5話 妹は時間旅行者
「ぷはっ……ご馳走様。お兄ちゃん」
「……君は一体?」
『フガァァァァァッ‼︎貴様ァァァァっ‼︎
とりあえず、足どかさんかいッ‼︎』
数分の後、俺は初めてな上、深くて長いキッスから、解放される。
何だろう……フワフワした気分だ。
頭が回らないし、何も考えられない……ただただ「ここはどこ?君は誰?」状態だ。
「私の名前は『小此木 柚里』。
正真正銘、お兄ちゃんの可愛い妹よ。『未来から来た』だけど」
『未来から来た』か…。
そうかそうか……未来かぁ……。
『未来』って、何県だったっけな?
北海道とか東京にも合るんだっけ?
へぇ〜、じゃぁ何県の未来から来たんだろう?
『未来の…私っ⁉︎
じゃぁ、とりまギリギリセーフか』
シンプルに信じちゃったよ?この妹?
無いでしょ?絶対。
いくら『巨大ロボ』とか、『ヒューマノイド』とか何でもアリだからって『タイムマシーン』は無いだろ?
妹ドローンが納得し、落ち着いた事を確認すると、未来妹(仮)は妹ドローンを踏みるけるのを止め、解放する。
「何がセーフなんっ?
てか、冷静になれよ?型式が同じなだけで、更に外見が似ているだけの『他所の妹』だろ?」
ヒューマノイドには型式が存在する。
ちなみに柚は一つ前のモデル。最新型にモデルチェンジしたのは5、6年前ぐらいだったはず。
「何が違うの?」と聞かれると、内部構造とバッテリーの持ち、あとは材質が変更されたくらいだ。
ソフトウェアに関しては、多少は性能が上がっている程度で殆ど差はないと聞くし、柚もアップグレードした時に中身は最新版に更新している。
型式が同じなのはあまり関係が無いのだが、違う型式で同じ成長過程を積んだとしても、ここまで顔の形が似る事はないだろう。
……まぁ、顔はともかく体の方は全く似ていないんだが。
つまり俺の結論はこうだ。
彼女は、例のウイルス騒ぎのゴタゴタで研究所に迷い込んじゃった『柚似のヒューマノイド』。
おそらく色々事件が有りすぎて混乱しちゃってるんだろう。
すごく良く分かる。俺が一番混乱しているし。
『いや、私にはわかる。間違いなくあの子は未来から来た私』
「信じるのかよ?」
『信じるよ。だってあの子……』
もしかすると、本人同士だからこそ感じる物があるのかもしれない。
本当に未来からやってきたとでもいうのか?
『ボンキュッボン!のとんでもないナイスバディーなんだもん!』
「いや、妹よ?君のボディーはツルペタスットん……
ちょっ⁉︎だから、耳元にプロペラ近づけんなよっ⁉︎」
全っ然っ当てにならない意見が飛び出してきたよっ!
それ?ただのアナタの願望ですよね?
そしてまた、妹ドローンが耳元を飛行し始める。うるせー。
「わかったわ。信用して貰う為に、私達しか知り得ない秘密を言うわね?」
「確かに分かりやすいな。
だが出来るかな?俺を納得させるだけの秘密を言う事がっ!」
『別に私、秘密とか特に無いけど?
お兄ちゃんには全てを包み隠さず、『ありのままの妹』をお届けしているので』
「少しで良いから、何かで包み隠して下さい……」
妹の事はさておき。
未来妹(仮)の提案を受け入れる。
どうせ、占いとかの誰にでも当て嵌まるような事を言うだけだろ?
『バーナム効果』ってやつ?そんなので俺を騙せると思ったら大間違いだぜ!
「一っーつ。十六歳にも関わらずお漏らしをし、あまつさえそれを妹にぶっかけた、お兄ちゃん!」
「アベシッ⁉︎」
『簡単に落ちちゃったよ?この人』
葵はメンタルにダメージを負った。
—20% 残りHP 80%
どこら辺が『バーナム効果』っ⁉︎
いやいや、よく考えてみよう。世間一般的には当て嵌まるのかもしれない。
「世間一般のお兄ちゃんは妹に小便をぶっかける物」
……んな訳ねーだろっ⁉︎そんな当たり前あってたまるかっ!
「二っーつ。それを排水したと嘘を吐き、実はタンク内に隠し持っている妹!」
『なぜ、私しか知り得ないその秘密をっ⁉︎』
「妹っ⁉︎貴様ァっ⁉︎」
葵はメンタルにダメージを負った。
—10% 残りHP 70%
なんでだよっ⁉︎何で小便なんて隠し持ってんのっ⁉︎
さては、妹めっ!俺がしらばっくれた時用に証拠を温存していやがったなっ!
「判定は如何かしら?」
「妹様。何なりとご命令を」
『私はバレてもそこまでダメージ無いけど?』
何でだよっ⁉︎兄の小便隠し持ってる妹とか、ドン引き案件だよ?ちょっとはダメージ感じてよっ⁉︎
いや、でも考えてみればウチの妹ならそんなに不思議では無いのか……
だが、問題は未来妹(仮)の方だ。
俺のお漏らしの件だけならともかく、俺すら知り得ない妹の秘密を言い当てた。
え?本当に?俺の聖水がまだあのロボットの中に残ってるの?いやいやまさか〜。
……何としても近日中に処理しなければ。
ちなみに俺がお漏らしした件に関しては、さっきのドローン妹との会話を盗み聞ぎしていただけだろう。
つまり、証拠は無いのだ。速やかに証拠を処分しなければ。
それまでの間だ。それまでの間言う事に従うだけ。
「私に丁寧な口調は不要よ。お兄ちゃん。
信じてもらえたなら、それで十分だわ」
「……誰にも言わない?」
「言わない。
それに私、お兄ちゃんには丁寧に扱われるより、少し雑に扱われる方が興奮するわ」
「うん。コイツ俺の妹だわ」
どうやら本当に『未来から来た妹』のようだった。
お互い立ち話も何なので、瓦礫の上に座る。
その俺の頭の上に不時着する妹ドローン。
……結構、重いんだけど?最近のは軽量化が進んでいるとはいえ、結構重いんだけど?
と思い、膝の上へと移動させた。
「ゴホンっ!それで本当に未来から来たとして、一体どうして?」
「お兄ちゃん。それはね……」
『いや、待ってよ。お兄ちゃん?
これ私、分かっちゃってるよ?』
妹ドローンが何かに気がついたのか、言葉を発する。
「えっ?何を?」
『これはアレだよ。
未来では人間と機械の戦いが再発。人類滅亡の危機。
追い込まれた人間達を束導く存在。それこそが…』
「俺か。つまり、俺は人類最後の希望。ジョン・⚪︎ナー的な……」
「うーうん?全然違うわよ?」
「違うのっ⁉︎」
『お兄ちゃん、残念』
「お前が言い出したんだろーがっ!」
葵はメンタルにダメージを負った。
—10% 残りHP 60%
違うのかよっ⁉︎
てっきり、これから未来から送り込まれてきた刺客達との殺し合いが始まるのかと思ったのにっ!……いや、それを考えれば良かったのかもしれないけれどねっ!
「私がこの時代に来た理由は一つ。
お兄ちゃんの結婚を阻止する事。つまりは私以外と幸せな家庭を築かせないようにする為」
「おい?貴様?」
『それは、とても責任重大な任務だ…っ!』
何だよっ⁉︎その理由っ⁉︎
まだ「お前がジョン・⚪︎ナーだ」って言われた方がマシな理由だったよっ!
ある意味、柚らしいといえば柚らしいけど、流石に時間を股にかけるには弱すぎる理由だろ?
「いや冗談はさておき。本当の理由は?」
「冗談じゃないわよ?大体合っているわ」
「合ってんのっ⁉︎そんな下らない理由の為に未来から来ちゃったのっ⁉︎」
未来妹は大真面目な表情で俺の方を見つめてくる。
大変、美人さんに育ったようでお兄ちゃんはとても嬉しい。
タイムスリップの理由はさておきだが。
『私、そんな事より、そのバディについて聞きたいんだけど〜?』
「お前は興味無くすの早いよっ⁉︎
『時間旅行』<『ナイスバディ』なのっ⁉︎」
妹は最近この話題ばかりだな?
今の状況でそれを一番優先できる神経はどうなってんのよ?
ある意味、平常運行ではあるけれど。
「この身体はお兄ちゃんの性癖を100%体現した姿。
言うなれば、パーフェクト柚ナイスバディ。つまりは完璧な妹という事よ。
お兄ちゃんが最初に見た時、そう思った通りね」
『パーフェクト柚ナイスバディッ‼︎』
「……あの?当たり前のように兄の心読むの止めてもらって良いですか?
あと、性癖とか止めれっ⁉︎流石にそこまではわからんだろーがっ⁉︎」
自分の性癖とか他人に話すもんでも無しに、ましてや妹になんて絶対に言わない。
これから先だって、何を間違えたとしても言う訳が無い。
……はずだよね?未来の俺?
「わかるわ。
お兄ちゃんが閲覧したエロ動画のジャンル、検索ワードを全てリストアップし、統計を取ったから」
「止めろよッ⁉︎マジで止めろッ⁉︎デリケートな部分なんだぞッ⁉︎
それは思春期の男子に一番やっちゃいけない統計なのよッ⁉︎」
葵はメンタルにダメージを負った。
—30% 残りHP 30%
何、無駄な情報の処理をしてくれちゃってんのっ⁉︎
マズイっ⁉︎そのデータだけは何としても削除しなければならない。というか口止めしなければならない。
本来ならば、フォーマットしなければならない情報。お漏らしよりもずっとお外に出せない情報だ。
『ほほう。ちなみに統計の内訳は?』
「だから、止めろッ⁉︎」
未来妹を止めようと手を伸ばそうとするが、ドローン妹が急上昇。
顎にモロくそ一発食らって、後ろの瓦礫に後頭部を激突。
痛ってーっ⁉︎
「トップから順に『巨乳』→『コスプレ』→『絶対領域』→『女子高生』→『熟女』ね。
ランク外には『母乳』、『人妻』、『レ⚪︎プ』なんてのも合ったわ」
『……それはちょっと引く』
「いや、待て⁉︎そんなの観た覚えが無いぞ⁉︎」
顎と頭の痛みが一瞬で吹き飛ぶ。
何そのジャンルっ⁉︎観た記憶が本当にないんですけどっ⁉︎
いや、『巨乳』と『コスプレ』と『女子高生』は心当たり無い事はないよ?
でも、『熟女』って何よっ⁉︎それ『女子高生』と同居できる性癖じゃないよねっ⁉︎
「それはそうよ。
これは『私がお父さんのアカウントで盗み見している事』を知って、お兄ちゃんも利用するようになった後の履歴を参照した結果だから」
『うわー。お兄ちゃん?結局自分もやってんじゃん?』
何やってんのっ⁉︎
いや、何観てんのっ⁉︎未来の俺っ⁉︎
「やってませんッ!今はまだやってませんッ!」
「お兄ちゃんは隠せているつもりだっただろうけど、閲覧履歴の時間から判別は簡単だったわ」
『流石は私。お兄ちゃんのやる事は全てお見通し!『完璧な妹』だねっ!』
「それを墓場まで持っていけてたなら『完璧な妹』だったんだけどねっ⁉︎」
いや……まぁ、考えようによっては知っている人物と当事者しかいない訳だから、墓場までって言うのは間違いではないのかもしれないけどさ?
出来れば、本人にも知らせずに胸の内にしまっておいて頂けませんかね?
「今の私のボディは、それらの性癖を全て落とし込んだ姿」
『だから、あんまり似合ってないのに制服着てたんだ?』
「……」
……そんなに似合ってないか?
確かに体だけではなく、顔立ちも大人びている。
大学生くらいといった所。故にそこまで似合っていない訳ではない。
むしろ、コスプレ感がある分、普通の女子高生よりエロスを感じる。
「まだまだ、妹レベルが低いわね?この時代の私」
『それは……一体どうゆー意味さ?喧嘩売ってるぅ?』
「ランキング上位の『コスプレ』、『女子高生』。そして『熟女』。
これらから導きだされるお兄ちゃんの性癖。
それはつまり、熟女が女子制服を着用するという事」
『その心は?』
「似合っているかどうかは関係が無い。
むしろ、アンマッチにも関わらず着用、更に恥ずかしがっている姿にこそエロが生まれる」
『深い……』
「……いや、確かにちょっと年上感はあるけど、君?別に熟女ではないよね?
あと、俺の性癖を勝手に分析するのは止めて下さい……」
葵はメンタルにダメージを負った。
—30% 残りHP 0%
葵のメンタルは死んだ。
その性癖の理解度って妹に必要な技能なのっ⁉︎
むしろ、分からない無垢な妹を所望したいんだけどっ⁉︎
いや、もう良いです。過ぎた事はもう良い。
話を元に戻そう。こんな話はただの余談なのだ。
……余談という事で全て忘れてください。俺も忘れるので。
「ていうかだなっ⁉︎そんな事より、聞かなきゃならん事が山ほどあるじゃ……」
ブウォーン!ブウォーン!
その時、研究所全体にサイレンの音が鳴り響く。
何々なになにっ⁉︎
これから色々と重要な話を聞かなきゃなのに、今度は何っ⁉︎
『何?なんのサイレン?』
「来たのね?こっちには間に合って良かったわ。
行きましょう。お兄ちゃん!」
「へ?何を?
……って、どこ行くのっ⁉︎」
『コラっ!二人だけで行こうとすなッー!』
突然、立ち上がると、俺の手を取り走り始める未来妹。
その後をドローン妹がついてくる。
……え?どこに向かってんの?これ?