永遠にはいられない
それは晴天の下、起きた悲劇だった
「ぁぁ…っ……あっ…」
座り込み、涙を流しながら一人の女性を抱き抱える少年
二人しかいない海岸沿い
海は穏やかであり、静かに最期を演出している
「フフ…よかった…悲しんでくれてる…のね…」
自身の衣服に染みた涙を見て、笑みを浮かべる
「誰が…お前なんか…っぅ……」
血に塗れた手で彼の頬を撫で、涙と血が混ざり合う
「フフ…あなたはやっぱり笑顔が素敵ね…いいの…これで……」
譫言を呟きながら今度は彼の左手を取り、その薬指についている指輪を抜き取る
「これは…私じゃだめね…」
「当たり前だ……でも、最後に言わせてくれ、少しだけ、少しだけ名残惜しいんだ…」
「私もよ…私も…最期に……護ってあげてね、大切な、いい人を…」
その体は光の粒子へと崩れて行く
瞬く間に女性は跡形もなく消え去り、その手に残ったのは
現実の感触を伝える浜辺の砂と指輪だけだった
「それと…愛してはないけど……好きだったよ…」
2年後
♪〜
野に咲く花や動物の目を奪うを様な、美しい音色が広がる
凛々しくも、悲しさと哀愁が纏わりつく様な
「………っと、はい、これで終わりだ」
肩に乗せたバイオリンを下ろすと、座って聞いていた子供達から拍手が送られる
「かっこいいー!」
「私もやってみようかなぁ…」
演奏に魅了された子供達が騒いでいるのを横目に女性の方へと目を向ける
「有難うございましたバリウスさん」
「はい、私も楽しかったです、またいつでも呼んでください、」
笑顔で会話し、バイオリンをケースに戻す
小学校から演奏の依頼が来て今日実際に演奏をしていた
別に彼自身はバイオリニストでなければアーティストですらない、バイオリンはただの趣味の一環だ
ここに来て最初の方は路上で演奏して小銭を稼いでいたので、命綱のような物と言えないことも無いが
挨拶を済ませたら足早に小学校を出て家への帰路につく
この後は花屋で働く予定があるので手際よく準備を進めていく
帰りに、彼女が好きな桃でも買っておこうと考えながら
住宅や商店が立ち並ぶ街の中を人混みの中、一人の少女が歩いて行く
衣服は少し土で汚れており、やや大きな袋を持って歩く
周囲を警戒する様にキョロキョロと首と目を動かしながら
少女が向かっている先は王城
少女自身は身なりからわかる様に王族や貴族ではない、ただの平民である
それにも関わらず王城に向かっている理由は袋の中身
「これを持っていけばきっと何とかなる…絶対に誰にも渡すもんか…」
これを狙う者はごまんといる
なにせ、これを国に渡すだけで大金が手に入るのだから
冷や汗と笑みを浮かべながら歩くスピードを速める
「キミ…ちょっといいかな」
前のいる男が声をかける
綺麗に衣服を着こなしており、真面目で上品な印象を受ける男だ
「その袋の中身、僕にくれないかな?」
男の眼は鋭く、少女に悪寒を走らせるものだった
「出来るわけないでしょ、初対面のアンタなんかに」
「そうかぁ…じゃあ無理矢理にでも貰おうかな」
男が気味の悪い笑みを浮かべた瞬間
その体は肥大化すると共に、肌の色を変え、おぞましい悪魔の様な姿へと変貌を遂げた
その姿に対して周囲の人々は悲鳴をあげて逃げて行く
「魔族が出たぞ」と
「馬鹿なガキだ」
「馬鹿で悪かったわね!」
少女は走って逃げ、その次には爆発が起こったのだった
「……このっ」
花の入った容器の水を換え、容器を持ちながらコバエを仕留めようと左腕を振り回す
「はぁ…」
結局コバエは見失った
容器を元の位置に戻し、次を手に持つ
すると売り場の方からなにやら慌ただしく誰かが来た
「先輩!お客さんに聞かれたんですけど求婚する時に贈る花って何がいいんですかね?」
後輩のハヴィが訪ねてくる
その位知っとけよと内心思うがはっきり言って彼もよく分かっていない
「あー…やっぱバラの花束とか?キキョウとかチューリップとか色々あるし、相手のイメージとかも聞いておくといい」
「分かりました!早速聞いてきます!」
爆速で客の方へと戻って行ったハヴィ
走った時の風で花びらが飛び散りそうだ
気を取り直して再びバケツの水換え作業に移る
これが終わったら次は花の手入れだ
まぁまぁな重量のあるバケツを片手に再び裏の方へと水を取りに行った
瞬間
「ッ!…あぁっ…はぁ…はぁ…」
右腕に激痛が走る
右腕に傷とかがある訳ではない
「まだ…大丈夫だよな…」
これは罪と過去の証
嫌でも自分があの日を忘れられないようにするための、アイツの置き土産
震える右手を見つめ、それを抑えようと拳を握りしめる
「ふぅ…」
気持ちの悪い汗を拭い、仕事に戻る
今は仕事の事だけを考えよう、でないとシンプルに気分が悪い
そう思いながら作業に戻るのだった
「水…少し溢れたか、拭かないと…」
一方少女の方は爆発が頻繁に起きる地獄と化していた…
だが、颯爽と現れた一人の青年が魔族と戦闘を開始した
青年は少女を守りながらなんとか魔族に喰らい付いている
「消え失せろっ!」
魔族が三発のサッカーボール程度の魔法弾を発射し青年を消し飛ばそうとする
「こいつも喰らえ!」
地面を手で強く叩くとそこから青年の方へと地面に亀裂が走り
隙間が光ったかと思うと地面が大爆発を起こした
煙が立ち込める
青年の影はまだ分からない、ならもっと撃ち込めばいいだろう
「ついでにやっておくか、フハハハハ!!」
魔法弾をひたすら撃ち込み続け、より惨状を拡大させて行く
これでは肉片も残らないだろう
「これではいつまで経っても生存確認が出来ないか…」
思い直した魔族は足を動かし煙の方へと進む
「それにしても妙なガキだ…魔法を使うとは、魔法を使えるのは魔族だけのはず、まさか勇者とかいう奴か?」
考え事をしていると、一瞬、煙の中で何か光ったような気がする
バチッと音が響く
「ッ!…チッ…小賢しい…!!」
すんでのところで煙の中からの攻撃を防いだ魔族
すると、煙の中から青年が出てきて魔族に対して声をかける
怒りを込めて
「なんでこんなことをする!」
「あ?そうだな、人間を滅ぼしたい、かな、お前勇者だろ、なら分かるだろ人間と魔族が戦争をしてるってことくらい、いや勇者でなくとも誰でも知ってるか」
「だからって子供を…!」
「面倒なんだよ、アレがそっちに行くとさ」
「平和に生きようとは思わないのか!」
青年の純粋な疑問
それに対して魔族は
「テメェらが絶滅すれば万事解決だ!」
再び魔族が攻撃を開始する
両手から小さな魔力弾を大量に発射し続ける
それも一部はカーブなどのひねりを効かせた方向で
「くっ!」
それに対して青年は爆発の中を走り抜け魔族に接近する
「ハアッ!」
右腕を伸ばして魔族の左腕を掴み、魔法を発動する
「これはっ!」
瞬時に魔族の肩までが氷に覆われる
魔法によって作られた頑強な氷だ
「だぁぁあぁぁ!!」
右腕も掴み取り、同じ様に凍り付かせる
両腕を使用不能にされた魔族は即座に後退りをする
「もうこんなことはやめろ!こんなことをするから!いつまでも戦争が」
「知るか!俺はこうしたい!お前らを滅ぼしたい!誰もがそう望んでる!」
「この…クソ野郎…」
青年の口からでた弱々しい罵倒
「お前ら勇者は魔族を滅ぼすためにいるんだろ?!なら俺を殺せよ!」
「僕は違う、僕は戦いたく無いから、戦争には参加せずに普通に暮らしてる…」
「へぇそう、じゃあバイバイ」
「なっ!?」
突如青年の背後から別の魔族が襲いかかる
奴はずっとこれを待っていたのだ
襲いかかる魔族が叫ぶ
「死ねぇっ!!!」
「!!!」
青年ももう間に合わないと覚悟する
「(なんで…こんな…)」
━━━━━━━━━━━━━━━!!
「グアぁッ!?」
青年を襲う魔族が突然軽い爆発と共に吹っ飛ぶ
「うぐぉ…っ!誰だ!?」
攻撃が飛んできた方向にいたのは
さっきまで襲われていた少女
そして
「ちょっと借りるぞ」
「えっ?!ちょっ!!」
少女の袋から一つの剣を奪いとる別の青年、バリウスだった
「??…誰かは知らんが…よくもぉ!」
復讐心から襲いかかる魔族
手始めに魔法弾を一つ飛ばす、恨みのこもった高威力のものを
それをバリウスは当たり前の様に左手で触れる
触れた瞬間爆発を起こす魔法弾
辺りの地面が抉れ、魔族の方まで飛び散って行く
「ハハハハハハハハハハ!!!!ん?」
「…………」
無傷、それがバリウスの姿だった
身につけているコートにチリと埃の一つもつく事なく
バリウスはただ黙って魔族に近づく
ゆっくりと、歩いて
「くそぉ!!このぉおぉぉお!!」
爆発をひたすらに飛ばし続ける
しかし、それでもバリウスは歩みを止めない
そして目と鼻の先までに近づく
「くっ…死ねぇっ!」
魔力を込めた腕を振り下ろす魔族
それをバリウスは足を動かす事なく、上半身を動かして避ける
「なっ…ぁ…」
魔族を見下ろすバリウス
剣を握る手に力を込め、それを振るう
「…フッ…!」
右へと一直線に斬り払い、続け様に上へと斬り裂く
「あっ…あぁ」
バラバラになり地面に落ちる魔族
魔族は死ぬと魔力の粒子となって跡形もなく消える
こいつもその例に漏れず、すぐに消え去って行った
「…」
もう一人の魔族へと目を向ける
「!!っ!」
今までただ呆然と見ていた魔族もやっと我に変える
だが、その時にはもう遅かった
腹部を剣が貫き、同様に塵と化した
後には氷だけが残され、それも地面にぶつかって粉々に割れた
どうやら魔族によって壊れる寸前だったらしい
「…仕事戻らないと…」
少女の方へと剣を返しに行こうとすると、青年が声をかける
「ねぇ…もしかしてキミ「それ以上言うな」えっ…」
無理矢理言葉を抑え込むと、少女の方へと戻る
「ほら、中古になったけど状態はなるべく綺麗になるようにした筈だ」
「あ、ありがとう?」
困惑している二人をよそに、バリウスはダッシュで花屋へと戻って行った
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