただろ?それを使いこなせば神の領域に足を踏み入れる事になる、だがやはり一番は仲間を集めることだ、まぁお前の仲間は一人怒り心頭だがな」
「セファのことか、まぁ…あいつに何があったかは知らねぇけど、悪いことしたかもな…」
落ち込んでいるのか、肩を落とす
しかし、貴重な戦力を失ったのはかなり痛手だ
「実質お前一人で闘うことになる、精々頑張れよ」
気軽な死刑宣告をするローエイに対して彼は待ったをかけた
「いや……いる、いるんだ、戦力は、あと一人……」
「伊野藪海、あいつの事か?」
その問いに対して複雑そうな顔を、もとい物凄く嫌そうな顔をしているバリウス
ローエイとの会話よりも嫌そうな顔かもしれない
「あいつとは、会いたくなかったんだがな……でもなぁ…やだなぁ……うわぁ…」
なんだか言葉が幼児のように弱々しくなっていく
よほど嫌な奴なのだろうか
「さっさと言え、誰だ?」
「最終手段だ……呼ぶしかねぇ……マイナスを…」
彼の口から出てきた謎の人物の名
「マイナス……聞き覚えがあるな…なんだ?いつかの日刊紙か何かだったか……」
「マイナス・フェイバー……一年くらい前に俺が牢にぶち込んだ女だ」
「……そうだ、マイナス、罪状は店かなにかを破壊した事だったか……」
嫌そうな顔をしたまま話を続けるバリウス
「仕方ない、監獄を破壊するか」
「……お前からそんな言葉が出るとはな」
「仕方ないだろ、ブチ込んじまったんだから」
「だが、マイナスとかいう女は確か獣人だ、ただのな、戦力になるのか?」
「……見てればわかる」
2週間後
──────!────!
─────────バシャァッ!
「ぶぇっ……口に海水が…うぇ……」
ゆらゆらと揺れる波とそれにつられて同じく揺れる帆船、そう、ここは海の上である
浅瀬とかそういうのではなく、広い大海原のど真ん中である
そして彼、バリウスの現在の状況は
船体に右腕を突っ込んでぶら下がっている状態である
船を破壊してしまっているが、必要犠牲だ
「腕は疲れないけど酔ってきた……」
気分悪そうな彼が乗っている、もとい突き刺さって不法乗船しているこの船は監獄行きの船
多くの犯罪者を乗せた輸送船である、行く先は勿論マイナスがいる監獄である
「気分悪いことばっかだ…リュディに会いたい……」
ローエイの所で目覚めてからは、あのまま帰らず療養を続け、今に至る
リュディに会わなかった理由は気まずさもあるがもう一つ、マイナスに関係している
そのうち分かるだろう、面倒なのだ、色々と
「帰ったら…リュディに会ったらどうしよう……絶対怒られるな…その後は紫の魔力見せて……俺を知ってもらって……怖いなぁ……」
色々考えて、不安がっていると島が見えてきた
巨大な、東京ドームくらいあらそうな石造りの建造物がある島が
「ここが……ディープシャックルアイランド刑務所、気が引けるな……」
上陸
船の中からゾロゾロと犯罪者達が出てくる、兵が指示し、暴れるようなら制圧する
ここには神器を持った兵もいる、警戒しなければならない
「ふぅ……夜になったら始めるか…」
そこら辺の岩の裏に隠れている彼の姿はいつものライトブラウンのコートの姿ではなく、全身黒の不審者コーデ
更にその上に仮面を被って変装完了、犯罪の準備はバッチリだ
「…………あいつの独房ってどこだ……?……あと帰りどうしよう……」
早速無計画さが露呈してきた




