4話 妹は無人航空機材
「どうして、こうなったんだろうな……?」
『んーとね?年下の男の子にリビドーをぶつけると、こーなる?』
「だから、やってねーってっ!どんだけ信用無いのっ⁉︎俺っ⁉︎」
あの『夜の激闘』から、丸一日が過ぎた早朝。
ほぼ半壊状態の研究所、撤去待ちの敵機の近くで、それを瓦礫に座りながら眺めていた。
隣には妹が居た。……居るには居たのだが。
今は、「ヴウィーンッ!」と、景気良く『プロペラ音』を鳴らしている。
四枚のプロペラを激しく回転させながら空中を飛び回る黄色の無人飛行機材。
それが今の俺の妹だ。
『私のバディー、まだ全然修復出来ないんだって。
だから、暫くは『ドローン妹』として、お兄ちゃんの人生のパートナーを勤めさせて頂きやす』
やたらと『バ』の部分を強調して言う妹。
俺の周りをクルクルと回転しながら、ご機嫌そうにそう言った。
……なんか意外と気に入ってない?その身体?
「いや、常に『プロペラ音』出さ無いと動けないパートナーなんて要らん」
『そんな事言うなしっ!
私だって好きで「ブウィブウィ」言わせてんじゃねーし!』
「ちょっ、やめっ⁉︎耳元で「ブウィブウィ」鳴らすの止めろしっ⁉︎」
その割にはご機嫌に見えたんですが?
妹ドローンが俺の耳元で飛行し始めた。めっちゃうるせー。
あの戦闘だが、どうも狙いは『この研究所』だったらしい。
正確にいうと、ここで不正に開発されていた、あの【SLAVE/GEAR】。
まず犯行グループは『ヒューマノイド用のウイルスソフト』をばら撒いた。
純君が暴走したり、トラック運転手が突っ込んできたのはその所為。
その混乱に乗じて、研究所を襲撃。【SLAVE/GEAR】を奪取。
そういう計画だったみたいだ。
なんでも犯行グループが使用していた【SLAVE/GEAR】が『機械帝国』製だったのだとか。
犯人は『機械帝国』or『ヒューマノイド』という感じらしい。
あの後、残りの二機は空自の追跡を振り切り、行方をくらました。
俺達が撃破した機体は遠隔操作だったらしく、内部には誰も乗っていなかったらしい。
少しだけホッとした。あと、通りで俺達でも倒せた訳だ。
遠隔操作だと操作にラグが発生する。そのおかげで動きが悪かったという事。
研究所に居た両親は無事だった。
灯とその両親に関しても。
問題は純君なのだが、派手に頭部が破損していたが、メモリーは回収出来たそうだ。
ただ問題は外傷の方ではなく、内部のウイルスだ。
現在、アンチウイルスソフトが存在しないらしい。つまり現状での対処は不可。
おそらくだが、純君が『父親から送られてきたと思って開封したメール』にウイルスが仕掛けてあったのだとか。
今となってはどうにもならない話だが、丁度あの時、その話題を口にしていた事もあり、色々と悔やまれる。
まぁ、今は妹が無事だった事を喜ぼう。
……この状況を「無事だ」と言って良いのかは微妙な所だが。
『あのさ?前回までを振り返って、状況整理してる風だけど、全然現状を直視出来て無いよね?」
「……あの?俺の回想を勝手に盗み聞きするのやめてもらえます?」
なんでだよ?振り返ってるだろうが?
てか、心の中で回想入っての何でわかんの?エスパーなの?
『エスパーじゃないよー?『プロの妹』だからだよ』
「えっ?マジでわかんのっ⁉︎」
『いや?お兄ちゃん、分かりやすいから、これくらい見てればわかるじゃんね?』
などと、俺の完璧な回想に茶々を入れてくる妹。
『どの辺が完璧?
救助遅くて、お兄ちゃんが漏らした事、全く振り返れて無いじゃんね?』
「やめろっ⁉︎俺が一体何の為にアンニュイな感じで回想に入ったと思ってるっ⁉︎」
妹の一言で全てが台無しになってしまった。
……はいはい。そうですよ。漏らしましたよ。
だって、あれから五時間だよっ⁉︎
元々、夜中に起きてちょっと尿意があった所に『純君の暴走』→『妹生首』→『巨大ロボ操縦』。
この間、一度としてトイレに行けなかったのよ?それ所じゃ無かったんだよっ⁉︎
そりゃ、助けが来た直後は「周り何も見えないけど…これ本当に助かるん?」って心配だったから、尿意も気にならなかったさ!でもそれが長い事続けば緊張の糸も解けるでしょっ⁉︎そして膀胱括約筋も解けちゃうでしょッ⁉︎
その時、妹は俺に優しくこう言ったのだ……『排水溝あるから、そこにしとき。排水しとっから』。
妹が天使とか女神に見えたよ。マジで。
……でも、その後少し悩んだんだよ⁉︎
妹の前で、むしろ中で排尿して、処分まで妹に頼もうってんだからねっ⁉︎
でも、もうマジで限界だった訳っ⁉︎
俺の気持ちわかるっ⁉︎わかんないよね!マジで!
つまり、「だから何だよ」って話!何か問題あるのかよっ⁉︎
「お前、言いふらす気だろっ⁉︎俺の汚名をっ⁉︎
どこだっ⁉︎どこで最初に言いふらす気だっ⁉︎」
『ヤダなー、もう。私がお兄ちゃんの恥ずかしがる事言いふらす訳ないじゃん?プロの妹だよ?
それに私的には「ご馳走様でした」って感じだしぃ〜♡』
「言いふらす気無いなら、俺の前でももう言わんで下さい……」
ドローンになっても妹は妹のままだった。
そうか……だが、まぁ、二人の時にチョコチョコ弄られるのは仕方がないか。
何せ、尿の始末を丸々やってもらっているからな。
両親以外で初と言っても良いだろうからな。
しかし、妹はその後『良からぬ事』を口走り始めた。
『そうだね〜。私は言いふらさないよ?お兄ちゃんが『お漏らしした事』は、ね!』
「……一体何を企んでいる?」
『ただ私はありのままを口にするのみだよ?そうっ!
昨日!お兄ちゃんが!私に!『中⚪︎し』したって事をねっ!』
「キっ……貴様っ⁉︎」
何という事だ…っ⁉︎
俺は妹に『とんでもない弱み』を握られてしまったでも言うのかっ⁉︎
クソっ⁉︎言葉的には間違っていないから、タチが悪過ぎるっ⁉︎
柚が「俺が中⚪︎しした」と言いふらす。
それを否定するには事実を言わなければならない。
「私はお漏らしをして、それを妹にぶっかけました」と。
……どっちだっ⁉︎
これはどっちの方がダメージが少ないんだっ⁉︎
「妹とエ⚪︎チして中⚪︎しした」VS「十六歳でお漏らしして妹に浴びせた」
『通常のプレイ』と『聖水プレイ』だと、聖水の方が上級者っぽいぞ?
……いや、待て。そもそも俺のは聖水と呼んで良いのかっ⁉︎とんでもない汚水にしか見えんがっ⁉︎
わからんっ⁉︎今の俺にはどっちも選べんっ⁉︎冷静に判断が出来ん……っ⁉︎
『あははっ!お兄ちゃん、出来ちゃったねっ!既成事実っ!』
「とんでもねー、捏造じゃねーかっ⁉︎」
だが、どうするっ⁉︎
現状、どちらに転んだとしても既成事実になりかねないっ⁉︎
むしろ、親御的な観点なら、『中⚪︎し』より『小便ぶっかけ』の方が「お前何晒してくれてんの?」って話だ。
俺が親で娘の相手が、そんなカミングアウトしてきた日には、ブン殴る自信がある。
となれば、もう選択肢は一つしかない。
「はぁ……わかった。俺も男だ。
ここまで来たら誤魔化す事はしない。責任を取ろう」
『お兄ちゃん…っ!遂に私を……』
「責任を取って示談したい」
『……おーい?責任の取り方間違ってんぞー?
まぁ、良いや。つまり、他の何かで手を打ちたい…と?』
「あぁ。何なりと所望するヨロシ」
流石はプロの妹。俺の言いた事をすぐ様理解してくれた。
問題は柚が何を要求してくるかだが。
『では、中⚪︎しを!』
「それ示談の意味無くなっちゃうじゃんっ⁉︎
しかも、今のお前のどこにしろとっ⁉︎」
『あー、そっか。今のバディーで出来る事じゃないとダメか』
「素で言ってたのね……仕方ねー、ブウィブウィ五月蝿いけど相棒として認めやるか」
『おいコラっ!勝手に安価で済まそーとすなっ!
……んー、あっ!天啓きたりっ!』
「何そのヒラメキスタイル?」
『お兄ちゃん、思いついたよっ!私のバディだっ!』
バディ?バディっていうと、パートナー的な?……いや、違うよな。身体って意味だよね?
とはいえ、柚の今のボディを見てみる。
今のドローンボディ、特に問題があるようには見えないが?
「そのブウィブウィが何?」
『こっちじゃなくて、本物の方っ!今修理中の方っ!』
あぁ、本体の柚里の方ね。
でも、今本体の方って言われても、修理にどれくらい時間がかかるかも、いつ帰ってくるかもわからない物だ。
まさかとは思うが「今すぐに修理しろ」とか無茶な事を言い出す訳ではないだろうな?
無茶な示談内容にして押し切ろうという魂胆じゃ無いだろうな?
とりあえず、最後まで話を聞いてみよう。
「それが?」
『今回のテロって事故みたいなもんだったから、保険で無料復元してもらえるじゃん?』
「ああ、そう言ってたな?それで?」
『つまりは、元の『巨乳でナイスバディーな柚里ちゃん』に直して貰えるって事じゃん?』
「元のって、柚?お前ツルペタだったじゃん?」
「ツルペタ言うなっ!
良いのかな?既成事実?」
「……つまり、元々巨乳だった事にしろ。と?」
『違うの。私はただ、ありの〜ままの〜姿を見せるのよ〜って言ってるだけ』
何が違うん?
ありのままの柚は貧乳だよ。間違いなくな。
だが、それぐらいで『お漏らしの件』に片付くというのなら、簡単な話だ。
言ってやればいい。「イモウトハ、バクニュウデシタ」ってな。
今、カタコトっぽくなったのは決して嘘をついたからという訳ではない。
ちょっと意気込み過ぎちゃっただけなのだ。
……しかしだ。
そもそも、保険で修理する場合、更に全損の場合は何を基準に元の状態に戻すのだろうか?
実はその辺りの話はよく知らない。
なので、思い通りにならなくても文句は言わんで欲しい所だ。
更に言えば、お漏らしの件を暴露するのもやめて欲しいです。
「まぁ、可能な限りは協力するよ……あくまで可能な限りでな?思い通りにならなくて、言いふらすのはやめてくれ?」
『その辺は貢献度をこれから見て判断するという事で』
……本当に大丈夫なのか?
全く介入する余地が無かったら、一発アウトに聞こえたのだが?
まぁ、今考えても仕方が無い。駄目だったらまたその時、示談に持ち込むとしよう。
しかし、そもそもなのだが……
『この計画』を進める上で、最も『重要な難関』がある事に気がついた。
「なぁ?柚?
問題が一つあるんだ。しかも極めて深刻な問題が」
『何さ?それ?』
「『巨乳でナイスバディな柚』が……くっ⁉︎想像できない…っ⁉︎」
『頑張ってよっ⁉︎そこは全力で頑張ってよっ⁉︎お兄ちゃんっ⁉︎
コラ画像みたいに適当に顔と体を貼り付ければ良いじゃんっ⁉︎』
そうか!全体的に想像するから駄目なのか!
まずは巨乳のナイスバディを想像……『三⚪︎悠亜』ちゃん辺りで良いか。
そこに柚の顔を当て嵌めれば……
「くっ……駄目だ。顔を当て嵌めた瞬間に体が貧乳に変換されるっ⁉︎」
『何それっ⁉︎お兄ちゃんの中の私、貧乳の呪いにでもかかってんのっ⁉︎』
何度試しても駄目だった。
少しづつ、胸を小さめにしても絶対にゼロになる。
参ったな。こりゃ無理かもしれん……
「そうだっ!柚の顔も大人っぽく改造すれば良いんだ!」
『それ?もはや私で無くね?』
もう一度召喚するナイスバディなボンキュッボンッ!
その横に妹の顔を召喚。だが、元のモノでは合体は不可だ。
柚の顔を大人っぽく成長させてゆく。
二ヘラと間抜けに笑う顔を引き締め、クールレディへ。
阿保の子みたいな、まん丸お目目も、少し細めにかつ知的な眼差しへと変更。
髪の毛も今より少し長めのロングサラサラブラックヘアーへと変えたなら、それを風に靡かせつつ、ボディと合体させる。
徐々に徐々に体と顔が合わさってゆく。
行けるっ!イけそうだっ!
……いや、このイケるっていうのはそういう意味ではないよ?
そして遂に完全合体を果たした『パーフェクト柚ナイスバディ』。
コレだっ!と思い目を見開くと、前の瓦礫の山の上に『理想の妹』が制服姿で立っていた。
「そうそう。こんな感じっ!
……んっ?」
……あれ?本当に居る?
いやいや。これ?俺の妄想だよね?
なんか、あまりにもリアルな存在が目の前に居る気がするんだけど?
『パーフェクト柚ナイスバディ』は瓦礫の山から降りてくると俺の前で止まり、なぜか少し涙を流していた。
それが…その表情から目が離せなくて、言葉も出せずに、ただ見つめあってしまった……
これは……この気持ちは一体……?
「間に合わなくてごめんなさい。
でも会いたかったわ。お兄ちゃん」
そう言いながら、理想の妹は俺へと近づいてきて、首に手を回すと、そのまま「ズキューンっ!」と音が出そうなディープな方のキッスをかましてきた。
……えっ?これ?俺の妄想?……妄想だよね?
俺、妹とキッスする妄想しちゃってんの?舌めっちゃ絡んでるんだけど?
『おまっ⁉︎何やってんだァァァアァァァッ⁉︎』
物凄い剣幕で突っ込んでくる妹ドローン……が、理想の妹の方が俺にキスをしつつ、片手で掴むと、そのまま地面へと叩きつける。
『ありゃっりゃりゃ⁉︎』
更に再び飛ぼうとする妹ドローンを片足で踏みつけ押さえつける『パーフェクト柚ナイスバディ』。
無念妹。瓦礫にめり込みながら「ぐぬぬぬッ⁉︎離せっーー‼︎」と、叫び声を上げているが、実質何も出来ていない。
俺はというと、『パーフェクト柚ナイスバディ』に、更に今度は抱きつかれながら、後頭部を押さえつけられディープなキッスを続けていた。
……えっ?これ俺?マジで何されちゃってんの?
パニック状態で何も考えられない。ほのかに口の中に柚の香りが漂う。
それが『小此木葵 十六歳』のファーストキッスだったという。
所謂、甘酸っぱい体験という奴。