魔族として
大丈夫か!
「……(まずい、リュディがいる今、闘ったら巻き込みかねない!)」
隣にいるリュディの様子をチラリと確認するバリウス
彼女は男を不審がっている、だが薄々気づいているだろう、自分が今危険な状況下に置かれていることを
「おい…何か答えろよ!」
!!────
突然魔法弾を放つ男、しかもかなりの高威力
辺りに人がいない訳じゃない、被害はかなり…
「ウォォォォォォ!!」
咄嗟に前に出て魔法弾を防ごうとするバリウス
魔法弾に触れている両手からは火花が飛び散り、次第に血も混じり始めた
「くっぅぅうううう!!」
この時バリウスは悟った、防ぐのは無理だと
ならばせめて
「リュディ!」
魔法弾が着弾したその瞬間、彼女の方へと飛び込んで行った
!!!!─────────
周囲は炎に包まれ、凄惨なものとなっている
ボタボタッ……
リュディに覆いかぶさっている体を上げると、顔から、腕から血が彼女の顔へと爛れ落ちる
「リュディ!!」
彼女に付着した自身の血を拭い、安否を確認する
幸いにも目立った外傷は無い、だが
「バリウスさん…血が……!」
「言ったろ…これくらい慣れて」
!──
立ち上がろうとした瞬間、足から血が溢れ出す
彼の方は傷が相当酷いようだ
「くっぅ……!」
「早く逃げないと…!」
バリウスの体を支えるリュディ
なんとか立てている、と言うのが相応しいくらい彼の体には力が入っていない
「この程度かよ…期待はして無かったが、これなら虫を仕留める方が歯ごたえがあるな」
手に紫色の魔力を纏いながら煽る男
やはり魔族だったようだ
「お前は逃げろ……」
「何する気ですかバリウスさん……?」
「いいから!……とにかく物陰か何か…隠れながら逃げろ……」
息も絶え絶えにそう告げると魔族の方を向く
血だらけで、震えている足を動かし、歩いて近づく
「…はぁ……はぁ…」
「……」
両者向き合う、だが構えも、臨戦態勢に入ることもしない
「褒めてる訳じゃあないけど、お前…格が違うな……俺を狙ってるあたりエリスの奴か?」
「あぁそうだよ、名前はエリニュス、根暗野郎の奴がわざわざ忠告する奴、一体どんな雑魚かと思ったら…一発で死ぬなら何も変わんねぇなぁ今までと」
呆れたような顔をしてバリウスを嘲る魔族
「こっちは連日連戦で休みたいってのに…」
「そいつは悪かったな、日を改めて来てやろうか?全力の上で殺さないと勝利の意味が無いからな」
どうやら頼めば引いてくれるようだ、闘いに妙に律儀らしい
それに対するバリウスの返答は
「別に…どうせしばらくは、闘ってばっかだ…ここで殺してやるよ」
「ハッ、へぇ、その体を動かすだけの力があるのか?」
「…………」
ニヤリ、と不敵な笑みを浮かべるバリウス
「やってみろ!」
──────────!
瞬き半分の間に目の前まで距離を詰める魔族
「まずは腕!」
!──
左腕を掴もうとするエリニュスの右腕を受け流し、軽く宙に浮かせる
そしてパンチを叩き込もうとした瞬間
「フッ」
──
魔族が一瞬笑うと、気づけばバリウスの背後にいた
「!!(速い!)」
「へッ!」
ドンッ!
強烈な蹴りが背中に叩き込まれる、バリウスは前方へと飛んで行き、エリニュスはそれを追跡する
「こいつっ!」
空中で爆発を起こして自身の体勢を爆風で直し、魔法弾を発射する
!!───
「防ぐまでもないなぁ!」
エリニュスはそれを真正面から防御無しに受けるも、煙の中から現れた姿はピンピンしている
気持ち程度のかすり傷は付いているが
バリウスは地面に着地し、接近戦にに備える
「くたばれぇッ!」
「ハアァッ!」
!!───
互いの拳がぶつかる、瞬時に拳を控え次なる手を撃つ
「レッシャァ!!」
ボゴッ!
エリニュスのパンチが腹部にめり込む
しかし仕返しは素早く
「デェヤァ!」
ボケギャッ!
腹を殴られながらもバリウスのパンチが頬にヒットする
今度はしっかり効いているように見える
「グオォッ……死に損ないにしてはやるじゃねぇかッ!」
「ダァリャァッ!!」
ゴブッ!
バリウスがエリニュスの顎を蹴り上げる
衝撃で唾液を口から漏らしながら苦痛の声を上げる、だが赤子でもつねられた位では死なない、魔族の中でも上澄みである彼には大したものでは無いだろう
「こういうのはどうだ!」
そう言って手に魔力を込めるエリニュス
流石にさっきと同じものを喰らえば命を落としかねない
弾き返そうと腕を構えるも、瞬間、目の前からエリニュスが消えた
「何っ!」
「今度はどうだ!」
腹に手が当てられている
「!?」
気づけば真後ろに奴がいた、蹴りで後ろに反り足を曲げた崩された体勢、力を入れにくく瞬発性に欠けるだろう
だがどうだ、今まさに、目にも止まらぬ速さで後ろにいるでは無いか
!!!──────
「くはっ……けぇ…はぁ…ふぅ…ひぃ……」
魔法で防御はしたものの、致命傷と言って差し支えない域に達している
呼吸のリズムも乱れてきた
「(あれは速いんじゃない…何かある…そう、テレポートの類……)」
ドサッ
バリウスが地面に膝をつく、血溜まりが広がり生命の終わりに刻刻と近づいている
「終わりだ、短かったが、今までの奴らと比べたら結構楽しかったぜ、あの世で人間の滅びを眺めてな」
勝利宣言をバリウスを見下ろしながらする
「死ねないなぁ…あの世に行ったら、めんどくさいのが居るんでね……」
「精々殺した奴らに恨まれてろ!」
魔族の恨みを叫びその拳をバリウスに振り下ろす
だがその時、何か複数気配を感じた
「敵発見!魔族です!」
「一般兵は下がれ!神器を持つ者で向かう!」
どうやら国から寄越された隊のようだ、神器持ちも複数いる
「なんだおかわりか!嬉しい限りだ!」
高らかに叫ぶとバリウスを放置して隊の方へと突っ込んでいった




