誰かと自分
バリウス激情!
「だぁぁぁりゃあ!!」
空中を飛び回るローエイに拳を突き抜けさせる、体を後ろに反らして回避されるもすぐさま追撃に移る
「ハァ!」
後ろを振り向き頭上目掛けて踵下ろしを叩き込む
「遅い」
バシッ
足を手で捕まえられ、そのまま重力に従って地面へと落下していく
「このっ!墜ちろぉ!!」
もう片足で再度蹴りを叩き入れる、今度はしっかりとヒットした
「ぐあっ!?中々イイぜぇ、もっとパワーを昂らせろ!」
「くっ!」
落下しながらもバリウスの顔面を鷲掴みにする
その手から離れようと小競り合いを繰り広げもみくちゃになる
そして立場は逆転してバリウスがローエイの首の後ろを掴んで地面へと墜落した
!!!────────
二人が落下した衝撃で地面が凹む、次の瞬間には
ドォンン!!!
魔法による大爆発が発生し、砂塵を巻き上げた
しかしそれでも二人の殴り合いは止まらなかった
「ヤーー!!ダダダァ!!ダァ!」
地を蹴り激しく左右に移動しながら闘う
拳の応酬、互角にも見えたがローエイは僅かな隙を突きバリウスに拳を叩き込んだ
「ヴァッ…!?(まずい、来るッ)」
「ハァァ!!」
拳で虚無を撃った衝撃、それが凄まじい速度で飛来する
「くっ!うあぁっ!!」
ドタッ……バタ…
地面に叩きつけられ何回転かしてから体勢を立て直す
「!?どこだ!」
「馬鹿め、後ろだ」
気づいた時には背に手が押し付けられていた
「登山の景色は好きか?」
「!?お前が邪魔だな!」
!!!──────────
「うああああああああぁぁぁぁあ!」
背に喰らった衝撃により空高く吹っ飛ぶバリウス
手を伸ばせば本当に雲を掴めそうだ
「くっ……!(あの野郎!何が登山だ、スカイダイビングだろこれは!着地…耐えれるか!?)」
「フハハハハ!どうした!あの女の力を持つならもっとやれるだろ!」
「うるさい!なんでお前がアイツの事を!」
怒りを発露させながら手を構え細長い魔法弾を幾つも放つ
「フッ」
軽く笑い流し、地を蹴ると衝撃により高く飛び上がり魔法弾を回避する
そして下にいるバリウスを捉えて手を合わせ
「ハアアアァァ……」
ドッ…ドッ!
徐々に大きくなっていく魔法弾、そして大玉サイズになったそれを
「フフフ……コイツはとっておきだ!」
放った
「ウッオオオォォオオ!!」
手で魔法弾に触れて接近を抑え込む
重力と魔法弾によってかなり速い速度で落下している、このままでは爆発と合わせて確実に助からない
「どうした?まだ力を残しているはずだ、何故使わない」
「クックゥゥ……誰が、あんな物ぉぉぉ!!」
バゴンッ!
サマーソルトキックで後方へと魔法弾を見事受け流した、恐らく海に着弾するだろう
しかし、次にバリウスの視界に映ったのは新たな魔法弾であった
「!?があぁっ!……(デカイ奴の裏について行くようなスピードで隠していたか!)」
体勢を崩され、負傷も負ってしまった彼はそのまま湖の中へと落下して行った
ファサ……
衝撃でこまめに飛び上がって勢いを殺しながら安全に着地するローエイ
そのままバリウスの落ちた湖へと近づく
「所詮か……期待した俺が馬鹿だったか?研究者としてはあるまじき……!……ククク……やはり生きていたか」
湖の中から這い出て来るバリウス、その体は至る所から出血していた
「(軽い自爆で…なんとか勢いを軽減できた……傷は増えたけど……)」
「クククク…俺の目にはもう余裕が無いように見える、なぁ、そろそろ時間だと思うが?」
「……」
シグラ…お前が見た夢の為に、俺は自分の夢を捨てれるかな……
「貴方何持ってるのよそれ…」
「サンドイッチ!」
「それは分かってるわよ!呆れた…」
「……いる?」
「いらないわよ!」
「美味いぞ、これ」
本当に面白いやつだった
「ぐえっ?!」
「すっとろいわね、貴方本当に男?いつかカマキリの様に食われそうね」
「この……目潰し!ぐえっ!?」
「防御がてんで駄目、四肢のどの部位で対応するか考えるのが遅い」
「はい……」
本当に真面目なやつだった
「魔族を見つけたのよあっちで……殺しに行くわ」
「やめた方がいいって!魔族と会ったことなんて無いけど、普通神器を使うものだろ!?誰か別の人に」
「貴方には分からないわよ!魔族に友達を殺された時の気持ちと!家からの期待なんて名ばかりの心の抑圧なんて!」
「そりゃ……でも死んだら!」
「生きてても嫌いな人間の顔を見るばかり……死んだらラッキーよ……」
「……」
本当に……
「シグラ!……シグラどこだ!……あっ……シグ…ラ…」
「なに……しに来たのよ……ばか…」
「おい……その血……」
「もうきっと無理ね、清々……したわ、でも何でしょうね……私には初めての感情だから、分からないわ……」
「うるせぇ…言えよ……なんでもいいから…」
「死にたくない……やり残したことと、見てないものと、味わってない、ものが……まだ、だから、一つだけ貴方にお願い…… 託すのよ、貴方に……魔族をっ…必ず……倒……」
「あ…………」
「カス共が……あ?なんだ貴様」
「……一つ、借りるよ…………お前か、お前かぁ!!」
「本当に……面倒で、嫌な奴だ…」
「どうした…やはり無理だと言うか?ならば死ぬしか貴様にはない」
濡れた顔を上げる、その眼は、依然怒りを込めたままだ、しかし同時に、覚悟を宿してもいた
「やってやるよ……自分がどうなろうがなぁ……」
「!!やっと理解したか、それがお前だ」
腕と脚を引き締め、力を込めていく
…………サァ─
木々が風に揺らぐ
ピィー……カァー……
鳥の鳴き声が微かに聴こえる
ゴロ……ゴドッ……
散らばった地の破片が陥没した地面に落下する
「クッ……ウゥウッ……ガァッ……ウ……」
「!こいつは…本当に…」
「ハァァァァァァァァああああああああぁぁぁ!!」
全身から突き刺すような威圧感が放たれ地面にヒビを入れ、湖を小さく割る
体から水気も飛んで行った
「ハァァ……」
「ここまで来るとは……予想外だ、だがまだ高まる、いいぜぇコイツは……!?」
ドォン!
突如、離れたところから謎の音が発生した
そして、その答えはローエイの腕と、その先にあった
「邪魔するな貴様ァ!セファ・ロータス!」
ボタボタと血が滴り落ちる腕の横方向には、少女の姿があった
「無駄に移動して追跡を手間取らせないで欲しいですね、まぁ、死んでもらいますよ、魔族ッ!」
そう叫んで再び発砲する少女、セファ
「チッ、俺の望んだものが見れると思ったが、邪魔が入るとはな、(ここは逃げるか)また会うのを楽しみにしておこう、バリウス」
そう言って彼は宙を蹴って飛び、逃げていくのだった
「逃がすか……!」
何発か撃つも全て外れ
「ちっ…魔族め……いつか必ず、殺してやる、全部だ!」
憎しみを滾らせるセファの傍で、バリウスは一人考え事をしていた、そして
「なんでこんな所に居るんだ、セファ……だったか」
「あなたには関係ない事ですよ」
「そうか、でも今回こそ、少し話そうか」




