今はまだ
君の名前は?
思わぬ乱入者により闘いが終わった後、バリウスとセファはお互い真顔で向かい合っていた
「こんな所まであいつ、ローエイをおってきたのか?」
湖へと顔を近づけ、その水で血と汚れを洗い落とす
少し痛みが走るが、この程度彼には慣れたものだ
「そうですけど、あなたこそ何を、いえ闘っていたのは分かりますけど」
「あいつから絡まれたんだ、随分と丁寧な文字で」
顔から水を垂らしながら立ち上がり、ハンカチで拭き取る
血で随分と汚れてしまっている、落ちるだろうか
「そうですか、では私はこれで」
そう言ってそそくさと帰ろうとするセファ
しかし、もちろんそれを呼び止める
「待てよ…まだ聞きたいことがある、お前は何が目的だ?さっきの口ぶり的に魔族に恨みがあるクチか?」
「……」
少し間を置いてから答える
「そうですよ、あいつらは生きてちゃいけない存在なんですか」
「……」
"魔族なんて生かす訳にはいかないわ"
「お前もか…」
頭の中に彼女の、シグラの言葉が想起する
彼女の過去と家については殆ど知らない、語られることも無かった、今ではもう叶わない
「お前もか…って誰のことかは知りませんけど、馬の骨だかと同じにしないで下さい、人は他人を理解出来ない生き物です、特に苦しみは…!」
若干怒っていそうだった、だがそれがまた
「そういうとこが本当に似てるんだから、仕方ないだろ」
「このっ…じゃああなたこそ何者なんですか!魔法を使ってましたし、噂に聞く勇者ですか、それとも……!」
グイッ!
バリウスを地に組み伏せる、手にはしっかりと散弾銃が握られていた
話している最中に裏でトリガーを長銃から移していたらしい
「人のふりでもしてるんですか?答えてみて下さいよ」
「……俺は人間だ、紛れもなく」
セファの手を払いのけ、地面に座り込む
見渡してみれば辺りは戦闘の跡で酷い有様だった
「なぁ、少し手伝って欲しいことがあるんだ、ちょっと魔族と闘わなきゃいけなくてね」
少しニヤリとするバリウス
「何をしでかしたのかは知りませんがお断りです、私、あなたの事信用してないので」
「そうか、分かってはいたけど残念だ、偶然出会う事が会ったらよろしく頼むよ」
「あなたごと撃ち抜きますよ」
冗談か分からない冗談を鼻で軽く笑い、立ち上がりズボンを叩く
「俺はバリウスだ、前の時は門前払い食らったせいで言えなかったな」
「今こうしてるだけでも感謝して下さい」
トリガーを外し銃をベルトの腰部分に戻す
警戒は解いてくれたのかもしれない
「名前は?」
「さっき自分で言ってたじゃないですか、セファですよ、セファ・ロータス」
「自分から言うのが良いんだろ、そうだ、年齢は?」
ドンッ!
「うぉっと!」
「女性に年齢を聞くとかあなた神経切れてるんですか?モテなさそうですね」
「ハハハ…ハハ」
苦笑いを浮かべ、内心バクバクしているバリウス
けれど本気で怒らせた訳では無いようだ
「17ですよ、もう少ししたら18ですけど、何の意味が……」
最後の方ちょっとボヤくセファ
「(マジか、ちっこいから年下だと思ってた…色々黙っとこ)俺はまぁ、お前よりかは年上だよ」
「あっそうですか、くだらない、もう戻りますね」
「あぁ、気をつけろよー」
そうして山の方へと消えていったセファ
一人取り残されたバリウスは滝の方を見つめていた
「…時間の流れを表すものってのは、結構大切だからな」
彼の足元には、妙に多い血溜まりが出来ていた
ここはローエイの自室、もとい研究室
何枚もの紙と本と、そして神器が置かれていた
神器の扱えない魔族である彼には無用の長物だが
「クククククク、あれならイケそうだ…バリウス、お前には悪いがもっと闘ってもらおう、でないと……この星は……」
グローブを強くはめ込むと、新たな探求を始めるのだった
リュディの家にて、彼女は心配していた
夜になるのに同居人であるバリウスが未だ帰ってこないことに
今までも何度かそういう事はあったが回数の問題ではない、ただでさえ最近は魔族の襲撃が多いというのに
不審に思うこともあった、別の…誰か友人と遊んでいるだけならいいのだが、彼は何も言わない
傷だらけであってもだ
「バリウスさん…」
既に湯気の無いスープとトーストを眺めながら考える
「(多分ローエイ先生の所にいるはず…なら他の女性とは……何を考えているんですか私は)」
首をブンブンとふり邪念を払おうとする
しかし代わりに不安が強く感じられるようになった
「もうすぐ…なんだけどなぁ……」
ガチャ
「!!バリウスさん?」
扉が開く音を聞いてすぐさま玄関へと走る
そこにいたのは
「ただいま……」
「バリウスさん……また怪我……!」
「大丈夫だから…よくある事だし」
傷を負った状態のバリウス、いくつかは誤魔化してあるがそれでも目でみて直ぐに普通ではないと分かる
「よくある事って…教えてくださいよ…私心配なんですよ……」
「ごめん……ごめん……いつか必ず全部、言うから……許してくれ……」
リュディに抱きつきながら許しを乞う、目は少し、涙ぐんでいた
過去と向き合う日はそう遠くないのかもしれない




