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異世界のハマルティア  作者: そそい
根源蝕む悪夢編
18/37

妖瞞し危うし

バリウス復活!

まただ、また、この家だ


「そう、そこを押さえて……」


バイオリンを肩に乗せているバリウスと、それをサポートする女

背後から手を回し、彼の両手を動かす


バイオリンからは音が鳴るが、今の彼の演奏とはまた少し違う雰囲気を纏う

感じるのは弱さと、微かな感情

それが怒りか喜びか悲しみか、憎しみか、はたまた別の何かかは分からないが、彼は以前の夢よりは何か見出しているように見える

良くも悪くも、かもしれないが


「少しずつ覚えていきましょう、時間だけは、無限にあるから」


「……そう、随分とここに居る気がするから、そうかもな……」


彼が喋った、だが目と表情は暗い

娯楽にはなり得ていないのだろうか、前の夢では無かった左耳の耳飾りを揺らしながら軽く演奏する


「私はまだまだ足らないわ、もっと永遠にいるにしても、もっとあなたとの思い出を作りたい」


「……ほざけ」



















「……ぁ、う」


目を覚ます、体の節々から痛みが走る

気持ち悪い、気分的にも、感触的にも


全身血まみれで泥に浸かったような印象を受ける

ここまで出血して死んでいないのは、もはや奇跡だろう


「バリウスさん……!動かないでください……!」


視界が開いて一番に目に入ったのは涙を浮かべるリュディの姿

おそらく倒れた彼をこの物陰まで運んだのだろう


「リュディ…俺、死んでる?」


「何言ってるんですかこんな時に…!黙っててください…!」


聖母のような優しさを鬼の形相で伝えるリュディ

見れば傷口を彼のハンカチで抑えて止血していたらしい

ハンカチはもう、全部が赤黒くなってしまった

ハンカチとしては二度と使うことは出来ない


「あいつ、魔族は……」


首を小さく左右に動かすも物陰なので何も見えない

見えるのは倒壊した家くらいだ


「分かりませんよ…!とにかく隠れましょう……」


怒っているのだろうか、張り詰めた声を出すリュディ

そして彼にはいつかの記憶が脳を叩く


「…………(うるさい、悪夢が、今も……)」


のそりと、血を垂らしながら無理やり立ち上がるバリウス


「(いつまで…俺は夢を見ているんだ、過去の苦しみも…今を、こいつを守るために……振り切れるだろ…!)」


壁に手を付きながらも、なんとか立てた、しかし

当然彼女は制止した


「待ってくださいバリウスさん…!本当に死んじゃいますよ!」


脇目も振らず大声で呼び止める、だが彼は聞いてはいない


「(やっと…やっとだぞ、また、三度も失ったら俺はもう…自分の愛を信じれなくなる、やらせるか……!)なぁリュディ…俺はお前を愛してるよ…絶対に」


「何を言って……」


「一生愛すと思う、死の間際も、代替品を見つけようと…たとえ俺が人で無かろうと、だから俺はここで!これから!…過去への決着をつける……」


彼女の目を見て問いかける


「リュディは、過去の俺がどんな奴でも、今の俺を受け入れてくれるか……?」


左耳の耳飾りが風に揺れる


「はい、今のあなたは優しい人ですから……だから……」


バリウスは穏やかな表情を浮かべると爆発音のする方へ走って行った


「……バカ……バカですよ……ほんと……」


地面の血に、一滴の雫が混じった










外の方では、数分前より二段階悲惨なことになっていた

死体が十はあり、火が燃え盛り、絶え間なく轟音が響いている、この国の家が木造建築であったなら炎の被害はもっと大きかったろう


そんななか奮闘しているのは、他ならぬセファであった


ドンッ!


「ちっちぇんだよ!」


散弾銃から放たれた弾を拳で叩き返し四方に散らす

周りにあった残骸へと流れ、そのバランスを崩させる


!!─────


「!こいつか!」


弾丸により支えを破壊されエリニュスの方に崩れ落ちる家、周囲の別の家も巻き込みながら彼へと襲いかかる


ドォォォォン!!


エリニュスが建物の下敷きになったのを確かに見たセファは銃を持った腕を下ろす


「赦さない…お前らがいるから……お母さんは、サラは、セニアは……!」


ガシャッ


不意に何かが潰れる音がする

発生源はエリニュスが居た方、瓦礫を見上げるとそのてっぺんには彼が、エリニュスが立っていた


しかし腕からは出血している、ダメージは与えられている

頑丈と言っても限度があるらしい


「痛ぇなぁ…出るだけなら俺の魔法ならどうとでもなるけどなぁ、あんまり使わせんなよ…なっ!」


ブオッ!


いきなり、足元の瓦礫へと火を放つ

瓦礫は炎を纏い、地獄のパーツとなっていく、そしてそれを


「ここは寒いだろ、あったかくしてやるよ!」


!!─────


魔法弾を真下に放ち瓦礫を吹っ飛ばす

瓦礫は上空へと飛んでいき、エネルギーを失うと重力に従って落下していく

その様はまるで隕石だ、炎の瓦礫が降り注いでくる


「無駄なことを!今度こそその腹に風穴を開けてやる!」


!!────!───ドンッ──


落下する瓦礫を躱しながら隙を見計らって発砲する

今度は散弾銃ではなく長銃の方で


彼女の持つ銃のなかで単発での威力は最高、弾速も速い

喰らったらかなりのダメージを負うだろう


「消えやがれェッ!…こいつは!」


魔法弾を放って相殺しようとするも、想定より速く間に合わないとギリギリで判断する

しかし動いて避けるにしても間に合うかは怪しい


「チッ!」


────────




「消えたっ!?」


完璧なコースだった、しかし現実(弾丸)はそれを否定するかの様に空虚を突き進んでいる


「……!!」


確かに完璧な位置だった、動きだった

だが彼はその位置から僅か二メートルほど離れたところに居た


「……」


エリニュスが自身の頬に手で触れ、怪我の確認をする

手のひらを見つめ血が付いていないことを確認するとセファの方を睨んだ


「今日は…最高の日だ、豊作って言やぁいいのか?人間にしちゃあやる奴が二人もいやがる」


「そう、やはりお前は生きていてはいけない奴だ」


愉悦をこぼすエリニュスに対して怒りを再確認するセファ

トリガーを短銃に付け替えて戦闘継続の構えを取る


ドッ…!


横方向へと走りながら四発放つ


「面白ぇ、面白ぇなぁこいつぁ!」


こちらも地を蹴って猛スピードで接近する、弾丸は残像を追い、エリニュスは飛び上がると炎を横に広く発生させる


「ふっ!」


セファは足元の大きな木製の残骸を足で頭上まで浮かせると、残骸越しに三発の弾丸を放つ


「あの男はこうしていたか、シェッ!」


手から爆発を起こし自身の位置を逸らす、さっきのバリウスとの闘いで見た技だ


ストッ


着地して周囲を見渡す、しかしどこにも彼女の姿が無い

逃げた訳では無いだろう


「(木で体を隠し攻撃に集中させた隙に隠れたなあのチビ)」


流石に全部吹き飛ばすのも手間である、隙を突かれでもしたらマヌケそのものだ


一方物陰に身を潜めているセファは思案していた


「(あの不自然な回避…回避の前後で体の姿勢が全く同じだったからおそらく奴の魔法はテレポート、咄嗟にか元からかは分からないけど移動距離は数メートル…なら)」


散弾銃にトリガーを付ける

そしてこちらに背を向けているエリニュスに対して容赦なく発砲する


ドォン!


「そこにいやがったか!」


すぐさま後ろを振り向くエリニュス、そして同時に迫り来る脅威に気づく


「クッ仕方ねぇ!」


───────


魔法を使用して真横に僅かに動いて回避する、しかしそこへ新たな散弾が舞い散る


「!?こいつは流石にッ」


「読んでいた、お前のバカで単純な動きを」


弾丸は今度はしっかりと、エリニュスに直撃した


「クゥッ……フフフフ、こいつは本気を出さねぇと、な……」


そう言って顔を上げ拳を握りしめると、力を込めていく

その姿は異形の者となっていき、彼本来の形が姿を現した


「やっぱこの姿じゃねぇと本気がでねぇな、ほらこいよ、今度の俺は本気だ」


圧倒的な圧と魔力を放出しながら誘う

セファは銃を構え、表情を変えることなく佇む


「……」


「……」


ザグッ……ボゴッ……ゲキャ……


「……?」


そこへ一つの足音が近づいてきた


「お前はさっきの奴か、俺に殺されるのが待てなくなったか?」


「なんでいるんですか……しかもそんな血だらけで、負けたなら帰ってください」


笑顔で煽るエリニュスと嫌そうな顔で罵倒するセファ


とうのバリウスは手を前に出すと、チョイチョイ、とエリニュス目掛けて"かかってこい"の意思表示をする


「なんだテメェ…早く楽になりてぇって言ってんのか!」


腹を立てて飛びかかるエリニュス、バリウスの首目掛けてその手を伸ばすも


スッ…


「なっ!?」


ドンンッ!!


「ウグアアアァッ!!」


腹にパンチを入れられさっき居た場所に逆戻りする


瀕死とは思えない力だ


「時間がない、2分でお前を殺す」


「んだとォォォォオオオ!!」


怒りが燃え上がり吠えるエリニュス

バリウスはなんとも言えない、煩悶の表情をしていた


「(できるかなんて分からない、けど、あいつのために今は、お前らを消さなきゃならない)」


ふと、風が吹いた

炎は静まり返り、燻りをやめ

瓦礫は崩壊の音をたてず

天候は清々しいほどの晴れに


彼のコートと耳飾りは揺れている


「はぁぁぁぁぁ……!」


全身からエネルギーが放出され、血の汚れが飛んでいく


そして何かが攪拌されるような感覚がした瞬間


「ハアアァッ!!」




「な…なんだと……それは……」


「なんで…なんで……お前は……!」


バリウスが身に纏う魔力、それは紛れもなく

紫色だった


「……リュディ……」

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