6話 妹は最終決戦兵器(二戦目よ)
〜前回までのあらすじ〜
【SLAVE/GEAR】での戦闘を終えた翌日。
俺達の目の前に現れた謎の美女。それは未来から来た妹だった!
彼女が未来から来た事を、一切疑う事なく受け入れた俺は……
「お兄ちゃん、『あらすじ』でもお漏らし無かった事にしようとしてるじゃんね?
流石に、もう無理でしょ?諦めたら?」
……一切疑う事なく信じた俺達。
その後、謎のアラートと未来妹に導かれ……
「無駄な悪あがきをするお兄ちゃんも素敵よ」
「……だからっ⁉︎当たり前のように兄の心を読むのやめて貰えませんかねっ⁉︎」
未来から来た妹に半脅迫じみたやり方で説き伏せられた兄と現妹っ!
彼女がなぜ未来から来たのか?その理由を聞こうとした瞬間鳴り響くアラートに走り出した三人っ!(約一名ドローン)
彼らを待っているものとは一体っ⁉︎
〜あらすじ終了〜
そして今。
「まさか、『こいつ』にもう一度乗る事になるとは……」
あれから未来妹に連れられて、アラートが鳴り響く研究所の秘密区画的な所に忍び込んだ。
未来妹は『研究員のIDが無いと開けられない扉』やら、『生体認証』やらを、全てハッキングツールで突破。
物理的なトラップも物ともせず、赤外線、落とし穴、鉄球、レーザーなどの全てのトラップをまるで、タイムアタックをしているかの如く、簡単に突破していった。
……ていうか、この研究所なんなのっ⁉︎
何で、バイ○ハザードみたいなトラップ用意してんのっ⁉︎
いや、そもそもこれだけ文明が発達してんのに『鉄球』と『落とし穴』って何だよっ⁉︎
どっちも俺だけが死にかけたよっ⁉︎
そして全てのトラップを突破した後。
俺達は見知ったロボット…【SLAVE/GEAR】のある格納庫、そのコックピットへと乗り込んだ。
前回と違った点は、なぜか二人乗りに改造されていた事だ。
『お兄ちゃん!お帰りなさいませっ!
貴方の可愛い妹が首を長くして待っていたわっ!』
「いや、待ってたって?ずっと耳元を飛んでただろうが?」
『え?耳元飛んでたの私だけど?』
『へ?何そのブウィブウィ煩いの?』
いつの間にかロボットの方に移動していたかと思ったら、ドローンの方からも妹の声が聞こえる。
……どういう事だ?
【SLAVE/GEAR】からも柚の声。
ドローンからも柚の声。
しかも、お互いにそれを理解出来ていないように見える。
「えっ?つまり、これって……あの糞親父っ⁉︎『違法コピー』作りやがったのかっ⁉︎」
『もしかして、そのプロペラ音出してるの、私…なの?』
『この、ロボットの中のも私…なの?』
『『えっ……?』』
これはマズイだろっ⁉︎
ヒューマノイドに搭載されている『AI』に関して『複製禁止法』という物が存在する。
私的なコピーにしろ、バックアップにしろ、その全てが禁止されている。
これは、単に非合法な使用を禁止する為にもあるのだが、一番の理由はAI自身の保護の為だ。
かつては、それらの法整備が無く、AIを複製していた時代もあったらしい。
そこでは複製されたAI同士が遭遇してしまうケースも発生したのだとか。
その時どうなったか……出会った両者に『ERROR』が発生。
人間で言う所のドッペルゲンガー。同じ人間と遭遇してしまったと言う事。
自分自身がと考えればゾッとする。AIの中ではそれらが処理できなくなり、処理落ちしてしまうらしい。
AI版ドッペルゲンガー現象という事。
そして今。
本来出会う事のなかったはずの二人が出会ってしまった。
このままでは柚は……
『『すっゴーいっ!妹いっぱいでお兄ちゃん大興奮だねっ!』』
「……全然平気じゃん。
えー?『複製禁止法』ってなんなの?」
マジで何だったのっ⁉︎
単に軍事仕様とかを防ぐ為の嘘だったりするのっ⁉︎
どっちにしろ、今の日本では人権的にバレたら速攻で逮捕なんだけどねっ⁉︎
「大丈夫。私達が特別なだけだから。
普通はエラーが起きて、両者とも初期化しないと起動出来なくなってしまうわ」
「サラッと怖い事言われたけど、それ要は機械的には死ぬって事だよねっ⁉︎
親父の奴⁉︎何リスク高過ぎる事してくれちゃってんのっ⁉︎」
『お兄ちゃん、そんなに怒るなんて〜♡
どんだけ私の事好きなんだよ〜♡、えへへ〜♡』
ドローン妹が何やら喜んでいる……いや、君はもっと怒らないといけない所だよ?
「あんまりお父さんを責めないであげて。
元々は私達の我儘だったの」
「え?」
『そうそう。お兄ちゃんが中に入ってるって凄い興奮するから』
「おい?こら?」
超絶、私的かつ性的な我儘だった。
「それで、お父さんって私達にはめちゃくそ甘いから断れなくて。
むしろ、仕事中も可愛い娘が側に居てくれれば、やる気出るわーって。
更に仕事も捗るし、私に仕事手伝って貰えるから、一石三鳥だなって」
「ふざけんなっ!アイツをまず踏み潰してやるっ!」
『お兄ちゃん、そんなに怒るなんて〜♡
どんだけ私の事好きなんだよ〜♡、えへへ〜♡』
今度はロボ妹が喜んでやがる。
だから、君が一番怒らないといけないんだってっ!
そういえば、こんな会話よりも俺にはやらねばならない事があった。
最重要事項。必ずやり遂げなければならない事案が。
「まぁ、それはさておき。
ロボ妹よ?早く『俺の小便』排水しなさい」
『なぜ、お兄ちゃんが私のお宝の事をっ⁉︎』
「お兄ちゃん?ちなみに前に乗っていたのは【ムラクモ】。
今乗っているのは【クサナギ】だから、こっちにお兄ちゃんの小便は入って無いわよ?」
【ムラクモ】?【クサナギ】?こんなもん二機も作ってたのかよ?糞親父?
通りでコックピットが二人乗りに変更されていると思ったら、そもそも別の機体だったのね?
『本当だっ⁉︎私のお宝は一体どこにっ⁉︎』
「何でお前、今更気が付いてんのっ⁉︎
……いや、ちょっと待てよ?まさかとは思うが、もう一人【ムラクモ】の方に妹コピーがいる訳じゃないよな?」
「お兄ちゃん?そんな事より、今は目の前の事に集中しましょう」
「俺にとっては『そんな事』ではないんだけどっ⁉︎」
俺の言葉を気にせずに、【SLAVE/GEAR】の操作をし始める未来妹。
「煩いから黙ってろ」って事?すんません……。
「『シスターズ・プロトコル』起動。『柚里ネットワーク』構築。データリンク・エンゲージ!」
『おおうぅ⁉︎なんか凄い量の情報が入ってきたんだけどぉ⁉︎』
『うぇ…なんか気持ち悪ぅ……』
「なになになにっ⁉︎何が起こってるのっ⁉︎」
未来妹が何やら横文字を呟きながら、操作を始めた。
何を言っているんだか、さっぱりだが、どうやら他の妹達と情報を共有しているようだ。
だが、他二人の妹は何やら、気分悪げだ。
「私達は、全く同じプログラムで動く、全くの同一人物よ。
それを利用し固有ネットワークを形成。情報をオンタイムで共有する事が出来るの。
それが『柚里ネットワーク』よ」
なるほど。
つまり、残り二人の妹は、あまりの情報量の多さに酔っちゃったって訳ね?
……それより、これ?
俺、また戦わないといけない流れなの?
「俺、実は結構トラウマなんだけど?
今まさに『シンジ君』の気持ちなの?分かる?」
「大丈夫。お兄ちゃんは死なないわ。私が守るもの」
「違うからっ!別にそう言って欲しかった訳じゃないからっ!」
いや、ちょっとは嬉しかったけどねっ!
それで、やる気が出るのは綾波ファンだけなのよっ!
『だ、大丈夫ぅ…。私が側についてるよ〜…』
「そんな、いつにも吐きそうな声で言われてもっ⁉︎
てか、お前はマジで側に居るだけでなんも出来んだろっ⁉︎
て、やめっ⁉︎耳元を飛ぶんじゃねーよっ⁉︎ただ側にだけ居て下さいっ!」
ドローン妹はまだ情報酔いの真っ最中のようだが、余計な事を言うと、また俺の耳元を飛行し始める。
邪魔なので、捕まえて膝の上に置いておく。
『大丈夫。私はお兄ちゃんが中に居るだけで、幸せだから♡ 死が二人を分ってもと誓いますっ!』
「縁起でもない事を誓おうとすなっ!」
ロボ妹の方は全く酔っていないようだ。
同じ妹なのに差があるのは搭載されている機体スペック差のせいだろうか?
スペック差順に並べると『ロボ妹』>『未来妹』>『ドローン妹』といった所。
……いや、今はそんな話よりも戦闘の方だ。
「本当に大丈夫よ。お兄ちゃん。
アップグレードされたのは外見と性癖だけじゃないわ。
【SLAVE/GEAR】の操縦なんて、朝飯前よ」
そうかっ!そもそも俺が戦う必要がないのかっ!
なんか妹に囲まれている所為か、「自分がやらねば!」という気分だったが、考えてみれば未来妹という助っ人がいるではないか!
だが、妹だけに全てを任せる訳にはいかない。俺も俺で出来る事はやらねばなるまいっ!
……性癖もアップグレードされたって言わなかった?
「なんて頼もしい妹なんだ。よし性癖は聞き流そう!
わかった!操縦は任せた!俺は武装を使って敵を迎撃…」
「うーうん?大丈夫よ。そっちも私がやるから」
「え?じゃぁ、索敵的なサポートを…」
「大丈夫よ。【SLAVE/GEAR】とデータリンクしてるからオンタイムで情報は入ってくるわ。
お兄ちゃんはただ座って特等席で妹の活躍を観戦していて」
「……」
『『うわー、お兄ちゃん、役立たず〜』』
……え?何それ?せっかく、やる気出したのに?
ていうか、それさ?そもそもの話、俺要らんくない?
「降ろしてェッ!今すぐ降ろして下さッーい!」
『急にヒスってどしたの?お兄ちゃん?』
「これ、俺居る意味無くねッ⁉︎
別に俺、コックピット乗ってなくて良くねッ⁉︎」
『じゃぁ、私とお外で待とうか?』
『えー?駄目よー。駄目ダメ』
「そうそう。駄目よ。お兄ちゃん」
「なんでッ⁉︎」
『「私達のモチベーションが下がっちゃうから」』
「モチベーションの為に、兄を危険に晒そうとするの止めてもらって良いですかっ⁉︎
……あっ、ちょ⁉︎」
そう言うと、俺の反論に聞く耳を持たず、勝手に発進してしまう未来妹。
格納庫の隔壁の前に立つと、自動的に扉が開き…もしかして未来妹が操作してるのか?
とにかく、その中に入るとそこはエレベーターのようだった。
そのまま、地上へ向かって登ってゆく。
地上へと辿り着くと、前回のように研究所が攻撃を受け、建物の至る所から煙が上がっている。
どうやら、自衛隊の部隊が常駐してくれていたようで、戦闘を繰り広げていたが、敵は【SLAVE/GEAR】。自衛隊は戦車。
劣勢だった。だがそれは今だけ。
時間が経てば、また前回のように空自の【SLAVE/GEAR】が駆けつけてくれる事だろう。
要は頑張って戦わずとも、時間さえ稼げればそれで良いと言う事だ。
「な、なぁ?敵は確か残り二機だろ?
つまり二体一なんだろ?とりあえず、距離をとってさ?時間を稼ぐ方向で」
「いえ?敵は十機くらいで来るはずよ?
前の戦闘で「力押しで余裕そう」って思われたみたい。全戦力を投入してくるわ」
「余計マズイじゃんッ⁉︎」
十機ぃッ⁉︎この前は三機だけだったじゃんっ⁉︎
そんなに頑張って攻めてこないでよっ⁉︎
『大丈夫だよ。お兄ちゃん。見てみてー!』
「あん?なんだよ?」
『ほら?前の時打てなかったライフル。お父さんが使えるようにしてくれたよー!』
あっ、本当だ!【SLAVE/GEAR】の右もも辺りに前回打てなかった憎いライフルがぶら下げられている。
なるほど、親父のやつこうなる事を見越して、装備を用意してくれてたんだなっ!
という事はだ。
「おおう!もしかして他にも色んな新武装を搭載して……」
『うーうん?他にはなんも無いけど?
しかも、残弾残り四発!』
『あははっ!『死』だってっ!マジウケるー!』
「降ろしてっ⁉︎今すぐ俺を降ろしてーっ⁉︎」
いや、本当に縁起でもねーのよっ⁉︎
不吉にも程があるってっ⁉︎
てゆーか、ライフル装備させるなら、弾くらい補充してけよっ‼︎糞親父ッ‼︎
「大丈夫。四発あれば十分だから」
頼もしい未来妹の一声。
それとともに目の前に敵機が出現。
灰色の機体。前回の出撃の時はモニターを見る余裕が無かったが、見てみるとそこには機体識別番号とかいうのが表示されていた。
『G4-X09 ゼルエル』機械帝国所属機と表示されていた。
そういえば、TVとかのニュースで、この【S/G】を良く目にする気がする。
うん。わかった所でめっちゃ怖いだけ。
敵機はこちらに向かってライフルを構え、銃撃してきた訳だが……
それを俊敏な動きで回避する未来妹。
凄い……なんか俺が動かした時と違って軽やかとかスムーズとかそんな感じでとにかく早い。
【S/G】ってもっと角ばった動きのイメージだったんだけど実際に見ると違うもんなんだな。
こちらの【S/G】回避しつつ、前進すると、こちらもライフルで銃撃。見事敵機を撃破して見せたのだが……
「一機に打ち尽くしちゃってるじゃんっ⁉︎」
未来妹の操縦により敵機は撃破できたが、銃弾残り四発全てを打ち尽くしてしまう。
すると、倒れた敵機のライフルを拾い上げた。
「こっちはまだ沢山入ってるわ」
『いやそれ?敵のは打てないでしょ?
……あれ?『敵味方識別信号』書き換わってる?』
「これくらいの操作、OSの書き換えに比べれば、余裕のよっちゃんよ」
「お前は『キ○・ヤマト』かっ⁉︎」
マジかっ⁉︎この子、戦闘しながら信号を書き換えたのかっ!
どんだけ有能なんだよっ⁉︎前回の戦闘にも居て欲しかったですっ!
だが、敵機を更に二機ほど撃破した所で再び弾切れになる。
『あっ、また弾切れたよ?』
「いや、また奪って書き換えれば良いだろ?」
「ちょっと面倒になってきたわ。あとは接近戦で片付けるわね」
「てっ、ちょっ⁉︎近接戦っ⁉︎
止めない?地道にで良いから遠距離から頑張らないっ⁉︎」
俺の言葉は完全無視で、倒れた敵機から『高周波ブレード』を二本奪い取ると、そのまま前進。
今まさに銃撃を続ける敵のど真ん中へと降り立つ。
その後は圧倒的だった。
近くにいる敵機から、高周波ブレードでバッサバッサと切り裂いてゆく未来妹。
コックピットの中で、それを観戦していたのだが、視点がクルクル回るものだから、何が何やらよくわからんかった。
よくわからなかったけど、気がついたら戦闘は終了。最後に立っていたのは俺達の【SLAVE/GEAR】だけだった。
「マジで、全機倒しちまった。
……君は本当に一体何者なんだ?」
「お兄ちゃんの可愛い妹よ。『未来から来た』だけど」
コックピット全面部のハッチを開き、そこに立ち上がる未来妹。
綺麗な黒い長髪をハッチから入る風に靡かせ、こちらに微笑みかけている。
その外では敵機が煙吹いたり、ボンボン爆発したりしていたのだが、彼女のその表情から目を離せなかった。
そして俺がその時思っていた事は……
……この後、【S/G】勝手に動かした事、なんて言い訳したら良いんだろうか?
いや、まぁ、未来から来た妹もいるし、何とかなるよね?未来ジョークとかで、何とか誤魔化せるよね?
と、この時の俺は事態を楽観的に考え過ぎていたのであった。