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7話 妹は時間旅行者2


 敵【SLAVE/GEAR(スレイヴ・ギア)】を全機撃破した後。

 格納庫に機体を戻すかと思いきや、未来妹は突然「お兄ちゃん。後は任せるわ」と言い、ハッチからトンヅラして行った。

 ちなみにドローン妹もそれに乗じて、「グッバイ!」とか言い残して、大空へと飛び立って行った……。


 状況整理。

 つまり、俺は強奪した【S/G(スレイヴ・ギア)】の中で一人、取り残されてしまったという事。

 これ?どーなっちゃうの?


 と心配していたのだが、予想通り最初は自衛隊に取り押さえられて、あわやあわやの状態。

 だが、すぐに両親が助けに来てくれ、事なきを得た。

 事なきを得た所か、両親…特に親父は大喜び。

 「まさか、お前に【S/G】の操縦の才能があるとは思いもしなかった!てっきり、何の才能も無いどうしようもない落ちこぼれの糞野郎だと思ってたけど、父さんは嬉しいぞっ!」と、褒めているようで完全に貶している事を言われた。


 誰が、『なんの才能も無いどうしようもない落ちこぼれの糞野郎』だっ⁉︎お前の方が糞野郎だろうがっ!

 ……まぁ、未来妹の事を言えなかったので全て飲み込んだのだが。

 次に【SLAVE/GEAR】に乗ったなら、真っ先に踏み潰してやるっ!


 その後、聴取は夜まで続いた。

 6時間にも及ぶ聴取。なぜ「そんなにも続いたか?」と言うと、「どうやって【S/G】に乗れたのか?」という問いに、適当な答えを用意できなかったからだ。

 先にも説明した通り、例の格納庫までにはトラップ諸々とセキュリティ諸々があった。

 当たり前だが、どう言い訳しても無理くりになってしまう。

 意を決し、「例えば!例えばですけど……未来から妹がやってきて開けてくれました!って言ったらどうします?」と聞いたら、「シスコンも大概にしなさい。今は真面目な話をしています」と、怒られた上、信じても貰えなかった。


 ……俺だって真面目に言ってるもん。ぐすん。


 とはいえ、今回は色々大目に見てもらい、その後、一時自宅へと帰宅させられる事となった。

 職員の一人に自宅まで車で送って貰ったのだが、家に入った途端に……


「お帰りなさい。お兄ちゃん。

 ご飯にする?お風呂にする?それとも……」

『「妹にする?」』

「うん。とりあえず、そこに正座しろ」


 帰宅した俺を出迎えたのは、玄関で制服の上にエプロンを着用した未来妹と、「お勤めご苦労様でした」という暖簾をぶら下げ飛行するドローン妹。


 おい⁉︎何が『お勤め』じゃいっ!別に捕まってた訳じゃねーよ!

 てか、わかってたんなら、どっちでも良いから助けに残れよっ⁉︎


『え?なんでー?』

「お兄ちゃんがそう言うなら、私はひざまずくだけよ」


 と、素直に俺の前に跪く未来妹。

 だが、なぜか俺のズボンのチャックを掴んでくる。


 なんでっ⁉︎社会の窓を開こうとされてるっ⁉︎

 慌てて、離させようとするが……


 物凄い握力で掴んでいて、離せそうに無いっ⁉︎

 何何何?何するつもりっ⁉︎


「おい⁉︎なぜ、手をズボンに伸ばすっ⁉︎」

「なぜって?跪いて「しゃぶれ」と言う意味よね?」

『何という『妹の鏡』っ⁉︎』

「いや、もう結構なのでっ⁉︎

 とりあえずご飯をくださいっ⁉︎」


 とりあえず、その後食事を済ませる。

 なんと、未来妹は料理までこなせるようで、既に料理が用意されていた。

 ほぼ母と同じ味付け。おそらく、料理技術のソフトをインストールしているんだろうけど……まさかとは思うが本当に母がデータ化されている訳では無いよな?

 

 昔、人間からデータを吸い出す技術が『機械帝国』で研究されていたらしい。非検体は例外無く、頭がパーになってしまったのだとか。

 それを考えると、少し複雑な気分になったが、聞く勇気も無く……


 その後、風呂に入る為、着替えを取りに、自分の部屋へと入る。

 奥の『窓があった場所』は、純君の暴走によって破壊されていた訳だが、今はダンボールで応急処置されていた。

 おそらく、未来妹がやってくれたのだろう。


 ……今日、どこで寝るか?妹の部屋?それは無いな。

 そもそも入りたくないし、未来妹が使うだろうし。

 普通に両親の部屋で寝るとしよう。


 風呂から出た後、リビングへと向かったのだが、妹二人はどちらもいなかった。

 自分の部屋にでも戻ったのだろうと、腰に手を当てつつ牛乳をかっ喰らう。


 未来妹から色々と聞きたい事があったのだが、もう時刻は二十三時だ。

 続きは明日でいいだろう。

 俺も疲れたし。ロボの運転とか、取り調べとか、妹のボケ対応とか。とにかくすっごい眠い。


 両親の部屋へと入ると、電気を付けずにそのままベットへとダイブ。

 今ならそのまま夢の世界に入っていけそうだ。

 ……と、思っていたのだが。


「あんっ⁉︎

 もう、お兄ちゃんたらっ!勢い良すぎよっ!」

「……えっ⁉︎」


 ベットに勢いよくダイブを決め込んだのだが、何かにぶつかる。

 硬くは無い。どちらかと言うと柔らかい何か。

 俺は慌てて、ベットから飛び起きる。

 よくよく見ると布団がこんもり盛り上がっている。

 人、一人入ってるであろう膨らみ。布団をひっぺがすとそこには……


「お兄ちゃん。どうぞ美味しく頂いて」

「いや、頂かないからっ⁉︎なんでここに居んのっ⁉︎」


 布団の中に潜り込んでいたのは未来妹だった。

 しかもだ……服着て無いじゃん⁉︎

 いや、正確には下着は着ていた。オレンジ色のレースっぽい花柄のやつ。しかもなぜか白いニーソックスまで履いている。

 明らかに寝ようとしている奴の姿じゃねー。慌ててもう一度布団を掛け直す。


 ……ちなみになぜ暗がりでそんなにハッキリ見えたのかって?

 本当だ。何で見えんのっ?てか、いつの間にか部屋の電気ついてるし。


 家にある家電の全てがホームサーバとリンクしている為、アクセス出来るデバイスさえあれば、ON、OFFは出来る。

 つまり、柚と未来妹はどちらも可能という訳だ。


「何でって。私、部屋が無いから。お父さんたちの部屋で寝ようかと思って。

 お兄ちゃんこそ、白々しいわよ?分かっていて、『おっぱいダイブ』して来たんでしょ?」

「いや⁉︎柚の部屋で寝ればいいじゃんっ⁉︎

 てか、おぱっ……俺の方は布団の感触でわかんなかったからっ⁉︎」

『むっー!んっーーー‼︎』 


 そんなやり取りをしていると、部屋の隅にガムテープでグルグル巻きにされた妹ドローンを発見する。


 おそらく、未来妹に黙らされたのだろう。

 電気を付けたのは柚だったのか?もう少し早めに付けて欲しかった。

 ……いや、もしかしたら、俺が部屋に入った瞬間につけたけど、時間差であのタイミングだったのかもしれない。

 何せ俺、部屋に入った瞬間におっぱ…ベッドダイブ決め込んだから。

 

 とりあえず、床に転がっている妹ドローンのガムテープを外してやる。

 結構念入りに巻いてあるな?ベリベリ剥がしていく。


「彼女は私にとって上官みたいなものだから。その部屋を使うなんて恐れ多いわ。

 抱き枕より、本物・・のお兄ちゃんを抱きたい…いえ、抱かれたかったし」

「……ちょっと待て?本物ってなんだ?

 まさかとは思うけど、俺の抱き枕じゃないよね?」


 今、聞き捨てならない事を口走らなかったか? 

 俺の抱き枕なんて流石に無いよな?普通の抱き枕だよね?

 そこでようやく妹ドローンが復活し、景気良く飛行し始めたのだが。


『おいこらっ!上官をガムテープで締め上げるとか、何を考えてるんだっ!』

「上官だけど、まだまだお子様だから。ここから先は年齢制限よ」

「その理屈だと、俺も駄目だと思うけど?

 それより、抱き枕の件⁉︎」

『あれ?見た事無かったっけ?見るー?』

「いえ、やっぱり結構です。聞かなかった事にします」

 

 気にはなってるけど、実際に見るのは怖い……

 服着てなかったらどうしよう……うん。そうだ、無かった事にしよう。

 あと妹の部屋に入ったら、もっととんでも無いもの発見しそうで怖い。


「そんな事より、私に聞きたい事があるんじゃない?お兄ちゃん?」   


 布団から出てこようとする未来妹を静止する。

 平然と下着姿を晒そうとするのは止めて頂きたい。


 と言うわけで、ベットの上でお互い座りながら(約一名は着陸)話し合いと相なった。


 未来から来た妹。

 ここ数日間の目まぐるしい出来事。

 聞きたい事は山ほどあるけれど……


「それで……何から説明して貰えば良いんだ?」

『そこはちゃんと考えてから喋ろうよ?』


 まずどこからが良いのか……と、それ以前にだ。


「そもそもなんだが、名前が被ってて呼び辛いんだけど? なんて呼べばいいんだ?」

「そうね……柚里ネットワーク上でのハンドルネームはあるけれど、どうせ呼ばれるのならお兄ちゃんに付けて貰いたいわ」

「え?俺?」

「可愛い名前を付けてほしいわ」


 聞いたつもりが、俺が決めなければならなくなってしまった。


 うーん……俺、ゲームのユーザー名決めるのも苦手なんだよ?

 そんな奴に、人のニックネームとか、考えられる訳無くね?

 とはいえ、相手は未来から来たとはいえ妹。本人にちなんだ感じのでいいなら、あるいは…。


「んー、じゃあ、『未來みらい』で」

『未来から来たから『未來』って安直過ぎでしょ?』

「大丈夫よ。お兄ちゃんが付けてくれたのなら、例え安直でも構わないわ」

「わかったよっ⁉︎ちゃんと考えるからっ⁉︎」


 安直で悪うございやしたね⁉︎

 これでも頑張ったんだよっ⁉︎

 俺的には「結構良い」と思ったんだけどなー?


「いえ、大丈夫よ。『未來』気に入ったわ。

 むしろ今後、子供だろうと犬猫だろうと同じ名前を付けたら許さない」

「なんか、重いなっ⁉︎」


 まぁ、気に入ってくれたのなら良しとしよう。

 ドローン妹の方へ「え〜?もっと可愛いのにしてもらおうよ〜」とか言ってるが無視だ無視。


「まぁ、良いや。とりあえず、未来・・の話を聞きたいんだけど?」

「『未来』って、一体どこの女の話よッ⁉︎」

「違う違う違う違うッ⁉︎

 固有名詞じゃなく、名詞の方だからっ!未来過去の未来の方だからっ!」


 胸ぐらを掴みながら詰め寄って来る未來。

 勢い良すぎて、布団は置いてけぼり、再び下着姿丸見え状態。


 ……いや、ついそっちに目線いっちゃったけど、力強っ⁉︎

 掴まれて、頭を4、5回揺らされたが、勢いと力強すぎて吹っ飛ぶかと思ったよっ⁉︎

 意識も飛びかけたわっ⁉︎柚より大分パワー上げられてんなっ⁉︎


 未來の前では、本人を呼ぶ時以外は、極力『未来』と言うワードを出さないようにしないと、命が危ない……


「そうね。落ち着いた所だし。

 ちゃんと一から説明するわ」

「そ、そうねー…主にアナタ様がね…?」

『お兄ちゃん?一瞬でヒットポイント、レッドゾーンじゃん?』


 とはいえ、すぐに「勘違いだ」と理解してくれたようで良かったです。

 下着姿のまま話し始めようとするので、もう一度布団を体にかけさせる。


「差し当たっては、まずは連中。襲撃者の正体からかしら?」

「アイツらって、『機械帝国』なんだよな?」

「いいえ、違うわ。

 少々複雑なのだけど、どちらかと言えば『人類連合』かしら?」

『何でどちらかというと?』

「正確には『人類連合』を自称する反機械帝国組織よ。

 百年前の『マザー・デウス』の共存宣言後。支配区域内で人間による反乱勢力が次々に立ち上がったの。

 連中はその内の一つ。【SLAVE/GEAR-クサナギ-】を手土産に人類連合傘下に加わろうとしていたのよ」


 真日本は独立以降は平和そのものだった。

 それは、日本国代表。現総理大臣である所の『AI-ミカミ』が人間との共存を認めたからだ。

 日本人もまたそれを認め、共に歩む事を承知した。

 ほぼ「それしか無かったから」と言えばそれだけの話ではある。

 だが百年も積み重なれば、現在は特に隔たりは感じない。


 この国はそうだったが、他の国ではそうもいかなかったという事か……

 

 人類連合は敵対する声明出しているし、機械帝国もそれに対しては徹底抗戦の姿勢。

 元々、人類側は大量虐殺の件もあり、帝国に恨みも多い。

 帝国が拠点を置くユーラシアとアジアの地域のそういった者達が打倒帝国!を掲げてもおかしくはない。


 なるほど……いや、それはそうなんだけど、それでなぜ日本に?


「でも、『人類連合』だって、【S/G】持ってるだろ?

 今更、なんでこんな島国に取りに来るんだ?」

「それは……お兄ちゃんは、お父さんの仕事についてはどれくらい理解してる?」

「医療用【ARM.S(アームズ)】の研究者だろ?

 今となっては全く信用無いが」


 何せ、【S/G】作ってたからね?

 しかも、妹を違法複製してるからね?


「それ自体は間違いじゃないの。

 ただ技術的な話で、人が操縦する【S/G】が『ヒューマノイド』のように自由自在って訳にいかないのは知っているでしょ?」


 ……いや、問題でしょ?大問題でしょ?

 そのせいで俺、二度もロボットに乗らなきゃならんくなったからねっ⁉︎


 ちなみに【S/G】が人よりヒューマノイドの方がって話も正直初耳なんだけど?

 ……と、思ったが、そういえば前回『未來』が運転した時は『データリンク』していたな?

 

『そ、なの?』

「単純にデータリンク出来ないからだろ?」

「あの【ムラクモ】はどうだった?」

「どうだったって……俺だってデータリンクしてた訳じゃないし」

「でも、ご都合主義みたいに勝手に動いた時があったんじゃない?」


 そんな事ある訳ないだろうが。

 全然上手く動かせなくて、ぶっ壊れた挙句、倒れてハッチ開かんくなって、おしっこ漏らしたわ。

 ……そう言えば、ライフルを持った時と構えた時がそうだったな?


「適当に動かして、たまたまそうなったんじゃないのか?」

「あれはお兄ちゃんの脳に埋め込んだチップから発信された、命令を【ムラクモ】がキャッチして動いた結果よ」

「そうだったのっ⁉︎」

『てっきり、お兄ちゃんは「土壇場に強い人なのか!」と思ってたけど、単にロボの方が優秀だっただけなんだ』


 えぇっ⁉︎それじゃ、頑張って運転しなくても頭でイメージすればよかったって事ぉっ⁉︎

 そんな事一言も言われてないんだけどっ⁉︎


「あと、単に性能がやっぱり良いのよ。

 反応速度と、精密起動だけなら現存のどの【S/G】をも凌駕するわ」

「マジでっ⁉︎でもなんで、そんなのを親父の研究所で作ってんだよっ⁉︎」


 それって兵器開発とかをする研究所とか開発施設とかで作るもんだろ?

 医療用なのに、人殺す為の兵器作っちゃあかんでしょーがっ!


「元々は医療用の技術。だけど、【S/G】にも転用可能だった。

 それに目をつけた国の上層部がお父さんに作るように命令した」

「そうか。親父も本当は作りたくなかったけど、無理やり……」


 いつも能天気だから、てっきり親父主体でむしろ勝手にやってるもんだと思ってた。

 ……でも、そうだよな。親父だって純粋な気持ちで人助けの為の技術を研究しているんだ。

 と、思っていたのだけど……


「うーうん?普通に「えっ、マジ作っちゃって良いんスカ!」って、ノリノリで」

「……やっぱ、アイツ死んだ方が世の為なんじゃね?

 マッドサイエンティストの才能あるよね?」

「まぁまぁ。そう言わないであげて。 

 別に悪気がある訳じゃないんだから」

「……それ、尚タチ悪くね?」


 詰まる所、今回の事件そのものが親父の所為で起こったと。

 敵の狙いは【S/G】で相手は人類連合もどきの反帝国勢力と。

 そこまでは理解できた。


 だが、一番聞きたいのは、未來が「なぜタイムスリップしてきたのか?」という話だ。


「それはわかったけど。結局、未來は何でこの時代に?」

「それは前にも説明しなかったかしら?」

『お兄ちゃんの結婚阻止?』

「そういう冗談は良いので、本当の事を教えてください」


 マジでそれが理由なら、次は未来から俺が結婚阻止それを阻止しに来そうだな……

 堂々巡りになるな?でも、パラレルワールドとか並行世界とか的には未来自体は変わらないんだっけ?


「そうね。冗談ではないのだけど……目的それを説明するには、まず『私の正式名称』からかしら?」


 ……いや、冗談であって欲しいのだけど?

 と、ツッコミを入れる糸間も無く、未來が話を続けた訳だが……


「私は今から十年後から来た、『シスターズ・プロトコル』搭載型、【S/G】&白兵戦両用人型機械人形(ヒューマノイド)『小此木 柚里 MK.(マーク)1111(カドラプル・ワン)』」

「……ごめん。ちょっと文字数多すぎて処理出来なかった」

『お兄ちゃん、馬鹿で〜』

「柚は聞き取れたのかよ?」

『もちろん。難しい言葉は処理出来ないからスルーした』

「いっそ、清々しいな?お前?」


 『シスターズ・プロトコル』って前に【S/G】の運転中にも言っていたな?意味はわからんけど。

 その後の『【S/G】&白兵戦両用』って事はパイロットも出来るし、兵隊さんみたいに銃撃戦も出来るって事だな。

 一番の問題はその後の数字っぽい単語の方だ。


「『かどらぷる』て言うとトリプルの次だよな?ワンが1だから、千百中一?」

「そうよ。私は柚里初号機(オリジナル)から複製された1111番目の機体」

『1111人の私っ⁉︎』


 マジかよ。十年後の未来までに『1111人』柚が作られたって事かっ⁉︎

 あの糞親父は本当に何をやらかしてんだっ⁉︎


「最終生産連番は『MK.1200《トゥエルブ・ダブルオー》』。

 つまりは1200人まで量産されたわ」

「1200人の柚って……うん。殺そう。

 つまり、未來が来た理由は親父を亡き者にする為」

「違うわ。だってそれじゃ、私が生まれないじゃない?」

『今の所、三人いるから……あと、1197人?』


 いや、それはただのコピー体でって……

 考えてみたら、機械人間ヒューマノイドでなくとも良いのか。

 その基準で行くと、割と早く1000人になりそうだけど。


 未來は話を続ける。


「実は今回、私が戦ったけれど、別に私が居なくても、お兄ちゃんと『こっちの私』で何とか撃退できたはずなの」


 そっか。今回は「未來に巻き込まれた」と勝手に考えていたが、どの道巻き込まれてたのかぁ……

 マジめちゃ怒られたんですけど?もうちょい待って、頼まれてからじゃダメだったのかな?

 ……いや、その場合、未來が乗り込めたかわからないから、結局これが最適解なのか。 

 というか、敵十機居たのに、未来の俺は何とかしちゃったのかよ?

 もしかして、もしかしてだけど。

 本当に俺には秘められたパイロットとしての才能があるのではないだろうか?


「えっ、マジで?それってつまり、俺には才能が…」

「そう。全部、お父さんが作った【S/G】が強かったおかげ。……どうしたの?」

「……別にぃ。何もぉ」

『お兄ちゃんにそんな才能ある訳無いじゃんね?』


 『俺の才能説』、一瞬でボッキリ折られたんですけど?

 そして、このタイミングで「親父のおかげ」とか言われても、全く飲み込めないんですけど?

 そもそもが親父の所為だからね?飲み込める訳がないよね? 


「とにかくお兄ちゃんと私は苦戦しながらも、人類連合が送り込む【S/G】を退け続けた。

 戦いの中で【クサナギ】が破損する事も多かったし、その度に改修、強化が施され続けた。

 戦果はドンドン拡大していき、遂には『機械帝国』とも矛を交える事になってしまったわ。

 その度に、お父さんが次々に新兵器を開発していき、気がついた時には……」

「気がついた時には?」

「『人類連合』よりも、『機械帝国』よりも、ヤバい兵器作り出しちゃって、最終的にお父さんも反省して『てへペロ⭐︎状態』になってたわね」

「そっか、そっか〜。『てへペロ⭐︎状態』か〜。そりゃ、しょうがねーなー!

 ……って、んな訳あるかっ!マジで何やらかしちゃったのっ⁉︎あの糞親父っ⁉︎」

『いやいや。あのお父さんが『てへペロ』なら、結構反省してると思うよ?』

 

 確かに四十過ぎのおっさんが「てへペロ」してたら、マジで反省してんだろうさっ!

 だけど、おせーんだよっ⁉︎

 今っ!nowで反省せんかいっ!


「まぁまぁ。お父さんも私達を守る為に、色々考えてくれた結果だから。

 あんまり怒らないであげて」

「元々、【S/G】を「なんかイけるんじゃね?」ぐらいな感覚で作っちゃったのが原因なんだけどな?

 ……それと、未來が来たのにどんな関係があるんだ?」


 『親父のやらかし』はこの際置いておくとしてだ。

 今は未來が「なぜ今時代にやってきたのか?」という理由の話だったはず。


「つまり、私が送り込まれたのは、新兵器開発が激化しないように、スマート迎撃する為っていうのが表向きな理由」

「……おい?裏は何だ?本当の理由は何だよ?」

「それは前に言ったじゃない?お兄ちゃんの結婚阻止よ」

『最重要事項だねっ!』

「いや、悪ふざけはそれくらいにしてもらえんスかね?」


 結局、振り出しに戻っただけじゃん……

 『兵器開発阻止の為』ってのが理由ってことで良いのかな?良いんだよね?

 というか、それなら来る時代間違ってないか?普通、親父が【S/G】開発する前だろ?


 だが、俺の「悪ふざけ」という言葉に未來が首を横にふる。


「冗談ではないのよ?」

「……え?そうなの?」

「続きを話すわ。

 お父さんが開発した【人工衛星型超高出力戦略砲『柚里 MK.1000(サウザント)』】の投入により、私達の戦いは終わりを迎えたわ」

『何それ?かっこいい!』

「いや、めちゃめちゃ物騒なもん作っちゃってんじゃんっ⁉︎」


 何それっ⁉︎柚の名前ついてるけど、明らかに妹じゃない何かが宇宙から地球狙ってんじゃんっ⁉︎

 マジで親父を始末した方が、世界の為だな……

 

「いきなり話が大きくなったけど、どう考えても俺の結婚と話繋がんないよねっ⁉︎」

「そんな事は無いわ。

 戦いが終わった後、お兄ちゃんは日常生活に。

 私は平和維持の為に開発していた兵器の保守管理をしていたのだけど、お兄ちゃんはそんな私にお構いなしに灯姉と恋仲になって結婚してしまったわ」

『うわっ、最低!』

「言い方酷くないっ⁉︎」


 また、話が一気に飛んだなっ⁉︎

 なんかその言い方だと、奥さんが仕事している間に浮気してたみたいじゃんかっ⁉︎

 戦いが終わって、日常に戻って、主人公は幸せになりました。それで良いじゃんっ⁉︎

 何が悪いの?悪かったのっ⁉︎


「ていうか、それが認められないから『タイムトラベル』って流石にやり過ぎだろっ⁉︎」

「それは勘違いよ?

 142回の家族会議の末、私達も同居する事を条件に結婚を認めたわ」

「141回も拒否したのかよ?俺らもようそんなに話合いしたな?

 ……ていうか『同居』って邪魔する気、満々じゃねーかっ!」


 いや、待てよ?あれか?

 宇宙にとんでも兵器があるから、逃げられなかっただけかっ⁉︎

 そうか。俺の新婚生活には妹が同伴するのか……まぁ、別に嫌では無いけどさ?

 やはり兄としては、妹にも人並みに幸せになって欲しい所なのだ。

 ……1200人いれば、一人ぐらいは人並みに生きてはいるのか?なんか、よくわからんくなってきたな?


「そして問題はその後。『初夜』に起こってしまった。

 お兄ちゃん、カッコつけて結婚までは灯姉に手を出していなかったのだけど、初体験が気持ち良すぎて、そのまま昇天してしまったわ」


 ……ん?未來さんは、今なんておっしゃられたんだ?

 昇天?天に昇る?それぐらい気持ち良かったって事?

 それとも何かね?俺は「初体験で死んじゃった」とかいう訳じゃないよね?

 いや、無い無いっ!それは無いってっ!

 だとしたら、今までの話の中で、ある意味一番ヤバいって、マジでっ!


「いや、まさかな?それってつまり『死んだ』って事じゃないよね?俺?」

「そうよ。『腹上死ふくじょうし』ね。

 唯一の救いは『テクノブレイク』で無かった事かしら?」

『お兄ちゃんって最期までクソダサだったんだね……可哀想』


 『腹上死』……って何だっけ?

 手元の端末で意味を検索してみる事にする……

 何だろう?手が震えて、上手く文字が打てない……

 あれ、何だろう?目が…ショボショボして来たぞ?まえがよくみえなーい……


「『腹上死』。

 性行為中に死亡する突然死の事よ。お兄ちゃん」

「やめろよっ⁉︎今マジで泣きそうなんで、これ以上の追撃はやめて下さいっ!」


 その後、小一時間ほど二人の妹に慰めてもらった。

 『悪いのはお兄ちゃんじゃなくて、世界の方だよ〜』とか、「大丈夫。そうさせない為に私がここに居るのよ」とか色々慰めて貰った。


 慰めて貰ったけどさ?これってつまり……俺?結婚したら死ぬって事?

 嘘だよね?あのロボットに乗って、頑張って戦って、待ってるのが死って嘘だよね?


 とりあえず、落ち着いたので、未來が話を続ける。


「その後、世界が滅んだわ」

『確かに私達的には世界の終わりだ』

「いや、また話飛びすぎて訳わからんのだけど?」

「その通りの意味よ……お兄ちゃんの死後、私達は何もかもがどうでも良くなった。

 『柚里ネットワーク』内では「なぜお兄ちゃんを結婚させたのか?」と姉妹喧嘩が勃発。それは現実世界にも飛び火したわ。

 世界各地で『シスターズ・プロトコル』搭載機同士の闘争が多発し、『機械帝国』でも『人類連合』でも止められない戦いはドンドン過激化。

 使える限りの『ABC兵器』を全て動員させた最終戦争は『柚里 MK.1000』の乱射、及び墜落によって終戦を迎えたわ。

 地上に与えた被害は凄まじく、既に人が住む事の出来ない『死の星』と成り果てていた」

「俺の死で、世界がとんでも無い事にっ⁉︎

 でも、そうなると君は一体どうやって?」


 地球がその状態だと、過去にどうやって来たのだろうか?

 機械人間は人が住めなくなった地球でも活動できそうだが、親父が兵器を開発していた話から、てっきり親父がタイムマシーンを開発したものだと勝手に考えていた。

 もしかすると、1200人の妹達が自力で開発したのかも。


「私は先んじて宇宙に避難していたお父さんと取引し、この時代に送り込まれたの」


 と、思ってたら、自分だけはちゃっかり宇宙に避難していやがった。


 全然、反省してないよね⁉︎アンタが戦犯なんだぞっ⁉︎

 言ってみれば戦争犯罪者だよ⁉︎アンタさ⁉︎


『取引?』

「過去のお兄ちゃんを煮るなり焼くなり好きにしても良いから、未来を変えて欲しいとの事よ。

 私は二言返事で答えたわ。アナタの息子さんは私が美味しく頂きます。と」

「……おい?」


 気がつけば、俺が生贄にされていた……


 一度大きく息を吸ってみる。そして吐いてみる。

 飲み込めねー。何も飲み込めねー。一ミリも飲み込めねー。

 『悪い夢』であってくれないかなー?これ?


 現実逃避スイッチがONになった俺だが、突然未来に身体を引っ張られる。

 捲れ上がった布団から、その中へと引っ張り込まれ、彼女を押し倒すような姿勢になってしまう。


「そう言う訳だから、私の身体で我慢して下さい」

『おい⁉︎コラっ⁉︎勝手に美味しく頂こうするんじゃないよっ⁉︎』

「……いや、あのさ?これ俺、大丈夫なの?やったら死んじゃうんじゃない?」

「私もその辺りは悩んだわ。でもごめんなさい。性欲を抑えられそうに無いわ」

「頑張ってェッ⁉︎じゃないと最終戦争まっしぐらだよっ⁉︎歴史変えられないよっ⁉︎」

「大丈夫よ。最悪そうなっても今の時代なら『最終戦争』に発展する事は無いわ。

 どうせ死ぬのなら、私の中で死んで頂戴」

「普通に嫌だよっ⁉︎わかってるのにやる訳無いじゃんっ⁉︎」


 と、首に回された未來の腕を振り解こうとするが……すっごい力。流石は戦闘用。

 抵抗しようとするが……うん。無理。これは無理だわ。


 妹ドローンは上空を旋回してプロペラ音で邪魔しているが、未来は全く気にしていない。


 俺、ここで死ぬんだ……

 と、思っていたのだが、突然ガクンっと未来の首が傾いたかと思えば、力が一気に抜けていく。


「ごめんなさい。未来からこちらに来て、ほぼ丸一日稼働してしまったから、処理能力が大分落ちているわ。

 これから『スリープモード』に入るけれど、身体の方は好きに使ってくれて構わないから。

 おやすみなさい。お兄ちゃん」

「いや、使わないから。安心してスリープしとってください」

『ふー。お兄ちゃんの貞操は守られたっ!』


 こうして俺の命の危機は去った。

 そっか……俺、初体験迎えると死んじゃうんだぁ……とほほ……

 と、考えていたら、未來が目を開く。


「そうだお兄ちゃん?

 私、『母乳プレイ』も対応しているわ。おやすみなさい」

「……」


 ……マジでっ⁉︎

 どういう事⁉︎出るの⁉︎このデカパイ揉むと出るのっ⁉︎

 いや、落ち着けって?お前死んじゃうんだよ?

 流石にやらないでしょ?冷静に考えてやらないでしょ?


 ……いや待て?揉むだけなら、死なないんじゃないか?

 ちょっと揉んで、ちょっと母乳を堪能するだけなら、死んだりしないんじゃないか?


 ……いや、待てって?お前それで止まれんのか?そこで我慢して、終われんのかって?


 俺には止まれる自信がある。

 が、しかし。息子の方は別。

 もう既にストップが効いていないんだな〜。これが。 


 俺の中で二つの感情がせめぎ合う。

 『母乳プレイ』VS『死』

 俺の中の天使。『柚』はこう言った。

 「ダメよ〜ダメダメ」

 俺の中の悪魔。『未來』はこう返した。

 「YOU。やっちゃいなよ?」

 そして、My Answerは…っ!


「そう言う訳だから、妹よ?

 良い子はおねむの時間だ」

『おーいっ⁉︎

 お前何やるつもりかっ⁉︎未來ちゃんに何晒すつもりかっ⁉︎』

「うるさい。ここから先は年齢制限だっ!」

『おまっ…ちょっ…⁉︎』

 

 とりあえず、妹ドローンを捕まえて、機体後ろ側にある電源ボタンをOFF。

 妹を穏便に寝かしつけた。


「はぁ……これで邪魔者は居なくなった」

 

 こうして、俺の長い長い夜の戦いが始まったのだった……

 


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