3話 妹は最終決戦兵器(初陣だよっ!)
「それで……なんでこうなったッ⁉︎」
『ハァハァ…っ!お兄ちゃんが…っ!お兄ちゃんが私の中に…っ!』
街で何やら騒ぎが起きている中。
俺は必死こいて、両親のいる研究所へと向かい走った。
無事到着した俺は両親に会う事が出来たのだが、そこから俺も慌て興奮していた所為か記憶が曖昧だった。
気がつけば、全長十五メートルの巨大人型兵器【SLAVE/GEAR】のコックピットに乗せられていたのだ。
そしてなぜか、生首になったはずの妹が『オペレートAI』として搭載されている。WHY?
あー、そうだ。思い出した。
なんか街でテロが起きていて、研究所内でもヒューマノイドが暴走して、パニック状態。
猫の手も借りたい状況で、研究中の【SLAVE/GEAR】を運び出す余裕も無かったとか。
それで、偶然俺が来て、手には妹の生首が。
会うなり、親父は俺にこう言ったのだ。
「ナイスタイミング!」……アホかっ⁉︎
「いや無理でしょっ⁉︎俺ただの高校生だよっ⁉︎
【SLAVE/GEAR】の操縦なんて出来る訳無いだろっ⁉︎」
『どーどー。落ち着いてって、お兄ちゃん』
「今の俺の気持ちわかる?わかんないでしょっ⁉︎
そりゃそうだ!今の俺の気持ちわかんの『シンジ君』だけだものっ!
俺だってそうだよっ!今になってようやく『シンジ君』の気持ちがわかるようになったよ!
さっきまでは「情けねーな」、「もっと、しっかりせんかいっ!」って思ってたよっ!
何が「エ⚪︎ァに乗れ」だよ⁉︎乗れるかっ!それで乗れんのは『ア⚪︎ロ・レイ』ぐらいなんだよっ!」
『大丈夫だって、お兄ちゃん?
この、スレ…んー、なんとかかんとか?を向こうのデッカい倉庫の地下シェルターに運ぶだけでしょ?』
にしても、妹よ?オペレートAIなのに正式名称言えないってどうなのよ?
「というか、なんで柚は冷静なんだよっ⁉︎
ロボットに勝手に搭載されちゃってんのにさっ⁉︎」
『私はお兄ちゃんが無事なの知れたから、むしろ感謝してるよ。めっちゃ心配だったもん』
「柚……。現在進行形で危険に晒されてるんだけど?」
『あー、ドンマイ?死亡フラグ立っちゃった?』
「いつ⁉︎何がどうなって、おっ立ったのっ⁉︎何がいけなかったのっ⁉︎」
そういえば、昨日登校する時に柚が不穏な事を口走っていたなっ⁉︎
アレじゃないよね⁉︎アレが死亡フラグの始まりじゃないよねっ⁉︎
流石に発言一つでこんな状況は生まれないか……
「俺はともかく、なぜ柚まで?」
『んーとね?これまだ開発途中で完成してないんだって。
『補助用AI』を搭載する予定だったらしいんだけど、間に合わなくて、そこに私の生首を持ったお兄ちゃんが現れて、「これだっ!」って思ったらしいよ?』
「おいっ⁉︎自分の娘をなんだと思ってんだよっ⁉︎あの糞親父っ⁉︎」
『おかげでお兄ちゃんを生で感じられてるから、私的にはお金を払いたいくらいだよ』
「……俺も、おかげで冷静になれたよ」
妹が平常運行なおかげで冷静になれる俺って一体……。
そうだよな。兄貴の俺がしっかりしないとだもんな。
そうだ。運ぶだけなんだ。
たかが、百メートル程度動かして、また寝かせておくだけ。
この研究所は無駄に広い。
研究所というより、研究施設と言った方が良いぐらい広い。
俺自身、両親が働いている研究所くらいの認識でしか無かった。
てっきり、建物一つぐらいな感じだと思ってたけど、実際は巨大な工場のよう。
複数の建屋がずらって並んでいる。
いや、考えてみれば当然か、【ARM.S】の試作とかも行っている訳だから、それなりの大きさが無いと研究など出来はしない。
……うん。でも大丈夫。
出来そう。柚もいるし。多分なんとかなる。
コックピットに乗り込む前に操縦方法を簡単に説明された。
立ち上がらせて、前進させる。この二つの方法。
言われた通りに右のレバーを少しだけ手前に引く。
そうすると、【SLAVE/GEAR】が立ち上がり始めた。
「こいつ……動くぞっ…!」
『言う割にはノリノリお兄ちゃんなんだよね?これが』
コックピット内がめちゃ揺れる。
……これスッゴイ酔いそう。
白い巨体が立ち上がると、特に操作していないがその体勢のまま棒立ちになる。
機体側のオートバランサが正常に機能している。
おお!スゲー!今俺、巨大ロボットの操縦しちゃってるよ!
などと感動していたのだが……
立ち上がると、研究所の建物より高い位置に頭部が出る。
コックピットは胸付近にあるが、カメラは頭部に付いている。
目の前のモニターに写し出されているのは頭部から見える光景という訳なのだが……
丁度その時見えたのは、研究所の入り口、つまりは正門のあたりだ。
灰色の【SLAVE/GEAR】が三機ほどこちらに向かって来ていたのだ。
俺は慌てて、レバーを元の位置に引っ込める。
すると、機体は倒れる事無く、膝立ち姿勢になり頭を建物の中に引っ込められた。
事なしか、さっき見た【SLAVE/GEAR】がこちらを見ていたような気がする。
「……あのさ?今めっちゃ目が合った気がするんだけど?」
『……気の所為でしょ?ロボットだよ?
頭がこっち向いてたからって、自分が見られてるとかはタダの自意識過剰じゃん?』
「だよなー?今の内に地面を張って移動しようぜ?」
にしても、これ?
どうすれば、張ったまま移動できるんだろう?
確か、事前に聞いていた説明だと『右のレバーを軽く引いてから、左のレバーを押すと前へ進む』だったな?
この状態で左のレバーを前に押し込めば、進めないかな?
そう思いつつ、左のレバーを前へと押し込むと、『ハイハイ』で前へと進み始めた。
少し想像と違うけど、これはこれでOKだ。
『いや、これロボット乗ってんのに、糞ダサ過ぎない?
あ、でもこれ…っ!考え方によってはお兄ちゃんに膝まずかされてるみたいで…っ!
これはこれで良いっ!』
ロボットに搭載されちゃってるのに妹は妹だった。
うん。いつも通りでスゲェ落ち着く。
『……あのさ?お兄ちゃん?』
「ん?なんだよ?このまま移動するぞ?」
『いや……あのさ?なんか『ロックされました』って警告出まくってるんだけど。
あはは。これって……ヤバい?』
「ふっ。それは……マジヤバだな」
ドドドドドッ‼︎
銃撃音が轟くと共に、隠れていた建物が攻撃で徐々に崩壊してゆく。
さっきの【SLAVE/GEAR】が攻撃を仕掛けてきた。
つまりはアレは敵だったという事なのだが、今起きている『ヒューマノイドの暴走』と関係があるのだろうか?
……今、そんな事考えている場合じゃねー⁉︎
「ちょっ⁉︎撃たれてる撃たれてるっ⁉︎
だから、嫌だったんだよぉっ⁉︎やっぱり俺の気持ちわかんのは『シンジ君』だけだっーーーー⁉︎」
『もうそれは良いから、早く逃げよーよ⁉︎
お兄ちゃんは最悪脱出すればだけど、私これ壊されちゃうと、今度こそメモリ死んじゃうかもだよっ⁉︎』
いや、この状況じゃ俺も脱出できませんけどっ⁉︎
というか、脱出装置的なの付いてんのっ⁉︎何も説明されてないけどっ⁉︎
くっそ!もう戦うしかねーっ!……そっちも説明されてないけどね?
「武器はっ⁉︎なんか武器とかないのっ⁉︎」
『うーんと、ちょっと待って!今調べる!
……あのさ?お兄ちゃん?『良いニュース』と『悪いニュース』。どっち先に聞きたい?』
「なんでこのタイミングでその質問っ⁉︎とりあえず『悪い方』からで!」
『このロボ、武器積んで無いってさ⭐︎』
「おいぃィィッーー⁉︎糞親父ィィッーー⁉︎」
マジかよっ⁉︎本当にどうすれば……いや、さっき妹はもう一つ言っていたな⁉︎
「いや、待て!という事は『良いニュース』の方はっ!」
『大丈夫。死ぬ時は一緒だよ』
「どの辺が良いニュースぅ⁉︎万策尽きてんじゃんっ⁉︎」
まず、そうならない為の方法を一緒に考えてくださいっ!
どうする?殴り合いか?このロボット殴り合いが得意なタイプかっ⁉︎
でも向こう銃持ってるんだよ?どうやって「近づけ」と⁉︎
『て、お兄ちゃん、前っ⁉︎』
妹警告にモニターを見ると、いつの間にか敵の【SLAVE/GEAR】がすぐ目の前に接近していた。
その腕には巨大な剣。
なんか「ヴィィィっ!」って言ってる⁉︎『高周波ブレード』ってやつぅ⁉︎
そのまま切りかかってきた訳だが……咄嗟に左のレバーを前へと、押し込む。
すると、機体背部のブースターが起動。
こちらの機体が敵機に体当たり。そのまま奇跡的に敵の腕を押さえつけるような形に持ち込み、お互い取っ組み合い状態。
あー、今日何回目これ?
でも、セーフっ!
「危ねーっ⁉︎」
『ナイスキャッチ!お兄ちゃん、やれば出来んじゃんっ!』
「やべー⁉︎こっからどうしようっ⁉︎」
『いや、吹っ飛ばしてよっ!なんでも良いからさっ!』
吹っ飛ばすも何も、何をどうすれば、どう動くのかわからないんですけどっ⁉︎
とりあえず、左のレバーを下げちゃいけない事だけはわかる。
右かっ⁉︎右のレバーを引けば良いのかっ⁉︎
……なんも変わんねーっ⁉︎
「全然、動かねーっ……‼︎マジでどうすればっ……‼︎」
『お兄ちゃん、ブースト切って!早く!』
「いやでもそれしたら、パワーゼロに……」
『良いから早くっ!』
「もうどーにでもなれっ!」
妹ナビのいう通り、左のレバーを一気に引く。
当然、ブースターが切れて、敵に押し込まれる。
が、こちらが突然動力をゼロにしたものだから、バランスが崩れて倒れ込んでくるような形になる。
『もう一回全力噴射っ!』
「南無三っ!」
もう一回、全力で左のレバーを押し込む。
全力ブーストでバランスを崩した敵機に体当たり。
その勢いのまま、前方にあった研究所の建物に激突。
敵機の方が動かなくなった。
『見たかっ!これが押してダメなら引いて押す作戦っ!
大成功だねっ!お兄ちゃんっ!」
「うん。まぁ、確かに目前の脅威は去ったんだけどさ?」
妹が喜びの声をあげる。
うん。まぁ、確かに妹の起点のおかげで今のはどうにかなったよ?
でもさ?妹よ?敵、何機居たよ?
つまりだ。他の二機がこちらに向かって接近してきてる。
「まだ敵残ってるんだけど⁉︎……これはどしたら良い?ねぇ、どしたら良いっ⁉︎」
『お兄ちゃんっ!倒した奴の武器っ!それ使えるんじゃないっ⁉︎』
「そうか!流石だぜ、お前は最高の妹だっ!
……それで?これどうやって持ったら良いの?」
『……どすれば良いんだろーね?』
もうこうなったら、適当にボタン押してやるっ!
手元のボタンをとりあえず適当に全部押してみる。
なぜか、奇跡的に敵機が持っていたライフルを持ってれた。
ちなみに高周波ブレードの方は建物の崩落の所為で下に埋まってしまったみたい。
だが、ついている事に、そのまま構えて、敵の方をロックする。
ナイス!ご都合主義!
「よし!なんか知らんけど出来たっ!」
『凄いじゃんっ!お兄ちゃんっ!
皆殺しじゃーーーっ!撃てまえっーーー‼︎』
持てさえすればこっちの物。
打ち方はなんとかなくわかる。この右のレバーについているボタン。
これだろ?これぐらいは見ればわかるって。
「今までよくも散々ビビらせてくれたな?
喰らえやっーー!」
カシャンっ、カシャンっ。
何度かトリガーのボタンを押す。自機がトリガー引いている様子はあるのだが……
なんか……撃てて無いんですけど?
「……あのさ?これ?撃てないんだけど?」
『んーとね?なんか『敵味方識別信号』ってのがエラー出てるんだけど?……これ何?』
『敵味方識別信号』っていうと、アレだよな?そのままの意味だよね?
敵と味方を識別している信号の事だよね?このタイミングで出るって事は向こうが自軍機って事?
なんで俺、味方に殺されかけてんの?……いや、違う!武器の方かっ⁉︎
敵から奪った武器だから、ロックがかかって打てないって事っ⁉︎
ヤバいヤバいヤバいヤバいっ⁉︎マジで万策つきてんじゃんっ⁉︎
その間も敵機からの銃撃を浴びせられていた。
ガンガンガンガンっ!バリンっ!ガシャンっ!
鳴ってはいけない類の音が聞こえる……更には『ERROR』の文字が画面にやたら沢山表示されまくってる。
……ヤバいのはわかってるんだよっ!改善策を表示せんかいっ!
『お兄ちゃん?』
敵機が接近し、自機はスクラップ寸前。
銃撃に晒されてる中、妹が呼びかけてくれる。
何か良いアイディアを思いついたか⁉︎
「なんだ、妹よ?」
『死ぬ時は一緒だよ』
「おう、アーメン」
はい。マジに万策つきました。
とりあえず逃げようっ!なんとか逃げようっ!
と思っていたら、背面のブースターが銃撃によって破壊され、そのまま地面に顔面ダイブ。
「ふべほっ⁉︎」
『ちょっ⁉︎お兄ちゃん脱出っ脱出っ!
私の事は良いから早く逃げてっ⁉︎』
「そ、そうだ!柚のメモリだけ抜けばっ……
ヤバいっ⁉︎ハッチ開かんくなったっ⁉︎」
自機がうつ伏せで倒れ込んだ所為で、ハッチが開かなくなってしまった。
柚のメモリの方も、てっきりどこかに刺さってるかと思ったが、それらしい物が見当たらない……
絶望的過ぎる……船と運命を共にする船長の気持ちが理解できた気がした。
自主的ではなく、強制的にだけど。
モニターも全く見えなくなったし、操作も一切受け付けない。
アレだけ銃撃に晒されたもんね……そりゃ、動かんくもなるわ。
あとは本当に死を待つのみってか……親父?絶対呪ってやる…っ!
『ザザ……、よく持ち堪えた。あとはこちらで受け持つ』
突然、柚が男の声でそんな事を言い出した。
ヤダ頼もしい声っ!……いや、どうするつもり?
「えっ?柚?今なんか言った?」
『私じゃないよっ⁉︎えーと、識別が『J…A…S…D…F』?なんかそこから通信みたい?」
JASDF?……航空自衛隊じゃんっ!
『Japan Air Self-Defense Force』航空自衛隊の略称だ。
もう本当に何が何やらさっぱりわからんけど、どうやら助かったようだ。
その後、動かなくなった【SLAVE/GEAR】の中で、柚と二人で閉じ込められながら救助を待った。
柚のやつは「字面だけ見たら、体育館に閉じ込められてるみたいなシチュだよね?いや、ロッカーか?」とか言い始めた。
だが、その場合の柚の立ち位置は閉じ込められた側ではなく、『体育館』と『ロッカー』の方なのでは?という話になった。
しかし、我が妹は強者。その回答は「つまり私がお兄ちゃんを監禁している……ヤダ身震いしてきちゃった」だった……
……誰かーっ!早く助けくださーいっ!